令和3年度_背景から学ぶ「総監択一問題キーワードガイド」

このガイドは、ゼロから知識を積み上げるためのものではありません
むしろ、すでにあなたが実務で積み重ねてきた経験――
現場での判断や対応、プロジェクトの中で「こうすべきだ」と感じてきたこと――
それらを言葉として再確認し、体系として整理するためのものです。

技術士(総監)の択一試験には、多くのキーワードが並びます。
ですが、実際には「知らなかったこと」よりも、「言葉としては使ってこなかったけれど、やってきたこと」が大半ではないでしょうか。

たとえば…

  • 「利益は出ているのに、今使えるお金がない」
  • 「人は足りているはずなのに、なぜか回らない」
  • 「リスクは共有したはずなのに、意識がばらばらになる」

そんな現場の違和感に、名前を与えるのがキーワードであり、
それを「試験の問題でどう聞いてくるか」を合わせて確認するのがこのガイドです。

構成はすべて共通です:

  1. 背景にある問い(実務でよくある違和感からスタート)
  2. キーワードで整理する(「あの感覚」は、こういう言葉で説明される)
  3. 実際の問われ方(試験でどう聞かれるか)
  4. 試験での留意点(間違えやすいパターン・迷いやすいペア)

つまりこのシリーズは、
知識を“覚える”というより、「自分の中にあることを、言語と構造で納得する」ための読み物です。

現場の実感とキーワードをつなぐ視点で、これから一つずつ見ていきましょう。

目次

経済性管理

I-1-1:政策評価と投資評価の手法

背景にある問い

「この施策、本当に意味があったのだろうか」
「この投資案、最も効果的なのはどれか」。
現場でそう問われたとき、どのように説明すればよいか迷うことがあります。

たとえば、自治体が地域活性化事業を実施した結果、イベント来場者数が2倍になったとします。
しかし、それが「本当に税金に見合う成果」だったのか、「費用対効果はどのくらいか」となると、感覚では語れません。
同様に、企業においても、投資判断の場面で「回収期間」だけで判断してしまうと、将来的に大きな価値を見落とす可能性があります。

こうした場面で求められるのが、効果の可視化比較可能な基準による評価です。
そのための代表的な方法が、「費用便益分析」や「回収期間法」「正味現在価値(NPV)」といった評価手法です。

キーワードで整理する

  • 費用便益分析(CBA)
     政策や事業の便益と費用をすべて貨幣価値に換算して比較する分析手法。
     外部経済や外部不経済(社会的影響)も含めますが、それだけが対象ではありません。
     公共投資や政策評価に広く用いられます。
  • 費用効用分析(CUA)
     対象が健康や満足度など主観的・非貨幣的な価値の場合、効用(utility)を用いて評価します。
     必ずしも貨幣価値に換算するとは限りません。
  • アウトプットとアウトカム
     アウトプットは事業の直接的な成果物(例:建設した施設、研修実施回数)
     アウトカムは**最終的な成果や影響(例:住民の幸福度向上、事故減少)**を指します。
     アウトカムは貨幣換算されるとは限りません。
  • 内部収益率(IRR)と正味現在価値(NPV)
     IRRは投資による収益率を示し、NPVは将来のキャッシュ・フローを現在価値で評価したもの。
     両者の大小関係は常に一致するわけではなく、特に複数の投資案や非定常なキャッシュフローでは食い違うことがあります。
  • 回収期間法(Payback Period)
     初期投資額を何年で回収できるかを示す指標。
     単純で理解しやすい反面、回収後のキャッシュ・フローを無視するため、将来価値を過小評価するリスクがあります。

実際の問われ方

本問題では、各評価手法の定義の誤解・混同が問われています。
代表的な出題パターン:

項番出題意図主な誤認ポイント
CBAの対象範囲の誤解外部効果だけを対象とする誤解
効用の貨幣換算への過信貨幣化が困難なケースの見落とし
アウトプットとアウトカムの混同指標の区別と貨幣換算の可否
IRRとNPVの関係を一律と捉える誤解投資案の特性による乖離を軽視
回収期間法の限界に関する認識正解肢。将来キャッシュ・フローを無視

試験での留意点

  • 「評価」という言葉が出てきたら、定量と定性、貨幣換算の可否に注意を向けること。
  • アウトプットとアウトカムの違いは、各種マネジメント手法や効果測定全般で頻出の知識です。
  • IRRとNPVは「一致しないケースがある」ことを選択肢で見かけたら、安易に×とはしないこと。
  • 回収期間法は直感的に分かりやすいだけに、「その後の価値を捨てている」という見落としに気づけるかが差になります。

I-1-2:PFIと民間活力導入の手法

背景にある問い

公共施設の老朽化や財政のひっ迫を背景に、「民間に任せた方が効率的ではないか」という議論が高まっています。
たとえば、上下水道や学校施設の整備・維持管理において、「自治体だけでは資金も人材も足りない」という声は各地で聞かれます。
しかし、「民間に任せる」といっても、どこまで任せて、どのような契約形態で、どのように費用対効果を判断するのかは簡単ではありません。

そのような中で、公共サービスを民間資金・ノウハウを活用して提供する仕組みが**PFI(Private Finance Initiative)**です。
単に外注するのではなく、「資金調達・設計・建設・運営・維持管理」まで含めた包括的な事業スキームが問われる点に特徴があります。

キーワードで整理する

  • PFI(Private Finance Initiative)
     公共施設等の整備・運営を民間の資金・技術・経営能力を活用して行う手法。
     国の「民間資金等の活用による公共施設等の整備等の促進に関する法律」に基づき推進されています。
  • VFM(Value for Money)
     「支払った金額に見合う価値があるか」という考え方であり、PFIでは従来方式と比べて、どれだけ効率的か(コストが削減できたか)を示す指標。
     事業の総合的効率性
    を評価する尺度であり、単に現在価値だけを示すものではありません。
  • BOT方式(Build-Operate-Transfer)
     民間が施設を建設(Build)・運営(Operate)し、**一定期間後に施設を公共に譲渡(Transfer)**する方式。
  • BTO方式(Build-Transfer-Operate)
     施設完成時に所有権が公共に移り(Transfer)、民間が運営を行う方式。
     BOTと順序が逆である点が混同されやすいため注意が必要です。
  • コンセッション方式
     所有権は公共に残しつつ、運営権だけを民間に設定する方式。
     空港・水道事業などで導入が進んでいます。

実際の問われ方

この問題では、PFIに関連する主要スキームと評価指標の誤認が問われています。
以下に選択肢ごとの主な意図を整理します。

選択肢意図(誤認ポイント)正誤
VFMの定義を「現在価値の額」とする誤解×
BOTの内容をBTOと混同している×
BTOの内容をBOTと混同している×
コンセッション方式の所有権と運営権の区分を正確に記述
最新傾向を逆に記述しており、PFI件数が減っていると誤認×

試験での留意点

  • BOTとBTOの**Transferのタイミング(完成時か、運営終了後か)**を正しく整理しておくこと。
  • コンセッション方式は近年の実例が多く、所有・運営の切り分けの構造を理解することが重要です。
  • VFMを「現在価値の合計」や「単なる安さ」と混同しないよう注意が必要です。
  • PFIに関する統計や実施傾向が出題されることがあるため、直感に頼らず事実確認が求められます。

I-1-3:統計的品質管理と管理図・工程能力の基礎

背景にある問い

「この製品、規格内だけど不安定じゃないか?」
「検査結果が合格続きだから、もう検査は減らしてもいいのでは?」
品質管理に携わる技術者であれば、一度はこうした疑問や会話に直面します。

たとえば、ある製品の幅寸法が±1.0 mmの規格に収まっていたとしても、実測値が上下限ぎりぎりで推移していれば「不安定」と感じるはずです。
逆に、平均値から大きく外れていなくても、測定値が大きくバラついている場合は「安定している」とは言えません。
こうしたばらつきを可視化し、管理するための道具が**統計的品質管理(SQC)**の手法です。

品質が安定しているかどうかは、規格に合っているかどうかとは別の話です。
この違いを正しく捉えることが、品質管理の基本的な視座につながります。

キーワードで整理する

  • 管理図(Control Chart)
     製品や工程のばらつきを時系列で可視化し、異常の兆候を検出するための図表。
     中央線(CL)と、±3σを基準とした管理限界(UCL/LCL)によって構成されます。
     規格値とは目的が異なり、あくまで工程の安定性の管理
    が目的です。
     規格値と混同すると誤った判断を招くため注意が必要です。
  • 工程能力指数(Cp、Cpk)
     工程がどの程度規格に適合しているかを数値化した指標。
     ばらつきが小さい(σが小さい)ほど値は大きくなり、高い指数ほど安定・高品質と判断されます。
     一般にCp=1.33以上で工程能力が「十分」とされることが多いです。
  • 抜取検査(Acceptance Sampling)
     ロットから一部をランダムに抽出して検査し、全体の合否を判断する手法。
     全数検査に比べてコスト・時間が低く済みますが、合格ロットにも不良品が混在することを許容する前提で運用されます。

実際の問われ方

この問題では、品質管理の基本的な手法に対する誤った理解や混同を指摘する設問構成となっています。
以下に選択肢ごとのポイントを示します。

選択肢主な内容正誤誤認ポイント
管理図の限界値=規格値とするべき×管理図は工程の安定性を見るものであり、規格値とは無関係
工程能力指数とばらつきの関係ばらつきが小さいほど指数は大きくなる
工程能力が高ければ検査を簡略化可能SPCの前提として正しい考え方
抜取検査ではある程度の不良を許容する検査経済性と確率論に基づく運用
抜取検査にはランダム抽出が必要統計的な正当性を保つための条件

試験での留意点

  • 管理図と規格値を同一視しないこと。管理図は「異常の兆候」、規格値は「製品としての合格基準」であり、目的が異なります。
  • CpとCpkの意味の違い(中心ずれの考慮)にも注意が必要ですが、本問ではCpkには触れていません。
  • 抜取検査は「不良を許容する仕組み」であり、ゼロディフェクト思想とは別物であることを押さえておくと理解が深まります。
  • 工程が安定している=検査が不要、とはならない点にも注意が必要です。あくまで検査の信頼性や効率を再設計する余地があるという視点が求められます。

I-1-4:クリティカルパスと工程の並列化による所要日数短縮

背景にある問い

「工程を分ければ工期は短くなるのか?」「この作業、前半が終わったら次に回せないか?」
プロジェクトの進行管理を担う立場では、こうした検討は日常的に求められます。

例えば、重要な設備更新工事において、A班が進める作業Fが終わるのを待ってB班の作業Gが始まる構成だったとします。
ところが、Fの後半はGと重ならない工程内容であると判明し、FをF1とF2に分割して「F1終了後にGを先行開始」するように見直すことで、全体工期が短縮される余地が生まれます。

こうした工程の分割や前倒しは、単にタスクを細かくすることではなく、ネットワーク全体の構造を再設計する行為です。
結果として、クリティカルパスが変わることもあり、その変化を読み解く力が問われます。

キーワードで整理する

  • クリティカルパス(Critical Path)
     プロジェクトにおける最長経路であり、この経路の作業に遅れが生じるとプロジェクト全体の遅れにつながる
     所要日数の短縮には、この経路上の作業の見直しが最も効果的です。
  • アローダイヤグラム(Arrow Diagram)
     作業を矢印で表し、作業間の依存関係(先行・後続)を視覚化するネットワーク図。
     全体の流れを整理する上で有効であり、クリティカルパス分析に用いられます。
  • 工程の分割と並列化
     一つの作業を意味のある部分(前半・後半など)に分割し、他作業と並列に実行可能な構成に変更する手法。
     分割によって後続作業の開始を前倒しすることができる場合、所要期間の短縮が可能になります。

実際の問われ方

この問題では、作業FをF1・F2に分割し、作業Gの開始タイミングを前倒しできるかどうかがポイントです。
見直し前後のアローダイヤグラムを描き、クリティカルパスがどう変化するかを比較する必要があります。

見直し前クリティカルパスB → F → G(3 + 6 + 8 = 17日)
見直し後の経路1B → F1 → G(3 + 3 + 8 = 14日)
見直し後の経路2(新CP)B → D → E(3 + 8 + 4 = 15日)

短縮できるのは当初の17日から15日までであり、短縮幅は2日となります。

試験での留意点

  • 「短縮できる部分だけを見て、全体の工期も同じだけ短縮できる」と考えるのは誤りです。新たなクリティカルパスの出現に注意が必要です。
  • 分割や見直しはすべての経路を再確認する必要があるため、アローダイヤグラムでの構造把握が不可欠です。
  • 工程表上で「空いている期間がある=短縮可能」とは限らず、依存関係とパスの総和で判断されます。

I-1-5:サプライチェーンマネジメントと生産方式

背景にある問い

「在庫が多すぎる」「生産は止められない」「納期は守りたい」
調達から販売までが連鎖する中で、誰のために、どのタイミングで、どれだけ作るかという問いは、製造業だけでなく、あらゆる組織にとって本質的な課題です。

たとえば、ある製品の需要が変動しており、ある日は受注が集中して残業対応、別の日はラインが空いてしまうといった事態が起きる。
そんな中、「予測ではなく実際の注文に基づいて生産できないか?」という問いが浮かびます。
また、納品遅延が起きたとき、「サプライヤーのせいか」「工程設計のミスか」「情報連携の不備か」を迅速に特定できなければ、全体最適は望めません。

このように、全体の流れを一貫して把握・調整する視点が、いまや組織運営やプロジェクトマネジメントの基礎となりつつあります。

キーワードで整理する

  • サプライチェーンマネジメント(SCM)
     原材料の調達から製造、流通、販売、サービス提供に至るまでの一連のプロセス全体を統合的に管理する考え方。
     モノだけでなく、情報・資金・サービスも対象とする点が重要です。
     目的は、納期・コスト・在庫の最適化と顧客満足の向上にあります。
  • 受注生産方式(受注点による分類)
     生産開始のトリガーがどこにあるかによって、次の3つに分類されます。

 | 方式 | 特徴 |
 |————|———————————————-|
 | MTS(Make to Stock) | 見込み生産。完成品在庫から出荷 |
 | ATO(Assemble to Order) | 組立段階で受注開始。中間品在庫を持つ |
 | ETO(Engineer to Order) | 設計から受注開始。仕様ごとに設計・製造が必要 |

  • TOC(制約条件の理論)
     全体の生産能力は**最も能力の低い工程(ボトルネック)**によって決まり、それ以外の工程を強化しても効果は薄いとする理論。
     他工程は、制約工程の能力を最大化するように調整されるべきとされます。
  • プル型とプッシュ型
     プル型は実際の需要(注文)に応じて生産・補充を行い、プッシュ型は需要予測に基づいて前倒しで生産します。
     プル型は在庫削減に寄与しますが、即応性・柔軟性が問われます。
  • かんばん方式(JITの一手法)
     必要なものを、必要なときに、必要な量だけ供給する**ジャストインタイム(JIT)**の実現手段。
     「引き取りかんばん」によって部品の補充を指示し、「生産指示かんばん」によって製造を指示します。

実際の問われ方

本問題は、SCM・生産方式の基本的概念と混同しやすい要素に着目して出題されています。
以下はポイントとなる項目の比較です。

誤答肢混同しやすいポイント
SCMはサービスを含まないという誤認
TOCの本質を逆に理解している
プル型とプッシュ型の定義の取り違え
かんばんの種類の誤認(引き取り vs 生産)

正解は②であり、受注点の違いによりSCMの設計が異なるという基本的かつ重要な理解が問われています。

試験での留意点

  • 「SCM=モノの流れだけ」ではない点を押さえておくこと。サービスや情報も対象です。
  • TOCの出題では「どの工程を強化すべきか」の判断基準が逆転しやすいため注意が必要です。
  • プル型=需要起点、プッシュ型=予測起点という基本の整理が重要です。
  • 「かんばん方式」は、種類と役割の違いに加えてJITとの関係性を一緒に整理しておくと理解が深まります。

I-1-6:損益分岐点分析と限界利益率

背景にある問い

「この案件、採算に乗るのか?」
「単価を下げたら、どれだけ売らなければならないか?」
製品価格や販売数量を議論する会議で、こうした問いに即答を求められる場面は少なくありません。

たとえば、新製品Xについて「あと10%値引きすれば大型受注につながる」という営業側の提案がある。
一方、製造部門は「限界利益が減って固定費が回収できない」と慎重な姿勢を見せる。
こうしたとき、意思決定を下支えするのが損益分岐点分析です。

利益の構造を分解し、「変動費・固定費・売上」のバランスを数字で可視化することができれば、価格・数量・利益の関係性をロジカルに説明できます。

キーワードで整理する

  • 限界利益(Contribution Margin)
     売上高から変動費を差し引いた金額で、売上が増えたときに利益として追加される部分を示します。
     限界利益 = 販売価格 − 変動費。
     利益構造を捉えるための中核的な概念です。
  • 限界利益率
     売上高に占める限界利益の割合を表し、1円の売上がどれだけ利益に貢献するかを示す指標。
     限界利益率 = 限界利益 ÷ 売上高。
     本問では(30,000円−10,000円)÷30,000円=0.666… → 66.7%
  • 損益分岐点売上高(Break-even Sales)
     営業利益がゼロになる売上高で、固定費 ÷ 限界利益率で求められます。
     この水準を上回ると黒字、下回ると赤字になります。
  • 営業利益(Operating Profit)
     限界利益から固定費を差し引いた残りの利益であり、損益分岐点分析のゴールとなる指標。
     販売価格や数量を変更したときの変化に着目します。

実際の問われ方

本問では、利益構造の理解を前提に、以下のような判断が求められます:

選択肢着目点判定コメント
変動費5%削減時の売上高×売上高は販売価格×数量であり、変動費とは無関係
固定費増加時の限界利益×限界利益は売上−変動費であり、固定費とは無関係
値下げ+数量増による利益変化×計算が誤っており、実際はもっと少ない
損益分岐点売上高の割合×限界利益率66.7%より高いため、割合は小さくなる
限界利益率の算定正しい計算(20,000 ÷ 30,000)=66.7%

試験での留意点

  • 「限界利益は固定費とは無関係」という構造を押さえること。限界利益は変動費との関係性のみで決まります。
  • 損益分岐点売上高の算出には、固定費 ÷ 限界利益率を用いる点に注意。費用の“率”ではなく“額”で割ると誤答になります。
  • 売上高の変化=販売単価×数量の変更であり、費用の変更では売上は動かないことを見落とさないようにします。
  • 値引きと数量増加のトレードオフに関しては、営業利益がどう変化するかを冷静に計算できる力が求められます。

I-1-7:財務諸表とキャッシュ・フローの見方

背景にある問い

「黒字なのにお金がないのはなぜか?」
「キャッシュ・フローがマイナスなのに決算は黒字?」
財務担当者でなくても、プロジェクトを管理する立場であれば一度は感じたことのある疑問ではないでしょうか。

たとえば、ある事業の収支がプラスと報告されていたが、蓋を開けると「資金繰りが厳しい」と言われる。
原因を追うと、売掛金の回収が遅れ、仕入先への支払いだけが先行していたと判明する。
このように、利益と資金は別物であるという感覚を持つことが、組織マネジメントでは極めて重要です。

その理解を助けるのが、貸借対照表・損益計算書・キャッシュ・フロー計算書の3つの財務諸表です。

キーワードで整理する

  • 貸借対照表(Balance Sheet)
     企業のある時点における資産・負債・純資産の構成を表す書類。
     特に**流動比率(流動資産 ÷ 流動負債)**は短期的な支払能力の指標となり、数値が大きいほど資金繰りの安定性が高いと判断されます。
  • 損益計算書(Profit and Loss Statement)
     一定期間における収益と費用の構造を明らかにし、営業利益や純利益を算出します。
     売上総利益率(売上総利益 ÷ 売上高)は、提供する製品・サービスの付加価値の水準を反映します。
  • キャッシュ・フロー計算書(Cash Flow Statement)
     現金の流れを営業・投資・財務の3つの活動に分類して記録する書類。
     営業キャッシュ・フローの間接法では、当期純利益に非資金取引の調整(例:減価償却費の加算)や運転資本の変動の調整(売上債権や仕入債務の増減)を加えます。

 - 売上債権が増加した場合:現金は入っていないのでマイナス調整
 - 仕入債務が増加した場合:現金支出をしていないのでプラス調整

  • フリー・キャッシュ・フロー(FCF)
     営業活動によるキャッシュ・フローと投資活動によるキャッシュ・フローの合計値で、企業が自由に使える現金の余力を表します。
     財務活動(借入や配当等)を除いた本業+投資の成果といえます。

実際の問われ方

この問題では、財務諸表それぞれの基本的な見方と概念の誤認識が問われています。

選択肢内容の要点判定補足ポイント
流動比率と資金繰り基本的な理解
売上総利益率と付加価値適切な表現
売上債権・仕入債務のキャッシュ調整×逆の調整が記述されており、典型的な誤答例
フリー・キャッシュ・フローの定義営業CF+投資CF=FCFとして正しい
現金同等物とB/Sの現金の関係実務上、ほぼ同等となる(預金などが含まれる)

試験での留意点

  • キャッシュ・フローの間接法における「売上債権増=マイナス」「仕入債務増=プラス」は逆にしやすい誤答の典型です。
  • 損益とキャッシュ・フローの違いを理解することで、「黒字倒産」などのケースを論理的に説明できます。
  • フリー・キャッシュ・フローの定義に財務キャッシュ・フローは含まれないことを明確に区別しておくことが必要です。

I-1-8:設備管理と保全費・投資評価の考え方

背景にある問い

「この設備、更新すべきだろうか?」「修理にかかる費用とダウンタイムの損失、どちらが大きいのか?」
設備投資や保全計画を検討する際に、多くの現場で聞かれるこうした問いには、経済性・機能性・信頼性といった多面的な視点が求められます。

たとえば、生産現場で頻発する設備の故障に対し、都度修理を続けるべきか、それとも高額でも更新投資を実行すべきか。
また、「最新設備を導入すれば省エネ効果が出るが、回収には5年かかる」といった話もあります。
こうした意思決定を合理的に行うためには、設備のライフサイクル全体を見渡す視点と、費用の正確な把握が不可欠です。

キーワードで整理する

  • ライフサイクルコスト(LCC:Life Cycle Cost)
     設備の導入から廃棄までの全期間にわたって発生するコストの総額。
     初期投資(取得・設計・据付)だけでなく、運転・保守・エネルギー消費・故障修理・最終的な廃棄・撤去費用までを含みます。
     単年度コストではなく全体最適で考えるための視座です。
  • 保全費と資本的支出の区分
     設備保全にかかる支出は原則として費用(損益計算書上の支出)として扱われます。
     一方、新設・改造・更新などで設備価値が増す支出
    は、**資本的支出(固定資産として計上)**に該当し、保全費には含まれません。
  • 活動基準原価計算(ABC:Activity-Based Costing)
     間接費を活動単位で把握し、製品やサービスに合理的に配賦する原価計算手法。
     目的は間接費の見える化であり、損失費用の算出手段ではないことに注意が必要です。
  • 原価企画(Target Costing)
     製品開発段階において、目標価格から必要な利益を差し引いた目標原価を逆算し、それに収まるように設計・調達・製造を調整する手法。
     設備投資案の経済性評価とは目的も時点も異なります。
  • 設備投資評価手法
     将来の効果と費用を比較するため、NPV(正味現在価値)法、IRR(内部収益率)法、回収期間法などの経済計算手法が用いられます。

実際の問われ方

この問題では、設備管理に関連する基本的な概念と誤解されやすい区分に注目して出題されています。

選択肢内容の要点判定補足ポイント
LCCに廃却費が含まれない×廃却費もLCCの一部として含まれる
保全費に資本的支出は含まれない固定資産への計上対象であり、保全費とは区別される
機会損失費とABCの関係×ABCは配賦手法であり、損失費用算出には用いない
原価企画が投資評価に使える×投資評価はNPVやIRRで行う
設備更新と取替の定義×用語として不明瞭で、整合しない

試験での留意点

  • LCC=すべての期間コストを含むという理解が重要です。導入費用だけを見て判断しないようにします。
  • 保全費と資本的支出の会計上の取り扱いを明確に区別することが問われます。
  • 「原価企画=将来の投資評価に使える」と短絡的に考えず、その目的・フェーズ・視点の違いを押さえることが重要です。
  • 意味不明・定義が曖昧な選択肢(⑤のような用語不統一)にも注意し、言葉の正確性で見抜く力も問われます。

人的資源管理

Ⅰ-1-9:労使関係と団体交渉のルール

背景にある問い

ある日、社内で「パート社員が労働組合に入って団体交渉を申し込んできた」という報告が上がる。
管理職の一人は「パートなんて組合に入れるのか?」と首をかしげ、別の管理職は「そもそも団体交渉って、賃金以外のことも話していいのか」と戸惑っていた。

労働者の権利と、使用者側の管理責任の狭間で、こうした状況は決して珍しくない。
しかし、それにどう答えるべきかを、法的・制度的に正しく理解していないと、誤解がトラブルを生む。

労使の信頼関係を築く上でも、法の枠組みを踏まえた「交渉可能な範囲」や「制度の仕組み」を押さえることが求められる。

キーワードで整理する

このような場面において、押さえておくべきキーワードは以下のとおりです。

  • 団体交渉事項の範囲
    賃金や労働時間、休日などの労働条件のほか、団体交渉の手続組合活動に伴う施設利用なども交渉事項とされ得ます。これは、労働組合法第7条の不当労働行為規定の中で「誠実交渉義務」の対象として明示的に捉えられています。
  • 労働組合の加入要件
    パートタイム労働者であっても、労働者である限り、労働組合に加入することが可能です。雇用形態で差別されることはなく、むしろ近年では非正規労働者の組合活動が広がっています。
  • 労働委員会の構成
    労働委員会は「公益代表」「労働者代表」「使用者代表」の三者構成が基本です(三者構成原則)。公益委員が欠けると中立性が保たれません。
  • あっせんの特徴
    労働委員会によるあっせんは非公開であり、当事者の自主的な話合いによる解決を支援する柔軟な手続きです。公開される調停・仲裁とは異なります。
  • 調停案の受諾
    労働委員会が提示する調停案の受諾は任意であり、強制力はありません。双方の合意がなければ成立しません。

実際の問われ方

出題形式では、以下のような選択肢構造がとられます:

番号選択肢の内容誤りのポイント
パートは組合に加入できない労働者全般に権利がある
団体交渉事項に手続や施設利用も含まれる正しい
労働委員会は労使代表だけで構成される公益代表が含まれず誤り
あっせんは公開で行われる実際は非公開
調停案は必ず受け入れなければならない任意であり強制力なし

このように、「実務でありそうな勘違い」がそのまま選択肢に反映されている形式が多く見られます。

試験での留意点

  • 「非正規労働者」や「短時間勤務者」に関しては、労働者としての基本的権利があることを見落とさないようにすること。
  • 労働委員会に関する知識では「三者構成」「非公開」「自主的解決の支援」という基本軸を押さえること。
  • 団体交渉の範囲に「施設使用」や「手続き」が含まれる点は、やや直感に反するため注意が必要。
  • 選択肢の中には「一部だけ正しい記述」が含まれることがあるため、細部の文言に注意を払うこと。

Ⅰ-1-10:労働者派遣における受け入れルールと派遣先の責任

背景にある問い

新しいプロジェクトに向けて人員が必要となり、派遣社員を受け入れることが決まった。
ところが、現場の担当者から
「派遣の人にはうちの残業ルールをそのまま適用していいのか」
「前に辞めた人がまた派遣で来たらどうなるのか」といった素朴な疑問が次々に出てきた。

また、総務担当者は「派遣だからといって休憩室を使わせなかったら問題になるのか」と戸惑っている。人手不足の中、派遣社員の受け入れは不可欠だが、制度上の制約や配慮事項を誤ると、企業としての信頼やコンプライアンスにも関わる。

こうした場面では、派遣先としての義務と制限、そして派遣元との関係の整理が求められる。

キーワードで整理する

このような場面に対応するために必要な視点として、以下のキーワードが重要となります。

  • 派遣労働者の受け入れ制限(3年ルール)
    同一の事業所・同一の業務で派遣労働者を受け入れられる期間は原則3年まで。これを超える場合、派遣先は過半数労働組合または過半数代表者の意見を聴く義務があります。これは常用代替の防止を目的としています。
  • 離職後1年以内の派遣受け入れ制限
    自社で正社員や契約社員などとして雇用していた者を退職後1年以内に派遣で再受け入れることは原則禁止。これは「偽装請負」や「迂回雇用」を防ぐための規定です。ただし**定年退職者(60歳以上)**は例外とされています。
  • 労使協定の適用と36協定
    派遣先が時間外労働や休日労働を命じる場合でも、適用されるのは**派遣元の36協定(労使協定)**です。派遣先が自らの36協定に基づいて労働時間を管理することはできません。
  • 派遣労働者への福利施設の提供
    給食施設や休憩室、更衣室といった施設は、派遣労働者にも利用機会を与える義務があります。差別的取り扱いは違法とされ、実務上も苦情や通報の原因となり得ます。
  • 比較対象労働者に関する情報提供義務
    派遣先が「労使協定方式」でなく「比較対象労働者方式」をとる場合、派遣元に対し自社の正社員などの待遇情報を事前に提供する義務があります。これは「同一労働同一賃金」の原則に基づくものです。

実際の問われ方

問題では、以下のように「派遣先の裁量」や「手続的な制約」に関して微妙な判断が問われます。

選択肢内容(簡略)ポイント
3年超の派遣継続に意見聴取が必要適切
離職後1年以内の派遣受け入れは禁止適切(60歳以上を除く)
派遣先の36協定で時間外労働を命じられる不適切(派遣元の協定が基準)
派遣労働者にも施設利用機会を提供する義務がある適切
比較対象労働者の待遇情報を事前提供する義務適切

③が不適切である理由は、「派遣先の36協定」が有効だと誤認させる記述である点です。

試験での留意点

  • 「誰の協定が有効なのか(派遣元 or 派遣先)」といった責任の所在に注目する。
  • 「60歳以上の退職者」や「施設利用」などの例外規定・配慮義務は、見落としがちなポイント。
  • 「比較対象労働者方式」と「労使協定方式」は紛らわしいが、前者には情報提供義務があることを押さえる。
  • 「自社の36協定が適用される」といった直感的な誤解が選択肢に紛れているケースが多いため注意する。

Ⅰ-1-11:介護休業制度と労働時間制度の理解

背景にある問い

ある日、職場のベテラン社員から「親の介護で休みを取りたい」と相談があった。
上司は「それは介護休暇?介護休業?どっち?」と戸惑い、人事担当者も「たしか93日まで取れるとは聞いたけれど、分けて取れるのか?」と資料を引っ張り出して確認する始末。

一方で、別の社員が育児と介護を両立しており、「短時間勤務を申請したら、うちの会社では制度がないから無理と言われた」とこぼしていた。
こうした声が人事部に届き、制度の理解不足が浮き彫りになった。

職場においては、介護や育児を理由とした制度利用が年々増加しており、企業としても対応が求められている。制度の正確な理解と、義務と努力義務の線引きが問われる場面である。

キーワードで整理する

このような場面では、以下のキーワードが重要となります。

  • 介護休業(通算93日・3回まで分割)
    労働者は、要介護状態にある対象家族1人につき、通算93日までを3回まで分割して介護休業を取得可能です。複数回に分けられることにより、長期にわたる介護に柔軟に対応できます。
  • 対象家族の範囲(配偶者の祖父母は含まれない)
    介護休業の対象となる家族は、配偶者、父母、子、配偶者の父母、祖父母、兄弟姉妹、孫に限られます。配偶者の祖父母は対象外です。
  • 所定労働時間の短縮措置(義務規定)
    要介護の家族を介護する労働者に対しては、事業主に短時間勤務などの措置を講ずる義務があります(努力義務ではありません)。対象者の継続的就労を可能にするための制度です。
  • 介護休暇の取得申出と事業主の対応
    要件を満たす労働者が介護休暇を申し出た場合、業務の正常な運営への影響を理由に拒否することはできません。これは労働者の権利として保護されます。
  • 年次有給休暇の算定と介護休業
    介護休業取得期間は出勤日数に含まれるため、年次有給休暇の取得日数に影響はありません。

実際の問われ方

問題では、「制度の細部」や「努力義務と義務の違い」、「対象家族の範囲」など、制度理解の正確さが問われます。

選択肢内容(簡略)誤りのポイント
介護対象に配偶者の祖父母が含まれる含まれない
93日までを3回に分割して取得できる適切
所定労働時間の短縮措置は努力義務実際は義務
業務都合で介護休暇の取得を拒否できる拒否不可
介護休業期間は出勤扱いとされず有給休暇算定に含まれない含まれる

正解は②であり、他の選択肢はいずれも「制度の根幹」に関わる誤解に基づく誤りです。

試験での留意点

  • 努力義務と法的義務の違いを明確にする。特に「〜よう努めなければならない」ではなく「講じなければならない」の記述に注意。
  • 家族の範囲に関する問題は、直感と異なる部分があり、誤答しやすい。配偶者の血縁関係は対象外となるケースがある。
  • **「休業」と「休暇」**の違いに注意。前者は長期、後者は日単位であり、拒否の可否も異なる。
  • 出勤日数の扱いは年休や勤続年数に影響するため、制度と運用のつながりを意識する。

Ⅰ-1-12:セクシャルハラスメント防止指針と事業主の措置義務

背景にある問い

ある女性社員が人事部に「営業先でセクハラまがいの言動があった」と相談に訪れた。
しかし上司は「うちの社員じゃないんだからどうにもできない」と取り合わなかった。
数日後、彼女は「もうあの顧客とは仕事をしたくない」と異動を申し出ることに。
その際、別の上司が「あんな言動に反応するから損をする」と発言し、さらに彼女の配置転換が「自業自得」といった空気の中で進められてしまった。

こうした職場環境は、被害者の尊厳だけでなく、組織全体の倫理や生産性をも損ねる。
それにも関わらず、加害者が誰か、どこで起きたか、どのように対応すべきかの判断に迷いが出やすい領域である。

セクハラ対応においては、雇用形態、加害者の属性、被害後の対応まで含めて、制度的な理解と現場対応の一体的運用が求められる。

キーワードで整理する

このような場面において必要な理解を整理するキーワードは以下のとおりです。

  • セクシャルハラスメントの2類型
    セクハラには大きく2つの類型があります。
    対価型セクシュアルハラスメント:性的言動への対応を理由として、解雇・降格・減給などの不利益を受ける場合。
    環境型セクシュアルハラスメント:性的言動により職場環境が不快・不適切になる場合。
    本問②は、解雇等の不利益処遇を伴うため「対価型」に該当し、「環境型」とするのは誤りです。
  • 事業主が講ずべき措置
    セクハラ防止のために、方針の明確化と周知・啓発、相談体制の整備、事後対応などを講じることが義務付けられています。単に「ポスターを貼る」では不十分であり、実効性ある運用体制が求められます。
  • 「職場」の定義
    指針においては、業務を遂行する場所であれば、出張先・取引先・社外の現場なども「職場」として扱われます。これにより、会社外の顧客や委託先の従業員による加害も措置対象となります。
  • 対象労働者の範囲
    セクハラ防止措置の対象となるのは、正社員に限らず、契約社員、パートタイマー、派遣労働者を含むすべての雇用形態の労働者です。特に、派遣先の事業主にも措置義務が課される点は重要です。
  • 行為者の範囲
    加害者は必ずしも社内の上司や同僚とは限りません。顧客、取引先、他社社員など社外の者も加害者になり得ます。つまり、事業主は社外からの加害にも対応する責任があります。

実際の問われ方

問題では、以下のように「ハラスメントの類型の混同」「対象の範囲誤認」がよく見られます。

選択肢内容(要約)ポイント
事業主の講ずべき措置正しい
不利益処遇を「環境型」と表現誤り(正しくは対価型)
職場の定義に社外の現場も含まれる正しい
派遣労働者も措置対象となる正しい
顧客・他社労働者も行為者になり得る正しい

②が不適切である理由は、セクハラ類型の用語の混同にあり、制度理解の基本的誤認といえます。

試験での留意点

  • 「対価型」「環境型」の用語混同に注意。不利益処遇があるかどうかが大きな違いとなる。
  • 「派遣労働者は派遣元の責任」と思い込みがちだが、派遣先にも責任がある点を押さえる。
  • 「職場=自社内」と短絡的に捉えるのは誤り。取引先や出張先も含まれる
  • 加害者=社員というイメージに引きずられず、外部からの加害も想定する視点が必要。

Ⅰ-1-13:組織文化とメンバーの前提・価値観の共有

背景にある問い

新任のマネージャーが本社から地方拠点に異動してきた。
新しい職場では、会議の進め方も報告の書き方も以前と違い、なぜこうしているのかを尋ねても「うちではそうすることになっている」と曖昧な返答しか返ってこない。
また、社員は常にスーツ姿で出社し、昼休みも各自黙々とデスクで食事を取っている。
「なぜか息苦しい」と感じつつも、それが普通であるかのように受け入れられているようだった。

制度やルールには書かれていないが、なぜか皆が従っている「当たり前」。
それがどのように共有され、維持されているのかを理解しないと、適切なマネジメントや改革の方向も見えてこない。

こうした「目に見えにくいが、強力な影響力をもつ要素」は、経営や人材戦略を考える上で避けて通れない。

キーワードで整理する

こうした現象には、「それ、実は組織文化に関わる話です」と説明できます。

  • 組織文化(Organizational Culture)
    組織文化とは、その組織に属する人々が「当たり前」と感じている価値観、信念、暗黙の前提、行動様式などの総体です。明文化されたルールではなく、日常的な慣習や共有された思考パターンが含まれます。 例えば、「遅くまで残業するのが当然」と考える職場では、明確なルールがなくても、早く帰る人が非協力的とみなされることがあります。これは制度ではなく文化に起因しています。
  • 表層文化と深層文化
    組織文化は「氷山モデル」で語られることも多く、以下のように分類されます。 層内容例表層文化外見・言葉・行動に表れる服装・オフィスのデザイン・会話のトーン中間文化価値観・行動規範「顧客第一」「上司への忠誠」深層文化暗黙の前提・信念「変化を恐れる」「挑戦より安定重視」 表面的に見える部分(服装や習慣)も組織文化の一部であり、深層にはそれを支える無意識の価値観が存在しています。
  • 組織文化の変革の難しさ
    組織文化は長年の経験と集団学習によって形成されるため、一朝一夕に変えられるものではありません。外部環境が大きく変化しても、文化の転換には時間と一貫した取り組みが必要です。
  • サブカルチャーの存在
    同一企業内でも、部門や拠点ごとに異なる文化が形成されることはあり得ます。たとえば営業部と研究開発部で、仕事の進め方やリーダーシップのスタイルが大きく異なるのは一般的です。

実際の問われ方

本問では、「文化の定義」「可視的・不可視的要素の関係」「変革の難しさ」「企業内の多様性」といった観点から、直感と逆のポイントを突いてくる選択肢が並びます。

選択肢内容(要約)ポイント
組織文化は公式な決まりの体系誤り(非公式な暗黙の文化)
表層的なものは無関係誤り(表層文化も一部)
前提や仮定も含まれる正しい
文化の変化は容易誤り(困難)
企業内では文化は一つしかない誤り(サブカルチャーあり)

正解は③であり、「暗黙の前提・仮定を含む」という本質的な理解を問う設問です。

試験での留意点

  • 組織文化=ルールや制度ではないことを強調して押さえる。
  • 服装・オフィス環境・言葉遣いなどの表層要素も文化の一部である点に注意。
  • 文化の変革には時間がかかることは直感的に誤解されやすいが、試験では頻出の盲点。
  • 「一つの企業=一つの文化」という認識は実務では通用しない。部門文化や拠点文化の違いは組織管理上の重要な前提。

組織文化は、戦略や制度の「背景」に存在する無意識の力学を示すテーマです。他の人事・組織設計関連のテーマとも密接に関連するため、連続的な学習にも適しています。

Ⅰ-1-14:労働分配率と労働生産性のマクロ経済的動向

背景にある問い

部門長会議で「今期の付加価値に対する人件費の割合が高すぎる」と財務部から指摘があった。
現場からは「人手不足で残業も多いのだから当然では?」という声も上がった。
一方で、経営層からは「生産性を上げなければ、利益が出ない」とのプレッシャーが強まっていた。

ただ、これらの議論は多くの場合、部門や企業単位にとどまり、日本全体の動向や国際比較にまで目が向かないことが多い。
しかし、実際には日本の産業構造や労働慣行、マクロ経済の変動によって、「分配率」や「生産性」は大きく左右されている。

企業内の意思決定においても、マクロ的視点での理解が欠けていれば、誤った前提で方針を立ててしまう危険がある。

キーワードで整理する

こうした議論には、以下のキーワードが背景にあります。

  • 労働分配率
    労働分配率とは、企業や経済全体における付加価値のうち、どれだけが雇用者報酬(賃金など)として分配されているかを示す指標です。
    マクロ経済の局面によって以下のような特徴があります: 局面特徴景気拡大時売上や利益が増加する一方で、人件費の伸びが緩やかであるため、労働分配率は低下しやすい景気後退時利益が減少しても、固定的な人件費は急に減らせないため、労働分配率は上昇しやすい
  • 労働生産性
    労働生産性は、労働者一人あたり(または1時間あたり)の付加価値の大きさを示すものであり、業種によって大きな差があります。製造業は機械化・標準化の恩恵を受けやすく、サービス業より一般に生産性が高くなる傾向があります。
  • G7各国の一人当たり名目GDP比較
    日本の一人当たり名目GDP(2020年前後)は、G7中では4位前後に位置し、アメリカやドイツ、カナダなどが上位にいます。単に国全体のGDPで比較するのではなく、人口あたりの経済力で評価される点に注意が必要です。
  • 企業規模と労働分配率の関係
    一般に、中小企業(資本金1億円未満)ほど人件費の割合が高くなりやすい傾向があります。これは、大企業に比べて収益性や労働生産性が低く、限られた付加価値を人件費で吸収してしまう構造が背景にあります。
  • 雇用者報酬の比率(国民所得に対する)
    日本の雇用者報酬は、国民所得に対して7割前後と高い水準にあります。「50%を下回る」といった印象は、企業収益と賃金の個別感覚に引きずられた誤解の代表例です。

実際の問われ方

選択肢では、マクロ経済データに基づく「感覚と逆の事実」を突いてきます。正誤のポイントを以下に整理します。

選択肢内容(要約)判定ポイント
景気に応じて労働分配率は低下・上昇する正しい景気拡大=低下、景気後退=上昇の傾向あり
中小企業より大企業の方が分配率が高い誤り実際は中小企業の方が高い
雇用者報酬は国民所得の50%未満誤り実際は70%前後
サービス業の方が製造業より労働生産性が高い誤り製造業の方が高い
日本はG7で一人当たり名目GDPが2位誤り実際は4位程度

試験での留意点

  • 「労働分配率は上がる=良いこと」という印象に引きずられると、景気との関係を誤解しやすい。
  • 「中小企業の方が効率的」と誤解しがちだが、実際には労働分配率が高く、利益が残りにくい構造も多い。
  • 「日本の一人当たりGDPは高い」という印象は根強いが、G7での4位前後という事実を押さえておく。
  • サービス業の非定型性・対人性が生産性を下げる要因となる点も、感覚的には逆で誤りやすいポイント。

マクロ経済に基づいた人事・労務指標の読み方は、企業の経営戦略や政策対応のベースになります。他分野とも関連する重要テーマとして、体系的な理解が求められます。

Ⅰ-1-15:メンター制度の意義と運用上の配慮

背景にある問い

新入社員の離職率が高止まりしているという報告を受け、人事部ではその要因として「職場に相談できる先輩がいない」「直属の上司には言いにくい」といった声があることを把握した。
そこで、若手社員の不安や孤立感を軽減する仕組みとしてメンター制度の導入が検討されることになった。

しかし、現場の管理職からは「誰がメンターになるべきなのか」「制度導入で何が変わるのか」といった疑問の声も上がる。
特に「人事評価に関わる話まで聞いた場合、それを報告すべきか」という扱いについては議論が分かれた。

メンター制度は、単なる「世話役」ではなく、信頼関係に基づく人材育成と心理的支援の仕組みであり、その意義と設計の前提を正しく理解しておく必要がある。

キーワードで整理する

このような仕組みには「それ、実はメンター制度という名前がついています」と説明できます。

  • メンター制度(Mentor制度)
    メンター制度とは、新入社員や若手社員(メンティ)に対し、直属上司とは異なる立場の先輩社員(メンター)が、計画的・継続的に助言や相談に応じる支援制度です。業務指導だけでなく、キャリアや人間関係、職場適応など心理社会的支援も担います。
  • 配属先と異なるラインでのメンター配置
    原則として、直属の上司ではない社員がメンターとなることで、評価や上下関係を気にせず率直に話しやすい関係が築かれます。
  • 研修の必要性
    メンター・メンティの両方に対して事前研修を行うことが重要です。役割の認識違いや不適切な介入を防ぎ、制度の目的を共有します。
  • 就業時間内での実施
    メンタリングは、就業時間外に行わせるものではなく、職務の一部として就業時間内に実施するのが望ましい運用です。負担軽減と継続性の確保につながります。
  • 報告義務との線引き
    メンターは、原則としてメンタリング内容を第三者に伝える義務を持ちません。信頼関係に基づいた制度であるため、人事部や上司への定期的報告会等があっても、内容は要約・匿名化されるべきです。
  • 多様性促進との関係
    メンター制度は、特に女性社員やマイノリティ人材にとって安心してキャリア相談できる環境を作る効果が期待されます。育成支援の観点から、女性活躍推進の施策としても有効です。

実際の問われ方

本問では、制度運用に関する典型的な誤解や現場で起こりやすい誤用が選択肢に取り上げられています。

選択肢内容(要約)判定ポイント
メンターにだけ研修を行い、メンティには不要誤り両者に研修が必要
メンターは直属の上司が望ましい誤り上下関係がない別職場の先輩が望ましい
メンタリングは就業時間外に行うべき誤り就業時間内で行うのが一般的
制度は女性の活躍推進に資する正しいダイバーシティ支援としての側面も持つ
メンターは話の内容を人事に報告することが望ましい誤り信頼関係維持のため報告義務は原則不要

試験での留意点

  • 「制度的な正しさ」と「現場でありがちな思い込み」の対比に着目すること。
  • 就業時間内外の区分報告義務の有無ラインからの独立性といった点は混同されやすい。
  • 「研修が片側だけで良い」といったコスト重視の誤解に惑わされないこと。
  • メンタリングとOJT、1on1ミーティングとの違いにも注意を払うこと。

人材育成と職場環境形成を同時に支える制度として、メンター制度は今後さらに注目されます。試験ではその構造・目的・設計思想を読み取る視点が求められます。

Ⅰ-1-16:職能別組織と事業部制組織の使い分け

背景にある問い

新製品の立ち上げを控える製造業の幹部会議で、「部門の壁を越えてもっとスピード感のある意思決定が必要だ」という声が上がった。
特に、技術・営業・製造の各部門がそれぞれ自部門の論理で動いており、全体の意思決定が遅れる場面が続いていた。
一方で、技術部門からは「職能別であるからこそ専門知識が蓄積され、品質が保たれている」という意見もあり、組織構造の再検討をめぐって議論が対立していた。

企業成長と事業環境の変化に応じて、組織をどう設計・改編すべきか。その判断には、それぞれの組織形態が持つ特性の理解が不可欠である。

キーワードで整理する

こうした組織構造の違いを整理する際に必要となるのが、以下のキーワードです。

  • 職能別組織(Functional Organization)
    技術、営業、人事、経理などの機能(職能)ごとに組織を分ける形態であり、専門性の蓄積・業務の標準化に優れます。特に**同種業務の反復による効率化(規模の経済)**が期待され、スキルアップや研修の面でも管理しやすくなります。 主な特徴:
    • 専門性が高まる
    • 単位コストが下がる(同質業務の集中処理)
    • セクショナリズムによる調整遅延が生じやすい
  • 事業部制組織(Divisional Organization)
    製品、地域、市場単位などで分けた事業部ごとに機能を内包する組織で、変化への対応や現場レベルでの迅速な意思決定に優れます。事業部長が小さな社長として経営判断を行うため、経営者人材の育成にも向いています。 主な特徴:
    • 変化対応力が高い
    • 顧客対応や市場志向が強まる
    • 経営人材の育成がしやすい
    • 機能重複により非効率になることもある

実際の問われ方

問題では、目的・状況別にどちらの組織形態が適しているかを選ばせる形で出題されます。

評価項目適している組織理由
(ア)専門知識の蓄積職能別組織同職能が集中し、知見が蓄積しやすい
(イ)活動規模拡大によるコスト低下職能別組織同一機能の集約によりスケールメリットを享受できる
(ウ)環境変化への迅速対応事業部制組織意思決定が現場で行われるためスピードが出る
(エ)次世代経営者の育成事業部制組織自律的な経営単位により、事業責任を担う経験が積める

正解は①です。

試験での留意点

  • 「専門性」と「柔軟性」はトレードオフの関係にあることを意識する。
  • 「活動の効率化=常に事業部制が有利」と短絡的に考えない。標準化業務においては職能別の方が効率的である。
  • 「経営人材の育成」や「経営感覚の醸成」といった観点では、事業部制の独立性が重要
  • 問題では、項目ごとに優劣を選ばせる形式が取られるため、「両者の対比」を事前に整理しておくとよい。

組織設計の論点は、マネジメントだけでなくコスト管理・人材戦略・変化対応力といった広範なテーマと直結します。総合的な視点で構造と目的を捉える力が求められます。

情報管理

I-1-17:混同行列と評価指標(正解率・適合率・再現率・F値)

背景にある問い

ある日、AIを活用した不良品検出モデルを現場に導入したところ、「陽性」と判定された製品のうち、本当に不良品だったのはごくわずかでした。
製造現場からは「機械は無駄な警告ばかりしていて困る」と不満の声。
逆に「不良品を見逃してないから良いのでは」という意見も。

このように、AIや機械学習の“賢さ”は、単なる正解率の高さだけでは測れません。
どこが正しく、どこが間違っていたのか――その中身をどう評価すべきかが問われます。

モデルの評価において、何を見れば「使えるモデル」かどうかを見極められるのか。
ここで登場するのが、混同行列とそれに基づく評価指標です。

キーワードで整理する

AIの性能評価には、混同行列という4象限の表が用いられます。これは「実際」と「予測」の組み合わせによる分類であり、以下の4種類の判定を表します:

  • 真陽性(True Positive, TP):正しく陽性と判断
  • 偽陽性(False Positive, FP):誤って陽性と判断(=取り越し苦労)
  • 偽陰性(False Negative, FN):誤って陰性と判断(=見落とし)
  • 真陰性(True Negative, TN):正しく陰性と判断

この混同行列を基に、次の4つの評価指標が導かれます。

  • 正解率(Accuracy):全体に対する正解の割合
     = (TP + TN) / (TP + FP + FN + TN)
  • 適合率(Precision):予測が陽性だったもののうち、正しく陽性だった割合
     = TP / (TP + FP)
  • 再現率(Recall):実際に陽性だったもののうち、正しく予測できた割合
     = TP / (TP + FN)
  • F値(F1-score):適合率と再現率の調和平均
     = 2 × (Precision × Recall) / (Precision + Recall)

これらは単に計算式ではなく、実際の運用での「重視するべき観点」によって使い分ける指標です。

実際の問われ方

本問では以下のような流れで出題されます:

  • 混同行列に基づき、各指標を算出する能力
  • データ追加による変化(陽性予測の中身が変化)による指標の増減を分析
  • どの評価指標が影響を受け、どれが影響を受けないかを正しく判断する力

表の読み取りと、以下の変化の影響を捉える必要があります:

指標データ追加による影響(陰性を陽性と誤判定)
正解率減少(TN減少)
適合率減少(FP増加)
再現率変化なし(TP, FNに変化なし)
F値減少(適合率低下により)

試験での留意点

  • 再現率は実際の陽性数が変わらない限り変化しない:これが盲点になりやすく、すべてが下がると勘違いしやすい
  • F値は再現率と適合率の調和平均なので、どちらかが下がれば低下する
  • 「精度が高い」=正解率が高い、では不十分という評価観点に慣れていないと、誤答を選びやすい
  • 混同行列と指標の関係は、文系出身者にとっては直感と逆になる場合も多いため、必ず図表で整理しておくと安心

このように、混同行列を通じて「どこで誤判定が起きたか」を定量的に評価する視点は、単にAIの性能を測るだけでなく、安全管理・品質保証・リスク評価など多くの分野で応用されています。問題を解くことが目的ではなく、実務における判断軸として「評価指標の使い分け」を理解しておくことが重要です。

I-1-18:改正個人情報保護法とキーワードの整理

背景にある問い

業務で収集した顧客リストやアンケート結果を用いて、新しいサービスの提案を行おうとしたとき、「これって個人情報の取り扱いに問題ない?」という声があがったことはないでしょうか。

「社内資料だから大丈夫」「電話帳にも載ってる情報だから問題ない」
――そんな言葉が飛び交う中で、実際にどこまでが個人情報で、どこからが自由に使える公開情報なのかを明確に区別できている人は少数です。

個人情報保護法の改正により、データ利活用の範囲と制約は年々変化しています。
とくに企業活動においては、意図せず法違反や信用毀損を引き起こさないよう、情報の扱い方を正しく理解する必要があります。

キーワードで整理する

今回の問題は、改正個人情報保護法に関する主要な定義や制度のポイントが問われています。以下に代表的な用語を整理します。

  • 個人情報
     特定の個人を識別できる情報(氏名、生年月日、住所など)を指します。顔写真や音声データ、個人識別符号(旅券番号、免許証番号など)も含まれます。
  • 要配慮個人情報
     人種、信条、病歴、障害、前科、被害歴など、差別や偏見の原因となり得る機微な情報で、本人の同意なしには原則取得できません。
  • 個人情報取扱事業者
     個人情報データベースを業務として扱う事業者(法人や個人)を指し、国の行政機関や地方公共団体は含まれません(別法で規律)。
  • 個人データ
     個人情報のうち、検索可能な形で構成されたデータベースに組み込まれているものを指します。市販の電話帳や住宅地図のような公知情報は通常ここに該当しません。
  • 匿名加工情報
     個人を特定できないように加工された情報で、復元不可能であることが条件です。規制を緩和し、ビッグデータや研究等への利活用が認められています。

実際の問われ方

本問は、以下のようなポイントに基づいて出題されています:

  • 各用語の定義や該当範囲の正確な理解
  • 対象範囲に含まれるもの・含まれないものの識別力
  • 公開情報と個人情報の区別に関する法的な基準

選択肢④の「電話帳や住宅地図に含まれる個人情報も個人データに該当する」という記述は誤りです。これらは一般に公開されている情報であり、個人情報データベース等には該当しません

試験での留意点

  • 「氏名が書いてある=個人情報」という単純な理解に留まらず、識別性データベース性という観点で判断することが重要です。
  • 「匿名加工情報」と「仮名加工情報」など、似た用語が混在するため、文脈に応じた区別が必要です。
  • 「公開されている=個人データである」とする誤解が最も起こりやすいため、市販情報や公共情報の扱いに関する規定は慎重に確認しておく必要があります。

本問は単なる法令知識の問題に見えて、情報の適切な利活用とリスク管理という観点を含んでいます。正確な定義を知ることが、技術活用と社会的信頼の両立に繋がるという視点を持つことが求められます。

I-1-19:画像認識技術とその応用領域

背景にある問い

製造ラインにおける不良品検出や、物流倉庫での荷物の自動仕分け。最近では、防犯カメラによる異常行動の自動検出や、空港での顔認証ゲートも一般化しつつあります。
こうした現場で「画像から自動的に“意味”を読み取る技術」が、業務効率や安全性を大きく向上させているという実感が広がっています。

一方で、技術の導入を検討する立場になると、「どこまでできるのか」「セキュリティ面やプライバシーの問題は大丈夫か」といった疑問も少なくありません。
特にクラウドの利用については、利便性とリスクが表裏一体となっており、正しい知識に基づいた判断が必要です。

画像認識はただの便利ツールではなく、社会的・倫理的課題も含んだ技術であることを前提に、正確な理解と利活用のバランスが求められます。

キーワードで整理する

この問題では、画像認識の技術的側面と社会実装の状況について問われています。以下の主要キーワードを確認します。

  • 画像認識
     静止画や動画などの視覚情報から対象物を検出し、分類・識別する技術。エッジ検出・特徴量抽出・分類といった工程を経て、意味ある情報を取得します。
  • ディープラーニング(深層学習)
     多層のニューラルネットワークを用いて、大量の画像データから特徴を自動的に学習し、高精度な画像認識を実現します。従来の機械学習に比べ、人手による特徴量設計が不要である点が特長です。
  • クラウドベースの画像認識サービス
     Google Cloud Vision、Amazon Rekognition、Microsoft Azure Computer Vision など、大手クラウドベンダーが提供するAPIベースのサービス。画像をアップロードするだけで認識結果が返される手軽さから、業務への導入が進んでいます。
  • 顔認識とプライバシー問題
     個人特定につながるセンシティブ情報であり、カメラ映像の保存や本人同意の取得、セキュリティ対策などの法的・倫理的配慮が求められます。

実際の問われ方

この問題は、画像認識の技術的定義・活用範囲・リスクとともに、社会実装の現状を正しく理解しているかを問うものです。

  • 選択肢①〜③、⑤は一般的な認識・知識に基づく正しい記述です。
  • 選択肢④の「クラウドサービスが提供されていない」は事実に反します。すでに各種APIやSaaSサービスとして広く利用可能です。

このように、「導入の障壁がある=技術が存在しない」と短絡的に捉えてしまうと誤答に繋がります。

試験での留意点

  • 技術的な限界ではなく、“社会的・制度的な制約”によって活用が進みにくいだけのケースがある点に注意が必要です。
  • クラウド技術の提供有無は、「今使われているか」ではなく、「サービスとして存在しているか」を冷静に判断する視点が求められます。
  • 類似の話題で、「AIの説明責任(アカウンタビリティ)」「ブラックボックス問題」なども出題されやすいため、関連分野とのつながりにも目を向けると効果的です。

画像認識に関する出題は、単なる技術理解にとどまらず、その活用と制約を両面から捉える力を試す内容となっています。現場での導入・評価・管理に関わる視点を意識して整理しておくことが重要です。

I-1-20:Web会議サービス利用時のセキュリティ対策

背景にある問い

「会議室が取れないから、今日はZoomでお願いします」
「ちょっとその資料、画面共有で見せてもらえますか?」

パンデミック以降、こうしたやりとりはあたりまえになりました。
しかし、リモートでの情報共有が進む一方で、「隣の家族の声が入っていた」「背景に機密ホワイトボードが映っていた」「会議URLがSNSに流出していた」といった不注意による情報漏えいも後を絶ちません。

Web会議の便利さは間違いなく業務を変えましたが、同時に物理的な“守られ感”がない状況では、セキュリティ意識そのものをアップデートしなければなりません。

システム面だけでなく、運用・人的配慮の観点からも、リスクを想像し対策をとる力が求められています。

キーワードで整理する

この問題は、クラウドベースのWeb会議サービスにおける情報セキュリティ対策の基本を問うものです。以下に主なポイントを整理します。

  • クライアントソフトのアップデート
     脆弱性のある古いソフトウェアは、標的型攻撃や盗聴の入口になり得ます。自動アップデート機能の有効化が望まれます。
  • 会議参加の認証と案内管理
     招待URLの無差別送信や、会議IDのSNS投稿は極めて危険です。二要素認証や待機室機能、参加者の明示的な承認が効果的です。
  • エンドツーエンド暗号化
     通信内容を両端(送信者と受信者)だけで暗号化する方式。通信経路の途中に第三者が入っても内容を復号できませんが、すべての会議に必須ではなく、機密性の高い会議での適用が推奨されます。
  • 個人情報保護との整合性
     録画データの保存・取扱い、チャット履歴、音声データなども個人情報に該当し得るため、提供業者のプライバシーポリシーや法令遵守状況の確認が求められます。
  • 映り込み・音漏れ対策
     背景のぼかし機能の活用、ヘッドセットによる音漏れ防止、無関係な資料の片付けなど、人的ミスによる漏洩を未然に防ぐ運用ルールも重要です。

実際の問われ方

この問題では、以下のような判断が求められます:

  • セキュリティ上「望ましい」とされる対策と「必須」とされる要件の違いを見極める
  • 実務上の状況(リスクレベル)に応じた合理的な運用判断ができるか
  • 法律(個人情報保護法)との関連を認識し、技術・運用両面から確認できるか

選択肢③は、「機密性の低い内容に限った会議」であってもエンドツーエンド暗号化が“必須”であると断言しており、過剰要件に該当します。正確には「望ましいが、必須とは限らない」という判断が求められます。

試験での留意点

  • 「望ましい対策」と「必須要件」の混同がもっとも多い誤答の原因となります。
  • 「エンドツーエンド暗号化」や「個人情報保護法」などのキーワードは、他の設問でも繰り返し登場するため、用語の正確な理解が必要です。
  • オンプレミス型とクラウド型の区別も設問で条件指定されることがあるため、読み飛ばさない注意力も問われます。

Web会議のセキュリティは、もはやIT部門だけの問題ではなく、すべての参加者が意識しなければならない現代の常識です。試験では、その常識を制度・技術・運用の三層で判断できるかを見られていると考えると、全体像がつかみやすくなります。

I-1-21:相関分析と回帰分析の違い

背景にある問い

「最近、売上が気温に左右されている気がする」
「広告費を増やしたら問い合わせ件数が増えた」

このような日常的な気づきから、データを用いてその“関係性”を可視化しようとする場面は多くあります。
ただし、ここで注意が必要なのは、「関係がある」ことと「影響を与えている」ことは別物であるという点です。

たとえば、アイスクリームの売上と海水浴客数が一緒に増えていても、それは「夏」という季節に左右されている可能性があり、一方が他方に影響しているとは限りません。

こうした誤解を防ぐには、相関分析と回帰分析の違いを明確に理解し、適切な分析手法を選ぶ必要があります。

キーワードで整理する

今回の出題では、「変数間の関係をどう分析するか」という基本的な統計リテラシーが問われています。ここでは2つの代表的な手法の違いを明確に整理します。

  • 相関分析
     2つの変数の関係の強さと方向(正・負)を数値で表す手法です。たとえば身長と体重、気温と電力使用量のような関係において、変数間にどれだけ一緒に変動する傾向があるかを示します。ただし、因果関係は仮定しません
  • 回帰分析
     一方の変数(説明変数)が他方の変数(被説明変数)にどのような影響を与えるかをモデル化する手法です。関係性だけでなく、どのくらい変化するかという数量的な関係を捉えることが目的です。回帰式によって、将来値の予測などにも用いられます。
  • 最小二乗法
     回帰分析で用いられる代表的な推定手法で、観測値と予測値の差(残差)の二乗の和が最小となるように直線を求めます。
  • 推定
     母集団の特性を、標本から得たデータで推し量る行為を指します。平均や分散、割合のような母数を、標本統計量を用いて推測します。
  • 統計的仮説検定
     ある仮説(帰無仮説)が正しいかどうかを、データに基づいて判断する手続です。検定の結果、十分な根拠が得られた場合にのみ、帰無仮説を棄却し、対立仮説を支持します。

実際の問われ方

この問題は、似て非なる分析手法の混同を突く典型的な出題です。特に以下の点が問われています:

  • 相関分析と回帰分析の目的と前提の違いを理解しているか
  • 「関係を見る」ことと「影響を分析する」ことの区別ができているか

選択肢②は「相関分析」の説明として「説明変数が被説明変数に与える効果を分析する」と記述しており、これは回帰分析の説明であり不適切です。

試験での留意点

  • 相関は因果を意味しないという基本を必ず押さえること。これは総監試験に限らず統計学の大前提です。
  • 相関係数の値が高くても、それだけで回帰分析が妥当とは限らないため、文脈に応じた手法の選択が必要です。
  • 「説明変数・被説明変数」といった用語が出た時点で回帰分析が前提となることに気づけるようにしておくと、誤読を防げます。

統計的手法の選択は、単に「数字を当てはめる」作業ではなく、仮説と目的に応じた思考の設計に深く関わっています。分析手法の意味を誤解したままでは、見かけだけ立派な報告書が、実は誤った結論を導いている可能性すらあります。試験ではそのような“構造的な誤り”を見抜ける力が問われているといえます。

I-1-22:ネット炎上と誹謗中傷に関する制度的対応

背景にある問い

ある企業の公式SNSアカウントが、不適切な投稿をしたことで数時間のうちに拡散され、謝罪、商品回収、果ては担当者の解雇まで発展した
――このような“ネット炎上”が、もはや他人事では済まされなくなっています。

さらに個人のレベルでも、「軽い冗談のつもりだった投稿が誹謗中傷と受け止められ、職場にまで苦情が来た」「匿名だから大丈夫だと思って書いたが、発信者情報の開示請求を受けた」といった事例が後を絶ちません。

こうしたトラブルに対し、組織や個人としてどのように備え、どこに相談すればよいか。
そして、発信者を特定して責任を問う制度はどこまで整備されているのか。
ネット時代におけるリスクマネジメントと法制度の知識が求められます。

キーワードで整理する

本問は、ネット炎上や誹謗中傷を巡る実態と、それに対する制度的枠組みを問うものです。以下のキーワードが重要です。

  • ネット炎上(インターネット炎上)
     インターネット上で一部の投稿や発言が注目を集め、否定的なコメントや批判が一気に殺到する現象です。企業や有名人に限らず、一般個人でも対象となり得るため、SNS運用には慎重さが求められます。
  • 少数による集中現象
     総務省「情報通信白書」等の調査によれば、炎上への書き込みはインターネット利用者全体のごく一部によるもので、投稿の“量”と“人数”は比例しないことがわかっています。
  • マスメディアとの関係性
     ネット炎上はしばしばテレビや新聞でも取り上げられるため、必ずしも「ネット内で完結する」現象ではありません。特に著名人や企業が関係する場合、ニュース番組・ワイドショーによってさらに拡散・増幅されるケースもあります。
  • 相談窓口と省庁対応
     厚生労働省(メンタルヘルス相談)、総務省(違法情報の相談窓口)、法務省(人権相談)などが、誹謗中傷に関する窓口を設けています。
  • プロバイダ責任制限法と発信者情報開示制度
     特定の書き込みが名誉毀損や権利侵害に該当する場合、投稿者のIPアドレスや契約情報をプロバイダに開示請求することができる制度です。2022年の法改正で手続きの迅速化・簡略化が図られました。

実際の問われ方

本問では、以下の観点が問われています。

  • 現実のネット炎上の“構造的特性”に関する理解(実際に書き込むのは少数派)
  • 社会への拡散経路(SNSのみならずマスメディアも含まれる)
  • 政府の制度的な対応(相談窓口や法制度)
  • 法律的な権利救済手段の有無(発信者情報の開示)

選択肢③の「ネット炎上はマスメディアでの認知割合が極めて低い」は、実際の観測とは異なる誤りです。企業や著名人が絡む炎上事案は、新聞・テレビでも繰り返し取り上げられます。

試験での留意点

  • **「少数による過熱」と「マスメディアとの連携拡散」**という炎上の構造的特徴を押さえること
  • **プロバイダ責任制限法の目的が“投稿削除”ではなく“発信者の特定”**にある点に注意
  • 「インターネット=匿名・自由」という誤解が、実際の制度や判例と矛盾することを意識すること

本問では、単なるインターネットリテラシーではなく、技術・制度・社会の接点におけるリスク認識と対応策が問われています。情報発信の自由と責任のバランスをどう取るかという視点が、今後ますます重要になっていくでしょう。

I-1-23:クラウドコンピューティングのサービス分類と活用効果

背景にある問い

新システムを導入するプロジェクトで、「オンプレミスにするか、クラウドにするか」という選択を迫られることは珍しくありません。

「サーバーを持たずに済むならクラウドの方が安いのでは?」
「でも業務システムを外部に預けて大丈夫なのか?」
――こうした議論が交わされるなかで、クラウドを「なんとなく便利なもの」とだけ認識していると、用途やリスクに見合わない選択をしてしまうおそれがあります。

クラウドを使いこなすためには、その技術的な分類と、どこまでをクラウドに任せて、どこからを自社で担うかを明確に理解することが不可欠です。

キーワードで整理する

この問題では、クラウドの定義と、代表的な提供形態(サービスモデル)を問う内容です。以下のキーワードを押さえておくことが重要です。

  • クラウドコンピューティング
     ネットワーク経由で、サーバー・ストレージ・アプリケーションなどのIT資源をオンデマンドで利用する形態です。利用者は必要な分だけを使い、拡張・縮小も柔軟に行えます。
  • IaaS(Infrastructure as a Service)
     仮想サーバー、ネットワーク、ストレージなど、インフラ部分をサービスとして提供。OSやアプリケーションは利用者が管理します。
  • PaaS(Platform as a Service)
     OSやミドルウェアなど、アプリケーションを動かすためのプラットフォームを提供。開発者はアプリの開発・実行に集中でき、基盤の保守は不要になります。
  • SaaS(Software as a Service)
     メールや文書作成などの完成されたアプリケーションをサービスとして提供する形態。ユーザーはインストール不要でWeb経由で利用可能です。
  • エッジコンピューティング
     クラウドではなく、ユーザーや端末の近くでデータ処理を行うことで、低遅延とリアルタイム性を確保します。IoT機器や自動運転などで注目されています。
  • パブリッククラウドとプライベートクラウド
     前者は複数ユーザーが共有して利用する一般的なクラウド環境(例:AWS、Azure)、後者は一企業専用に設計された閉域クラウドです。

実際の問われ方

本問では、クラウドサービスの分類とその具体的な内容について、以下のような理解が問われています。

  • 各クラウドサービス(IaaS/PaaS/SaaS)のレイヤーの違いを理解しているか
  • エッジコンピューティングとの対比において、処理場所や利点の違いを認識しているか
  • クラウド導入の経済性・柔軟性・可用性などの利点を適切に把握しているか

選択肢④は、「PaaS」を説明するものとして、**SaaS(アプリケーション提供型サービス)**の内容を誤って記述しており、不適切です。

試験での留意点

  • PaaSとSaaSの混同は頻出の誤りです。前者は開発基盤の提供、後者はアプリそのものの提供であることを区別すること。
  • エッジコンピューティングはクラウドと対立するのではなく、「分担関係」にあることを押さえると、応用問題にも強くなります。
  • クラウド導入の効果を並べた選択肢では、つい無条件にすべて正しいと見てしまいがちですが、サービスレイヤーの理解を前提に精査することが求められます。

クラウドは単なるITコスト削減の手段ではなく、業務スピード・柔軟性・セキュリティの再設計を促す要素でもあります。試験では、こうした視点からクラウドの役割を正しく捉え、サービスモデルごとの特性を判断できるかが問われています。

I-1-24:本人認証における三要素と多要素認証の分類

背景にある問い

社内システムにログインする際、IDとパスワードだけでアクセスできる仕組みに対して、「それで本当に安全か?」という疑問が湧くことはないでしょうか。

最近では、パスワードの使い回しや流出事件が相次ぎ、たとえ社内システムでもログインにワンタイムパスワード指紋認証が求められるケースが増えています。
金融機関や行政手続きなどでは、二段階認証顔認証がすでに標準的なセキュリティ対策になりつつあります。

このように、1つの要素だけでは防ぎきれない“なりすまし”のリスクに対して、複数の異なる認証要素を組み合わせることが重要になっています。
では、何をどう組み合わせれば効果的なのでしょうか。

キーワードで整理する

この問題の前提となるのは、「本人であることを証明する手段(本人認証要素)」の基本的な分類です。オンライン認証では、以下の3つの要素が認識されています。

  • 知識要素(記憶)
     本人しか知り得ない情報(パスワード、秘密の質問の答え、パスフレーズなど)
  • 所持要素(所有)
     本人しか持っていない物理的なトークンやデバイス(スマートフォン、ICカード、OTPトークンなど)
  • 生体要素(バイオメトリクス)
     本人の身体的特徴(指紋、顔、虹彩、音声など)

これらのうち異なる2種類以上の要素を組み合わせる認証方式が**多要素認証(MFA:Multi-Factor Authentication)**と呼ばれます。

例えば以下のような組合せが代表例です:

要素1要素2多要素認証か?
パスワード(知識)ワンタイムパスワード(所持)多要素認証
ICカード(所持)指紋(生体)多要素認証
パスワード(知識)秘密の質問(知識)×(同一要素)

実際の問われ方

この問題では、以下の点が問われています。

  • 本人認証における3要素の分類を理解しているか
  • 単なる“2つある”ではなく、「要素が異なるかどうか」を判断できるか
  • 表面的な名称ではなく、機能としての分類に基づいて選べるか

選択肢①の「パスワード+秘密の質問への答え」は、どちらも知識要素に分類されるため、形式的には2要素であっても多要素認証には該当しません

試験での留意点

  • 「2つあるから安全」とは限らない点に注意。重要なのは異なる認証要素かどうか
  • 「パスワード+パスフレーズ」「秘密の質問+PINコード」などは、名称が異なっても本質は同じ要素であるため、分類ベースで考える訓練が必要です。
  • 「音声」は生体、「ICカード」は所持、「パスワード」は知識、という基本的なひも付けを確実に押さえておくことが大切です。

本人確認の制度設計において、単なる技術論ではなく、「なりすましリスクにどう対抗するか」というリスク管理の視点が求められています。試験でも、要素の名称ではなく、その本質的な分類と意味づけに基づいた判断ができるかが問われています。

安全管理

Ⅰ-1-25:消費者安全行政と「隙間事案」

背景にある問い

製品の欠陥で人がけがをした。だが、それがどの法律でカバーされているのか分からない。
労働安全衛生法でもなく、食品衛生法でもない。どの省庁も「自分の所管ではない」と言い合っている。
――誰が消費者を守るのか?

現代の製品やサービスは複雑化し、これまでの法体系で対応しきれない「隙間」が生まれています。
事故やトラブルが発生したとき、どの役所のどの法律で対処するのか曖昧なまま、消費者の被害が放置される事態が発生しています。

このような“責任の空白”を埋めるために、消費者庁の役割、特に「隙間事案」への対応が重視されています。
行政機関間の連携、科学的調査の独立性、地方の役割分担など、消費者安全の全体構造を押さえる必要があります。

キーワードで整理する

隙間事案
既存の個別法(製造物責任法、食品衛生法など)では防止措置が取れない消費者事故等を指します。
「どの省庁も直接の所管ではない」となる事案に対し、消費者庁が総合調整の役割を担います。

消費者庁の権限(勧告・命令)
内閣総理大臣(実務上は消費者庁長官)には、隙間事案に該当する場合、事業者に対して必要な措置(勧告・命令等)を行う権限があります。

事故情報の報告義務
地方公共団体や他省庁は、重大事故等に関する情報を把握した際には、直ちに消費者庁へ通知する義務があります(他法令で別途定めがある場合を除く)。

消費者安全調査委員会(事故調)
原因究明に特化した独立性の高い組織で、責任追及を目的とせず、科学的・客観的な事実確認を行います。

消費生活センターの設置主体
都道府県や市町村が設置するのは「消費生活センター」です。
一方、「国民生活センター」は独立行政法人で、地方公共団体の機関ではありません。

実際の問われ方

今回の設問は、各制度の「役割分担」や「設置主体」を問う典型問題です。
特に以下の視点が問われました。

  • どの組織が何をするか(主語と述語の対応)
  • 制度趣旨の違い(事故調は責任追及ではない)
  • 設置主体(地方公共団体 vs. 国)

以下のような整理が有効です:

制度・組織名主な役割設置・所管
消費者庁隙間事案対応、情報収集・命令等国(内閣府の外局)
消費生活センター(地方)地域住民の相談対応、情報提供等都道府県・市町村
国民生活センター全国的情報集約・専門支援独立行政法人(内閣府所管)
消費者安全調査委員会(事故調)事故の科学的原因究明(責任追及なし)消費者庁の外局的位置づけ(委員会)

試験での留意点

  • 「設置者」に関する選択肢はひっかけになりやすい
     例:国民生活センターは「地方」ではなく「国」。選択肢③が典型的な誤答パターンです。
  • **「責任追及 vs. 科学的究明」**の対比に注意
     事故調(安全調査委員会)はあくまで原因究明のための組織であり、法的責任の有無は目的外です。
  • **「通知義務の例外」**にも注意
     「他法令で報告義務がある場合は、改めて通知しなくてよい」という但し書きが試験でも問われがちです。

このように、消費者安全分野は、制度の「役割の違い」と「主体の違い」が問われやすい領域です。
設問を読んだ瞬間に「どこが管轄か」「何をする機関か」が即座に判断できるよう、整理しておくことが有効です。

Ⅰ-1-26:リスクアセスメントと危険性・有害性の評価手順

背景にある問い

「なんでこんな事故が起きたんだ?」
作業後、誰かがそうつぶやいた。現場は整っていたはず、マニュアルも守っていた。
だが、見落とされていた。――「その場限りの仮設装置」。
設置は数日だけ、でもリスクは常設と変わらなかった。

日常業務に埋もれた小さな危険。
慣れた作業ゆえに無意識でスルーしていた危険。
リスクは“そこにあるもの”ではなく、“見えるようにするもの”といえます。

リスクアセスメントとは、潜在する危険性や有害性をあらかじめ見つけ出し、重大な事故や健康障害につながる前に、優先順位をつけて対策を講じる仕組みです。
重要なのは、思い込みを排し、網羅性と客観性を担保しながら段階的にリスクを把握していく姿勢です。

キーワードで整理する

リスクアセスメント
作業現場の危険性や有害性を評価し、リスクの大きさを見積もり、必要な対策を講じる一連の取り組み。以下の手順で行います:

  1. 危険性・有害性の特定
  2. リスクの見積もり(重篤度×可能性)
  3. リスクの評価と優先順位付け
  4. リスクの除去または低減措置
  5. 対策の実施・記録・見直し

重篤度の尺度
負傷や疾病の重さを客観的に判断するため、休業日数や医療行為の有無を用いて「重篤度」を分類します。
主観的な“ひどそう”“軽そう”ではなく、データに基づいた比較が重要です。

リスク低減の優先順位(対策のピラミッド)
リスクを下げる方法には優先順位があります。
高い順に:

  1. オ:設計・計画段階での危険性除去(根本的対策)
  2. エ:工学的対策(局所排気装置など)
  3. ウ:管理的対策(ルール化・教育)
  4. イ:個人用保護具の使用(最終手段)

法定事項(ア)は、最低限守るべき内容であり、優先順位ではなく“前提”と理解します。

実際の問われ方

本問では、リスクアセスメントにおける「考え方の誤り」を見抜く出題形式です。
以下のような視点で誤答肢を設けています。

選択肢誤りの焦点
一時的設備の除外(→対象に含む)
熟練者の排除(→主観・経験は重要)
解体作業の除外(→全ての変化に対応)
保護具の優先順位の誤り(→最後)
客観的尺度による重篤度評価(正しい選択肢)

このように、出題では“ありがちな誤解”に基づく選択肢を構成し、制度の本質を問う形式になっています。

試験での留意点

  • リスクアセスメントの対象には「仮設・一時的設備」も含まれます。常設との区別で除外しないよう注意が必要です。
  • 熟練作業者の排除は逆効果。形式的な中立性より、実際の現場知識の活用が重視されます。
  • 建設物の「設置・移転・変更・解体」すべてが評価対象です。解体時のリスクは見逃されがちなポイントです。
  • 個人用保護具は最後の砦です。対策の優先順位を問う設問では、保護具が先に来る選択肢は誤りと捉えられます。

リスクアセスメントは単なる手続きではなく、“どこに目を向け、どう評価し、どう防ぐか”という実務の意思決定プロセスです。
選択肢の微妙なニュアンスに注目し、「現場目線と制度趣旨」を両立できる判断力が求められます。

Ⅰ-1-27:災害・事故の未然防止と安全活動の用語

背景にある問い

「今月も災害ゼロでした!」
そう報告はされるが、現場ではヒヤリとする場面がいくつもあった。
工具が棚から滑り落ちた。ヘルメットを被っていなければ怪我をしていたかもしれない。
危険は見えにくい形で存在しており、それに気づくことができるかどうかが、事故を防ぐ第一歩になる。

現場の安全は、制度や機械だけでは守れません。
作業に携わる一人ひとりが「気づく力」を持ち、それを共有・改善できるチームとして機能していることが前提です。
そのためには、日常的に行われる安全活動や訓練、仕組みの理解と実践が不可欠です。

この問題では、そうした「安全活動の用語」について、定義の違いや目的の誤認識を見抜けるかが問われています。

キーワードで整理する

危険予知訓練(KYT)
作業前に危険を予測し、安全行動を定着させる訓練手法。代表的な進め方としてKYT基礎4ラウンド法(現状把握→本質追究→対策樹立→目標設定)が知られています。
現場の写真やイラストを使って行うことが多く、経験や勘に頼るだけでなく、客観的な「見える化」を通じて危険感受性を養います。

ツールボックスミーティング(TBM)
作業開始前に数分間行う安全確認の打ち合わせです。内容は、その日の作業手順や注意点、作業分担などであり、道具そのものに限定されるものではありません
名前の由来は、昔アメリカで工具箱の上でミーティングしていたことにあります。

本質的安全設計方策
設計段階からリスクを排除・低減すること。
たとえば「自動停止装置の設置」「手を入れずに作業できる構造にする」「立ち入り頻度そのものを減らす設計」などが該当します。
管理や教育に頼る前に、リスクの存在そのものを設計で解消する考え方です。

ストレスチェック制度
労働安全衛生法に基づく制度で、労働者50人以上の事業場で年1回の実施が義務付けられています。
心理的負担の把握と、必要に応じた産業医による面談を通じ、精神的健康の一次予防が目的とされています。

防火管理者
一定規模以上の建物等で選任が義務付けられ、防火計画の策定や訓練の実施を行います。
防火管理者は、管理権原者(ビルの所有者等)が選任し、講習修了などの要件監督的な地位を有することが求められます。

実際の問われ方

この問題は「定義に関する正確な理解」を問う典型的な誤認識型設問です。
特に②では、“ツールボックスミーティング=道具の安全確認”とする誤った理解を示しています。

以下に整理します:

選択肢主な対象誤認識の構造
KYTの目的と手法適切
TBMの定義× 道具に限定される活動ではない
設計による危険低減適切
ストレスチェック適切(法定制度)
防火管理者適切(講習・管理権原者の選任)

試験での留意点

  • ツールボックスミーティングは道具点検ではない
     作業計画・注意点の共有が目的であり、道具はその一部に過ぎません。
  • KYTとTBMの違いに注意
     KYTは“訓練”であり、安全意識を高めるための技法。TBMは“実務の朝礼”であり、作業内容の確認を主眼とします。
  • 本質的安全設計方策は最上位の安全確保策
     対策は「設計>装置>管理>教育>保護具」の順であることと共通の構造です。
  • ストレスチェックは労働安全衛生法に基づく制度
     「努力義務」ではなく、50人以上の事業場では義務である点が問われやすい箇所です。

安全管理においては、「聞いたことがある言葉」ほど意味を取り違えやすくなります。
正確な定義を押さえつつ、「何のための仕組みか」を実感を持って理解しているかが問われる領域です。

Ⅰ-1-28:労働安全衛生法に基づく安全管理体制と配置要件

背景にある問い

「うちは100人以下だから、安全管理者はいらないよね?」
現場責任者の一言で、管理体制の強化計画が止まった。だが、数日後、協力会社の作業員が重機に巻き込まれる災害が発生した。
災害の原因は、明確な管理責任者がいないことだった。

企業にとって、安全は単なる「義務の履行」ではなく、事業の持続性に直結する問題です。
特に事業場の規模や業種に応じた安全衛生管理体制の法的要件を正しく理解しておかなければ、無自覚な違反が重大事故につながるリスクがあります。

この問題では、労働安全衛生法の施行令に基づき、業種・従業員数に応じて選任が義務付けられる管理者の種類と要件について問われます。

キーワードで整理する

安全管理者
労働災害を防止するため、設備・作業方法・教育等の安全管理を専門的に行う者です。
主に製造業・電気業・ガス業・建設業・鉱業など、高リスク業種において100人以上の規模で選任が義務付けられています

衛生管理者
作業環境・健康管理・作業衛生の確保を担当する者で、業種を問わず一定規模以上の事業場での選任が義務となっています。
選任要件は、業種により異なり、常時50人以上が基準となることが多く、複数人の選任が求められる場合もあります。

総括安全衛生管理者
大規模事業場(例:300人以上)において、安全管理者や衛生管理者を統括する責任者です。
選任された安全管理者・衛生管理者等を指揮監督する立場にあり、工場長や支社長などが兼任することが多いです。

産業医
労働者の健康管理のために選任される医師で、50人以上の規模から義務付けられます。
化学物質を扱う業種などでは、さらに詳細な選任要件や職務内容が追加されることもあります。

以下に代表的な配置要件を整理します:

業種分類人数基準配置義務(例)
製造業・電気業・ガス業等100人〜安全管理者、衛生管理者、産業医
建設業・鉱業等100人〜安全管理者、衛生管理者、産業医
その他の業種1,000人〜衛生管理者、産業医
全業種(50人〜)50人〜衛生管理者(1名以上)、産業医
大規模事業場(300人〜)300人〜総括安全衛生管理者、安全管理者、産業医等

実際の問われ方

本問では、以下の表における(ア)〜(オ)の空欄に対し、**業種の分類、管理者の種類、配置基準(人数)**を適切に対応させる力が問われます。

選択肢④が正解である理由は、下記の対応が正しかったためです:

記号内容
製造業、電気業、ガス業等
林業、鉱業、建設業等
総括安全衛生管理者
産業医
50

図表から、各業種・規模に応じて、どの管理者がいつ必要になるかが明確に整理されています。

試験での留意点

  • 業種と人数の対応関係の記憶ではなく、構造の理解が重要
     例:製造業100人→安全管理者、建設業300人→総括管理者も必要、など。
  • 「安全管理者」と「衛生管理者」の配置要件を混同しやすい
     安全管理者は業種限定(高リスク)、衛生管理者は全業種対象(人数ベース)。
  • 「総括安全衛生管理者」は“300人以上”の規模
     単なる管理者ではなく、複数の管理者を統括する役割である点を押さえておくことが重要です。
  • 「産業医」は人数基準が明確(原則50人)
     最も問われやすい基本知識であり、正確な判断が求められます。

この問題は、単なる用語の知識ではなく、「業種」「人員規模」「管理者の種類」の三軸を構造的に把握しているかを確認する設問です。
条文暗記ではなく、現場対応や体制構築を意識した“管理技術”としての理解が問われているといえます。

Ⅰ-1-29:労働安全衛生マネジメントシステム(OSHMS)のPDCAと構成要素

背景にある問い

「毎年同じところで災害が起きている気がする」
そうつぶやいた安全担当者の机の引き出しには、過去の災害報告書が山積みになっていた。
対策は講じているが、改善が仕組みになっていない――現場は変わっていない。

安全衛生における真の改善とは、単発的な対応ではなく、組織的かつ継続的に仕組みとして回すことにあります。
そのために重要なのが、PDCA(Plan-Do-Check-Act) に基づく**労働安全衛生マネジメントシステム(OSHMS)**の導入です。

日々の点検、事故発生時の調査、職場の意見反映を一体的に組み込み、仕組みとして安全文化を育てることが求められています。

キーワードで整理する

OSHMS(労働安全衛生マネジメントシステム)
企業や事業場における安全衛生活動を「方針→計画→実行→確認→改善」というPDCAサイクルで継続的に運用する仕組みです。
厚生労働省の指針(平成18年策定)に基づいて運用され、事業者が自律的に安全衛生水準を向上させることを目的としています。

以下のステップで構成されます:

区分内容(該当語句)
危険性又は有害性等の調査の実施(Plan)
安全衛生目標の設定(Plan)
安全衛生計画の作成(Plan)
システム監査の実施(Check)

PDCAにおける各ステージの要点は以下の通りです:

  • Plan(計画):危険の特定、安全衛生目標の設定、計画立案など
  • Do(実行):計画の実施、緊急対応、教育訓練
  • Check(確認):監査、点検、災害調査、改善点の抽出
  • Act(改善):是正措置、再評価、システムの見直し

また、「労働者の意見の反映」「体制整備」「記録」「明文化」などは、PDCA全体を支える基本要素として扱われます。

実際の問われ方

本問は、OSHMSの概要図におけるPDCAサイクルの流れに沿った正確な理解を問う設問です。
正解である①の対応関係は以下の通りです:

項目選択肢該当内容
危険性又は有害性等の調査の実施
安全衛生目標の設定
安全衛生計画の作成
システム監査の実施(Check段階)

誤答肢は、PDCAサイクルの段階の入れ替え実施者の誤認識に基づいたものが多く、全体像の理解度が問われます。

試験での留意点

  • 「計画」段階における順序の理解が問われる
     調査→目標設定→計画作成 の順序が基本構造です。混同されがちなので順序意識が重要です。
  • 「監査」は“Check”であり、改善の前段階
     点検・監査は改善の前提として、「できているかどうか」を検証する役割です。
  • “調査の実施”と“システム監査”は似て非なるもの
     前者はリスク把握、後者は仕組みの有効性の確認という機能的違いがあります。
  • 「安全衛生計画」は“目標設定”を踏まえて作成される
     目標と計画の位置づけを混同すると、選択肢を誤ります。

OSHMSは単なる制度ではなく、「仕組みで安全を回す」視点が問われる分野です。
試験ではこの構造を自分の言葉で説明できるかが問われていると捉えると、設問にも抵抗が少なくなります。

Ⅰ-1-30:システム信頼性と直列・並列構成

背景にある問い

「部品の信頼性は高いはずなのに、装置全体の故障が多い」
現場でよくあるこの疑問。調べてみると、ある一つのユニットが全体の動作を左右していた。
――個々の信頼性だけを見ていては、全体の信頼性を見誤る。

設計者が避けるべき最大の落とし穴は、「部分最適と全体最適の混同」です。
製品やシステムの安定稼働を保証するには、信頼性の構造的なつながりを正しく理解する必要があります。

現実の機械・電気・情報システムでは、直列・並列を組み合わせた複雑な構成が一般的です。
この問題は、そうした現場的な視点を持ったうえで最低限の信頼度要件を計算的に見積もる力を問う設問です。

キーワードで整理する

システム信頼性
個別部品の信頼性(故障しない確率)を用いて、システム全体が正常に動作する確率を評価する指標です。
構成が直列か並列かによって、信頼性の計算方法が異なります。

  • 直列構成
     システム全体は、すべてのユニットが正常に動作して初めて正常とみなされる
     → 信頼度 R = R₁ × R₂ × … × Rn
  • 並列構成
     システム全体は、どれか1つでも動作すれば正常とみなされる
     → 信頼度 R = 1 − [(1 − R₁) × (1 − R₂) × … × (1 − Rn)]

この問題の構成は次の通りです:

  • ユニット1とユニット2が直列(信頼度0.9×0.9=0.81)
  • ユニット3とユニット4が直列(信頼度=0.9×R₄)
  • それぞれの直列対が並列構成(並列合成)

全体信頼度を0.9以上に保つには、R₄の最小値が問われる構造です。

実際の問われ方

以下の数式で求める構成です:

  • 直列信頼度①:0.9 × 0.9 = 0.81
  • 直列信頼度②:0.9 × R₄ = 0.9R₄
  • 全体信頼度(並列):
    R_total = 1 - (1 - 0.81)(1 - 0.9R₄)
    このR_total ≥ 0.9 となる最小の R₄ を求める。

この数式を変形し、R₄について解くと:

0.9 = 1 - (1 - 0.81)(1 - 0.9R₄)
   = 1 - 0.19 × (1 - 0.9R₄)
→ 0.1 = 0.19 × (1 - 0.9R₄)
→ (1 - 0.9R₄) = 0.1 ÷ 0.19 ≒ 0.526
→ R₄ ≒ (1 - 0.526) ÷ 0.9 ≒ 0.526

したがって、これを満たす選択肢のうち**最小のものは 0.6(選択肢②)**です。

試験での留意点

  • 直列は「弱い方に引っ張られる」構成であるため、信頼性は部品の積になります。
  • **並列は「どちらかが正常ならOK」**という構成で、信頼性が加算されるように見えるが、実際は「故障率の積の補数」である点に注意が必要です。
  • 全体信頼度を逆算で求めるタイプの問題は、代入試行では間に合わない可能性があるため、数式構造の理解がカギとなります。
  • 「信頼性を上げる」ために部品を並列にする手法は**冗長設計(リダンダンシー設計)**の一種であり、設計工学や安全管理の観点からも重要です。

この問題は、単なる計算力を問うものではなく、信頼性の構造的理解と設計的判断を組み合わせる力を見られています。
複雑な構成も、分解して直列・並列のブロックで見れば、直感的な理解につながります。

Ⅰ-1-31:科学技術イノベーションと倫理・リスク・社会的合意

背景にある問い

「この技術、すごく便利だけど…本当に大丈夫?」
ある日、遺伝子組換え食品に対する市民講座で、参加者がぽつりとつぶやいた。
専門家から見れば安全性が立証されていても、一般市民には“なんとなく不安”が残る。
技術のリスクとベネフィットに対する感じ方は、立場によって驚くほど違う。

科学技術の進展は、社会に大きな恩恵をもたらす一方で、倫理・価値観・制度整備といった社会的側面への対応も不可欠です。
高度な技術を安全・安心に活用するには、リスク評価だけでなく、社会との信頼の構築=リスクコミュニケーションが前提となります。

この問題は、そうした「科学技術の社会的な側面」に関する理解を前提とした、知識と価値観のバランス感覚を問う設問です。

キーワードで整理する

リスクコミュニケーション
科学的知見に基づいたリスク評価・管理にとどまらず、多様なステークホルダー(行政・企業・市民など)間の情報共有と相互理解を図るプロセスです。
食品安全分野では、消費者庁・食品安全委員会・厚生労働省・農林水産省などが連携して推進しています。

ライフサイエンスと生命倫理
バイオテクノロジーの進展に伴い、遺伝子操作・再生医療・出生前診断などに関わる倫理的配慮が重要性を増しています。
「人間の尊厳」や「自己決定権」といった概念が、単なる技術の安全性を超えて論点となります。

遺伝子組換え技術と規制
遺伝子組換え生物(LMO)は、カルタヘナ法(正式名称:カルタヘナ議定書に基づく生物多様性影響防止法)によって規制されています。
安全性審査、環境影響評価、表示義務などが制度化されており、「生物多様性を守るための規制」が前提です。
したがって「規制されていない」という選択肢③は明確な誤りです。

3R原則(動物実験における倫理)
Replacement(代替)、Reduction(削減)、Refinement(苦痛軽減)の3つの原則を基に、動物実験の適正化が図られています。
日本の動物愛護管理法
でもこの考え方が明示され、研究機関は遵守が求められます。

ステークホルダー間の協働
気候変動、パンデミック、少子高齢化といった複雑な課題は、技術だけでなく価値観や政策との調整が不可欠です。
そのためには、行政・企業・市民・専門家・NGOなどが対話を通じて共通認識を築く必要があります。

実際の問われ方

本問は、科学技術の進展に関する**「制度的な正誤」を問うタイプ**の出題です。
特に③の選択肢では、以下の誤りが見られます:

  • 「規制されていない」→ 誤り(カルタヘナ法により規制対象)
  • 「多様性を増進する」→ 科学的には誤解を招きやすい(既存生態系への影響リスクがあるため規制)

正誤を判断するには、制度の有無と技術の社会的意味合いの両面を押さえておく必要があります。

試験での留意点

  • 「規制されていない」や「義務付けられていない」は誤答肢になりやすい
     法律や制度で明確に定められている領域では、根拠となる法令名(例:カルタヘナ法、食品衛生法など)を一緒に押さえておくと正誤判断が安定します。
  • 科学的メリットと社会的リスクのバランスが問われる
     選択肢では技術礼賛または過剰な不安視のいずれかに偏った表現が出題されやすく、その“バランス感覚”が鍵になります。
  • 動物実験・生命倫理の設問では3R原則や「人間の尊厳」といったフレーズに注目
     制度趣旨や背景理念を捉えることで、誤った操作的理解を避けられます。

この問題は、知識の有無だけでなく、「社会における技術の意味」をどう捉えるかが問われています。

Ⅰ-1-32:高年齢労働者の安全と健康確保

背景にある問い

「若い頃の感覚でやろうとして、ついバランスを崩してしまった」
ベテラン作業員が、軽作業中に転倒した。本人は「大丈夫」と笑うが、現場責任者は不安を隠せない。
経験があるからこそ任せたくなるが、年齢に伴う身体機能の変化は確実に進行している。

近年、高年齢者の就労機会が拡大する一方で、年齢に応じた安全・健康配慮の必要性が高まっています。
「経験があるから安心」ではなく、「年齢特有のリスクとどう向き合うか」が、現場管理者の課題です。

この問題では、「高年齢労働者の安全と健康確保のためのガイドライン」(厚生労働省)に基づく知識と、年齢特性への理解が問われます。

キーワードで整理する

高年齢労働者の安全と健康確保のためのガイドライン
厚生労働省が2020年に策定。高年齢労働者(おおむね60歳以上)について、加齢に伴う身体的・認知的な変化を踏まえたリスク低減策の整備と配慮指針を定めています。

主な特徴:

  • 年齢・性別による災害発生率の差を踏まえた予防対策
  • 移動機能や視覚機能の低下に対応した作業環境整備
  • 一律対応ではなく、個人差に配慮したマッチングと教育

ロコモティブシンドローム(運動器症候群)
加齢や運動不足により、骨・関節・筋肉・神経などの運動器機能が低下し、「立つ・歩く」などの移動機能が衰える状態。
認知機能とは別の概念であり、身体機能に特化した医学用語です。

個人情報の取扱いと職場の配慮
健康情報や体力状況はセンシティブな個人情報に該当するため、無断での共有や公開は不適切です。
対応が必要な場合でも、プライバシーを尊重した範囲での情報共有と業務調整が求められます。

教育・指導のポイント
高年齢者は蓄積された経験や知識を活かせる一方、集中力や記憶力に個人差があり、教育においては「簡潔さ」よりも「丁寧さ」「わかりやすさ」が重要です。

適正配置とマッチング
高年齢労働者では、健康状態や体力のばらつきが大きくなるため、**個別に作業内容を調整すること(業務のマッチング)**が推奨されます。

実際の問われ方

本問は、「ガイドラインに照らして適切な記述」を選ばせる設問です。
以下に、正誤のポイントを整理します。

選択肢内容の焦点判定理由・補足
災害発生率に年齢差はない×明確に年齢差があり、60歳以上の災害率は高い
ロコモと認知機能×ロコモは運動器機能の問題であり認知機能は含まない
健康情報を氏名とともに公開×個人情報保護・尊厳の観点から不適切
安衛教育は簡潔にすればよい×年齢に応じて丁寧かつ明確な指導が望ましい
健康・体力に応じた業務マッチングガイドラインの基本理念に沿った適切な内容

試験での留意点

  • “高年齢者=経験が豊富だから問題ない”という思い込みに注意
     災害率や身体機能の変化は、客観的なデータに基づいて評価すべきです。
  • 用語の定義誤解に注意
     ロコモティブシンドロームと認知症は別の領域であり、キーワードの曖昧な理解を狙った選択肢が出されやすいです。
  • プライバシー配慮の視点は必須
     安全確保と情報保護は対立するものではなく、調整・制限された範囲での活用が前提です。
  • 教育方針において「簡潔=よい」は危険な思考
     とくに年齢層が高くなるほど、視認性・可読性・理解スピードへの配慮が重要です。

高年齢労働者の増加は不可逆的な社会の流れです。
だからこそ、年齢による身体変化と向き合いながら、「誰もが安全に働ける環境を設計する」視点が管理技術に求められています。

社会環境管理

Ⅰ-1-33:SDGs 実施指針と新しい公共

背景にある問い

「この取り組み、本当にSDGsって言えるのか?」
会議で耳にするたびに、どこか空回りしている感覚に陥る。自治体や企業で“SDGsの達成に貢献”という言葉が独り歩きしているが、現場では“何をどう進めるか”が曖昧なまま、単なるPRにとどまっているケースも少なくない。

国が提示する「SDGs実施指針」は、そもそも何を示しているのか。表面的な理解に終わらせず、誰が、どのように関与するものなのかを整理する必要がある。

「新しい公共」「SDGs未来都市」「経済・社会・環境の三側面」など、聞いたことはあるが、それぞれの意味と関係性は意外と混同しやすい。
特に“ステークホルダー”の定義やその役割については、正しく理解していないと誤答につながる可能性がある。

キーワードで整理する

SDGs実施指針改定版(令和元年)
日本政府が策定した「SDGs実施指針」は、2030年の目標達成に向けた中長期的戦略であり、国内外の動向を踏まえた優先課題(8つ)と施策方向性を明示しています。令和元年の改定では、Society5.0、地方創生、プラスチックごみ問題などが取り入れられ、実効性が重視されています。

新しい公共
誤解されがちですが、「新しい公共」とは地方公共団体間の連携ではなく、地域住民・NPO・企業・大学など、行政以外の主体が公共の役割を担うという概念です。行政依存から脱却し、多様な主体が連携して地域課題の解決にあたる新たな枠組みを指します。民主的ガバナンスや協働の理念とも深く関連しています。

SDGs未来都市・ジャパンSDGsアワード
SDGs推進の“見える化”として、内閣府は自治体の先進事例を「SDGs未来都市」として選定し、企業や団体の優れた取組には「ジャパンSDGsアワード」が授与されます。これは社会的認知を高めるとともに、好事例を全国へ波及させる狙いがあります。

三側面(経済・社会・環境)と統合的視点
SDGsは17ゴールから成り立ちますが、その背後には**経済・社会・環境の三側面が密接に関連することを前提とした「統合的思考」**が求められます。各ゴールは分野ごとに独立しているように見えて、実際には相互依存的です。

実際の問われ方

以下のような切り口で出題されやすく、単なる知識ではなく**「定義・趣旨の理解」や「制度の正確な把握」**が問われます。

  • 用語定義の誤解を突く(例:新しい公共 ≠ 地方公共団体の連携)
  • 政策目的と手段の関係性を問う
  • 「統合的アプローチ」の必要性を理解しているかを確認する

試験では以下のようなタイプに分類できます:

出題観点
定義の正誤新しい公共の主体は誰か?
政策と取組SDGs未来都市やアワードの目的・役割
基本理念の理解三側面の統合・相互関連性の意識がなぜ重要か
最新動向の反映SDGs実施指針の改定による重点事項の変化

試験での留意点

  • 「新しい公共」は地方公共団体の連携組織ではない
     → 地域社会の多様な主体が担い手。行政以外の関与に注目する。
  • SDGs=環境問題だけではない
     → 経済・社会も等しく対象であるため、どれか一方に偏らない。
  • 国の施策と企業・自治体の取り組みの位置づけを混同しない
     → 指針は「戦略」、未来都市やアワードは「推進策」である。

こうした点を意識すると、表面的な“それっぽい選択肢”に惑わされずに正誤を見極めることができます。理解の深さが結果に直結するテーマといえます。

Ⅰ-1-34:エネルギー自給率と国内エネルギー動向

背景にある問い

「日本って、結局どれだけエネルギーを自前でまかなえているのか?」
災害や国際情勢が不安定になるたびに、電力や燃料の安定供給が話題になります。
特にロシアによるウクライナ侵攻のような国際的危機が生じると、エネルギーの海外依存リスクが急に現実味を帯びてきます。

職場で設備更新やエネルギー効率の改善を検討する際、「省エネ化」「再エネ導入」「コスト削減」などが並びますが、その背景には日本がエネルギー安全保障上の脆弱性を抱えているという構造的課題があります。

こうした現状を把握し、正しく判断するには、エネルギーの需給構造や長期トレンドを捉えるための「白書的な視点」が不可欠です。

キーワードで整理する

エネルギー白書
経済産業省が年次で取りまとめる報告書で、我が国のエネルギー需給、政策動向、国際的な比較などを網羅的に分析しています。試験では、数字の暗記よりも「構造的な理解」が重要とされます。

エネルギー自給率
自給率とは、一次エネルギー供給全体に対して、国内で産出されたエネルギーの割合を指します。日本の自給率は、1960年代には石炭や水力で2〜3割ありましたが、近年は10%前後に低下しています。原子力も国内供給に含めますが、東日本大震災以降の稼働率低下により、実質的な貢献は限定的です。

部門別エネルギー消費動向

  • 製造業(産業部門)では、省エネ技術の導入により、生産は増加しても消費は抑制されています。
  • 家庭部門では、家電の高機能化や世帯数の増加によって、エネルギー消費は増加傾向にあります。
  • 運輸部門では、燃費向上の一方で、自動車保有台数や走行距離が伸びており、総消費の抑制には至っていません。

実質GDP当たりのエネルギー消費(エネルギー効率)
エネルギー消費をGDPで割ることで「エネルギー効率」を示します。日本は効率的な国とされますが、OECD平均よりやや下回る水準で推移しており、過信は禁物です。

化石エネルギー依存度の国際比較
日本はエネルギー資源に乏しく、化石エネルギー(石油・石炭・天然ガス)への依存度は極めて高いです。特にアメリカや中国は自国産出の比率が高いため、日本の依存度はこれらの国よりも高くなります。一方、フランスは原子力比率が非常に高いため、化石エネルギー依存度は日本よりも大幅に低い状況にあります。

実際の問われ方

本問のように、**「データの正誤を問う問題」**では、次のような観点で問われることが多くあります。

出題観点具体的内容
自給率の傾向戦後からの推移と原子力の扱い
部門別消費動向製造業の省エネ、家庭・運輸部門の消費構造
国際比較アメリカ・中国・フランスとの比較
エネルギー効率の指標実質GDPあたりの消費量、OECDとの比較

このように、選択肢の文章が一見もっともらしく見えても、「前提の理解」や「トレンドの把握」がないと誤答しやすい構造になっています。

試験での留意点

  • **「原子力は国内産出に含まれる」**という前提を見落とすと、自給率の判断を誤る可能性があります。
  • 「自給率=再生可能エネルギー比率」ではないため、混同に注意が必要です。
  • 製造業の省エネ化は進んでいるため、「経済成長=消費増加」とはなりません。
  • 国際比較の際、フランスの原子力依存による化石燃料依存の低さは要チェックポイントです。

出題では、単純な数字よりも**「方向性」や「比較の視点」**が問われることが多く、キーワードと構造を押さえることが解答の精度を左右します。

Ⅰ-1-35:生物多様性条約と関連国際条約の時系列的理解

背景にある問い

「うちの開発が環境に配慮してるって、本当に言えるのだろうか」
建設や開発プロジェクトにおいて、アセスメントや環境配慮指針が求められる場面は年々増えています。
とくに森林、湿地、干潟などを含む地域では、「この地域は重要な生態系か?」「希少種はいるか?」といった検討が不可欠です。

ところが、現場では「それって法律なの?国際的な要請?」「何のルールに基づいているのか?」といった根本的な問いが整理されないまま、形式的な確認にとどまってしまうこともあります。

生物多様性に関する条約や国内法のつながりを理解し、何がいつからどう位置づけられているのかを俯瞰できなければ、実効性ある対応は困難です。
制度や条約の「順序関係」や「対象範囲」を正しく理解することが、試験でも実務でも求められます。

キーワードで整理する

生物多様性条約(CBD)
1992年の地球サミットで採択された国際的枠組みで、**「保全」「持続可能な利用」「利益の公正な配分」**の3本柱を基本原則としています。包括的な枠組みであり、他の条約を包括する立場ではありませんが、多くの条約や政策に影響を与えています。

ワシントン条約(CITES)
1973年に採択された国際条約で、絶滅の恐れがある野生動植物の国際取引を規制する目的を持ちます。あくまで「取引規制」に焦点があるため、生態系全体の保全とは性格が異なります。生物多様性条約よりも先行して成立しており、補完される立場ではありません。

ラムサール条約
1971年に採択された条約で、湿地の保全と賢明な利用が主眼です。希少生物ではなく、あくまで「湿地」という生態系単位が対象。これも生物多様性条約より以前に発効しています。

名古屋議定書
2010年に採択された、生物多様性条約の補足的な議定書です。**遺伝資源のアクセスと利益配分(ABS)**のルールを整備し、特許や利用契約などの際に公平性が確保されるよう定めています。

カルタヘナ議定書
2000年に採択され、遺伝子組換え生物(LMO)を対象としたリスク評価・予防原則に基づく国際的手続きを定めています。生物多様性保全の観点から、バイオテクノロジーの国際的利用に制限をかける仕組みです。

実際の問われ方

この問題では、以下の観点で出題されています。

出題観点内容例
条約間の時系列関係生物多様性条約と他の条約(ラムサール・ワシントン)との先後関係
条約の目的と対象「取引規制」「湿地保全」「遺伝資源」など焦点の違い
条約と国内制度の対応国家戦略、基本法、議定書との関係構造の理解

選択肢の多くは正しいように見えますが、「補完するために締結された」という③の記述には歴史的事実と因果関係の誤りがあります。条約の採択年と位置づけを把握していないと見逃しやすいポイントです。

試験での留意点

  • 条約の制定年の前後関係に着目することが重要です。名称や内容よりも、「どちらが先か」という認識の誤りが問われやすくなっています。
  • 補完関係にあるのは、議定書(名古屋・カルタヘナ)であって、条約間ではない点に注意が必要です。
  • 条約名が略称で問われることもあるため、略称と正式名の対応を理解しておくと混乱を防げます。
  • ラムサール条約とワシントン条約は特定のテーマに絞った国際枠組みであり、CBDの下位概念ではないことを意識する必要があります。

条約や制度の比較は一見地味に見えても、総合的な制度理解や戦略的判断に直結する領域です。制度の“並び”や“立ち位置”を正しく認識できるかが、解答の分かれ目になります。

Ⅰ-1-36:第四次循環型社会形成推進基本計画と3Rの優先順位

背景にある問い

「このゴミ、本当に“リサイクル”でいいのか?」
事業所での分別や廃棄物処理の場面で、リサイクルすればよいという意識が先行し、「そもそも出さない」「繰り返し使う」といった発想が後回しになることがあります。
環境に配慮しているつもりでも、コストと手間がかかるリサイクル処理に偏っていれば、結果として非効率になる可能性もあります。

循環型社会の推進では、単に廃棄物を再利用すればよいというわけではなく、「どの段階で」「どう減らすか」という視点の優先順位が問われます。
環境への負荷を最小限に抑える行動の在り方を、政策としてどう位置づけ、具体的にどう評価しているのか。その基本的な考え方を押さえておくことが、総監的な判断力につながります。

キーワードで整理する

第四次循環型社会形成推進基本計画
2018年に策定された本計画は、廃棄物の発生抑制と資源循環の最適化を通じて、持続可能な社会を構築するための国家戦略です。従来の3R(リデュース・リユース・リサイクル)に加え、災害廃棄物対策や資金循環、地域循環共生圏などが新たな焦点として明示されています。

3Rの優先順位
循環型社会の基本は、「できる限り廃棄物を出さない」ことです。そのため、以下の順で優先順位が設定されています。

  1. リデュース(発生抑制)
  2. リユース(再使用)
  3. リサイクル(再資源化)

リサイクルは最後の手段であり、リデュースの方が優先されます。にもかかわらず、実際の施策ではリサイクルが先行し、リデュースの取組が進みにくい構造的課題が指摘されています。

物質フロー3断面と代表指標
基本計画では、「入口(天然資源投入量)」「循環(循環利用率)」「出口(最終処分量)」という物質フロー全体の3つの断面に対応する数値目標が設定されています。これにより、定量的に社会全体の資源循環の進捗を評価する仕組みが整備されています。

災害廃棄物対策
大規模災害発生時の廃棄物処理を平時から計画・備蓄する重要性が高まっており、地方自治体の「災害廃棄物処理計画」の策定率が新たに評価指標として位置づけられています。

資金循環と金融機関の役割
計画には、金融機関や投資家も循環型社会の担い手として明記されています。これはESG投資やインパクトファイナンスの考え方と重なり、循環型経済への資金の流れが社会的に求められていることを示しています。

実際の問われ方

この種の問題は、「用語や施策の正確な理解」と「優先順位や構造の把握」が問われる傾向があります。

出題観点内容の例
指標と構造理解入口・循環・出口とそれぞれの数値目標
行動の優先順位リデュース→リユース→リサイクルの順序と実態
新規テーマの導入災害廃棄物対策、資金循環など、従来型計画との違い
担い手の明示国民、地方自治体、金融機関などステークホルダーの明確化

特に、⑤のように「もっともらしく見える表現」によって、優先順位を逆転させた選択肢が誤答として紛れ込む形式は頻出です。

試験での留意点

  • リサイクルは一見正解に見えやすいが、優先度は最下位である点に注意が必要です。
  • 「取り組みの遅れ」と「優先順位」を混同しないようにしましょう。進捗の遅れはリデュースの方に見られるという点が、直感と逆になりやすいポイントです。
  • リユースとリサイクルの違い(再使用と再資源化)を明確に区別することが、理解の深さにつながります。
  • 入口・循環・出口という物質フローの3区分は、SDGsの資源効率化ともつながる重要概念です。

用語の字面だけでなく、その背景にある戦略構造や社会的要請を把握することで、試験での選択肢判断にも確信が持てるようになります。

Ⅰ-1-37:公害関連法と規制対象の整理

背景にある問い

「うちの施設って、どの法律に基づいて届出が必要なんだろう」
工場やプラントの立地計画を立てる際、公害対策は避けて通れません。
排出ガス、騒音、廃水、土壌汚染など、影響が及ぶ可能性のある範囲は多岐にわたり、関係法令も複雑に見えることがあります。

特に現場では、「これは大気汚染防止法?それとも水質汚濁防止法?」「新幹線の騒音って、騒音規制法の管轄だったっけ?」といった法令の“カバー範囲”があいまいなまま業務が進んでいる場面も散見されます。

規制法令の対象や構造を誤解したままだと、法的な手続漏れや説明責任の不備に発展する恐れもあるため、出題される側にとっても、判断の“軸”を持っておくことが不可欠です。

キーワードで整理する

公害関連法の体系とカバー範囲
いわゆる「公害防止」関連法は、主に個別分野ごとに成立しており、以下のような代表的法令があります。

法律名主な対象
大気汚染防止法ばい煙、揮発性有機化合物、水銀などの大気排出
騒音規制法工場・建設機械等からの騒音(鉄道騒音は含まれない)
水質汚濁防止法工場排水・地下浸透による水質汚染
土壌汚染対策法有害物質に起因する土壌汚染(自然由来も対象)
ダイオキシン類対策特別措置法焼却施設等からのダイオキシン類の排出・排水など

それぞれの法律は、特定の媒体(空気、水、土壌など)に対する汚染を防ぐことを目的としており、媒体ごとの担当法令を横断的に整理しておくことで、試験でも実務でも混乱を防ぐことができます。

新幹線騒音は「騒音規制法」の対象外
本問の②のように、新幹線から発生する騒音は**「環境基本法」に基づく新幹線騒音基準**の対象であり、「騒音規制法」には含まれません。ここが試験で狙われやすいポイントです。

実際の問われ方

出題の焦点は、「各法の対象範囲の正誤」に集約されます。

出題観点ポイント例
媒体と法律の対応関係大気→大気汚染防止法、水→水質汚濁防止法、等
範囲のすり替え騒音規制法に含まれない新幹線などがよく狙われる
指定物質の扱い自然由来物質や地下浸透などが誤認されやすい

選択肢がすべて正しそうに見えるときこそ、**「何に基づく規制なのか」「対象はどの媒体か」**という視点で読み直すことが重要です。

試験での留意点

  • 騒音規制法=すべての騒音を規制するわけではない
     → 新幹線騒音は環境基本法に基づく個別基準に従うことを明確に区別する必要があります。
  • 水質汚濁防止法の「地下浸透」も対象であることは直感に反することが多く、見落とされやすい点です。
  • 土壌汚染対策法は「自然由来」の汚染も規制対象とされるため、「自然だから無害」と判断しないことが重要です。
  • ダイオキシン類対策特措法は大気・水質両方を規制対象とする法律であり、単独媒体に限定されない点に注意が必要です。

公害対策はメディアごとの“縦割り構造”を持ちながらも、総合的な環境管理が求められる領域です。法令ごとの対象を立体的に整理しておくことで、問題文に対する読解の精度が格段に高まります。

Ⅰ-1-38:環境政策における7つの政策手法とその分類

背景にある問い

「制度として整っているのに、なぜ現場では動かないのか」
再エネの導入を進めようとしても、導入率が伸び悩む。
省エネ設備の普及に補助金を付けても、なぜか反応が鈍い。あるいはPRTR制度の説明を受けても、現場担当者にとっては「何のための手続きか」が見えない。

こうした状況の背景には、政策手法とその狙いの不一致や、制度理解の乏しさがあることが多く見られます。
補助金、規制、手続き、情報提供…それぞれの手法は有効でも、**“どのような意図で適用されているのか”**を理解していなければ、その政策は機能しません。

環境基本計画では、環境政策を構成する7つの代表的な手法を体系的に整理しています。
制度を単に「あるもの」としてではなく、「何の手法として使われているのか」を問う視点が、実務でも試験でも不可欠です。

キーワードで整理する

第五次環境基本計画における政策手法の分類
環境政策を効果的に実行するため、同計画では以下の7つの手法が示されています(出題ではこのうち5つが対象)。

手法名特徴と例
直接規制的手法基準を定めて法的に義務付ける(例:ばい煙の排出基準)
枠組規制的手法情報の提出や届け出などの制度枠組(例:PRTR制度)
経済的手法税、補助金、排出権取引など市場メカニズムを活用(例:FIT制度、環境税)
情報的手法環境ラベル、報告制度、見える化による行動変容(例:エコマーク)
手続的手法合意形成や影響評価の枠組み(例:環境アセスメント)

再生可能エネルギーの固定価格買取制度(FIT)
FITは再エネ電力を一定価格で長期的に買い取る制度で、経済的手法に分類されます。事業者にとっての投資回収の見通しを安定させ、普及を促進することが目的です。

PRTR制度
化学物質の排出・移動状況を把握し、国に届け出る制度です。義務を課す直接規制ではなく、制度的枠組みを整え、自主的管理を促す点で「枠組規制的手法」に該当します。

環境アセスメント
事業計画の段階で環境影響を評価し、住民との合意形成を行う手法であり、手続的手法の代表例です。

実際の問われ方

本問のように、政策手法とその制度の具体例とのマッチングで出題されるケースは典型的です。

出題観点問われ方の例
手法の分類理解FITは経済的手法、アセスは手続的手法
制度の意図の理解PRTRは情報収集と自主管理を促す制度
混同しやすい領域規制系手法(直接/枠組)やアセス・FITの分類の取り違え

特に⑤のように、「制度が手続きで進む」=手続的手法と早合点してしまうと誤答しやすくなります。

試験での留意点

  • FIT(固定価格買取制度)は経済的手法に分類されます。制度の運用に手続きがあるとしても、手続的手法ではありません。
  • 環境アセスメント=手続的手法であり、合意形成や多様な主体の参加を重視する点が本質です。
  • PRTR=枠組規制的手法であり、「直接的な排出制限」ではなく、「情報を整備し公表することで行動を促す」設計になっています。
  • 環境ラベルやエコマークは情報的手法。行動変容を狙うもので、直接の法的拘束力は伴いません。

分類名に惑わされず、**「この制度の目的は何か?」「誰にどう働きかけているのか?」**という視点で捉えることが、制度理解と出題対応の両面で効果的です。

Ⅰ-1-39:環境アセスメントの対象事業区分(第一種・第二種・対象外)

背景にある問い

「この事業、アセス必要ですか?」
設計段階の会議でそう尋ねられたとき、明確に答えられる技術者は意外と多くありません。
たとえば、造成面積や延長距離、発電出力が境界線上にあると、判断が難しくなります。

特にインフラ整備やエネルギー関連施設の新設では、「まずアセスの有無を確認する」というのが初動対応の基本です。
ところが、どの施設が常に対象で、どれが条件付きなのか、そして対象外なのかを把握していないと、スケジュールやコスト、住民対応すべてが後手に回ることになります。

事業規模や種類に応じた制度的な位置づけを理解しておくことは、試験対策だけでなく、リスク回避の実務対応としても極めて重要です。

キーワードで整理する

環境影響評価法(環境アセスメント法)
新設される一定規模以上の施設が、環境に重大な影響を及ぼすおそれがあるかを事前に評価し、適切な回避・低減措置を講じるための法制度です。

対象施設は次のように区分されます。

区分特徴
第一種事業規模に関わらずアセス対象(法定義務)高速自動車国道、原子力発電所、ダム
第二種事業規模や立地により知事判断でアセス対象(個別判断)林道、風力発電所、放水路
対象外事業原則としてアセス対象外(制度の範囲外)下水処理場、堤防、太陽光発電所

例えば、「高速自動車国道」は環境影響が大きいため常に第一種事業として扱われます。一方、「林道」は第二種事業であり、地域条件や規模に応じて要否が判断されます。「下水処理場」や「太陽電池発電所」は通常アセス法の対象外です(ただし個別条例等に基づく手続が別途存在する場合あり)。

実際の問われ方

この問題では、以下の3区分に分類される具体的な施設の正誤組合せを問う形式です。

区分出題観点試験での想定例
(ア)第一種事業規模にかかわらず対象高速自動車国道、原子力発電所、新幹線など
(イ)第二種事業規模や立地により判断される林道、風力発電所、ゴルフ場など
(ウ)対象外事業原則としてアセス対象にならない下水処理場、堤防、太陽光発電所など

表面的な施設名の印象に流されず、「アセスの三分類」の構造に当てはめて整理することが鍵となります。

試験での留意点

  • 高速道路やダムは無条件で第一種事業に分類されるため、基本として押さえておく必要があります。
  • 風力発電所は第二種事業で、出力や立地(景観・鳥類等)によって判断が分かれます。一律ではありません。
  • 太陽光発電は、規模に関係なく原則アセス法の対象外です。近年、条例による個別規制は増加していますが、環境影響評価法そのものの対象ではない点に注意が必要です。
  • 「規模に関係なく」=常時対象、「規模による」=知事判断、「対象外」=制度外、という基本フレームで覚えると混乱を防げます。

施設名の印象や話題性に左右されず、「制度上の位置づけ」と「規模による分類」という2軸で判断する視点が問われています。分類マップを頭に描きながら選択肢を見直すことで、正確な判断につながります。

Ⅰ-1-40:環境教育・ESDと関係法制度の理解

背景にある問い

「環境に配慮する人材を育てるって、実際どこまでやればいいのか?」
現場では、「環境配慮型設計」「カーボンニュートラルへの理解」「地域との共生」などが求められる一方で、それらを実行する人材が育っていない、という根本的な悩みに直面します。

社内研修やCSR活動で“環境教育”という言葉はよく聞かれますが、そもそも何を教えるべきなのか、誰を対象にすべきなのかが曖昧なまま、パンフレット作成や清掃イベントにとどまっている事例も少なくありません。

環境教育に関する法制度は、学校教育にとどまらず、地域社会や企業、すべてのライフステージを対象に据えることが本質です。
「ESD(持続可能な開発のための教育)」という国際的文脈を踏まえて、総合的に捉えることが重要です。

キーワードで整理する

環境教育等促進法(2003年)
正式名称は「環境の保全のための教育等の推進に関する法律」。この法律は、学校教育だけでなく、生涯学習・地域活動・職業訓練・企業研修などを含む多様な場面での環境教育を総合的に支援するものです。

したがって、「学校における教育を専ら対象とする」という記述は誤りです。あらゆる年齢層・立場の人が、持続可能な社会の担い手となることを目的としており、その理念はESDとも強く結びついています。

ESD(Education for Sustainable Development)
日本語では「持続可能な開発のための教育」。2002年の持続可能な開発に関する世界首脳会議(ヨハネスブルグ・サミット)にて、日本が国際的に提唱し、ユネスコが主導して世界各国での推進が始まりました。現在は「ESD for 2030」という国際的枠組みが進行中です。

関連法制度との位置づけ

  • 環境基本法(第25条):国が環境保全のための教育・学習振興の責務を明記
  • 教育基本法(第2条):自然や環境への配慮を教育目標として明示
  • 学習指導要領:高等学校では地理歴史・公民・理科など各教科や「総合的な探究の時間」を通じてESDが展開されています

実際の問われ方

このテーマでは、環境教育の対象範囲・法制度・国際的枠組みといった複合的視点からの出題が多く見られます。

出題観点内容例
教育対象の誤認「学校教育に限定されている」などの誤記に注意
国際的起源の理解ESDは日本が提唱し、ユネスコが主導していることを問う
法制度の整理環境基本法・教育基本法・促進法のそれぞれの立場や目的の把握
教科横断的な取組高校教育におけるESDの実施科目や時間のイメージ

こうした問いは、**「正しそうに見えるが狭すぎる表現」**に対して、どこまでが誤りかを見抜く読解力が求められます。

試験での留意点

  • 環境教育=学校教育ではない。促進法の理念はすべての世代・場面を対象としています。
  • ESDは日本発祥の国際イニシアティブであり、単なる教育手法ではなく、「価値観・行動変容」を含む広範な概念です。
  • 環境基本法と教育基本法の違いに注意。前者は環境行政の基本理念、後者は教育全体の目標における環境意識の位置づけです。
  • 「教育の対象者」「教育の担い手」「教育の手段(教科・活動)」を、3層構造で押さえると混同を防ぎやすくなります。

環境教育に関する出題では、制度の条文や単語だけでなく、その理念・枠組みの全体像をどう捉えているかが試されます。出題文の中に“限定的すぎる表現”がないかを見抜く力が鍵となります。

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