【問題】
世界の地球温暖化対策目標であるパリ協定の目標を達成するため， 日本政府は令和2年10月に， 2050年カーボンニュートラルを目指すことを宣言し，新たな削減目標を達成する道筋として，令和3年10月に地球温暖化対策計画を改訂した。また，国土交通省においては，グリーン社会の実現に向けた「国土交通グリーンチャレンジ」を公表するとともに，「国土交通省環境行動計画」を令和3年12月に改定した。
このように， 2050年カーボンニュートラル実現のための取組が加速化している状況を踏まえ，以下の聞いに答えよ。
設問
(1）建設分野におけるC02排出量削減及びC02吸収量増加のための取組を実施するに当たり，技術者としての立場で多面的な観点から3つの課題を抽出し，それぞれの観点を明記したうえで，課題の内容を示せ。
解答
（1）建設分野におけるCO2排出量削減及びCO2吸収量増加のための取組には、以下の三つの課題が存在すると考えられる。
一つ目の課題は、低炭素建材の開発と普及である。現在の建設業界では、セメントや鉄鋼などの製造過程で大量のCO2が排出されている。これらを代替する低炭素建材の開発が求められているが、性能、コスト、供給体制等に課題があり、その普及は容易ではない。
二つ目の課題は、建築物のエネルギー消費の低減である。建築物の設計や運用において、冷暖房や照明の効率を高めることによるエネルギー消費の削減が重要となる。しかしながら、快適性や機能性を維持しつつエネルギー消費を削減するための技術開発は難易度が高い。
三つ目の課題は、建築物やインフラストラクチャの寿命延伸とリサイクルである。長寿命化により、建築物やインフラストラクチャの建設や解体によるCO2排出を抑制することが可能である。また、解体された建築物のリサイクルによる新たな建設物への利用も重要であるが、品質維持やリサイクルシステムの構築には課題が存在する。
これらの課題に対処するためには、技術開発だけでなく、制度や社会構造の改革も必要であると考える。
設問
(2） 前間（1） で抽出した課題のうち，最も重要と考える課題を 1つ挙げ，その課題に対する複数の解決策を示せ。
解答
（2）前述の三つの課題の中で、特に重要だと考えるのは「建築物のエネルギー消費の低減」である。これは建築物が社会全体のエネルギー消費の大部分を占めていること、そしてそれによって排出されるCO2が温暖化の大きな原因であるからだ。
その解決策としてまず挙げられるのは、パッシブデザインの採用である。建築物の形状や配置、断熱性能などを工夫し、自然の風や日射を最大限に利用して冷暖房負荷を削減することが可能である。また、省エネルギー型の設備導入、例えば高効率な照明や空調設備、再生可能エネルギーを利用するシステムなどの活用も有効である。
次に、建築物のエネルギー消費を把握し、管理するためのビルディングエネルギーマネジメントシステム（BEMS）の導入も推奨される。BEMSにより、エネルギー消費の状況を可視化し、効率的な運用を実現することが可能である。
最後に、住宅やビルにおけるネット・ゼロ・エネルギー・ビル（ZEB）の普及推進が重要である。ZEBは、建築物が年間で消費するエネルギーと自らが生成するエネルギーが均衡するコンセプトであり、これを達成するためにはエネルギー消費の大幅な削減と再生可能エネルギーの導入が必要となる。
以上のような取り組みを進めるためには、建築士や設計者のエネルギー効率に対する意識改革とともに、政策的な支援や制度的な推進が必要となるだろう。
設問
(3）前問（2）で示したすべての解決策を実行しでも新たに生じうるリスクとそれへの対応策について述べよ。
解答
（3）前述した解決策の実行にあたり、新たに生じうるリスクとしては、初期投資の増大、技術的な問題、人々の生活様式の変更に伴う問題がある。
まず、初期投資の増大についてだが、パッシブデザインや高効率設備の導入、BEMSやZEBの実現は、従来の建築物に比べて初期投資が増える可能性がある。これに対する対応策としては、長期的な視点でのコスト評価が必要である。エネルギー効率が向上すればランニングコストが減少し、全体のコストは削減される可能性がある。
次に、技術的な問題について。新しい技術の導入は、その維持・管理に特別な知識やスキルを必要とする場合がある。これに対する対応策としては、建築家や設計者、運用者に対する十分な教育と訓練が重要である。
最後に、人々の生活様式の変更に伴う問題について。エネルギー消費の削減や再生可能エネルギーの導入は、人々の生活様式に影響を与える可能性がある。例えば、一部の家電が使用できなくなる、生活時間帯が変更される、などである。これに対する対応策としては、対話と説明を通じた理解の深化や、それに伴う生活様式の変化への対応が重要である。
これらのリスクと対応策を適切に管理し、温暖化対策を推進していくことが求められる。
設問
(4）前問（1） ～（3）を業務として遂行するに当たり，技術者としての倫理，社会の持続性の観点から必要となる要点・留意点を述べよ。
解答
（4）業務を遂行するに当たり、技術者としての倫理と社会の持続性の観点から重要な要点・留意点は以下の通りである。
まず、技術者としての基本的な倫理として、信頼性と透明性が求められる。取り組みの全過程で、科学的根拠に基づく公正かつ正確な情報を利害関係者に提供し、冷静に判断を下す必要がある。また、不確実性やリスクについても適切に伝え、それが理解されていることを確認することも大切である。
次に、環境と経済のバランスを考慮する観点が重要である。建設プロジェクトは、経済的な利益だけでなく、環境への影響や社会の持続性にも配慮する必要がある。したがって、全体的な視点からプロジェクトの長期的な影響を評価し、それに基づいて意思決定を行うことが重要である。
また、持続可能な社会を実現するためには、現地のコミュニティとの協働も重要である。技術者は、地元の人々のライフスタイルや価値観を尊重し、地元の状況に適した解決策を提供することが求められる。さらに、持続可能な解決策を提案する際には、それが公正かつ平等にアクセスできるものであることを確認する必要がある。
最後に、技術者は常に自己の学習と成長に努め、新しい技術や情報に敏感であることが求められる。これは、持続可能な社会を実現するための最新の知識とスキルを習得し、適用するためである。
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