
【問題】
地球温暖化の進行に伴い,豪雨や猛暑などのリスクが今後さらに高まることが予想されており,地球温暖化への対応は人類共通の重要課題となっている。地球温暖化の要因である温室効果ガスの抑制を目的とし,世界的に取組まれている『カーボンニュートラル』は,温室効果ガスの排出を全体としてゼロにすることを意味している。カーボンニュートラルへの対応は事業や組織置かれた状況により異なると考えられるが,総合技術監理に求められる俯瞰的な視点から,それぞれに適した施策を検討し,地球規模での課題解決に繋げることは重要であろう。そこで本論文では,このカーボンニュートラルの実現に向けた施策について検討してみたい。
カーボンニュートラルの実現を年限付きで表明している国・地域は,現在までに150以上にのぼり,我が国においても,2030年度の温室効果ガス46%削減,2050年カーボンニュートラルの実現という国際公約を掲げ,国家を挙げて対応する決意を表明している。これらの公約を受け,1000を超える地方公共団体が「2050年ゼロカーボンシティ」を表明し,脱炭素型まちづくりに向けた取組を進めている。
さらに,民間部門においては,電力をはじめとした,温室効果ガス排出の多くを占めるエネルギー分野における供給サイドの取組だけでなく,輸送・製造等の需要サイドも含めた,あらゆる産業分野での対応が求められている。また,環境や社会に配慮して適切なガバナンスがなされている会社に投資する「ESG投資」,事業者自らの温室効果ガスの排出のみならず,原材料調達・製造・物流・廃棄等,サプライチェーンを構成する一連の事業活動に伴う排出を考慮する「サプライチェーン排出量」等の考え方も広まっている。したがって,コピー用紙の削減や照明の間引き等の従来からの省エネ対策の枠を超えた,抜本的で効果的な施策が求められている。例えば,省エネ製品の開発や活用,再生可能エネルギーの活用,生産現場における自動化の推進,森林保護への投資等の幅広い観点で工夫した施策が必要となろう。
一方,いわゆる「2050年長期戦略」(パリ協定に基づく成長戦略としての長期戦略。令和3年10月閣議決定)で謳われているとおり,カーボンニュートラルの実現に向けた取組を,経済成長の制約ではなく,産業構造の大転換と力強い成長を生み出す,競争力向上の機会と捉える視点も重要である。同戦略では,重点的に取組む横断的施策として,イノベーションの推進,グリーン・ファイナンスの推進,ビジネス主導の国際展開・国際協力等を掲げており,なかでも,今後の技術イノベーションにより成長が期待される14の重要産業分野は,総合技術監理の技術士として将来の施策を検討するうえで参考となろう。また,先進的企業イメージによる優位性の構築,社員のモチベーション向上等の経営メリットに繋げる「脱炭素経営の視点」等も施策を検討するうえで重要な観点となろう。
表2050年長期戦略における成長が期待されるはの重要産業分野
[エネルギー関連産業] ①洋上風力・太陽光・地熱,②水素・燃料アンモニア,③次世代熱エネルギー,④原子力
[輸送・製造関連産業] ⑤自動車・蓄電池,⑥半導体・情報通信,⑦船舶,③物流・人流・土木インフラ,⑤食料・農林水産業,⑩航空機,⑪カーボンリサイクル・マテリアル
[家庭・オフィス関連産業] ⑫住宅・建築物・次世代電力マネジメント,⑬資源循環関連,⑬ライフスタイル関連
そこで、あなたがこれまでに経験した,若しくはよく知っている事業(研究開発・製品製造・販売等の業務機能の集合体としての事業,個々のプロジェクトの集合体としての事業,国・地方公共団体の事業等が代表例である。)や組織(役所や法人の全体とすることも,個々の部署や事業部等とすることもできる。)を1つ取り上げ,その目的や創出している成果物等を踏まえ,カーボンニュートラル実現に向けた施策について,総合技術監理の視点から以下の(1)~(2)の問いに答えよ。さらに,取り上げた事業や組織の枠を超え2050年カーボンニュートラル達成に向け我が国が取るべき施策について,以下の(3)の問いに答えよ。なお,論文の解答において,カーボンニュートラルはCNと略して記すこと。(以下,同様に略す。)解答に当たり,事業や組織について,関連するステークホルダーや他組織との連携を含めてもよい。また,ここでいう総合技術監理の視点とは,業務全体を術敵し,経済性管理,安全管理,人的資源管理,情報管理,社会環境管理に関する総合的な分析,評価に基づいて,最適な企画,計画,実施,対応等を行う立場からの視点をいう。なお,書かれた論文を評価する際,考察における視野の広さ,記述の明確さと論理的な繋がり,そして論文全体のまとまりを特に重視する。
設問
(1)本論文においてあなたが取り上げる事業や組織の内容とそこにおけるこれまでのCNに関連する取組状況について,以下の問いに答えよ。
(問い(1)については答案用紙1枚以内にまとめよ)
①事業や組織の内容として、名称、目的、及び創出している成果物(製品・構造物・サービス・技術・政策等)を記せ。
②この事業や組織において,現在既に実施している温室効果ガスの抑制(排出量の削減や吸収量の増加。以下問じ。)に効果があると考えられる施策を1つ取り上げ,以下の項目をすべて含む形で記せ。なお,十分に効果が発揮できていない状況を記すことを妨げない。
・具体的な施策の内容
・その施策が温室効果ガスの抑制に繋がる理由・根拠
③②で取り上げた施策の問題点・今後に向けた課題を記せ。
解答(1)
① 事業や組織の内容
名称: 道路維持管理業務(地方自治体)
目的: 地域住民の生活・経済活動を支える道路ネットワークの安全性・通行機能・快適性の確保
成果物: 補修設計書、発注図書、維持管理計画、施工後の健全な道路構造物など
② 既に実施している温室効果ガスの抑制に効果があると考えられる施策
具体的な施策の内容:
旧式の水銀灯など高圧放電灯を、高効率なLED照明に更新する道路照明の改修工事を実施。
温室効果ガスの抑制に繋がる理由・根拠:
道路照明は電力使用量が大きく、とくに主要幹線道路では比率が高い。LED化により電力使用量を大幅に削減し、結果としてCO₂排出量を抑制している。
③ 施策の問題点・今後に向けた課題
今後に向けた課題:
長寿命化や保守コスト低減といったライフサイクル視点での効果分析を踏まえ、費用対効果の高い導入計画を策定すべきである。また、再生可能エネルギーとの連携や蓄電設備の活用など、より総合的なCN施策への展開も必要である。
施策の問題点:
初期投資費用が高く、財政的制約から導入が進みにくい。加えて、照度設計やグレア対策などの技術的課題と、住民理解との調和が必要。
設問
(2)この事業や組織において,温室効果ガスの抑制策として近い将来(おおむね5年以内)に導入が可能で効果が高いと考えられる施策を2つ取り上げ,それぞれについて,以下の問いに答えよ。なお,想定する時期までに事業や組織の内容や形態そのものが変化することを踏まえて解答してもよい。
(問い(2)については,まず1つめの施策について1枚以内にまとめ,2つめの施策について1枚以内にまとめよ。)
①施策の内容と温室効果ガスの抑制に繋がる理由・根拠を記せ。
②①で記述した施策を進めることで,温室効果ガスの抑制により,脱炭素経営や社会貢献等の観点から事業や組織にとって期待できる効果を,理由とともに記せ。
③①で記述した施策を進めていくうえで,総合技術監理の視点からどのような課題があるかを記せ。ただし,2つの施策それぞれについて,総合技術監理の視点における5つの管理分野のうち2つ以上を含むこととし,解答欄にはどの分野の視点であるかを明記すること。
設問(2)
施策1:道路パトロールへのEV(電気自動車)の導入
① 施策の内容と温室効果ガスの抑制に繋がる理由・根拠
施策の内容:
地方自治体が実施する道路維持管理業務において、従来の内燃機関車を電気自動車(EV)に段階的に更新する。
点検・巡回で使用される車両を対象にし、EV化によって環境負荷を軽減する。温室効果ガスの抑制に繋がる理由・根拠:
EVは走行時にCO₂を排出せず、再生可能エネルギーで充電すればライフサイクル全体でのGHG排出も抑えられる。
点検巡回に使用される車両の走行距離は年間を通して長く、CO₂削減効果も蓄積的に大きい。
国の補助制度の活用により、実現性も高まっている。
② 事業や組織にとって期待できる効果および理由
自治体としての脱炭素経営の実践を明示できるため、社会的評価や住民からの信頼が向上する。
騒音の低減により、夜間巡回等での生活環境への影響も軽減される。
長期的には燃料費削減による財政面でのメリットや、他部門への波及によるCN推進効果の連鎖も期待できる。
③ 総合技術監理の視点からの課題
【経済性管理】EV導入には初期コストや充電インフラ整備費用がかかるため、費用対効果分析や段階的導入計画が必要である。
【情報管理】運用状況や充電状況、走行履歴などのエネルギー使用データを可視化し、PDCAで改善していくための管理体制の構築が求められる。
施策2:AI画像解析による路面点検の自動化・最適化
① 施策の内容と温室効果ガスの抑制に繋がる理由・根拠
施策の内容:
職員の目視や車両巡回による従来の点検方式を、AI画像解析によって自動化・最適化する。
ドライブレコーダーやスマートフォンで取得した映像をAIで解析し、損傷箇所の早期発見と対応につなげる。
温室効果ガスの抑制に繋がる理由・根拠:
物理的な巡回の頻度を削減できるため、車両による化石燃料消費とCO₂排出が減少する。
また、早期発見による計画的な保全で重機や大型機械の使用頻度も抑制される可能性がある。
② 事業や組織にとって期待できる効果および理由
点検作業の省人化・効率化が実現し、現場人員の再配置や人手不足への対応が可能となる。
解析データを活用することで予防保全型の管理が可能となり、長期的なコスト削減や安全性の向上につながる。
環境配慮と生産性の両立が可能となるため、公共部門の先進事例としての発信価値も高い。
③ 総合技術監理の視点からの課題
【社会環境管理】AI導入により、住民のプライバシーや監視社会への懸念が生まれる可能性があるため、透明性の高い運用ルールと説明責任が課題となる。
【人的資源管理】新技術に対応できる職員の教育訓練やマニュアル整備が不可欠。AIの信頼性を現場で担保するスキルが求められる。
設問
(3)今後の技術革新の進展等を見据え,我が国において2050年時点でのCN実現に向けて,あなたが重要と考える施策を2つ取り上げ,それぞれについて以下の問いに答えよ。なお,問い(3)では,事業や組織の枠を超え,我が国として取るべき施策について解答すること。
(問い(3)については,まず1つめの施策について1枚以内にまとめ,さらに2つめの施策について1枚以内にまとめよ。)
①取り上げる施策を記せ。なお,解答に当たっては,表に示した重要産業分野に関連する施策を取り上げてもよいし,その他あなたが重要と考える施策を取り上げてもよい。
②①で記述した施策に関し,2050年時点でのCNに向けた有効性と実現性について,今後の技術革新の進展等の背景を含めて記せ。
③①で記述した施策を進めていくうえでの最も重大な障害とその克服策を複数の視点に留意して記せ。
なお,複数の視点には,総合技術監理の視点に限らず,我が国が直面する重要課題等の視点を含めて記述してよい。
解答(3)
施策1:水素エネルギーの社会実装加速
① 取り上げる施策
水素エネルギーの社会実装加速(特にグリーン水素の製造・輸送・利用インフラの整備)
② 2050年時点でのCNに向けた有効性と実現性について
水素は、利用時にCO₂を排出しない次世代エネルギーとして注目されており、特に再生可能エネルギー由来の「グリーン水素」は、CN実現に不可欠な技術である。
現在は製造コストや輸送効率に課題があるが、電解装置の高効率化が進み、海外では既に大規模な生産体制が構築されつつある。
我が国も再エネ資源に乏しいという制約を逆手に取り、国際連携による水素サプライチェーンの構築を進めれば、発電、輸送、産業熱源など多用途での利用が可能となり、エネルギー構造の抜本的転換が期待できる。
2050年CN実現に向けた基幹技術と位置付けられる。
③ 最も重大な障害とその克服策
経済性管理の視点:グリーン水素は現行のグレー水素に比べて2〜3倍のコストがかかる。
これを克服するには、政府による補助金、税制優遇、カーボンプライシング制度の導入を通じた外部不経済の内部化が必要である。
また、民間主導による設備投資の促進策も不可欠である。
社会環境管理の視点:供給・貯蔵・輸送インフラ整備には長期的な視野が求められ、地域住民との協議や安全基準の策定、普及に向けた理解促進も重要である。
教育や啓発活動を通じ、社会的受容性を高める取り組みが求められる。
施策2:LCC最適化設計の義務化と支援制度の構築
① 取り上げる施策
建築物・インフラにおけるLCC(ライフサイクルカーボン)最適化設計の義務化と、そのための支援制度の整備
② 2050年時点でのCNに向けた有効性と実現性について
現行の建設業では、運用時の省エネ性能に重きが置かれているが、真のCN実現には、資材の製造・施工・解体廃棄に至るまでの全工程でのCO₂排出最適化が不可欠である。
セメントや鋼材等の建設資材は製造段階で多くのCO₂を排出するため、設計段階から構造選定や材料の代替などを通じて削減を図る必要がある。
木造建築やカーボンリサイクル材の活用も有効であり、設計指針や評価制度にLCCの概念を組み込むことで、持続的かつ体系的な排出削減が可能となる。
制度化と技術支援により、実現性は十分にある。
③ 最も重大な障害とその克服策
経済性管理の視点:特に中小事業者にとっては、LCC設計に伴うコスト増が大きな障壁である。
設計段階での助成制度や税制優遇の導入など、経済的インセンティブを国主導で整備し、導入を後押しすることが普及の鍵となる。
情報管理・人的資源管理の視点:LCCを評価・最適化するには、BIMやLCAの活用など高度な情報管理と専門的な設計技術が求められるが、人材やノウハウの不足が課題である。
これを克服するためには、技術者教育の充実、評価ツールの標準化、研修制度の拡充が必要である。
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