
【問題】
我が国は、先進国の中でも最も早く少子高齢化が進行しており、既に少子化と高齢化に伴う様々な課題が顕在化している課題先進国である。少子化の状況として、令和6年の出生数は70万人を割り込み、過去最少を更新し今後さらに減少が進む可能性が指摘されている。一方、高齢化については、令和6年10月現在65歳以上人口が総人口に占める割合(高齢化率)が29.3%に達し、今後も伸び続けると推測されている。このような少子化と高齢化の両面の進行により、生産年齢人口(15~64歳)は、平成7年の8,700万人余をピークとして令和6年には7,300万人余まで減少し、引き続き総人口と併せて減少傾向が続くと見込まれている。
少子高齢化の進行は、我が国経済の供給面と需要面の双方にマイナスの影響をもたらし、我が国の中長期的な経済成長を阻害する可能性がある。少子高齢化という構造的な課題に対し、従前から一億総活躍社会の実現に向けた「働き方改革実行計画」の推進、「全世代型社会保障構築会議」「こども未来戦略会議」の開催など、我が国としての総合的な推進のための取組が進められてきた。これらの国策と共に企業等においても、労働生産性の向上、多様な労働力の確保などの対応が急務となっている。したがって、少子高齢化に伴う課題と施策について、総合技術監理の視点に立って検討を行うことは重要であると考えられる。
そこであなたがこれまでに経験した、もしくはよく知っている事業(研究開発・製品製造・販売等の業務機能の集合体としての事業、個々のプロジェクトの集合体としての事業、国・地方公共団体の事業等が代表例である。)や組織(役所や法人の全体とすることも、個々の部署や事業部等とすることもできる。)を1つ取り上げ、その目的や創出している成果物等を踏まえ、少子高齢化に伴う課題と施策について、総合技術監理の視点から以下の(1)~(2)の問いに答えよ。さらに、取り上げた事業や組織の枠を越え、少子高齢化に伴う諸課題に対して我が国において取るべき施策について、以下の(3)の問いに答えよ。
解答に当たり、事業や組織について、関連するステークホルダーや他組織のと連携を含めても良い。また、ここでいう総合技術監理の視点とは、トレードオフに留意しながら、「業務全体を俯瞰し、経済性管理、安全管理、人的資源管理、情報管理、社会環境管理に関する総合的な分析、評価に基づいて、最適な企画、計画、実施、対応等を行う。」立場からの視点をいう。なお、書かれた論文を評価する際、考察における視点の広さ、記述の明確さと論理的なつながり、そして論文全体のまとまりを特に重視する。
設問
(1)
本論文においてあなたが取り上げる事業や組織の内容と、そこにおけるこれまでの少子高齢化への対応状況について、以下の問いに答えよ。
問(1)については、答案用紙1枚以内にまとめよ。
①事業や組織の内容として、名称、目的、及び創出している成果(製品・構造物・サービス・技術・政策等)を記せ。
②この事業や組織において、少子高齢化に伴う現在顕在化している課題とそれに対して既に実施している施策を1つ取り上げ、以下の項目をすべて含めて記載せよ。
・ 具体的な課題と施策の内容
・ その施策により期待できる効果
③ ②で取り上げた施策の問題点を記せ。
解答(1)
① 事業や組織の内容
名 称:基礎調査設計部
目 的:建築構造物の安全性・経済性・施工性を確保するため、地盤調査・地盤解析・基礎形式の合理的設計を行う
成果物:地盤調査報告書、支持力・沈下量の解析資料、基礎設計図、現地施工時の技術対応資料など
② 既に実施している少子高齢化対応施策
具体的な施策の内容:
熟練技術者の高齢化と若手人材の不足に対応するため、OJT体制の強化と、定年退職者の再雇用制度を導入している。若手を現地調査や解析業務に同行させ、ベテランの判断根拠を現場で直接学ばせるとともに、業務マニュアルの整備や設計事例の共有によって、技術の形式知化と継承を図っている。
期待できる効果:
若手が実践を通じて業務判断力を身につけられるほか、ベテランの暗黙知が文書化されることで、属人的判断の平準化や品質の安定が期待される。
③ 施策の問題点・今後に向けた課題
今後に向けた課題:
ベテランが在籍している間は機能するが、数年以内に大量退職が見込まれており、現行施策では持続性に乏しい。若手の定着率や育成負担を踏まえ、構造的な人材確保策や省力化技術との組合せによる業務再構築が必要である。
施策の問題点:
教育には時間と労力を要し、即戦力化が困難。また、ベテラン依存の構造自体が課題であり、次世代を見据えた制度設計が急務である。
設問
(2)
この事業や組織において、少子高齢化に伴い近い将来(おおむね5年以内)に顕在化が予測される課題とそれに対して導入すべきと考える施策の組合せを2つ取り上げ、それぞれについて以下の問いに答えよ。
なお、想定する時期までに事業や組織の内容や形態そのものが変化することを踏まえて解答しても構わない。
問(2)については、答案用紙を替えたうえで、まず1つ目の課題と施策について1枚以内にまとめ、更に答案用紙を替えたうえで2つめの課題と施策について1枚以内にまとめよ。
①具体的な課題と施策の内容を記せ。
② ①で記述した施策の実現により事業や組織にもたらされる効果を、理由と共に記せ。
③ ②で記述した施策の実現するうえで直面する障害とその克服策を総合技術監理の視点から複数の視点に留意して記せ。ただし、2つの施策それぞれについて、総合技術監理の5つの管理分野のうち2つ以上の視点を含むこととし、異なる複合技術監理のトレードオフに留意すること。また、解答欄にはどの分野の視点であるか明記すること。
設問(2)
施策1:ICTツールによる省力化・設計判断支援の導入
① 具体的な課題と施策の内容
今後3~5年以内に熟練技術者の大量退職が見込まれ、若手のみでは現地調査や基礎設計判断に支障を来す恐れがある。
属人的なノウハウへの依存が続くと、業務品質の低下や人材定着の遅れを招く。
そこで、地盤データの自動分類や設計例提示機能を持つICT支援ツールを導入し、若手が標準的判断を補完できる仕組みを構築する。
加えて、設計事例のデータベースを整備し、技術の形式知化を促進する。
② 施策による効果と理由
ICTによる支援により、若手でも一定の判断根拠をもって業務遂行でき、属人性の排除や成果物の均質化が期待できる。
また、業務の標準化・平準化が進むことで、少人数でも安定した体制維持が可能となる。
③ 実現上の障害と克服策(視点:経済性管理・人的資源管理)
開発・導入費用の負担、ツールの習熟不足、ベテランの抵抗が課題である。クラウド型サービスの活用により初期投資を抑制し、他部門と共用することで費用対効果を高める。
若手への研修と併せて、ベテランをマニュアル整備等に参画させ、形式知継承と心理的抵抗の緩和を図る。
AIの導入は人材育成の代替ではなく補完と位置付け、技術者の判断力育成との両立に配慮する。
施策2:高齢者・多様人材の現地参画を可能とする補助機器と遠隔支援体制の導入
① 具体的な課題と施策の内容
山間地等の現地調査は体力的・技術的負荷が高く、従来は中堅~ベテラン男性に依存していた。
今後は高齢者や女性、外国人などの多様人材の参画が不可欠だが、単独作業は安全上も困難となる。
そこで、パワーアシストスーツや小型資機材運搬装置を導入するとともに、現地作業者に対し、遠隔地からベテランがリアルタイムで指示・支援できる通信装置を活用し、未経験者の参画を可能とする。
② 施策による効果と理由
体力・経験面で制約のある人材も、補助装置と遠隔支援により作業に加わることができ、人材確保の選択肢が広がる。
ベテランの知見を遠隔から活用でき、現場判断の支援と技術継承が同時に実現される。
③ 実現上の障害と克服策(視点:安全管理・情報管理)
新機器・通信装置の操作習熟や現場環境への適応、安全基準対応が課題である。また、遠隔指導には通信の安定性やデータセキュリティ確保も求められる。操作研修やマニュアル整備、通信冗長化・暗号化対応によりリスクを抑えるとともに、通信インフラ未整備地域では携帯基地局の一時設置等により対応する。
機器導入による利便性と安全性・環境影響とのトレードオフを管理し、全体最適を図る。
設問
(3)
我が国における少子高齢化に関する課題と、あなたが有効と考える施策の組合せを2つ取り上げ、それぞれについて以下の問いに答えよ。
なお、問(3)では、事業や組織の枠を超え、我が国が解決すべき共通課題としての観点から記述すること。ここで、課題を限定せず、少子高齢化の進行そのものを広く課題として設定してもよい。
問(3)については、答案用紙を替えたうえで、まず1つ目の課題と施策について1枚以内にまとめ、更に答案用紙を替えたうえで2つめの課題と施策について1枚以内にまとめよ。
①取り上げる少子高齢化に関する課題とあなたが有効と考える施策を記せ。
② ①で記述した施策に関し、想定する今後の世界情勢の変化、技術革新の進展、経済財政政策や厚生労働政策の動向、予算の制約等の背景を含めて、その有効性と実現性について記せ。
③ ①で記述した施策を実現するうえでの最も重大な障害とその克服策を複数の視点に留意して記せ。なお、複数の視点には、総合技術監理の視点に限らず、我が国が直面する重要課題等の視点を含めて記述してもよい。
解答(3)
施策1:地方移住・分散型社会の推進による出生率回復と若年人口の定着
① 取り上げる課題と施策
少子化の最大要因は、都市部への人口集中による若年層の生活不安・未婚化・晩婚化である。特に住宅費・育児負担・孤立感が若者の出産意欲を削ぎ、出生率の低下を招いている。
この課題に対し、テレワークやサテライトオフィスの普及を背景に、地方移住や分散型社会の推進を強化する。具体的には、地方での子育て支援住宅の整備、自治体主導による就労支援と教育インフラ整備を組み合わせ、若年層の定着と出産を後押しする。
② 有効性と実現性の背景
コロナ禍以降、リモートワークが定着し、都市集中に依存しない働き方が広がっている。加えて、地方自治体は人口減への危機感から、移住施策や保育支援に積極的に取り組む傾向が強まっており、社会的受容性が高い。国のデジタル田園都市構想との整合も取りやすく、技術革新や政策動向と親和性が高い。また、地方では住宅コストが低く、生活圧力も小さいため、育児世帯の定着に有利である。
③ 実現上の障害と克服策(視点:社会環境・経済政策)
最大の障害は、移住後の生活やキャリアに対する不安である。地方での雇用創出、教育・医療の質の確保が不可欠である。また、地方のICTインフラ整備が不十分な場合、リモート勤務が定着しないおそれがある。これに対しては、地域企業へのリスキリング支援や職住近接型産業の育成、5G・光回線等の通信インフラ投資によって克服を図る。地域全体の生活基盤を支える中長期的ビジョンが求められる。
施策②:高齢者の「生涯活躍」支援による労働力維持と社会保障の持続可能性確保
① 取り上げる課題と施策
高齢化の進行に伴い、年金・医療・介護など社会保障制度の負担が増大している一方で、生産年齢人口は減少し続けている。就業意欲のある高齢者は多いが、受け皿が制度的・文化的に整っていない現状がある。
この課題に対して、定年延長や再雇用制度の見直し、シニア向けのリカレント教育の拡充を通じ、高齢者が段階的・柔軟に働き続けられる仕組みを構築する。また、地域活動やボランティアへの参画も含めた「生涯活躍社会」を制度的に整備し、経済的自立と社会参加を促進する。
② 有効性と実現性の背景
健康寿命の延伸や医療技術の進展により、65歳を超えても就業可能な高齢者が増えている。また、政府はすでに高年齢者雇用安定法の改正などで雇用継続を促しており、政策面との整合も取れる。デジタル技術や軽労働型の業務環境整備が進めば、シニア人材の活用が現実的になる。社会保障制度の持続性を高めるうえでも、労働力維持と負担抑制の両立に資する施策である。
③ 実現上の障害と克服策(視点:人的資源管理・制度改革)
最大の障害は、企業側の受け入れ意識と、高齢者のITスキルや体力の差である。企業に対しては、シニア人材の戦力化に向けた補助制度や柔軟な働き方導入支援を行い、受け入れコストを下げる。高齢者には職種別リスキリング研修や在宅勤務支援機器の提供により、業務環境とのミスマッチを解消する。また、年金制度と就労収入の関係の見直しにより、働くほど損をするという逆インセンティブを是正することも重要である。
問題の全体構成
テーマ指定:少子高齢化
(1)組織設定定義
(2)定義した組織上の総監的視点の有無確認
(3)スコープの拡大:個別事業・組織の枠を超え、国家的視点で共通課題対応
上記は、一組織上の視点での解答例
推測が大きく混じるかもしれないが、政策上の組織やほかに考えられる組織を想定し解答を作ってみる。(かもしれない)
“若手”の高齢化問題?
40代の若手みたいな皮肉な状況は、もう組織内だけでは解決はできないですね。
これは一つの現象であって、悲観するべきというよりは、世の中の趨勢からこういう状況も生まれ得るというパターンの一つに直面しているだけ。
したがって、まずはその構造を受け止めた上で、柔軟な制度設計やキャリア支援の再構築が求められる。ということも過りましたが、技術士試験のようなお祭り時の論文には向かないかも。
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