このガイドは、ゼロから知識を積み上げるためのものではありません。
むしろ、すでにあなたが実務で積み重ねてきた経験――
現場での判断や対応、プロジェクトの中で「こうすべきだ」と感じてきたこと――
それらを言葉として再確認し、体系として整理するためのものです。
技術士(総監)の択一試験には、多くのキーワードが並びます。
ですが、実際には「知らなかったこと」よりも、「言葉としては使ってこなかったけれど、やってきたこと」が大半ではないでしょうか。
たとえば…
- 「利益は出ているのに、今使えるお金がない」
- 「人は足りているはずなのに、なぜか回らない」
- 「リスクは共有したはずなのに、意識がばらばらになる」
そんな現場の違和感に、名前を与えるのがキーワードであり、
それを「試験の問題でどう聞いてくるか」を合わせて確認するのがこのガイドです。
構成はすべて共通です:
- 背景にある問い(実務でよくある違和感からスタート)
- キーワードで整理する(「あの感覚」は、こういう言葉で説明される)
- 実際の問われ方(試験でどう聞かれるか)
- 試験での留意点(間違えやすいパターン・迷いやすいペア)
つまりこのシリーズは、
知識を“覚える”というより、「自分の中にあることを、言語と構造で納得する」ための読み物です。
現場の実感とキーワードをつなぐ視点で、これから一つずつ見ていきましょう。
- 令和6年度_背景から学ぶ「総監択一問題・キーワードガイド」
- 令和5年度_背景から学ぶ「総監択一問題・キーワードガイド」
- 令和4年度_背景から学ぶ「総監択一問題・キーワードガイド」
- 令和3年度_背景から学ぶ「総監択一問題・キーワードガイド」
- 令和元年度_背景から学ぶ「総監択一問題・キーワードガイド」
経済性管理
I-1-1:品質監理で用いられる図やグラフとその読み取り
背景にある問い
「この工程、なんとなくバラついてきた気がする…」
「原因は分かってる。でも、どう説明すればいいのだろうか」
製造ラインや業務プロセスの中で、品質のばらつきや不具合の発生原因に気づいたとき、多くの現場では経験や勘に頼った議論が先行しがちです。
しかし、定量的に“見える化”されたデータがあれば、関係者と共通認識を持ちやすく、説得力ある改善提案につながります。
そのとき役立つのが、品質管理で用いられる図やグラフです。
これらの図は、単なる「見やすさ」のためではなく、どの視点で問題をとらえるかを明確にする手段でもあります。
キーワードで整理する
現場の変化や問題を捉える際に用いる代表的な図には以下があります。
- パレート図
重要項目の優先順位を視覚的に整理する図。
不具合やミスの頻度の高い項目に注目することで、改善の効果が大きい部分を特定できます。
例:不備件数のうち、「日付」と「口座番号」の2項目で80%を占めるなら、そこから手を打つ。 - 管理図
プロセスが安定しているか、異常が生じていないかを監視するためのグラフ。
日々のばらつきを上限・下限線と比較し、工程の安定性を確認するのに用います。 - ヒストグラム
測定データの分布状況を棒グラフで示す図。
ばらつきの形や平均値の位置など、統計的特徴を把握するために用います。 - 散布図
2つの変数の関係性(相関)を見るための図。
例:作業時間と誤差との関係などを視覚的に把握できます。 - 系統図・連関図
要因や問題の因果関係・構造を整理する図。
論理構造を視覚化することで、複雑な因果関係の把握や課題の整理に有効です。
実際の問われ方
本問では、図やグラフの種類と読み取り内容の対応関係を正確に理解しているかが問われます。
| 選択肢 | 図の種類 | 内容の適切さ |
|---|---|---|
| ① | 系統図 | 誤り(ヒストグラム的内容) |
| ② | 連関図 | 誤り(管理図の記述) |
| ③ | 管理図 | 誤り(散布図的内容) |
| ④ | パレート図 | 正しい(頻度の高い要因の特定) |
| ⑤ | ヒストグラム | 誤り(因果関係の記述で連関図等) |
このように、図の用途と記述のズレを識別することがカギです。
試験での留意点
- 「図の名前」と「その図が“何を示すか”」の対応を反射的に判断できることが必要です。
特に、ヒストグラム・管理図・散布図の誤用には注意が必要です。 - 連関図と系統図は名称が似ていますが、前者は因果関係、後者は手段-目的関係の整理である点を混同しないようにしてください。
- パレート図の“80対20の法則”(重要な少数項目が大半を占める)は頻出ポイントであり、実務でも改善優先順位の根拠として重宝されます。
このように、品質管理の各図は、「問題をどの視点で切り取るか」を整理するツールであり、試験でも図の用途と文脈の整合性を問う形で頻出します。理解の整理と図解の活用経験が、実務にも直結する内容といえます。
I-1-2:NPVと投資判断
背景にある問い
ある日、部内のプロジェクト会議でこう言われました。
「どれに投資するか、金額は一緒だから、4年間の合計利益で決めましょう」
あなたは違和感を覚えます。「4年後の100万円と1年後の100万円って、本当に同じ価値なんだろうか?」
時間とお金の関係は、普段の生活でも実感されるものです。
例えば、今すぐもらえる1万円と、4年後にもらえる1万円なら、前者のほうがありがたく感じるはずです。
それは、時間が経つほどお金の価値が目減りするという感覚に基づいています。
では、この「価値の時間的変化」をどうやって投資判断に取り入れるのか。
その答えが、**NPV(正味現在価値)**という考え方にあります。
キーワードで整理する
それ、実は「NPV」と呼ばれています。
NPV(Net Present Value)は、将来得られるキャッシュフローの現在価値の合計から、初期投資額を引いた値です。
ただし今回の問題では初期投資が共通であるため、単純に“利益の現在価値の合計”が最大のものを選ぶという判断になります。
現在価値とは、「将来の金額を、ある利率(割引率)で現在の価値に換算する」ことです。
例えば、割引率3%で1年後に得られる100は、現在価値で「100 ÷ 1.03 ≒ 97.09」となります。
年数が増えれば増えるほど、その価値はさらに低くなります。
よって、同じ金額でも早く得られる方が有利という判断が可能になります。
実際の問われ方
本問では、割引率3%に基づいて、4年間に得られる金額の現在価値の合計を比較する問題です。
表計算や電卓なしで、概算での判断力を問う設計といえます。
| 投資先 | 特徴的な点 | 計算上の注目点 |
|---|---|---|
| A | 1年目180が大きい | 割引影響が小さく有利 |
| B | 2年目以降のみ | 価値が目減りしやすい |
| C | 均等型だが金額小 | 総額的に不利 |
| D | 1年目ゼロ | 開始が遅く不利 |
| E | 1〜2年目に収益あり | Aに次いで有利か |
選択肢①Aが、他と比べて1年目に多くの金額を得られるため、現在価値ベースでは最も高くなるというのがポイントです。
試験での留意点
- 「早く得られるお金ほど価値が高い」という感覚が重要です。
金額の合計ではなく、**“価値の合計”**を見るという視点の転換がカギです。 - 割引率の数値は低くても影響はあります。
特に3〜5年の期間では、初年度の金額の影響力が大きいことを押さえてください。 - 「NPVの定義」そのものが問われるパターンもありますが、今回のように計算思考に誘導する出題にも注意が必要です。
- よくある誤解として、「金額の合計が最大なら有利」と短絡的に考えてしまうケースがあります。
それでは、現在価値の考えを無視することになり、試験では誤答につながりやすくなります。
このようにNPVは、単に投資判断に用いるテクニックではなく、**「時間と価値の関係をどう評価するか」**という根本的な視点を試されるテーマです。
問題文を読んだときに、「早いほうが有利」「現在価値に換算すべき」という直観を持てるかが、理解の深さを分ける要素といえます。
I-1-3:WBSとプロジェクトマネジメント知識体系(PMBOK)
背景にある問い
新しい業務を任されたとき、上司からこう言われることがあります。
「まず全体を洗い出して、スケジュールと役割を見える化してくれ」
そこで表計画やタスク一覧を作ってみるものの、途中で抜けや重複に気づいてやり直し…。
「このやり方で合っているのか?」「どこまで細かくすれば良いのか?」と悩む場面も少なくありません。
こうした悩みは、プロジェクトの失敗要因としてよく見られます。
プロジェクトは、明確なゴールがあり、期限があり、チームで協力して進めるものです。
だからこそ、作業の全体像を適切に構造化し、役割と順序を明確にする手法が求められます。
その体系的な指針となるのが、**PMBOKガイド(プロジェクトマネジメント知識体系ガイド)**です。
キーワードで整理する
それ、実はPMBOKにおける**WBS(Work Breakdown Structure)**と呼ばれる考え方です。
WBSとは、プロジェクトの成果物や作業範囲を、階層構造で段階的に分解したものです。
「何をやるか」が抜け落ちたり、重複したりしないよう、作業範囲を体系的に整理するツールとして使われます。
そしてこのWBSと混同されがちなのが、**CPM(Critical Path Method)**です。
CPMは、プロジェクトスケジュールの中で、**遅れると全体工期が延びる「最も重要な作業経路」**を見つけ出す技法であり、WBSとは目的も形式も異なります。
その他、PMBOKでは以下のようなキーワードも頻出です。
- 三点見積り:楽観・悲観・最可能の3つの所要時間から平均を求める見積技法
- パラメトリック見積り:過去データや単位作業当たりのコストなどを用いた定量的な見積り
- ガントチャート:時間軸と作業を対応づけて視覚化するスケジュール表
- リスク対応戦略:脅威に対する回避・軽減・転嫁・受容などの対応策
実際の問われ方
本問では、PMBOKガイド第6版に基づく各要素の定義や機能の正誤判断が問われています。
| 選択肢 | 内容 | 判断ポイント |
|---|---|---|
| ① | プロジェクトの定義 | 適切(有期性+成果物) |
| ② | CPMの説明 | 不適切(WBSの内容) |
| ③ | 見積り手法の種類 | 適切(代表的技法) |
| ④ | ガントチャートの定義 | 適切(構成要素明確) |
| ⑤ | リスク対応戦略 | 適切(代表的な分類) |
CPMとWBSの違いを取り違えると誤答しやすいため、範囲分解と工程計算の区別が肝要です。
試験での留意点
- WBSとCPMは混同注意:
WBSは“作業の網羅的洗い出し”であり、CPMは“作業の時間的影響分析”です。 - PMBOKの用語は日常用語と似て非なる定義が多いため、表面的な印象ではなく、その機能や使われる場面を具体的に思い描いて理解する必要があります。
- 三点見積りとパラメトリック見積りも混同されがちですが、前者は不確実性への対応、後者は数値モデルの活用という違いがあります。
PMBOKは単なる用語集ではなく、プロジェクトを構造的・体系的に扱うための指針です。
総監では、こうしたマネジメント知識を複数キーワードの比較や機能整理を通じて問う出題が中心であるため、誤認しやすいペアの把握と実務への想像力が試される構成といえます。
I-1-4:意思決定支援における数理的手法とその使い分け
背景にある問い
新しい企画を選定する場面で、上司が言いました。
「最適解がどれか、科学的に絞ってくれ。感覚や経験だけじゃ、説得力に欠ける」
現場では、多数の選択肢が並ぶ中で「最も良い案」を選ぶ必要があります。
しかもその評価基準は複数ある場合が多く、参加者の利害や立場も異なります。
感覚や会議だけに頼ると、場当たり的な判断や根拠の不透明さが残り、あとで意思決定の正当性を問われることもあります。
このような状況で重要になるのが、科学的・数理的な手法による計画・管理の支援です。
複雑な判断を支える「考え方のフレーム」を理解しておくことが、技術経営における信頼性と再現性を高めます。
キーワードで整理する
この問いに関わる主な手法は以下の通りです。
- ゲーム理論
複数の意思決定者(プレイヤー)が互いに影響し合う状況を数学的に分析する枠組みです。
例えば、価格競争や交渉などで、相手の出方によって最適行動が変わる状況をモデル化します。
大きく**非協力ゲーム(戦略的競争)と協力ゲーム(合意形成や連携)**に分けられます。 - 線形計画法(LP)と整数計画法(IP)
目的関数と制約条件が一次式で構成される最適化手法であり、連続変数の場合に効率的な解法があります。
ただし、変数に整数制約があると解の探索空間が広がり、計算が難しくなります。 - 多目的最適化
評価軸が複数ある場合に、それぞれの目的をすべて満たす最適解は通常存在せず、
**どの目的もこれ以上良くできない解(パレート最適解)**の集合を探すという考え方になります。 - デルファイ法
専門家複数名による匿名アンケートを複数回繰り返し、意見の収束を図る合意形成手法です。
個々の回答に対してフィードバックを行い、認識の変化を促します。
「回覧形式のアイデア出し」とは異なります。 - 階層化分析法(AHP)
複数の評価基準がある意思決定問題を、階層構造で整理し、ペア比較により重みづけを行う手法です。
「似たものを群に分ける手法」は**クラスター分析(cluster analysis)**の説明です。
実際の問われ方
本問では、各手法の定義や特徴、適用対象の違いが問われています。
選択肢③が正しく、それ以外は「似た言葉・混同しやすい手法」の記述になっている点がポイントです。
| 選択肢 | 誤りの理由 | 正しいキーワード |
|---|---|---|
| ① | 整数制約を加えると解が困難になる | 整数計画法 |
| ② | パレート最適解は通常複数ある | 多目的最適化 |
| ④ | 回覧形式はブレーンライティング的発想 | デルファイ法 |
| ⑤ | 分類手法の説明 | AHPではなくクラスター分析 |
試験での留意点
- 名称と機能のズレに注意が必要です。
AHPとクラスター分析、デルファイ法とブレーンライティングのように、見た目が似ていて目的が異なる手法は混同されやすく、頻出の誤答誘導ポイントです。 - 数理モデルの得意・不得意も押さえておきましょう。
連続変数は線形計画法で効率的に扱えますが、**離散的制約(整数や順序)**があると計算難度が一気に上がります。 - 最適解が一つであるとは限らないこと。特に多目的最適化では「最良解が複数ある」前提で解釈するのが基本です。
この問題は、単なる用語の暗記ではなく、「似た手法のどこがどう違うか」「いつ使うか」という構造的理解を試すものです。
意思決定の背景にある数理的手法を整理しておくことで、現場判断にも論理的な裏付けを与えることができます。
I-1-5:サプライチェーン途絶リスクとロバストネス・レジリエンス
背景にある問い
災害、パンデミック、地政学リスク。どれも自社ではどうにもならない外部要因です。
「部品が入ってこない」「工場が止まった」――こうした状況下で、現場が焦り、上層部は供給責任を問われます。
通常時は「コスト最小化」や「在庫の圧縮」が推奨されますが、いざ非常時になると、「なぜ複数ルートを確保していなかったのか」「サプライヤの稼働状況をなぜ把握していなかったのか」といった、調達の脆さが批判の的になります。
企業が問われているのは、コスト効率とリスク耐性の両立です。
そこで注目されるのが、サプライチェーンのロバストネスとレジリエンスという考え方です。
キーワードで整理する
それ、実は「ロバストネス」と「レジリエンス」に関係する考え方です。
- ロバストネス(Robustness)
**外乱が発生しても性能を維持する強さ(耐障害性)**を意味します。
例:複数調達先を確保し、どこかが止まっても全体供給は維持される体制。 - レジリエンス(Resilience)
**一時的に機能が低下しても、素早く回復する能力(復元性)**を指します。
例:被災後に代替サプライヤを早期に立ち上げるしくみや、データ連携による迅速な意思決定。
これらを高めるための平常時の仕込みとして、以下のような施策が推奨されます。
- サプライヤ情報の一元管理:ボトルネックや地理的集中リスクの把握
- 複数調達ルートの確保:代替供給体制の構築
- 部品の標準化・共通化:仕様統一による柔軟な調達
- 供給側への支援:サプライヤの災害対策や設備更新への協力
一方、選択肢②にあるような「リードタイム・発注間隔の短縮」は、在庫の削減には寄与しますが、非常時の緩衝材がなくなるため、むしろリスク耐性が下がる方向に働きます。
実際の問われ方
本問では、**サプライチェーン途絶リスクへの事前方策として“適さないもの”**を選ぶ形式です。
| 選択肢 | 要点 | 適切性 |
|---|---|---|
| ① | サプライヤ情報の可視化 | ○ |
| ② | 発注頻度を高め在庫削減 | ×(緩衝力が弱まる) |
| ③ | 複数供給体制 | ○ |
| ④ | サプライヤへの支援体制 | ○ |
| ⑤ | 部品の共通化・標準化 | ○ |
このように、一見効率化に見えても、リスク耐性を弱める施策は見極めが必要です。
試験での留意点
- 「効率化=正しい」と短絡的に考えないこと。
特に発注頻度や在庫削減は、平時のコストメリットと非常時の脆弱性を天秤にかける必要があります。 - ロバストネスとレジリエンスの違いを整理すること。
「壊れにくい」と「壊れても戻る」は異なる概念であり、試験では対比的に問われることがあります。 - 「一元管理」や「標準化」などは、一見地味なようでもシステム全体の柔軟性を高める効果があることを理解しておくと、実務にも応用が利きます。
このように、サプライチェーンリスクの対応には、単に目先の改善ではなく、全体構造としての耐性と復元力の設計が問われています。
試験でも、コスト重視とリスク耐性のバランス感覚を評価するような設問構成がなされている点に注目する必要があります。
I-1-6:標準原価計算と原価差異分析
背景にある問い
「予算通りにいかなかった理由を説明してくれ」
上司にそう言われ、慌てて実績データをかき集める。
材料費は想定より高かったが、実は単価は下がっていた。作業時間は短縮できたが、賃金が高騰していた――。
このように、現場の実績を「高い」「安い」だけで評価すると、何が問題だったのかが不明確になります。
「価格が問題か、数量が問題か」「作業効率の問題か、単価設定の問題か」――こうした視点で分解して評価できなければ、改善の方向性も見えません。
そのため、製造業では標準原価と実際原価の差を要因別に分析することが広く行われており、これを原価差異分析といいます。
キーワードで整理する
このような分析手法は、標準原価計算の中でもとくに原価差異分析と呼ばれています。
原価差異分析とは、あらかじめ設定された標準原価と、実際に発生した実際原価との差異を要因別に分解し、コスト管理や改善指標とする手法です。
ここでは2つの主要な原価要素に着目します:
- 直接材料費差異
=(標準単価 − 実際単価)× 実際消費量 → 価格差異
+(標準消費量 − 実際消費量)× 標準単価 → 数量差異 - 直接労務費差異
=(標準賃率 − 実際賃率)× 実際作業時間 → 賃率差異
+(標準作業時間 − 実際作業時間)× 標準賃率 → 作業時間差異
差異には、以下のような評価が付きます:
- 有利差異(予算より実績が安い)
- 不利差異(予算より実績が高い)
この評価をもとに、どこに要因があるかを分析し、改善策に反映します。
実際の問われ方
本問では、標準原価・実際原価の条件が与えられ、それを基に計算結果の正誤判断を求めています。
与えられたデータから、標準原価と各差異を計算できます:
- 標準直接材料費:500円/kg × 1,000kg = 500,000円
- 実際直接材料費:450円/kg × 1,100kg = 495,000円
→ 差異:5,000円(有利) - 数量差異:(1,000 − 1,100)× 500 = −50,000円(不利)
- 標準直接労務費:1,000円/時間 × 500時間 = 500,000円
- 実際直接労務費:1,200円/時間 × 400時間 = 480,000円
→ 差異:−20,000円(有利) - 賃率差異:(1,000 − 1,200)× 400 = −80,000円(不利)
- 作業時間差異:(500 − 400)× 1,000 = 100,000円(有利)
→ 労務費全体差異:−80,000円(不利)+ 100,000円(有利)= 20,000円(有利)
選択肢⑤が「不利差異」としている点が誤りです。
試験での留意点
- 計算式の掛け順を取り違えるミスが起こりやすいため、必ず「差×基準量 or 実際量」で整理する習慣が必要です。
- 差異の正負評価と「有利・不利」の意味の混同に注意が必要です。
マイナスの差異=常に不利とは限らず、「原価が下がった」場合には有利と評価されます。 - 数量差異と価格差異、作業時間差異と賃率差異は、それぞれ異なる改善方針につながるため、どちらに要因があるかを区別できる視点が問われます。
原価差異分析は、単なる計算問題にとどまらず、「どこを改善すべきか」を導くための実務的なツールです。
本問のように、数字と評価の組み合わせを見抜けるかが、単なる暗記と理解の差を分ける出題構造となっています。
I-1-7:財務諸表とキャッシュ・フローの理解
背景にある問い
「利益が出ているのに資金繰りが苦しい」
「売上は順調だが、なぜか現金が減っている」
このような経験に直面したことがある管理職や技術者は少なくありません。損益計算書を見ても黒字。
だが手元資金は心許ない。
そうしたとき、「財務諸表のどこを見れば本当の状況が分かるのか?」という疑問が浮かびます。
企業の実態を多面的に把握するには、**損益計算書(PL)・貸借対照表(BS)・キャッシュ・フロー計算書(CF)**という3つの視点が必要です。
そしてこれらは、それぞれが異なる「時間軸」「対象」「表現方法」を持っています。
キーワードで整理する
それ、実は「財務諸表の三面性」と「キャッシュ・フローの加減構造」に関係しています。
- 損益計算書(PL)
ある会計期間(通常1年)に発生した収益と費用を記録し、最終的に利益(損失)を算出します。
現金の出入りと必ずしも一致しない(例:減価償却費、売掛金)ことが特徴です。 - 貸借対照表(BS)
ある一時点における資産・負債・純資産の構成を示します。
過去からの蓄積の結果であり、期末時点のストック情報です。 - キャッシュ・フロー計算書(CF)
当期の現金の流れを営業・投資・財務の3区分で示します。
特に間接法では、当期純利益に非資金支出(例:減価償却費)を加え戻すなどの調整が行われます。
例:
営業CF=純利益+減価償却費+運転資本の増減 など
また、補足的に押さえるべき概念として:
- フリー・キャッシュ・フロー(FCF)
営業CF − 投資CF により得られた、「事業活動で得られた資金のうち自由に使える分」を指します。
財務CF(借入や配当等)は含まれません。
実際の問われ方
本問では、3つの財務諸表の役割と内容、キャッシュ・フロー計算書の構造について正誤判断を問う設問です。
選択肢④が正解であり、それ以外は帳票の役割や構成要素に対する誤解を誘う記述になっています。
| 選択肢 | 主な誤りの内容 |
|---|---|
| ① | PLは借入や返済などの取引を直接記載しない |
| ② | BSは期末残高の表示であり、個別取引は表示しない |
| ③ | CFに収益・費用や残高情報は含まれない |
| ④ | 減価償却費は非資金支出として加え戻される → 正解 |
| ⑤ | FCFは営業−投資CF、財務CFは含まれない |
試験での留意点
- “キャッシュ・フロー”=現金の流れという本質を忘れずに。
利益とキャッシュのズレは、非資金項目(減価償却、棚卸資産の増減など)によって生じます。 - 「残高を見るのはBS」「期間の変化を見るのはPLやCF」など、帳票の視点の違いを整理しておくと混乱を避けられます。
- 「フリー・キャッシュ・フローは財務活動を含まない」という点は試験でも実務でもよく誤解されるポイントです。
財務諸表はそれぞれが異なる視点から企業を映し出すものであり、一つの数字を鵜呑みにしない総合的な視野が問われています。
本問は、名称や定義の暗記以上に、構造と役割の違いを理解しているかを見抜く設計になっています。
I-1-8:設備保全の分類(改善活動と維持活動)
背景にある問い
「なぜこの機械は何度も同じ故障を繰り返すのか」
「故障対応でラインが止まり、結局残業になる」
製造現場では、機械設備のトラブルが生産性・納期・安全性に大きな影響を及ぼします。
一方で、手当たり次第の修理や過剰な点検では、コストも人手もかさみます。
このような現場では、突発対応と計画的保全のバランスが求められますが、それを分類・整理するための視点が明確でないと、「場当たり保全」や「過剰保全」に陥りがちです。
このとき重要となるのが、「維持」と「改善」という保全活動の2つの機能的視点です。
キーワードで整理する
それ、実は「保全活動の2分類(維持活動と改善活動)」という整理の仕方があります。
- 維持活動
設計時の性能・状態を正常に保ち、劣化や故障を未然に防ぐことを目的とする活動。
主なものに以下があります:- 事後保全:壊れてから修理する(故障を前提)
- 予防保全:時間や使用回数に応じて定期的に交換・点検する(故障の予防)
- 予知保全:振動・温度などから劣化の兆候を読み取り、故障前に対応する(状態監視型)
- 改善活動
既存の設備や保全方法をより故障しにくく・効率的に改善することを目的とする活動。
主なものに以下があります:- 改良保全:設備構造や運用方法を見直して、故障要因そのものを減らす設計・改善
- 保全予防:将来の保全負荷を軽減するために、設備設計段階から保守性・信頼性を考慮する
このように、改善活動は「未来に向けて壊れにくくする」、維持活動は「今の状態を保つ」という違いがあります。
実際の問われ方
本問では、5つの保全分類から「改善活動」と「維持活動」に属するものを正しくペアにできているかを問う設問です。
| 活動分類 | 主な分類 | 概要 |
|---|---|---|
| 保全予防 | 改善活動 | 設計段階から保守性を高める |
| 改良保全 | 改善活動 | 現設備を改造・改善 |
| 予防保全 | 維持活動 | 故障を未然に防ぐ計画点検 |
| 事後保全 | 維持活動 | 故障後に修理 |
| 予知保全 | 維持活動 | 劣化兆候を監視し事前対応 |
選択肢③の「改善活動=保全予防・改良保全」「維持活動=事後保全・予防保全」が唯一正しい対応となります。
試験での留意点
- 予防保全と保全予防は語感が似ていますが、維持か改善かで真逆の位置づけとなるため注意が必要です。
- 改良保全は「壊れたから修理する」のではなく、「壊れにくくするために設計や構造を見直す」点がポイントです。
- 予知保全は近年注目されるIoT保全の文脈で語られることもあり、「高機能=改善」と誤解されがちですが、あくまで状態を維持する保全活動に分類されます。
設備保全の分類は、「今を守るか、未来を変えるか」という機能的な視点を持つことで、保全戦略そのものの組み立てに役立ちます。
試験ではこのような分類構造と概念の混同を見抜く力が問われており、単なる名称暗記では太刀打ちできない設問設計になっています。
人的資源管理
Ⅰ-1-9:高齢化社会と雇用に関する法制度
背景にある問い
「うちの部署、定年になったらそのまま辞める人と、継続雇用で再雇用される人がいてバラバラだけど、会社は好きに決めていいのか?」
「男女で定年年齢が違ったと聞いたけど、今もそれってありえるのか?」
——高齢化社会の中で、企業の雇用制度をどう設計すべきかは、現場でもしばしば議論の的になります。
人手不足の時代において、高齢者の活用は単なる“福祉”ではなく、戦略的な経営課題でもありますが、その前提には、労働法制の正確な理解が求められます。
キーワードで整理する
このテーマに関連する法令の基盤となるのが、以下の三つです:
- 男女雇用機会均等法
雇用における性別による差別の禁止を定めた法律です。募集・採用・昇進・教育訓練・定年・退職・解雇などにおいて、性別を理由とする不利益取扱いを禁じています。特に定年制度に関して、男女で異なる年齢を設けることは原則として認められていません。 - 高齢者雇用安定法
65歳までの安定的な雇用を確保するため、企業に対して以下のいずれかの措置を義務付けています:- 定年の引上げ
- 定年の廃止
- 継続雇用制度の導入(再雇用・勤務延長)
また、70歳までの就業機会確保措置についても、努力義務が設けられています。
- 雇用保険法
原則として65歳以上でも、週所定労働時間が20時間以上などの条件を満たせば雇用保険の加入対象となります。以前は対象外とされていましたが、制度改正により範囲が拡大されています。
実際の問われ方
本問では、「定年制度」や「継続雇用制度」について、法令上の許容範囲が問われています。選択肢は一見もっともらしい表現で構成されていますが、以下のような視点で判断が求められます:
- 男女間の定年差は明確に禁止されている(①:正しい)
- 雇用保険の対象年齢の誤認(②:誤り)
- 定年を廃止しても年齢制限のある募集は不可(③:誤り)
- 継続雇用制度はあくまで企業側の条件設定が可能(④:誤り)
- 子会社での継続雇用も認められている(⑤:誤り)
試験での留意点
- 「均等法」「高年法」「雇用保険法」など、分野をまたいだ法令知識が必要です。単体での記憶ではなく、制度間の関係性に着目してください。
- 継続雇用制度=希望者全員を希望通りに雇う義務があるという誤解はよく見られます。企業には合理的な範囲で条件設定が認められており、「希望通り雇用」とは限りません。
- 雇用保険や年金制度の対象年齢の変化にも注意。過去の制度との混同に気をつけましょう。
この問題は、単なる知識の暗記ではなく、「制度の背景と目的に照らして、何が許されているか」という判断力が問われています。高齢化対応を“人材戦略”の文脈でとらえ直すきっかけにもなります。
Ⅰ-1-10:メンタルヘルスケアとストレスチェック制度
背景にある問い
「最近、同僚が突然休職した」
「部下の様子が明らかにおかしいけど、どう対応すればいいのか分からない」
——現場ではこうした不安や戸惑いが頻繁に聞かれます。
メンタルヘルス不調は、本人の問題だけではなく、職場環境や組織体制とも密接に関係しています。
企業がどのようにこれに対応すべきかは、管理職や経営層にとっても避けられないテーマです。
法制度の整備が進んでいるとはいえ、実務上の混乱は少なくなく、「やらなければならないこと」と「やっても良いこと」の線引きが曖昧になりがちです。
キーワードで整理する
このような状況に対応する制度として、以下のキーワードが軸となります。
- ストレスチェック制度
常時50人以上の労働者を使用する事業場において、年1回の実施が義務付けられた制度です。目的は一次予防(不調の早期発見と職場改善)にあり、医師や保健師などが調査票に基づいてストレス状況を把握します。面接指導は高ストレス者に限定され、本人の申し出が前提です。 - 衛生委員会
常時50人以上の労働者がいる事業場において設置が義務付けられた委員会であり、労働者の健康の保持増進策について調査・審議します。メンタルヘルス対策もその対象に含まれます。 - 産業医制度と労働時間通知義務
産業医の選任義務は常時50人以上の労働者を使用する事業場に課されますが、未満の事業場では努力義務にとどまります。
一方で、法定時間外労働が月80時間超の場合、事業者には当該労働者への労働時間通知義務があります(過労死等のリスクに備えた仕組み)。
実際の問われ方
本問では、ストレスチェック制度や関連する法制度の範囲・義務・裁量の違いが問われています。選択肢はすべて制度の細部に踏み込んでおり、曖昧な知識では正誤判断が難しい構成となっています。
| 観点 | ポイント |
|---|---|
| 義務か努力義務か | ②のように、事業場の規模による違いに注意 |
| 対象者の定義 | ⑤のように「全員」への義務と誤認しやすい |
| 判断主体 | ④のように、医師ではなく事業者が最終決定 |
試験での留意点
- ストレスチェック制度は「義務の対象と内容」を正確に押さえる必要があります。たとえば、「実施の義務はあるが、面接指導は本人の申出が必要」など、段階的に整理しておくと誤解しにくくなります。
- 「面接指導の申出に事業者が応じる義務がある」といった記述は誤りです。選定された高ストレス者に限定される義務であり、その他の労働者は努力義務的対応となります。
- 衛生委員会の役割や、労働時間通知義務なども、50人ラインで義務内容が変化する点に注意が必要です。
この分野の出題は、制度の「意図と限界」を理解しているかを確認する意図があります。人材マネジメントや安全配慮義務の観点からも、法令知識を現場感覚と結びつけておくことが求められます。
Ⅰ-1-11:障害者雇用促進法と雇用制度の仕組み
背景にある問い
「うちは中小企業だから障害者雇用は義務ではない?」
「精神障害のある人も法定雇用率にカウントされるのか?」
「パートやアルバイトって対象になる?」
現場では、障害者雇用に関する誤解やあいまいな理解が根強く残っています。
一方で、障害者の活躍推進は企業の社会的責任であると同時に、多様な人材を活かす組織力そのものが問われるテーマです。
制度を誤って理解したままでは、適切な雇用管理も実現できません。
キーワードで整理する
障害者雇用に関しては、以下の制度の構造を押さえておくことが重要です。
- 障害者雇用促進法
すべての企業に対して、障害者に対する均等な機会の提供と差別の禁止を定めた法律です。障害者のみを対象とした求人も合理的な区分であれば差別に該当しません。採用後の合理的配慮も事業主の義務とされています。 - 障害者の範囲(法定雇用率の対象者)
身体障害者・知的障害者・精神障害者のうち、精神障害者は精神障害者保健福祉手帳の交付を受けた者に限り、法定雇用率の算定対象となります。これは最も誤解されやすい点のひとつです。 - 障害者雇用納付金制度
常用雇用労働者100人超の企業を対象とし、法定雇用率未達成の場合に納付金を徴収します。逆に、達成・超過している企業には調整金や報奨金が支給される仕組みです。義務の達成を財政面からも促す構造です。 - 対象労働者の範囲
パートやアルバイトであっても、一定の労働時間や継続的雇用が見込まれる場合は、雇用率算定の対象に含まれます。雇用形態ではなく、雇用の実態が基準となる点に留意が必要です。
実際の問われ方
本問では、制度の対象範囲・義務内容・運用実態が問われています。特に、以下のポイントが出題意図として浮かび上がります。
| 選択肢の論点 | 判定の根拠 |
|---|---|
| ①「障害者のみの求人=差別」 | 誤り(適切な理由があれば可) |
| ②「精神障害者=手帳が必要」 | 正しい(限定要件あり) |
| ③「すべての企業が納付対象」 | 誤り(100人超が対象) |
| ④「国・自治体に雇用率なし」 | 誤り(法定雇用率あり) |
| ⑤「パート・バイトは対象外」 | 誤り(条件により含む) |
試験での留意点
- 「対象となる障害者の範囲」は最も混同しやすいポイントです。精神障害者=手帳保有者のみ対象である点を正確に押さえる必要があります。
- 納付金制度は100人未満の企業は対象外である点を見落とさないようにしてください。
- 「障害者のみを対象とした求人は違法か」という設問は直感に反する内容であり、法の趣旨に照らした合理性があるかどうかを基準に判断することが求められます。
- 「パート・アルバイト=対象外」という思い込みも多く見られますが、週所定労働時間や雇用見込期間により含まれるため、形式的な雇用形態ではなく実態で判断する視点が問われます。
この問題の本質は、制度の網羅的理解ではなく、「誰をどう雇うべきか」という現場判断に制度をどう適用するかにあります。法律の文言ではなく、働く現場のリアリティと制度設計の接点を意識することで、より正確な対応力が求められます。
Ⅰ-1-12:ダイバーシティ・マネジメント
背景にある問い
「うちの会社も女性管理職が増えたが、それで何が変わったのか分からない」
「外国人や障害者も採用しているけど、現場では結局配慮ばかり求められて非効率ではないか」
——こうした声は現場でしばしば耳にします。
ダイバーシティ推進という言葉は浸透してきたものの、「人権配慮」や「見せかけの多様性」にとどまり、企業活動の本質的な成果につながっていないケースも少なくありません。
経営資源としての人材の多様性を、いかに成果に結びつけていくのか。そこに、ダイバーシティ・マネジメントの本質があります。
キーワードで整理する
この問いに対して、「それ、実はこういう名前がついています」と指し示すべき概念がダイバーシティ・マネジメントです。
- ダイバーシティ・マネジメント
年齢、性別、国籍、宗教、障害、性的指向、雇用形態、ライフスタイルなどの「違い」を個性として尊重し、多様な人材を組織の力に変える経営手法のことを指します。
単なる人権配慮や制度導入にとどまらず、組織パフォーマンスの向上や企業競争力の強化に直結させることが目的です。 - 人的資本経営との関係
経済産業省が推進する「人的資本経営」の柱のひとつとしても位置づけられており、企業価値や業績との連動性が強調されています。
たとえば、ジェンダーや国際的多様性に富んだ企業は、そうでない企業に比べて業績が良いという統計的傾向も示されています(McKinsey等による報告)。 - ワークライフバランスとの連携
ダイバーシティを実質化するには、育児・介護・疾病・副業など多様なライフスタイルとの両立支援が欠かせません。働き方改革や柔軟な労働時間制度は、そのための重要な手段です。
実際の問われ方
本問では、以下のような論点が問われています。
| 選択肢の論点 | 判定 | 補足 |
|---|---|---|
| 差別解消・人権との関連(①) | 適切 | ダイバーシティの基本理念に合致 |
| 業績指標との連携を否定(②) | 不適切 | 成果指標との連携こそが経営上の価値 |
| 量的・質的確保の両面を重視(③) | 適切 | 多様性の質的価値に注目 |
| 働き方改革との関係(④) | 適切 | 制度面での土台構築として重要 |
| きめ細やかな評価・活用(⑤) | 適切 | 人材の特性を踏まえた個別対応の必要性を反映 |
特に②は、ダイバーシティと経営成果は本来連動すべきものであり、むしろそこが制度の要であるという認識が必要です。
試験での留意点
- 人権・制度・経営のいずれか一側面だけに偏った理解は誤答に直結します。ダイバーシティ・マネジメントは、倫理・制度・成果の三要素を統合する概念です。
- 「多様性=配慮すべき課題」として扱ってしまうと、②のような誤認を誘います。あくまで“強み”としての活用が求められている点に注意が必要です。
- 「ワークライフバランス」や「評価制度の見直し」といった要素も、単独で取り上げられると見落とされがちですが、実質的なマネジメント施策の一部として位置づけておくと判断を誤りにくくなります。
このテーマでは、「理念」と「成果」のどちらにも偏らないバランス感覚が問われます。多様性を組織の表面にとどめず、評価・配置・制度改革といった実務に落とし込めているか。それが、現代的なマネジメントの核心といえます。
Ⅰ-1-13:ジョブローテーションの意義と適用条件
背景にある問い
「新しく異動してきた社員が戸惑っているが、そもそもこの異動に意味があるのか」
「スペシャリスト志向の部下に、なぜゼネラリスト的な配置転換が必要なのか」
「職務給で運用しているが、異動すると評価基準が変わってしまう」
職場では、人事異動のたびに、こうした現場の疑問が繰り返されます。社員個々の専門性と、組織全体としての柔軟性・適応力。このバランスをどうとるべきかという問いに対して、企業が導入する仕組みの一つがジョブローテーションです。
キーワードで整理する
このような制度は、「それ、実はこういう名前がついています」として、ジョブローテーションと呼ばれます。
- ジョブローテーション
職員を計画的かつ定期的に異なる部署や職種へ異動させる制度です。目的は、社員の視野拡大や組織理解の促進、変化への対応力向上、ゼネラリストとしての育成にあります。
とくに長期雇用を前提とした人材育成戦略に適しており、日本型雇用システムの中核的手法の一つといえます。 - 適用の特徴と制約
適性重視ではなく、組織視点での人材育成と柔軟な組織運営が中心です。したがって、専門性を極めるスペシャリスト志向には合わず、また職務給制度との相性は良くない(ジョブが変わると処遇・評価基準が変わるため)とされています。 - 導入効果
複数部門の経験により、業務全体への理解が深まり、環境変化への対応力や連携力の向上、リスクマネジメント意識の強化が期待できます。とくに管理職候補者や将来の経営層にとって重要な育成手段です。
実際の問われ方
本問では、ジョブローテーションの本質的な意義と適用対象の整理が問われています。以下に、選択肢の観点と誤りやすいポイントを整理します。
| 選択肢 | 主張 | 評価 | 誤りの理由 |
|---|---|---|---|
| ① | 有期雇用に適している | 誤り | 長期雇用を前提とする制度であるため |
| ② | 適性を重視して配置される | 誤り | 必ずしも適性中心ではなく、組織都合での配置も含まれる |
| ③ | スペシャリスト育成に有効 | 誤り | ゼネラリスト(多能工)育成を目的としており対極にある |
| ④ | 職務給制度と相性が良い | 誤り | ジョブが変わると職務給の整合性が崩れるため |
| ⑤ | 組織理解・適応力向上に効果がある | 適切 | 本制度の主要な目的を正しく表現している |
試験での留意点
- 「ジョブローテーション=本人の適性に合った配置」と直感的に誤解しやすいが、必ずしも適性重視ではない点に注意が必要です。
- 「専門性の強化」と「多能化(汎用性の向上)」は似て非なるものであり、スペシャリスト育成との混同は誤答につながりやすいポイントです。
- 「職務給制度=職務に応じた給与体系」は合理的に見えても、異動による評価基準の変化と整合がとりにくいため、導入障壁になります。
- 「有期雇用にこそ必要」といった逆説的な直感にも要注意で、長期育成を前提とする仕組みであることを忘れないようにしてください。
このテーマは、個人のキャリアと組織の成長戦略の接点に関わります。どのように配置と育成を仕組み化するかという問いは、単なる制度理解を超え、組織設計やマネジメント戦略に対する総合的な視点を要求される場面でもあります。
Ⅰ-1-14:外国人技能実習制度と技能実習法の基本構造
背景にある問い
「うちの工場でも外国人の技能実習生を受け入れているが、これは労働力不足を補うためではないのか」
「制度の目的と現場の実態が乖離しているように感じる」
「技能実習生の賃金って、契約で決めた金額なら最低賃金を下回っても問題ないのか?」
こうした疑問は、実習生を受け入れる企業の現場でたびたび見られます。
外国人技能実習制度は、単なる労働政策ではなく、国際協力や人材育成の観点から制度化されたものであり、制度の本来の目的と現場運用のギャップが制度の理解を難しくしています。
キーワードで整理する
こうした問いに対して理解すべき制度が 外国人技能実習制度 です。
- 外国人技能実習制度(技能実習法)
開発途上地域への技能移転を通じた国際貢献を目的とする制度であり、「労働力不足の補填」ではないと明確に位置づけられています。したがって、需給調整の手段として技能実習を行うことは禁止されています。 - 技能実習計画
受け入れ企業は、技能実習生一人ひとりに対して技能実習計画を作成し、認定を受けることが必要です。グループ単位ではなく、個人単位で管理される制度である点が重要です。 - 講習と移行条件
入国後は概ね1か月程度の講習(日本語、生活指導、法的保護)を受講した後に実習へ移行しますが、初年度の活動期間のうち1/6以上を講習にあてる必要があります。単に「2か月間の講習」といった固定的なルールはありません。 - 最低賃金との関係
技能実習生も労働者として最低賃金法の適用を受けます。最低賃金を下回る契約は、たとえ本人が合意していても無効となります。合意の有無ではなく、法定基準が優先されます。 - 実習期間の上限
技能実習の期間は、最長で5年間に制限されています。10年間などの長期受け入れは制度上認められていません。
実際の問われ方
本問では、制度の目的・運用単位・労働法との関係を問う構成になっています。以下の通り、いずれも紛らわしい選択肢が並んでおり、正確な制度理解が求められます。
| 選択肢 | 論点 | 判定 | 補足 |
|---|---|---|---|
| ① | 計画作成単位(グループ vs 個人) | 誤り | 実習生一人ひとりに作成 |
| ② | 講習期間と進級条件 | 誤り | 1/6以上の講習が必要 |
| ③ | 労働力需給調整としての実習活用 | 適切 | 制度の本旨として禁止 |
| ④ | 最低賃金を下回る契約の合意有効性 | 誤り | 合意していても最低賃金未満は違法・無効 |
| ⑤ | 実習期間の上限 | 誤り | 最長5年が上限 |
試験での留意点
- 技能実習=労働力確保のための制度という直感的な誤解に注意が必要です。目的が「人材育成」と定められていることを明確に押さえてください。
- 「合意していればOK」という労働契約の誤認は、他の労働法でも混同しやすい論点です。技能実習でも、実習生は労働者として保護されるという原則を忘れてはいけません。
- 「実習期間が10年」や「グループ単位で計画」などの選択肢は、**一見ありえそうな“ゆるい誤り”**として誘導されるので、制度設計の厳格さに着目して判断する視点が有効です。
このテーマでは、制度の理念と実務のギャップをどう捉えるかが問われます。単に「外国人が働いている」という現象ではなく、法の趣旨・制度の構造・人権保護の視点を含めた包括的な理解が求められています。
Ⅰ-1-15:能力開発手法の分類(OJT・OFF-JT・自己啓発)
背景にある問い
「この部下、仕事はできるけれど会議の場で発言できない」
「そろそろ海外対応もできるように育てたいが、どこから始めるべきか」
「英語の勉強をしたいという部下の希望には、どこまで応えるべきか」
現場の管理職が人材育成に悩むとき、ぶつかるのが「どんな手法で、誰に、どのように能力開発を提供すべきか」という問いです。
人は一様ではなく、育成方法も千差万別です。
そこで重要になるのが、能力開発手法の三分類の理解です。
キーワードで整理する
このような育成場面における選択肢を整理するキーワードが、OJT(On-the-Job Training)、OFF-JT(Off-the-Job Training)、**自己啓発(Self-Development)**の三つです。
- OJT(On-the-Job Training)
実際の業務を通じて上司や先輩の指導を受けながら行う育成方法。即戦力を育てる点で効果が高く、計画的ローテーションや指導付きの業務配属もこれに該当します。 - OFF-JT(Off-the-Job Training)
業務とは切り離された研修や講座であり、社内研修・外部教育機関でのセミナーなどが該当します。体系的知識の習得や職務外能力の補完に有効です。 - 自己啓発(Self-Development)
本人の意思と費用負担によって自発的に行われる能力開発。企業は制度的に支援することもありますが、あくまで自律的な行動が前提です。英会話学校通学や資格試験の勉強が代表例です。
実際の問われ方
本問では、5名の部下に対する育成方針を具体的に示し、それぞれがどの育成手法に該当するかを判断させる形式です。要点は**「場所」ではなく「主体と方法」**に着目することです。
| 部下 | 内容の要点 | 分類 |
|---|---|---|
| ア | 外部教育機関でのマンツーマントレーニング(会社主導) | OFF-JT |
| イ | 海外支店での実務経験(支店長の下で実業務) | OJT |
| ウ | 他部署での実務体験(実際に業務に入り込む) | OJT |
| エ | 本人が希望する職務時間外の英語講座に会社が配慮 | 自己啓発 |
| オ | 社内でのブレインストーミング研修(業務外の集合研修) | OFF-JT |
このように、「仕事中の業務」か「業務外の研修」か、「本人主導」か「会社主導」かで分類を判断します。
試験での留意点
- OJTとOFF-JTは、実施場所ではなく「業務との直接的な関係」で区別します。たとえば、「職場でのブレスト研修」は業務外の集合教育であればOFF-JTに分類されます。
- 「自己啓発=本人の意思と負担」が本質です。費用や時間を会社が負担する場合、それは自己啓発ではなくOFF-JTに近づくため、文脈に注意してください。
- 似て非なる内容に惑わされやすいため、「誰が主導しているか」「業務と直接関係しているか」を2軸で整理する視点が重要です。
このテーマは、単なる制度知識ではなく、人材育成をどう戦略的に行うかという実務的な視点に関わります。形式や定義にとどまらず、**「目的に応じた最適な手段の選定」**という応用力が求められる分野です。
情報管理
I-1-17:知的財産の出願件数の動向
背景にある問い
「これ、誰かに先に取られてたらどうするの?」
新しい製品や技術を開発したとき、現場ではこうした不安がよく話題になります。
特許、意匠、商標といった知的財産の出願をめぐる判断は、製品開発や事業戦略に直結するものです。
しかし、現実には出願件数の傾向や制度の違いを意識することなく、「知財部門に任せてあるから」とスルーされがちです。
一方で、総監試験では、こうした知財制度の利用実態や出願傾向の「数字」をもとに、出題されます。
つまり、実務でなんとなく流している話題が、試験ではきちんと整理して理解しているかを問われるのです。
このような出題には、単なる制度の知識ではなく、「それがどう使われているか」「どれが主流なのか」といった実務感覚に基づいた読み解きが必要とされます。
キーワードで整理する
今回のテーマに関連する主な知的財産の種類は以下の通りです。
- 特許:高度な技術的アイデアを保護。出願件数は漸減〜横ばい。
- 実用新案:技術的アイデアのうち構造・形状に限定。出願件数は特許の1/60程度。
- 意匠:デザイン(形状・模様・色彩)の保護。出願件数は横ばい。
- 商標:商品やサービスの目印。出願件数は増加傾向。
- PCT国際出願:海外で特許を取得する際の国際的な手続き。増加傾向。
ここで注目すべきは、「実用新案」と「特許」の件数比率です。
実務では「使われていない制度」と見なされることもある実用新案は、実際には特許出願件数の約1/60程度であり、「1/6」という誤認は典型的なミスとなります。
実際の問われ方
本問は、以下のような出題形式で知的財産ごとの出願動向を問うています。
| 出願対象 | 出願件数の傾向(2009〜2018年) |
|---|---|
| PCT国際出願 | 増加傾向 |
| 特許 | 漸減 → 横ばい |
| 意匠 | 横ばい |
| 商標 | 増加傾向 |
| 実用新案 | 特許の1/60程度 |
このように、制度の「定義」ではなく「出願件数の動き」がポイントです。
どの制度が使われているか、どれが減っているか、という実態の理解が試されます。
試験での留意点
- 実用新案は“特許の簡易版”ではあるが、利用実態は非常に少ないという点を押さえておく必要があります。件数で見れば1/60であり、感覚的に“けっこう使われてる”と思うと誤ります。
- PCT出願と国内出願の違いにも注意が必要です。「PCT国際出願のうち、国内移行されたもの」は特許出願の一部に含まれるため、出願分類と件数の整合を意識する必要があります。
- 「出願件数=重要性」ではないことにも留意します。出願件数の少ない実用新案でも、適切な場面では有効活用されるケースもあります。
I-1-18:無人航空機(ドローン)の飛行ルールと法規制
背景にある問い
「それ、ちゃんと許可取ってるの?」
近年、災害現場やインフラ点検、農薬散布や物流まで、無人航空機(ドローン)の活用が急速に広がっています。
職場でも、「ドローンで空撮しておきます」といった提案が自然に出るようになりました。
しかし、便利な技術である反面、墜落や衝突、プライバシー侵害などのリスクを伴うため、実際に飛ばすとなると多くの法的手続きや制限が関わってきます。
それにもかかわらず、「どこで飛ばしていいか」「何が許可対象か」が現場レベルで共有されていないことも多く、知らぬ間に違法状態となるおそれもあります。
技術が進化しても、公共空間や他人の権利とどう調整するかという観点が常に問われています。
キーワードで整理する
この話題には、以下のような法制度・概念が関係します。
- 無人航空機:航空法で定義される重量100g以上の飛行機・回転翼機など。ドローンもこの範疇に含まれます。
- 目視による常時監視:飛行中の無人航空機を操縦者自身が直接肉眼で見続けること。双眼鏡やモニター、補助者による監視は「目視外飛行」となり、別途許可が必要です。
- 飛行の許可・承認:以下のような場合に国土交通大臣の許可または承認が必要です。
- 人口集中地区での飛行(※屋外のみが対象)
- 夜間・目視外・第三者上空の飛行
- 物件投下、危険物輸送
- 農薬散布などの特殊用途
- 電波法の適用:操縦・画像伝送に使われる無線通信は、電波法により使用周波数や出力に制限があり、必要に応じて無線技士の資格が必要です。
つまり、「どこで、どう飛ばすか」「何をするか」によって規制の対象が異なるという点を理解することが重要です。
実際の問われ方
本問では、以下のように選択肢ごとに典型的な誤認を含めた内容が並んでいます。
| 選択肢 | 主題 | ポイント | 正誤 |
|---|---|---|---|
| ① | 常時監視 | 双眼鏡や補助者は対象外=目視外飛行とされる | 正 |
| ② | 屋内飛行 | 屋内は航空法の規制対象外 | 誤 |
| ③ | 農薬散布 | 許可・承認が必要な「特殊飛行」に該当 | 誤 |
| ④ | 電波法との関係 | 通信には電波法が適用される | 誤 |
| ⑤ | 計測機器の設置 | 「物件投下」に該当しないため承認不要(他の条件次第) | 誤 |
このように、「ありがちな思い込み」に対して、正確な制度理解を試す構成となっています。
試験での留意点
- 屋内飛行は航空法の対象外です。たとえ人口集中地区内であっても、建物の中なら許可は不要です。
- 補助者による監視は「目視外飛行」として扱われることに注意が必要です。モニター越しの操作も同様です。
- 農薬散布や物件投下の線引きに混同が起きやすいですが、「置くだけ」は物件投下に該当しない一方で、散布は「危険物の放出」として承認対象になります。
- 無線通信は電波法の管轄です。飛行とは無関係に無資格で使用できる範囲が制限されています。
このように、無人航空機に関する問題は、単なるテクノロジーの話ではなく、法的整理とリスク認識の視点が試されています。
I-1-19:MTBF(平均故障間隔)と信頼性の評価
背景にある問い
「うちの機械、カタログ通りに動いてるのかな?」
製品や設備を運用している現場では、ふとしたきっかけでこうした問いが生まれます。
特に、導入当初はカタログ値を信頼していたにもかかわらず、年数が経過してくると、「最近よく止まるな」「昔と違ってきたかも」という感覚に変わってきます。
その一方で、技術資料にはMTBF(平均故障間隔)という定量的な指標が記載されており、数値上は安定しているように見えることもあります。
実際の運用実績と、設計時の想定値が一致しているのか、どう判断すれば良いかを迷う場面は多く、設備更新やベンダー選定にも関わる重要な視点です。
このような「実績値と設計値との乖離」を見極めるには、感覚に頼るのではなく、信頼性工学の指標を用いて数値で判断する力が求められます。
キーワードで整理する
この話題の核となるのは、**MTBF(Mean Time Between Failures)**です。
MTBFとは、機器が故障するまでの平均時間を示す信頼性指標であり、以下のように定義されます。
- MTBF = 総稼働時間 ÷ 故障件数
例えば、総稼働時間が100,000時間で、故障が100回なら、MTBFは1,000時間となります。
MTBFが大きいほど、長く安定して稼働する機器と判断されます。
ただし、注意すべき点は「カタログ記載のMTBF」はあくまで設計値や加速試験に基づく参考値であり、現場での実績値とは異なる可能性があるということです。
したがって、運用実績から得られるMTBFを用いて、機種ごとの信頼性を再評価することが必要になります。
実際の問われ方
本問では、以下のデータに基づいてMTBFを算出し、カタログ値(1,000時間)との比較を求めています。
| 機種 | 総稼働時間(h) | 故障件数 | 実績MTBF(h) | カタログ値との比較 |
|---|---|---|---|---|
| A | 1,093,800 | 987 | 約1,108 | 上回る |
| B | 1,148,300 | 1,283 | 約895 | 下回る |
このように、表の数値から式に基づいて実績値を導くという思考プロセスが問われています。
また、機種間の比較だけでなく、「カタログ値を上回るか下回るか」の判断も求められる点が特徴です。
試験での留意点
- **MTBFは「稼働時間 ÷ 故障件数」**であるため、修理時間は無関係です。
選択肢に惑わされないように注意が必要です。 - MTBFとMTTR(平均修理時間)を混同しないこと。MTBFは稼働の間隔、MTTRは停止時間の長さです。
- カタログ値は実機の運用環境を前提にしていないため、「設計上の理想値」であることを前提に比較する必要があります。
- 指数分布を前提とした信頼性評価においては、「平均」という意味が実運用に近似するかも含めて注意が必要です。
このような出題は、単なる計算問題に見えて、「現場の判断に資する指標理解」を前提にしていることがわかります。
I-1-20:統計手法の適用と使い分け
背景にある問い
「このデータ、どう整理したら意味が見えるのか?」
現場では、日々蓄積される数値データを前にして、「ただの数字の羅列」で終わってしまうことがあります。
たとえば、生産数、故障件数、温度変化、需要変動など、すべて時系列で並ぶとばらつきが大きく、何が傾向で、何が例外なのか見極めにくくなります。
また、部署間で「この数値は増えている」と言われても、基準時点や計測単位が違えば、相互比較も難しくなります。
「見える化」の意図でグラフを使っても、適切な手法を選ばなければ、かえって誤解を招くこともあるのです。
データ分析の本質は「意味ある情報への変換」であり、そのためには、適切な統計手法の選定と使い分けが欠かせません。
どの手法を使えば、何がわかり、どう判断すべきか。その基本的な見取り図が問われています。
キーワードで整理する
本問で登場する4つの事例に対応する統計手法は、次のように整理できます。
- 移動平均(ア)
時系列データの短期的なばらつきを平滑化し、傾向(トレンド)を把握するために用いられる手法です。一定期間の平均値を順に計算して線形で表示することで、全体の流れを視覚的に捉えやすくなります。 - 指数化(イ)
ある基準時点の値を100として、それ以降のデータを相対値で表現する方法です。物価指数や生産指数などで用いられ、異なる単位やスケールのデータでも比較しやすくなります。 - 相関分析(ウ)
2つの変数の関係性(直線的な連動の度合い)を調べる手法です。散布図や相関係数を用いて、「片方が増えるともう一方も増えるか(または減るか)」を確認できます。 - 回帰分析(エ)
一方の変数(説明変数)から、他方の変数(目的変数)を予測・説明するための数式モデルを導きます。予測式や将来予測、要因の寄与分析に活用されます。
これらはいずれも、単に「計算する」ための技術ではなく、「何を知りたいか」に応じて選び分けるべきものです。
実際の問われ方
本問は、以下のように事例ベースで4種類の統計手法を使い分ける設問です。
| 事例 | 内容の要点 | 適用される手法 |
|---|---|---|
| ア | 時系列のばらつきを平滑化 | 移動平均 |
| イ | 基準時点に対する相対変化の可視化 | 指数化 |
| ウ | 2変数間の関係性を散布図で可視化 | 相関分析 |
| エ | 一変数から他変数を予測するための数式構築 | 回帰分析 |
それぞれの記述は比較的素直で、手法の名称と目的が一致するかを確かめれば、正答にたどりつきやすい構成となっています。
試験での留意点
- 相関分析と回帰分析を混同しないこと。前者は「関係の強さ」、後者は「予測の数式化」です。相関は双方向、回帰は一方向の因果モデルに基づく点で異なります。
- 指数化と正規化の違いに注意が必要です。指数化は「時点比較」、正規化は「分布のスケーリング(0〜1など)」です。
- 移動平均と加重平均の使い分けも出題される可能性があるため、「期間ごとの平滑化」か「重要度付き平均」かという目的の違いに注目すべきです。
本問のように、用語の意味と使いどころが結びついている場合は、「言葉の定義」ではなく「使う場面」から理解することが試験対策として有効です。
I-1-21:Society5.0と次世代社会の定義
背景にある問い
「技術が進んでも、本当に幸せな社会になるのか?」
AI、ロボット、IoT、クラウド――近年の技術革新はめざましく、私たちの生活にも急速に浸透しています。
しかしその一方で、格差の拡大、プライバシーの懸念、高齢化と労働力不足といった社会課題も深刻さを増しています。
現場でも「最新技術を入れることが目的化していないか?」「人の役に立っているのか?」という議論が生まれます。
デジタル化の恩恵が一部の人に偏っていないか、真の意味での全体最適ができているのか。
技術を“目的”とせず、“手段”として活用する社会像が問われています。
こうした文脈のなかで登場したのが、「Society5.0」という概念です。
単なる技術の話ではなく、「人間中心の未来社会」をどう実現するかという思想に根ざしている点が特徴です。
キーワードで整理する
Society5.0とは、日本政府が提唱する未来社会のビジョンであり、次のように位置づけられています。
- Society1.0:狩猟社会
- Society2.0:農耕社会
- Society3.0:工業社会
- Society4.0:情報社会(ITによる情報共有・分析)
- Society5.0:サイバー空間とフィジカル空間を融合し、人間中心の社会課題解決と経済発展を両立する未来社会
Society5.0では、AIやIoT、ビッグデータが前提とされる一方で、それを誰もが活用できる「包括性」や「利便性」「公平性」といった要素が重視されます。
クラウドやネット検索に頼る情報取得の時代(Society4.0)を経て、Society5.0ではAIが自動的に必要な情報を分析し、タイムリーに提供する構造が期待されます。
したがって、「自らアクセスして情報を解析する」といった記述は、Society4.0にとどまる考え方といえます。
実際の問われ方
本問では、Society5.0の社会像について、以下のような特徴を理解しているかが問われます。
| 記述内容 | 正誤 | 理由の要点 |
|---|---|---|
| 歴史的5番目の社会 | 正 | 狩猟→農耕→工業→情報→Society5.0という流れ |
| IoTとAIの価値創出 | 正 | 技術を通じた新しい価値創造と利便性の向上 |
| クラウドに自らアクセス | 誤 | Society4.0的な構造であり、自動化・融合性が欠如 |
| 社会システムの最適化 | 正 | 課題解決と経済発展の両立を目指す思想 |
| 人間中心の社会 | 正 | 監視や支配ではなく、人が主体の快適な暮らしの実現 |
記述③が不適切とされるのは、「人が自らクラウドにアクセスして解析する」というSociety4.0的な記述にとどまっているためです。
試験での留意点
- Society4.0と5.0の違いを「技術レベル」ではなく「社会構造・価値観」で理解することが重要です。技術が進んでも「それを誰が活用するのか」が問われます。
- 人間中心か、技術中心かという視点は、選択肢を見分ける際の軸になります。
- 自らアクセスして得るのが情報社会(4.0)、必要なときに自動で提供されるのがSociety5.0という整理が役立ちます。
- 「AIやロボットに監視される社会」は誤ったイメージであり、あくまで人間の生活の質向上が目的であることに留意する必要があります。
Society5.0は単なるIT活用の延長線上ではなく、人間の幸福を中心に据えた全体最適化の社会設計として捉えることが求められています。
I-1-22:オプトインとオプトアウトの違い(個人情報保護法)
背景にある問い
「これ、いつの間にか情報がどこかに提供されていたってこと…?」
サービスを利用した後、知らない業者からダイレクトメールが届いた経験はないでしょうか。
現場でも、顧客管理やアンケート収集を進める中で、「このデータって外部に提供していいのか」「どの時点で本人に確認すべきか」といった議論になることがあります。
個人情報の取り扱いは、利便性と信頼性のバランスが問われる領域です。
一方で、「本人の同意があるから」「通知すればいい」といった曖昧な認識に基づいた運用が、組織リスクを拡大させる原因にもなり得ます。
このような背景のもと、「オプトイン」「オプトアウト」といった手続きの違いを正しく理解することは、現代の組織運営において不可欠といえます。
キーワードで整理する
このテーマで押さえるべき用語は以下の2つです。
- オプトイン(Opt-in)
本人の事前同意が明確にあった場合のみ第三者提供が可能となる手続きです。たとえば「チェックボックスを自分でONにして同意する」といった能動的な意思表示が求められます。
原則として、個人データの第三者提供はオプトインが基本となります。 - オプトアウト(Opt-out)
あらかじめ本人に通知し、提供を停止する機会を与えた上で第三者提供を行う手続きです。名簿業者などで用いられ、事前同意なしでも提供できるが、本人への通知と個人情報保護委員会への届出が必要です。
ただし、要配慮個人情報(健康情報、信条など)については、原則としてオプトアウト提供は認められていません。
つまり、「本人の積極的同意があるか否か」「届出の義務があるかどうか」が両者の本質的な違いです。
実際の問われ方
本問は、オプトインとオプトアウトに関する手続き・義務の正誤を問うものです。
| 選択肢 | 主題 | 判定 | 補足ポイント |
|---|---|---|---|
| ① | オプトインの定義 | 正 | 本人の同意に基づく提供が可能 |
| ② | オプトインの届出義務 | 誤 | 届出義務があるのはオプトアウト |
| ③ | オプトアウトの通知要件 | 正 | 通知または容易に知り得る状態が必要 |
| ④ | オプトアウトの届出対象 | 正 | 名簿業者が主対象、その他は個別判断 |
| ⑤ | 要配慮情報の制限 | 正 | オプトアウト提供不可、同意必須 |
②が不適切である理由は、「オプトインに届出義務がある」と誤って説明している点にあります。
試験での留意点
- オプトインには届出義務がないことに注意が必要です。これは誤答の典型パターンです。
- オプトアウトに届出が必要なのは“例外的に第三者提供を認める”仕組みだからです。本人の同意がないため、国による監視体制が求められます。
- 要配慮個人情報の扱いは原則オプトインです。性別や年齢といった一般的な属性と混同しないように整理しておくことが重要です。
- **「通知すればよい」≠「同意がある」**という違いに注目し、「情報提供=本人了解済」と早合点しないように注意する必要があります。
このテーマでは、「同意の質」と「手続きの透明性」を切り口に、制度の背後にある価値観(プライバシーの尊重)を読み取る視点が問われています。
I-1-23:機械学習によるデータ活用のプロセス
背景にある問い
「せっかくデータを集めたのに、どう活かせばいいのかわからない」
業務のDXやIoT化が進む中で、データそのものは手元に蓄積されつつあります。
しかし、「収集はしたけれど分析には至っていない」「AIを導入したが成果が出ない」といった悩みが現場では頻出しています。
そこで問われるのは、「データから価値を引き出すための一連のプロセスを理解しているかどうか」です。
特に機械学習においては、「データさえあればAIが勝手に学んでくれる」という誤解が根強く、適切な前処理・学習・モデル化・推論といった各段階の理解が不可欠です。
図にあるようなプロセス構造を正しく理解することは、単なる技術知識ではなく、業務設計や意思決定においても重要な視点となります。
キーワードで整理する
図で示されたプロセスにおいて押さえておくべきキーワードは以下の通りです。
- 学習(ア)
過去のデータ(教師データ)を使って、AIが規則性やパターンを見つけ出すプロセスです。アルゴリズムはこの段階で「訓練」されます。 - 前処理(イ)
欠損値の補完、外れ値の処理、標準化、カテゴリ変数のエンコーディングなどを行い、データを機械学習モデルに適した形式へ整える工程です。ここが不適切だと、後工程の精度に大きく影響します。 - モデル(ウ)
学習済みデータをもとに構築される予測アルゴリズムのことです。線形回帰、決定木、ニューラルネットワークなどが例として挙げられます。 - 推論(エ)
学習済みモデルを用いて、新たな入力データに対して出力(予測や判別結果)を導くプロセスです。これが実運用段階での「価値の創出」となります。
このように、機械学習の流れは「データを整える」→「学習させる」→「モデルを作る」→「予測に活かす」という論理的な流れで構成されています。
実際の問われ方
本問では、図中のプロセス(ア)〜(エ)に対応する用語を選択肢から選ぶ形式です。
| 記号 | プロセスの意味 | 該当する用語 |
|---|---|---|
| ア | データから規則性を学ぶ | 学習 |
| イ | データの整形・加工 | 前処理 |
| ウ | 学習によって構築される構造 | モデル |
| エ | 入力から出力を得る | 推論 |
このように、用語の意味を単体で知っているだけでなく、プロセス全体の流れの中での位置づけを理解しているかが問われています。
試験での留意点
- 「学習」と「推論」はセットで捉えることが重要です。学習済みモデルは推論段階で初めて価値を生みます。
- 「前処理」は学習の前段階で行う準備作業であり、モデルの精度向上に不可欠です。軽視されがちですが、現実には最も工数がかかる工程でもあります。
- 「モデル」は「AIそのもの」ではないという点にも注意が必要です。モデルはあくまで学習結果を表す構造であり、AI=モデルではありません。
- 「拡張」「テスト」「可視化」などの選択肢は混同しやすいため、それぞれの機能とプロセス上の位置づけを整理しておくと安心です。
図の理解は、単なる用語知識ではなく、「全体プロセスを構造として理解しているか」がポイントです。
I-1-24:暗号方式とデジタル署名の基本構造
背景にある問い
「送ったファイル、本当にあの人からのものだって、どうやって確認するのか?」
テレワークの普及、電子契約、メール添付でのファイル共有が当たり前となった今、データの“中身”だけでなく“真正性”や“機密性”への不安が高まっています。
たとえば「そのPDFが改ざんされていないことをどう証明するのか」「通信経路が盗聴されていないと言い切れるか」といった問いが、情報システム部門のみならず、プロジェクト管理者や現場技術者にも迫られるようになりました。
このような課題に対し、技術的な裏付けとして登場するのが、暗号方式とデジタル署名です。理解しておきたいのは、「何を守るか(機密性・改ざん防止・なりすまし防止)」に応じて、使い分けるべき技術が異なるという点です。
キーワードで整理する
以下に、出題された内容に対応する基本概念を整理します。
- 共通鍵暗号方式
送信者と受信者が同一の鍵(共通鍵)を共有して行う暗号方式。高速で処理できる反面、鍵の配送・管理が課題となります。 - 公開鍵暗号方式
鍵を「公開鍵」と「秘密鍵」のペアで扱います。受信者が公開鍵を公開し、送信者がそれを使って暗号化します。復号は受信者だけが持つ秘密鍵で行います。
※本問の③では「送信者が生成した公開鍵で暗号化」と誤っており、これが不適切な記述となります。 - デジタル署名
送信者が秘密鍵でメッセージの**ダイジェスト(要約)**を暗号化して送信。受信者は公開鍵で復号し、同じダイジェストを生成できるかを確認します。これにより「送信者の本人性」と「メッセージの改ざん検出」が可能になります。 - セキュアハッシュ関数とダイジェスト
メッセージから**一方向性の固定長データ(ダイジェスト)**を生成する関数。元のメッセージに戻すことはできず、異なるメッセージが同じダイジェストになる確率は極めて低いため、改ざん検出に有効です。 - 機密性 vs 認証性
暗号化は「盗み見防止=機密性」、署名は「なりすまし防止=認証性・完全性」を担保します。
実際の問われ方
本問は、「用語の意味」ではなく「仕組みの理解と役割の違い」に基づく正誤判定が求められる典型的な構造です。
| 項目 | 技術 | 主な目的 | 鍵の使い方 |
|---|---|---|---|
| 共通鍵暗号 | 暗号 | 機密性 | 同一鍵(共通鍵)で暗号化・復号 |
| 公開鍵暗号 | 暗号 | 機密性 | 公開鍵で暗号化、秘密鍵で復号 |
| デジタル署名 | 署名 | 認証性・完全性 | 秘密鍵で署名、公開鍵で検証 |
特に③の選択肢にある「送信者が生成した公開鍵を用いる」という誤りは、「誰が鍵ペアを生成し、どちらを誰が使うか」という前提を誤解している典型例です。
試験での留意点
- 「暗号」と「署名」は目的が違うことを区別することが最重要です。
機密性 → 暗号化、完全性・認証 → 署名。 - 公開鍵暗号方式では、“受信者が”公開鍵を生成・公開します。送信者が勝手に鍵を作るわけではありません。
- **「デジタル署名は改ざん検出できるが、機密性は確保しない」**という点は直感と逆になるため注意が必要です。
- ハッシュ関数と暗号化の混同もありがちな誤りです。ハッシュは一方向変換であり、復号という操作はできません。
これらはすべて、「どの目的で、どの手法を、どの立場の人がどう使うのか」という視点で整理することが、理解と正答への鍵となります。
安全管理
Ⅰ-1-25:システム安全工学手法(FTA、ETA、FMEA、VTA)
背景にある問い
重大事故が起きたとき、「なぜ防げなかったのか」という視点に立つのは当然ですが、現場で本当に求められるのは「事故が起きる前に、どのようなシナリオで事故が起こり得るかを把握し、先に対策を講じる」ことです。
ところが、実際の設計・運用段階では、膨大な設備・工程・判断の組合せがあり、「どこにどんなリスクがあるか」を体系的に考えるのは容易ではありません。
過去の経験則だけでは不十分であり、論理的な予測手法によるリスク分析が不可欠となります。
このような背景から、システム安全工学手法は、安全対策の骨格として各分野で活用されています。
試験では、それぞれの手法のアプローチの違いと使用目的を正確に把握しておくことが求められます。
キーワードで整理する
事故・故障・異常事象を分析する主な手法には、次のような分類があります。
- FTA(フォールトツリー分析)
頂上事象(例:火災)の発生に至る原因の組合せを、論理的(AND/OR)にツリー状に逆展開する手法。
故障原因の特定や、設計段階でのリスク洗い出しに用いられます。 - ETA(イベントツリー分析)
ある初期事象(例:火花発生)から始まり、それに続く対応やシステム状態の違いによって、様々な結末に展開するシナリオを分析する手法。
安全対策の有効性や事故進展シナリオの評価に活用されます。 - FMEA(故障モード影響解析)
構成要素ごとの故障モード(例:バルブが開かない)を洗い出し、それがシステムにどのような影響を与えるかを分析する手法。
定性的で網羅的な安全設計のためのベースとなります。 - VTA(逸脱事象分析)
通常の作業手順からの逸脱に着目し、逸脱の内容・原因・結果を時間軸で構造化して分析する手法。
作業ミスや人的エラーによるリスクを分析したい場面で有効です。
実際の問われ方
本問では、各手法とその特徴文(ア)~(エ)を組み合わせる選択問題として出題されています。
分類の軸は以下の通りです。
| 分析対象 | 方向性 | キーワード |
|---|---|---|
| FTA | 原因追跡 | 頂上事象、ツリー、因果関係 |
| ETA | 結果予測 | 初期事象、シナリオ、進展 |
| FMEA | 故障モード | 構成要素、影響、リスク優先度 |
| VTA | 人的逸脱 | 手順逸脱、時間軸、操作ミス |
選択肢の絞り方としては、「ウ=ETA」「イ=FTA」と識別できれば、①か④に絞れるため、残るはVTAとFMEAの対応判断です。
試験での留意点
- ETAとFTAの混同に注意が必要です。
ETAは「原因→結果のシナリオ展開」、FTAは「結果→原因の遡及分析」です。 - FMEAとVTAの違いは、対象が「構成部品」か「作業手順」かに注目すると区別しやすくなります。
- **アプローチの方向性(順方向か逆方向か)**は、図示イメージを思い浮かべると整理しやすくなります。
- 「FMEA→構成部品ベース」「VTA→時間軸+人の行動」と覚えておくと、判断が速くなります。
Ⅰ-1-26:労働者派遣と請負における安全衛生責任の違い
背景にある問い
「うちの現場には、協力会社や派遣社員が常駐しているが、もし事故があったとき誰が責任を取るのか?」
そんな問いを投げかけられたとき、自信を持って答えられる人は決して多くありません。
雇用関係と指揮命令関係が交錯する中で、形式上の契約とは異なる実態があることも多く、リスク対応において“責任の所在”が曖昧になりやすいのです。
とくに、派遣と請負の区別は、安全衛生上の義務にも直接関係するため、正確な理解が欠かせません。
技術者として現場管理に携わる以上、「誰に何の責任があるか」を正しく押さえることが、労務管理・リスク管理の出発点となります。
キーワードで整理する
このテーマの要点は、「誰が誰に対して、どの範囲の責任を負うのか」を明確にすることです。
- 派遣
派遣労働者は派遣元と雇用契約を結んでいますが、指揮命令関係は派遣先にあります。
したがって、安全衛生の責任は派遣元と派遣先で分担されます。
- 雇入れ時教育・健康診断など:派遣元の責任
- 作業方法の指導、安全配慮:派遣先の責任
- 危険・有害業務に従事させる場合の特別教育:派遣先の責任
- 請負
請負は業務単位で独立しているため、請負会社が労働者に対してすべての安全衛生責任を持ちます。
元請(注文主)が一方的に作業指示を出すと「偽装請負」と判断されるおそれがあります。 - 元方事業者
建設現場など多くの業者が入り混じる現場では、元方事業者(=全体を統括する事業者)に安全衛生教育・指導の義務があります。
関係請負人だけでなく、その労働者への直接指導も可能です。 - 総括安全衛生管理者の選任要件
派遣労働者は派遣元・派遣先それぞれの事業場人数に算入されます(ダブルカウント)。
実際の問われ方
本問は、「派遣・請負における安全衛生責任の所在」に関する記述から最も適切なものを選ばせる形式です。
以下の視点で整理することで、類題への対応力が高まります。
| 観点 | 責任主体 | 根拠・ポイント |
|---|---|---|
| 雇入れ時教育・健診 | 派遣元 | 雇用主が基本的健康・教育義務を持つ |
| 作業内容の指導・安全措置 | 派遣先 | 実際に働く場所での指揮命令と安全配慮の責任 |
| 特別教育(危険有害業務) | 派遣先 | 作業内容に関する専門的教育は、指揮命令側の責任 |
| 元方事業者による安全指導 | 元方+請負労働者 | 労働者にも直接指導できる(指導してはならない、は誤り) |
| 労働者数算入(総括安全衛生管理者) | 双方算入 | 派遣元・派遣先いずれにも人数として含める(片方のみは誤り) |
試験での留意点
- 「派遣=派遣先が指揮命令」→安全配慮義務が発生
→教育や健康診断は「雇用主=派遣元」の責任 - 「特別教育」は、雇用主ではなく作業を指示する側の責任(直感と逆)
- 元方事業者は、請負会社だけでなく労働者にも直接指導可能(「してはならない」は誤り)
- 総括安全衛生管理者の要件における労働者数には、派遣労働者は双方に算入される(ダブルカウント)
こうした“責任の帰属”は、感覚ではなく制度設計に基づくため、過去問で繰り返し問われています。
「雇用主=全責任を負う」と思い込まず、役割分担を丁寧に押さえることが得点への鍵となります。
Ⅰ-1-27:AI・ロボット・IoTの安全とリスク評価
背景にある問い
「自動化すれば安全になる」
それは一見もっともらしい理屈のように思えます。
しかし、業務を担う主体が人から機械・AIへと移っていく中で、新しいリスクも同時に生まれています。
たとえば、工場で導入された産業用ロボットが不意に動作を開始して人と接触した場合、責任はどこにあるのか。
遠隔操作の自動運転中に、複数車両の挙動が制御不能になったとしたら、法制度はそれをどう扱うのか。
技術の進歩が人間を補完し、支えるものである以上、そのベネフィットとリスクの両立を図る視点が不可欠です。
これは技術者個人の感覚ではなく、社会的制度や標準化の中で扱われるべき問題であり、実務においても問われる判断力といえます。
キーワードで整理する
技術の進展に伴う安全性の論点は、次のようなキーワードに集約されます。
- 産業用ロボットの協働作業
労働安全衛生法に基づき、定格出力が80Wを超える産業用ロボットには危険性・有害性等の調査(リスクアセスメント)が義務付けられています。
その結果として、危険を低減するための対策が施され、かつ危険のおそれがないと評価できる場合は、人とロボットの協働作業が可能です。 - 医療ロボットと国際標準
機能回復支援ロボット(例:歩行訓練ロボット)は、患者と一体化するため高い安全性が求められます。
これらの安全性に関する国際標準(ISO 13482 など)の整備が進められており、日本の先端技術の国際展開にも寄与しています。 - AIとリスクのバランス
AIによってシステムの最適化や自動制御が進む一方で、アルゴリズムの不透明性や誤作動による新たなリスクも生じます。
社会的には、AIの**恩恵(ベネフィット)と不確実性(リスク)**を天秤にかけながら受容・管理することが求められています。 - 遠隔型自動運転と監視者の要件
遠隔監視型の自動運転では、実証実験において一定の基準を満たす場合に限り、1名の遠隔監視者が複数車両を同時に操作することが可能とされています。
これは国土交通省のガイドラインに基づく制度設計により認められた運用です。 - IoTとサイバーセキュリティ
IoT機器がサイバー攻撃を受けた場合、その影響がネットワーク経由で他機器やサービスに連鎖的に波及するリスクがあります。
したがって「影響が当該機器にとどまる」とするのは誤りです。全体としてのシステム連携とセキュリティ設計が重要な論点となります。
実際の問われ方
本問は、技術の安全性に関する記述から**「最も不適切なもの」**を選ばせる構成です。
判断軸は以下の通りです。
| 記述内容 | 主な論点 | 適否 |
|---|---|---|
| 産業用ロボットの協働作業 | リスクアセスメントに基づく容認 | 適切 |
| 医療ロボットと国際標準 | ISO整備と国際展開 | 適切 |
| AIと社会的バランス | ベネフィットとリスクの共存 | 適切 |
| 遠隔自動運転と一人複数監視 | 実証条件下での限定的容認 | 適切 |
| IoT攻撃の波及性 | サイバーリスクの連鎖的拡大 | 不適切(本問の正解) |
試験での留意点
- 「ロボット=安全」と短絡的に捉えず、出力や用途による区分と法的枠組みに注目すること。
- 「AI=万能」「IoT=個別動作」と思い込まず、ネットワーク連携がもたらす副作用に視点を広げること。
- “実証実験”の条件付き制度(遠隔運転など)は、制度上の文脈を正しく読み取る必要があります。
- 技術の進歩は安全性の向上と同時に新たなリスクの創出を伴うという構造を意識することが、記述の適否判断において有効です。
Ⅰ-1-28:システムの信頼性と並列・直列構成の確率
背景にある問い
非常時対応を設計するうえで、「万が一に備えたバックアップ」をどのように構成するかは、あらゆるインフラ運営者にとって根本的な課題です。
例えば、電源設備が三系統あるからといって、それだけで「安心」と言えるのでしょうか。
実際には、それぞれの系統がどのように連携し、補完しあっているかが重要であり、「何系統動けば機能を維持できるか」「補助系が起動しない場合のリスクは?」といった視点で定量的に信頼性を評価する必要があります。
このように、確率を用いて複数のシステムの連携構造を定量評価することは、リスク管理・設計・保全すべての場面に通底する基礎となります。
キーワードで整理する
この問いに対して用いられるのが、信頼性工学における並列・直列系の構成確率の考え方です。
- 信頼性(Reliability)
ある機器やシステムが所定の期間・条件下で正常に機能する確率を指します。
対象が1つの場合はそのまま成功率=1−故障率で計算できます。 - 直列系
システム全体がすべての構成要素が正常であることを条件とする構成。
1つでも故障すれば機能しないため、信頼性は「各構成要素の信頼性の積」となります。 - 並列系
システムがいずれか1つでも正常なら動作する構成。
全てが故障しない限り動作するため、「全故障の確率を引いた値」が信頼性になります。 - バックアップ冗長構成の確率計算
本問のような系統構成では、「通常系統がすべて失敗する確率」と「バックアップがすべて失敗する確率」の積をとることで、最終的なシステム全体の失敗確率(=停電)を導きます。
本問では以下の構造をとります:
| 構成 | 稼働条件 | 停電条件 |
|---|---|---|
| 主要電源3系統(並列) | 1つでも稼働していればOK | 3つすべて停止:確率は p³ |
| 緊急電源2台(並列) | 1台でも起動すればOK | 2台とも起動失敗:確率は 1−(1−q)² |
| 停電発生条件 | 両方とも全滅 | p³ × {1−(1−q)²} |
実際の問われ方
本問は、冗長構成を持つシステムに対して、複数系統の故障確率を与えたうえで全体システムが停止する確率を求める形式です。
計算というよりは、「信頼性構成の思考モデル」を試す典型問題といえます。
| ステップ | 内容 | 数式 |
|---|---|---|
| ① | 主要電源3系統すべて故障の確率 | p³ |
| ② | 緊急電源2台とも故障の確率 | 1−(1−q)² |
| ③ | 上記が同時に起きる確率(停電確率) | p³ × {1−(1−q)²} |
この考え方が身につけば、並列・直列・冗長構成の問題全般に応用できます。
試験での留意点
- 「並列は掛け算」「直列は足し算」と誤って覚えている例がありますが、正確には逆です。
→直列:全部成功しないといけない=掛け算(AND)
→並列:1つ成功すればよい=1−(全部失敗)=1−掛け算 - 「冗長構成=安全」と思い込まず、「構成の意味と確率的リスクの掛け合わせ」で評価する視点が問われます。
- 条件付きの失敗(例:通常系が全滅しているときに緊急系が起動しない)という「段階構造」に注意する必要があります。
こうした多段階・冗長構造の定量的リスク評価は、技術者として必須のスキルであり、システム設計やインフラ管理の本質を問う出題といえます。
Ⅰ-1-29:リスクコミュニケーションの本質と誤解
背景にある問い
地域に大規模施設を新設する際、専門家が「安全性に問題はない」と説明しても、住民が納得しないことがあります。
逆に、住民側が抱える不安や懸念が「感情的だ」と片づけられてしまうこともあります。
こうした場面で、関係者がそれぞれの立場からリスクをどう捉え、どう伝え合うかが問われるのがリスクコミュニケーションの場です。
しかし、「説得して理解を得る」「同意を取り付ける」といった一方的な目的意識では、かえって対立を深めてしまいます。
専門性と市民感情、制度と現場、科学と価値観が交錯するなかで、「合意」ではなく「相互理解」をどう築くか。
これは単なる広報活動ではなく、現代のリスク社会において重要な社会的プロセスの一つです。
キーワードで整理する
この話題を体系的に理解するには、以下のキーワードに注目します。
- リスクコミュニケーション
専門家・行政・住民などの多様なステークホルダーが、リスクに関する情報・認識・価値観を共有し、相互理解を図るプロセスです。
目的は「合意形成」や「結論の統一」ではなく、多様な意見の尊重と対話の継続です。 - リスク認知の差異
市民と専門家では、リスクの感じ方が異なります。
専門家は確率や数値に基づいて判断しますが、市民は未知性・制御不能性・不公平感などに敏感に反応します。 - 専門家の説明責任と媒介機能
技術士などの専門職には、専門用語の噛み砕き、データの不確実性の説明、客観性の確保といったコミュニケーション能力が求められます。
科学的中立性を維持しながら、誰の立場にも偏らずに信頼性のある情報発信を行うことが重要です。 - 教育との接続
津波防災教育のように、地域のリスクを「自分事」として捉える態度形成を促すことも、主体的リスク対応力の醸成という観点でリスクコミュニケーションの一部と位置づけられます。
実際の問われ方
本問は、「リスクコミュニケーションとは何か」という根本に立ち返る選択問題です。特に注目すべきは③の選択肢で、「価値観の一致や一つの結論を導き出すことが目的」と誤解している表現が含まれています。
| 選択肢 | ポイント | 判定 |
|---|---|---|
| ① | 潜在的な懸念を掘り起こす → 対話の出発点として適切 | 適切 |
| ② | 主体的避難行動を促す → 教育的リスクコミュニケーションの例 | 適切 |
| ③ | 異なる意見を「一致させる」ことが目的と誤認している | 不適切(正解) |
| ④ | 難解な表現を避け、不確実性も含めて説明する → 重要な実践姿勢 | 適切 |
| ⑤ | 科学的中立性・独立性のある発信 → 専門家に求められる役割 | 適切 |
試験での留意点
- 「リスクコミュニケーション=合意形成」ではない点に注意。目的は“理解の共有”であり、“意見の一致”ではない。
- 「説得」「納得させる」といった一方通行的発想は、本質から逸脱した理解となります。
- 専門家が「説明して終わり」ではなく、不確実性や価値の多様性に開かれた姿勢をとることが前提です。
- 価値観が対立しても、共に情報を共有し、相手の認識を尊重しながら進めるプロセスが評価されるべきであることを踏まえて判断する必要があります。
このテーマは、安全管理や環境施策に限らず、あらゆる社会実装の場面において横断的に登場する重要概念です。
Ⅰ-1-30:リスク認知におけるバイアスの種類と影響
背景にある問い
現場でトラブルが起きたとき、「まさか、こんなことが起きるとは思わなかった」という声が上がることがあります。
あるいは、「この程度なら大丈夫」「自分の経験からして問題ない」として、異常兆候を見過ごしてしまうこともあります。
実際、組織事故や災害の多くは、**人間の判断の偏り(バイアス)**が引き金となっており、それが原因でリスク対応が遅れたり、備えが不十分になったりします。
このように、リスクをどう受け止めるかは、単なる知識や制度ではなく、心理的・認知的な傾向にも左右されます。
技術的対応を補完する意味でも、こうしたバイアスへの理解は不可欠です。
キーワードで整理する
リスク認知において典型的に見られるバイアス(偏り)は、次の5つに分類されます。
- カタストロフィーバイアス
確率が非常に低いにもかかわらず、被害規模が極めて大きい事象に対して、必要以上に恐れたり注目したりする傾向。
原発事故、大地震、航空機事故などに対して、客観的リスクよりも感情的反応が強まる例が該当します。 - 正常性バイアス
明らかに異常な兆候があっても、「いつもと同じだから大丈夫」として正常な状態だと認識してしまう傾向。
避難の遅れや初動ミスの原因として、多くの災害事例で報告されています。 - ベテランバイアス
経験豊富な者ほど、「過去に同じようなことがあったが問題にならなかった」として、新たな異常を過小評価する傾向。
職場内での「慣れ」や「思い込み」による判断ミスがこれに該当します。 - バージンバイアス
過去に経験がない事象に対して、過大または過小評価してしまう傾向。
未経験領域では、合理的判断をしにくくなる心理的特徴が背景にあります。 - 楽観主義バイアス
「自分には悪いことは起こらないだろう」「きっと大丈夫」といった、希望的観測によってリスクを過小評価する傾向。
個人の防災意識や安全対策の遅れにつながる要因となります。
実際の問われ方
本問では、5種類のバイアスについて、その説明文と名称の正しい対応関係を問う組合せ選択問題です。
以下のように整理することで、視覚的にも分類が明確になります。
| バイアス名 | 内容の特徴 |
|---|---|
| カタストロフィー | 非常に低頻度だが大被害 → リスクを過大評価する |
| 正常性 | 異常な兆候でも正常と判断 → 異常を見逃す |
| ベテラン | 経験者ほど異常を軽視 → 「これくらい大丈夫」の思い込み |
| バージン | 未経験な事象に対し過大・過小評価 → 判断の不確実性 |
| 楽観主義 | 「自分には起きない」 → リスクを甘く見る |
選択肢⑤のように、各説明に対応するバイアスを正しく判断できることが求められます。
試験での留意点
- 正常性バイアスと楽観主義バイアスは似て見えますが、前者は「状況」を、後者は「自分自身」を根拠にしています。
- ベテランバイアスとバージンバイアスも対比的です。経験の「あり/なし」が判断への影響の質を変えます。
- カタストロフィーと合理的判断の乖離は、「起きる確率」と「被害の大きさ」を切り分けて考える訓練が有効です。
- 「○○バイアス」と聞くと否定的に捉えがちですが、実務上はこれらを認識したうえで設計や対応に活かすことが重要です。
この分野は、ヒューマンファクター(人的要因)に基づく安全設計や教育に直結しており、管理職や技術責任者に求められる思考領域です。
Ⅰ-1-31:安全文化と組織的リスク対応の姿勢
背景にある問い
「またヒヤリ・ハットを隠していたのか」
そう責められる職場では、問題が起きても報告は上がってきません。
逆に、「報告してくれて助かった」と上司が受け止めてくれる職場では、小さな兆候が早期に拾い上げられ、事故を未然に防ぐことができます。
この違いを生み出すのは、マニュアルの整備や監視体制ではなく、職場全体の価値観・信頼関係・態度です。
安全とは、制度や技術ではなく、「人の心の中」と「組織の空気」の中にあるという考え方が、**安全文化(Safety Culture)**という概念の出発点です。
キーワードで整理する
- 安全文化(Safety Culture)
安全に対する個人および組織の価値観・態度・能力・行動様式の総体を指します。
1986年のチェルノブイリ原発事故を契機にIAEA(国際原子力機関)が提唱した概念であり、単なるルール遵守ではなく、安全を最優先とする価値の共有が中核に据えられています。 - 報告文化(Reporting Culture)
ミスやヒヤリ・ハットを責めることなく共有し、改善に活かす姿勢が組織内に根づいていること。
これにより、事故の芽を初期段階で発見・対処できる仕組みが成立します。 - 柔軟性(Flexibility)
平時と緊急時で体制を切り替えられる能力。たとえば、非常時に現場の専門家に裁量を与える体制がなければ、迅速で的確な対応はできません。 - 学習文化(Learning Culture)
過去の失敗を糾弾するのではなく、そこから教訓を引き出して改善を積み重ねていく文化を指します。組織が自ら成長するための基盤といえます。 - 公正文化(Just Culture)
人為ミスに対しては責めず、故意や無責任な行動は明確に線引きすることで、組織内における「信頼」と「けじめ」の両立を図る姿勢。
これは報告文化を支える土台でもあります。
実際の問われ方
本問は、安全文化の主要な考え方に基づいて、組織のあり方として妥当かどうかを判断する形式です。
選択肢②は、「自己申告が難しいから、他者による監視を重視すべき」と逆の方向を正解としており、安全文化の本質から逸脱しています。
| 選択肢 | 内容の要点 | 適否 | 備考 |
|---|---|---|---|
| ① | チェルノブイリ事故がきっかけ | 適切 | 歴史的背景の説明 |
| ② | 報告より監視を重視する | 不適切(正解) | 安全文化の基本に反する姿勢 |
| ③ | 緊急時の柔軟な権限移譲 | 適切 | フレキシビリティの視点 |
| ④ | 改善への意思と能力 | 適切 | 学習文化の説明に該当 |
| ⑤ | 許容行動の線引きと合意形成 | 適切 | 公正文化の要点を表現している |
試験での留意点
- 「監視強化=安全」ではない。むしろ、当事者が報告しやすい環境づくりが事故防止の出発点です。
- 柔軟性・学習・公正性・報告性は、安全文化の4本柱として出題されやすいポイントです。名称だけでなく中身の意味を理解しておくことが重要です。
- 「文化」とは行動ではなく価値観・風土に関わるものであることを意識して、他の管理活動(規定整備や監視体制)との違いを押さえておく必要があります。
この分野は、単なるルール遵守から脱却し、組織的安全マネジメントの成熟度を評価する観点として重要な位置づけを持っています。
Ⅰ-1-32:特定保守製品と長期使用製品安全点検制度
背景にある問い
「この製品は10年経っているけれど、壊れてないから使い続けよう」
日常ではよくある判断です。
しかし、家電製品や住宅設備には、内部劣化が進んでいても外見上わからないものが多く存在します。
そして、ある日突然、火災や一酸化炭素中毒などの重大事故につながることがあります。
こうした経年劣化による事故を未然に防ぐためには、使用者側が“正常動作=安全”と見なす思い込みを超えて、点検を受ける習慣が重要です。
そこで、制度として整備されたのが長期使用製品安全点検制度です。
キーワードで整理する
- 長期使用製品安全点検制度
2007年のガス湯沸器による一酸化炭素中毒事故を契機として創設された制度で、経年劣化により重大な危害を及ぼすおそれのある製品を対象としています。
所有者がメーカーに登録することで、適切な時期に点検通知を受け、メーカー等による有償点検を受けることが義務付けられる制度です。 - 特定保守製品(全9品目)
制度の対象製品は、法令で9品目に限定されています。いずれも「屋内設置」「経年劣化」「重大事故のリスク」が要件で、以下が該当します(2024年時点)。
| 分類 | 該当製品の例 |
|---|---|
| ガス機器 | 屋内設置型の都市ガス・LPガス用瞬間湯沸器、ふろがま |
| 石油機器 | 石油給湯機、石油ふろがま(屋内外両方)、密閉燃焼型石油温風暖房機 |
| 電気機器 | ビルトイン式電気食器洗機、浴室用電気乾燥機 |
→つまり、「屋外設置型」や「ポータブル型」「蒸気機器(加湿器など)」は対象外です。
- 制度のポイント
- 所有者登録が前提(登録しなければ通知が届かない)
- メーカー等が点検時期を通知
- 点検は有償
- 安全対策は所有者責任にもとづく
実際の問われ方
本問では、「特定保守製品として最も適切なもの」を選ばせる形式です。
選択肢には実在する家庭用製品が並んでいますが、「制度に該当するかどうか」は設置場所や使用年数に伴う劣化リスク、事故の深刻性によって判断されます。
| 選択肢 | 機器の特徴 | 該当性 | 理由 |
|---|---|---|---|
| ① | ビルトイン式電気食器洗機 | 該当 | 対象9品目のひとつ |
| ② | ガス温水式浴室乾燥機 | × | ガス式、かつ浴室設置で想定事故が限定的 |
| ③ | 屋外式ガス瞬間湯沸器 | × | 屋外設置のためリスク低く対象外 |
| ④ | 開放式石油温風暖房機 | × | 密閉燃焼式のみ対象 |
| ⑤ | スチーム加湿器 | × | 電気加熱式で火災や中毒の危険性が低いため対象外 |
試験での留意点
- **「ビルトインかどうか」「屋内か屋外か」「密閉か開放か」**が識別ポイントです。
とくに、石油暖房機では「密閉燃焼型(FF式)」のみが対象となる点は頻出です。 - 「火災や中毒など重大な人身事故が起きるかどうか」という事故の深刻性が対象製品の選定理由であることを押さえると、記憶に定着しやすくなります。
- 法律名(消費生活用製品安全法)や制度名よりも、対象製品9品目の具体的な識別にフォーカスすることで得点に結びつきやすくなります。
この制度は、設計や製造の責任だけでなく、使用者による保守点検の必要性を制度化したものであり、安全に関する新しい社会的枠組みを示しています。
社会環境管理
I-1-33:気候変動適応法と気候変動適応計画
背景にある問い
「台風の進路が昔と違う」「農作物の収穫時期がずれてきた」「急な大雨でインフラがやられる」。
近年、こうした声を現場で耳にする機会が増えています。
従来の気候を前提とした設計や事業運営が、通用しなくなってきているのです。
こうした状況に対応するには、気候変動そのものを止める(緩和)だけでなく、既に起きつつある影響に「備える」姿勢が求められます。
では、国や地方公共団体、企業はどのような制度のもとで備えているのでしょうか。
実は、こうした「備え」に関する計画や役割分担には、法的根拠や国の制度が明確に定められています。それが「気候変動適応法」と「気候変動適応計画」です。
キーワードで整理する
この話題に関係するキーワードは以下の通りです:
- 気候変動適応法
気候変動による影響に「適応」するための国の基本法。2018年に施行され、政府や自治体の責務、事業者・国民の協力義務などが定められています。 - 気候変動適応計画
気候変動の影響に備えるための国の総合計画。温室効果ガスの排出削減(緩和策)を扱う「地球温暖化対策計画」とは目的が異なります。適応計画では、農業・水資源・自然災害・健康などの分野ごとに、今後の影響予測と具体的な対策の方向性が示されます。 - 地域気候変動適応計画
都道府県などが作成する地域ごとの計画で、策定は「努力義務」とされています。 - 国立環境研究所(NIES)
気候変動の影響予測や適応策に関する情報の収集・分析を担う中核機関として、法により役割が明記されています。 - 適応策の評価の難しさ
適応策は効果が現れるまでに時間がかかり、定量的な評価が困難です。世界的にも確立された手法が少ないのが現状です。
実際の問われ方
この問題では、適応法や適応計画に関する理解の正確さを問う形式で出題されています。選択肢のポイントは以下の通りです:
| 選択肢 | 説明 | 妥当性 |
|---|---|---|
| ① | 国の策定義務と地方の努力義務 | 正しい |
| ② | 国・地方・国民・事業者の役割記載 | 正しい |
| ③ | 温室効果ガス削減=緩和策 →これは「地球温暖化対策計画」の内容 | 誤り(正解) |
| ④ | 国立環境研究所の役割 | 正しい |
| ⑤ | 適応策の効果評価の難しさに関する記述 | 正しい |
このように、「適応策」と「緩和策(排出削減)」の混同を突いてくる形式が典型的です。
試験での留意点
- 適応策と緩和策の混同に注意
「排出削減目標」や「温室効果ガス」は緩和策のキーワードであり、適応策の記述と混ぜられると誤解しやすくなります。 - 適応法=影響に備える法律、地球温暖化対策法=排出を減らす法律
この2法の位置づけを明確に整理しておくと、選択肢の誤りが見抜きやすくなります。 - 「唯一の総合計画」などの断定的表現には注意
設問に出てきた「我が国唯一の〜」という表現は、他の計画があることを踏まえると、ミスリードになりやすいフレーズです。 - “誰が策定するのか”と“義務の有無”の整理も頻出ポイントです。
例:国は策定「義務」、都道府県は「努力義務」など。法的用語の違いに敏感になる必要があります。
この問題は、キーワードをただ暗記しているだけでは対応しにくく、「緩和と適応のすみ分け」「制度と計画の対応関係」を理解しておくことが重要です。
I-1-34:生物多様性の保全と国際条約
背景にある問い
「この魚、昔は近所の川にたくさんいたのに、最近は全然見かけなくなった」
「外来種の植物ばかりが繁殖して、昔ながらの草花が消えてきた」
こうした声は、地域の自然や環境に関わる人々からたびたび聞かれます。
工事や開発に直接関わらなくても、技術者や企業が扱うプロジェクトは、しばしば生態系や土地利用に間接的な影響を及ぼします。
そのとき、「どの動植物が守るべき対象なのか」「国際的な規制に違反しないか」「在来生物と外来種の区別が必要か」など、判断を支える知識が求められます。
生物多様性の保全は、単なる環境美化ではなく、制度と法規に裏打ちされた“科学的かつ社会的な合意事項”として捉える必要があります。
キーワードで整理する
このテーマに関係するキーワードは以下の通りです:
- 種の保存法(絶滅のおそれのある野生動植物の種の保存に関する法律)
希少種の保護を目的とし、指定された国内希少野生動植物種や国際希少野生動植物種について、捕獲・譲渡・輸出入の制限などを行います。環境省レッドリストは科学的評価リストであり、法的保護対象と一致するとは限りません。 - ラムサール条約
湿地の保全に関する国際条約で、水鳥の生息地として重要な湿地を自然・人工・一時的を問わず保護対象としています。日本では釧路湿原や琵琶湖などが登録地に指定されています。 - ワシントン条約(CITES)
絶滅のおそれのある野生動植物の国際取引を規制する条約。附属書I~IIIに分類され、取引の可否や条件が異なります。学術目的や一定条件下での商業取引が可能な種も存在します。 - 外来生物法(特定外来生物による生態系等に係る被害の防止に関する法律)
生態系に被害を及ぼすおそれのある生物を特定外来生物に指定し、生きた個体や卵などの器官の輸入・飼養・譲渡等を規制します。死んだ個体は対象外です。 - 里地里山と生物多様性
里山は人間の営みにより維持されてきた二次的自然であり、資源利用の減少により管理が不十分になると、逆に生物多様性の喪失につながることが懸念されています。
実際の問われ方
本問題では、制度や条約の目的と適用範囲に関する正確な理解が問われています。特に選択肢の切り口は以下の通りです:
| 選択肢 | 主なポイント | 正誤 |
|---|---|---|
| ① | レッドリストと種の保存法対象の一致 | 誤り(制度的には一致しない) |
| ② | 人工・一時的な湿地の扱い(ラムサール) | 誤り(対象に含む) |
| ③ | ワシントン条約と取引の条件 | 正解(附属書ごとに条件あり) |
| ④ | 里山管理の放棄と生物多様性 | 誤り(放棄でむしろ悪化) |
| ⑤ | 死んだ外来生物の扱い | 誤り(生きた個体などに限る) |
出題者は、**条文や制度の細かい“例外”や“誤解されやすい定義”**をついてくる傾向があります。
試験での留意点
- 科学的リスト(レッドリスト)と法的規制対象(種の保存法)の違いに注意
レッドリストはあくまで評価資料であり、法的拘束力はありません。実際の法規制の対象は、環境大臣等によって指定されたものです。 - “自然でなければ対象外”という直感に注意
ラムサール条約のように、人工的・一時的な環境も保全の対象になる制度は意外と多く存在します。 - “外来種だから全部禁止”とは限らない
外来生物法の対象は「特定外来生物」に限られ、さらに「生きたもの」に限定されています。死体や加工品などは除外されます。 - 生物多様性=放置すればよい、ではない
里山などの二次的自然は、人間活動によって維持されてきた側面があります。保全=保護ではなく、適切な管理が必要であることを押さえておくと、他の設問でも応用が利きます。
この問題では、国際条約や法律の「主旨と例外」、そして現場での誤解されやすいポイントに焦点をあてることが求められます。事例ベースでの制度整理が、理解の近道といえます。
I-1-35:プラスチック資源循環戦略と第四次循環型社会形成推進基本計画
背景にある問い
「プラごみってリサイクルすればいいんでしょ?」
「燃やして発電してるなら、無駄じゃないのでは?」
「海外に送ってたのが止まったって聞いたけど、どうするのか」
こうした言葉は、廃棄物処理や環境対策に携わる現場だけでなく、一般生活者や自治体の間でも広がっています。
特にプラスチックごみは、利便性の代償として環境負荷が問題視され、レジ袋有料化などの政策が日常生活にも直結するようになりました。
このような状況下で、日本は循環型社会への転換を進めるための戦略的方針として、「第四次循環型社会形成推進基本計画」および「プラスチック資源循環戦略」を策定しました。
プラスチックの使用削減、リサイクル高度化、さらには海洋プラスチック対策まで、多角的に整理する必要があります。
キーワードで整理する
- 第四次循環型社会形成推進基本計画
2018年に策定された国の基本計画で、3R(リデュース・リユース・リサイクル)や適正処分の徹底に加え、地域循環共生圏の形成やプラスチック対策の強化を打ち出しました。 - プラスチック資源循環戦略(2019年)
この計画に基づき策定されたもので、2050年を見据えた野心的で実効性ある戦略とされています。柱は以下の7項目です:- リデュース(発生抑制)
- リユース・リサイクル設計
- 分別・回収
- リサイクル
- バイオプラスチック導入
- 海洋プラスチック対策
- 国際展開・技術開発
- バイオマスプラスチック
再生可能資源を原料とし、燃焼時のCO₂排出がカーボンニュートラルとされるプラスチック。焼却が前提の場面での活用が想定されています。 - マイクロプラスチック対策
既に海洋に流出している微小なプラスチックごみに対して、流出抑制や代替素材(海洋生分解性プラスチック)の導入が検討されています。 - 海外処理ではなく国内完結へ
使用済みプラスチックの100%有効利用(リユース・リサイクル・熱回収)を2035年までに実現するという国内完結型の方針が明示されており、「海外依存」からの脱却が基本方針とされています。
実際の問われ方
この設問では、循環戦略の具体施策に関して「整合しているか」「戦略の方向性に反していないか」が焦点となっています。以下の通り整理できます:
| 選択肢 | 要点 | 妥当性 |
|---|---|---|
| ① | バイオマスプラスチックの焼却利用 | 正しい |
| ② | レジ袋有料化による発生抑制 | 正しい |
| ③ | 資源の性状に応じた最適手法選択 | 正しい |
| ④ | 海洋プラ対策として素材開発 | 正しい |
| ⑤ | アジア諸国との連携による処理(海外依存) | 誤り(正解) 国内完結を基本方針としている |
試験では、「使い古された表現」「聞き覚えのある正論」に見せかけた文言で、戦略の方向性とズレている選択肢を見抜く力が問われます。
試験での留意点
- “リサイクル=海外処理”という過去の常識は通用しない
以前は輸出処理が一般的でしたが、プラごみ問題の深刻化により、国内循環型へ移行するのが明確な流れです。 - “バイオ”だからリサイクルではない
バイオマスプラスチックはリサイクルではなく、焼却前提でのCO₂削減策と理解しておく必要があります。 - 「素材開発」も循環戦略の一部
海洋分解性プラスチックなどの開発は、「素材設計から見直す」視点として重要です。リデュース・リサイクルだけに偏らず、ライフサイクル全体で考えることが求められます。 - 熱回収=悪ではない
マテリアルリサイクルと並んで、サーマルリサイクル(熱回収)も有効利用の一部と認められており、廃棄物処理の文脈では重要です。
本テーマでは、単なる廃棄物処理ではなく、素材設計・消費行動・国際的動向まで含めた循環設計の視点が問われています。全体像を捉えながら、個別の対策がそのどこに位置づくかを意識すると、選択肢を整理しやすくなります。
I-1-36:リサイクル関連法の体系と対象物
背景にある問い
「リサイクルは環境に良いけど、誰が何をどう処理しているのかは知らない」
「事業で出る廃棄物って、何か特別なルールがあるのか」
「家電や自動車、建設資材って、それぞれリサイクルの仕組みが違うのか」
このような問いは、製造業・建設業・物流業など、モノを扱う業界で必ず直面します。
廃棄物処理をめぐるリスク管理は、「捨てたら終わり」ではなく、排出者責任や再商品化義務を意識した設計・流通・処理の連携が必要です。
日本では、個別の産業や製品に応じてリサイクル法が整備されていますが、名称が似ていても目的・対象・義務者が異なる点に注意が必要です。
キーワードで整理する
- 容器包装リサイクル法(容リ法)
家庭から出る容器包装廃棄物(ペットボトル、プラ容器、缶など)について、
消費者:分別排出 → 市町村:分別収集 → 事業者:再商品化義務 という三層構造が特徴です。
特定事業者は、自社製品に使用した容器包装に応じて再商品化の費用負担や委託義務を負います。 - 家電リサイクル法(特定家庭用機器再商品化法)
対象はエアコン・冷蔵庫・洗濯機・テレビの4品目。
小売業者は引き取り義務、製造業者は再商品化義務を負います。
パソコンやカメラなどは別制度(小型家電リサイクル法)に該当します。 - 食品リサイクル法
食品関連事業者に対して、**食品廃棄物の発生抑制と再生利用(肥料化・飼料化など)**を義務づける法律です。
政府の基本方針では、事業系食品ロスを2030年度までに2000年度比で半減する目標が示されています。 - 建設リサイクル法
対象はコンクリート、アスファルト、木材などの特定建設資材。
一定規模以上の工事では、分別解体・再資源化が義務化されています。
建設機械や廃油などは対象外です。 - 自動車リサイクル法
リサイクル対象はシュレッダーダスト、フロン類、エアバッグの3品目。
これらについては製造者が自ら回収・リサイクル等を実施します。
一般部品や廃油などは含まれません。
実際の問われ方
この設問では、複数の法律の目的・対象・義務者を識別できているかが問われています。選択肢を構造的に整理すると以下のようになります。
| 選択肢 | 主な対象 | 法律名 | 正誤 |
|---|---|---|---|
| ① | 容器包装 | 容リ法 | 正解 |
| ② | パソコン・カメラ | 小型家電リサイクル法(※家電リサイクル法ではない) | 誤り |
| ③ | 食品ロス | 食品リサイクル法(※目標はゼロでなく半減) | 誤り |
| ④ | 廃油 | 建設リサイクル法(※対象外) | 誤り |
| ⑤ | 自動車部品 | 自動車リサイクル法(※対象は3品目のみ) | 誤り |
このように、制度が似通っている分、名称・対象・義務者の3点セットで正しく対応できるかが重要です。
試験での留意点
- 名称が似ていても法目的が異なる
「リサイクル法」と一括りにせず、何を対象にした法律かを正確に把握する必要があります。 - 対象製品を具体的にイメージする
家電リサイクル法の「4品目」、建設リサイクル法の「3種の建設資材」、自動車リサイクル法の「3品目」など、数字と中身をセットで覚えると有効です。 - リサイクル=ゼロではない
食品リサイクルなどでは「ゼロを目指す」と言われがちですが、実際の目標は“半減”などの現実的水準に設定されています。極端な表現には注意が必要です。 - 「引き取るのは誰か?」が盲点
排出者→小売業者→製造者といったフローの中で、どの主体が何を担っているかを把握しておくと、選択肢の違和感に気づきやすくなります。
リサイクル関連法は、製品ライフサイクルと制度が交差する領域です。法律名だけで判断せず、対象・義務・目的を結び付けて整理しておくことが、実務的にも有効な知識となります。
I-1-37:気候変動の長期的傾向(統合レポート2018)
背景にある問い
「今年も暑すぎて工期が遅れた」
「ゲリラ豪雨の予測が外れて現場が浸水した」
「冬なのに除雪の必要がない日が増えた」
こうした現場の違和感は、年々確実に蓄積されています。気象現象の“異常化”は、もはや感覚の問題ではなく、長期的な統計として確認される事実となっています。
では、その変化は一時的なものでしょうか。それとも長期トレンドに基づくものなのでしょうか。
そして、それは世界的な動きと比べて、日本はどうなっているのでしょうか。
そうした問いに対し、科学的な観測と予測に基づき報告されたものが、「気候変動の観測・予測及び影響評価統合レポート2018」です。
キーワードで整理する
- 気候変動の観測・予測及び影響評価統合レポート2018(環境省・気象庁等)
日本の気候変動に関する100年スケールの長期傾向を整理した包括的なレポートです。
気温・降水・豪雨・無降水日数など、指標ごとの実測データに基づき、将来予測や社会影響への考察も含まれています。
以下は代表的な指標です:
| 指標 | 傾向 | 補足 |
|---|---|---|
| 年平均気温 | 上昇 | 世界平均よりも早いペース(日本:約1.2℃/100年) |
| 猛暑日(35℃以上) | 増加 | 年間発生日数が顕著に増加 |
| 冬日(0℃未満) | 減少 | 暖冬傾向と一致 |
| 短時間強雨(80mm/h以上) | 増加 | 特に都市部・局地的にリスクが拡大 |
| 無降水日(1mm未満) | 増加 | 減少ではない点に注意が必要 |
特に無降水日数は直感に反する傾向で、**「豪雨と干ばつが同時に進行する」**という二極化現象の一端を示しています。
実際の問われ方
この問題では、「観測値に基づく長期傾向」が問われており、以下のポイントが押さえどころです:
| 選択肢 | 内容 | 正誤 | 留意点 |
|---|---|---|---|
| ① | 年平均気温上昇、日本は世界平均より速い | 正 | 長期観測値で裏付けあり |
| ② | 猛暑日増加 | 正 | 都市部で特に顕著 |
| ③ | 冬日減少 | 正 | 気温上昇傾向と整合 |
| ④ | 短時間強雨の増加 | 正 | 「豪雨災害」頻発とも連動 |
| ⑤ | 無降水日の減少 | 誤り(正解) | 実際は増加している |
これらはすべて、「感覚的な異常」ではなく、統計的事実に基づく変化である点に注意が必要です。
試験での留意点
- 極端な現象が増える一方で、“雨が降らない日”も増えている点に着目
「大雨=雨の日が増えている」ではなく、「降るときに集中的に降る」という構造にシフトしています。 - “気温上昇”という一方向の現象が、猛暑日増加・冬日減少・無降水日増加と複数の指標に現れる
異なる切り口でも、同じ気候変動トレンドを反映していると捉えると、整理しやすくなります。 - 「増えているのは雨の回数ではなく、雨の強度」
短時間強雨は、降水量そのものよりも雨の降り方の変化を示す指標です。 - “気温・降水・日数”など、単位の異なる指標を混同しない
数字の大小でなく、**「どの指標に何の傾向があるのか」**を冷静に押さえることが重要です。
この問題は、自然環境の変化を数値的・構造的に把握する姿勢が問われており、気候に対する直感的な印象に頼らず、データから論理的に読み解く力が求められます。実務においても、災害リスク評価やエネルギー計画などに直結する基礎知識といえます。
I-1-38:第五次環境基本計画と地域循環共生圏
背景にある問い
「環境政策って結局、省エネの話ではないのか」
「再エネもSDGsも横文字ばかりで、地方でどう活かせばいいのか分からない」
「災害、エネルギー、人口減少……全部バラバラに対処していて限界がある」
こうした声は、地域政策や企業のESG対応を検討する中で多く聞かれるようになりました。
複雑化する社会課題に対して、縦割りでは限界があるという実感が、今や共有されつつあります。
こうした中、日本の環境政策の指針として策定されたのが「第五次環境基本計画」です。
特徴は、個別課題への対応にとどまらず、社会構造そのものの転換をめざす横断的アプローチにあります。
キーワードで整理する
- 環境基本計画(第五次)
環境基本法第15条に基づいて国が策定する環境政策の中長期的な大綱です。
第五次計画(2018年閣議決定)では、「持続可能な社会の構築」を目指し、以下のような考え方を重視しています。 - 地域循環共生圏
都市と農山漁村が補完関係に立ち、地域資源を循環的に活用しながら、エネルギー・食料・人の流れを再編する社会像です。
このビジョンを中核に、各地域の持続可能性を高めると同時に、国全体の強靭性も確保します。 - 横断的・統合的な環境政策
第五次計画では、環境・経済・社会を一体として捉え、分野横断的に取り組むことが不可欠としています。
そのため、特定の分野だけに閉じた「分野別重点戦略」は明確に否定され、むしろ“つなぐ”政策を重視しています。 - 持続可能な開発のための2030アジェンダ(SDGs)
第五次計画は、SDGsやパリ協定を踏まえた国際潮流とも整合的であり、国内政策とグローバル目標の接続を意識して構成されています。 - 災害廃棄物対策と復興・創生
東日本大震災の経験を踏まえ、南海トラフ地震などの将来災害への備えとして、災害廃棄物処理を政策の柱として明示しています。
実際の問われ方
本設問では、以下のように計画の構造理解と方向性の誤解を見抜けるかが問われています。
| 選択肢 | 内容 | 正誤 | 解説ポイント |
|---|---|---|---|
| ① | 計画の法的位置づけ(環境基本法に基づく) | 正 | 法律根拠あり |
| ② | SDGsやパリ協定との整合性 | 正 | 国際潮流との一体化 |
| ③ | 地域循環共生圏のビジョン提示 | 正 | 中核的な概念 |
| ④ | 分野別重点戦略を強調 | 誤り(正解) | 実際には横断的統合を重視 |
| ⑤ | 災害廃棄物や復興政策への位置づけ | 正 | 実践的政策対応あり |
「④ 分野別の特定課題解決に比重を置く」は、第五次計画の**“縦割り打破”という精神と逆行する**記述であり、正確に方向性を把握していないと見抜きづらい設問です。
試験での留意点
- “重点”や“戦略”という言葉に惑わされない
重点という語が入っていても、実際には統合的・横断的なアプローチか否かが重要です。 - 「環境計画=省エネ・リサイクル」ではない
第五次計画は、社会構造の再設計(地域・人の流れ・経済の循環)を含むビジョンである点に注目してください。 - 「共生圏」=農村の話ではなく都市も対象
「共生圏=田舎でやること」と誤解されがちですが、都市も循環の構成要素であり、全体として自立・分散型のネットワークを目指すのが本質です。 - 「災害=環境政策の枠外」とは限らない
環境政策と防災は切り離されがちですが、災害廃棄物処理やエネルギー供給体制の強靭化は、環境政策の重要な柱とされています。
この設問は、環境政策の制度的枠組みだけでなく、**政策思想の転換点(分野別→横断・共生)**を見抜けるかどうかが試されており、総監的な「統合の視点」が問われる好例といえます。
I-1-39:環境影響評価法と評価手続の構造
背景にある問い
「このダム計画、大丈夫なのか?」「風力発電は良いけど、鳥の移動や景観は?」
インフラ整備や大規模事業において、こうした疑問が住民や自治体から寄せられることは少なくありません。
これに対し、企業や行政は「もう決めたこと」と一方的に押し切るのではなく、計画段階から環境への配慮を示し、意見を反映する手続が求められます。
こうした「透明性と説明責任」を支える制度が**環境影響評価法(環境アセスメント法)**です。
工程や書類名が複雑になりがちですが、目的と位置づけを整理しておくと、構造が見えやすくなります。
キーワードで整理する
- 環境影響評価法(環境アセスメント法)
一定規模以上の事業において、その実施が自然環境・生活環境に及ぼす影響を事前に調査・予測・評価し、住民意見を反映させた上で事業の適否を検討する法制度です。対象事業は「第一種事業(フルアセス)」と「第二種事業(スクリーニング対象)」に分類されます。 - スクリーニング
第二種事業に該当する場合、環境影響評価の要否を個別に判断するための事前手続です。
→ 誤解注意:評価方法書を検討する手続ではありません。 - 計画段階配慮書
「計画の早期段階」で、環境への配慮事項をまとめた文書。費用対効果の検討義務はなく、主眼は早期配慮と選択肢の提示です。 - 方法書
環境アセスの中で、どの項目を調査し、どのような手法で予測・評価するかを事前に定める文書。方法書段階で自治体や住民から意見を聴取します。 - 準備書
方法書に基づいて調査・予測・評価した結果をまとめたもので、環境の保全措置や総合的評価も含まれます。→ 正解はこれに関する選択肢 - 環境影響評価書
準備書に対して、関係自治体や住民の意見を反映した上で確定する最終文書。
→ 環境大臣は意見聴取対象ではない点に注意。 - モニタリング・報告
環境保全措置のうち、効果に不確実性があるものについて、事業後に報告が義務付けられています。すべての措置ではありません。
実際の問われ方
以下のように、手続きや用語の正確な理解と“位置づけのズレ”を見抜けるかがポイントです。
| 選択肢 | 内容 | 正誤 | ポイント |
|---|---|---|---|
| ① | 計画段階配慮書に「費用対効果」記載義務 | 誤り | 費用対効果は評価対象外 |
| ② | スクリーニングの定義 | 誤り | 方法書作成ではなく「要否判断」 |
| ③ | 準備書の内容構成 | 正解 | 必須記載項目として明記されている |
| ④ | 環境影響評価書に環境大臣の意見を反映 | 誤り | 環境大臣は正式な意見提出者ではない |
| ⑤ | すべての保全措置について事後報告義務 | 誤り | 対象は「不確実性のある措置」に限定 |
選択肢③だけが法的義務に即して適切な内容となっています。
試験での留意点
- 各文書の名称と役割の混同に注意
方法書・準備書・評価書の順序と内容を**「調査計画→実施結果→確定版」**として整理しておくと混乱しません。 - スクリーニング=“対象か否か”の絞り込み
名前に惑わされず、方法の選定ではなく“アセスの要否判断”であることを押さえると、誤選択を避けられます。 - 環境大臣は意見提出者ではなく、助言・指導役
形式上は意見提出者に見える記述でも、法的手続においては対象外とされている点に注意が必要です。 - 「全部に報告義務がある」と言い切ってしまう表現に要注意
義務が限定的(不確実性ある措置のみ)なものは試験でよく問われます。
環境アセスメント制度は、手続の流れと文書の役割の対応関係を図式で把握しておくことが最も有効です。体系的に理解することで、文章のひっかけにも冷静に対応できるようになります。
I-1-40:社会的責任と環境管理に関する国際的な枠組み
背景にある問い
「うちの会社、ちゃんと環境に配慮してるって言うけど、実際何をやってるのかよく分からない」
「SDGsとかESGとか、取引先が気にしてるけど、単なる流行語で終わらせていいのだろうか」
「環境対策ってコストがかかるだけで、経営とは別の話じゃないのか?」
こうした問いは、今や企業の現場だけでなく、自治体、大学、非営利組織にまで広がっています。
かつては一部の先進的企業やCSR部門だけの関心事だった「社会的責任」が、いまや経営判断や組織価値の基準そのものとして見直されています。
その中核にあるのが、「環境・社会・ガバナンス(ESG)」「トリプルボトムライン(TBL)」「ISO 26000」など、組織の責任や持続可能性を評価する多様な枠組みです。
キーワードで整理する
- ISO 26000(社会的責任に関する手引)
企業だけでなくすべての組織を対象とした、社会的責任(SR: Social Responsibility)の国際規格。
認証制度ではなくガイダンス規格であり、日本ではJIS Z 26000として制定されています。対象分野は人権、労働慣行、環境、公正な事業慣行、消費者課題、地域社会など多岐にわたります。 - エコアクション21
中小企業でも導入しやすい環境マネジメントシステム(EMS)で、環境省のガイドラインに基づく第三者認証制度。
建設業者や食品関連事業者向けの分野別ガイドラインも整備されており、環境報告・改善活動・法令順守を支援します。 - トリプルボトムライン(TBL)
企業の持続可能性を測る評価枠組で、**経済(Profit)・環境(Planet)・社会(People)**の3側面から企業価値を測定します。
ここでの「People」は、人的資源(HR)ではなく、社会全体(地域・コミュニティ・生活者)への責任を意味します。 - ESG投資
**環境(Environment)・社会(Social)・ガバナンス(Governance)に配慮した企業に対して、資本市場が優先的に投資する考え方。
国連が提唱した責任投資原則(PRI)**により、世界中の年金基金や機関投資家が導入を進めています。 - 環境会計
組織が環境保全活動に要した**コストと得られた効果(定量・定性)**を把握・開示するための仕組み。
環境報告書やCSRレポートに活用され、投資家や社会への透明性確保にもつながります。
実際の問われ方
この設問では、用語が一見すべて正しく見える中で、「トリプルボトムラインの『People』=人的資源」という微妙な誤りを見抜けるかがポイントです。
| 選択肢 | 要点 | 正誤 | 留意点 |
|---|---|---|---|
| ① | ISO 26000はJIS化されている | 正 | JIS Z 26000あり |
| ② | エコアクション21は中小向けで業種別対応あり | 正 | ガイドライン整備済み |
| ③ | TBL=人的資源の評価とする | 誤り(正解) | 本来は社会全体への責任 |
| ④ | ESG投資=責任投資原則と連動 | 正 | 国連PRIが根拠 |
| ⑤ | 環境会計=コストと効果を定量的に伝達 | 正 | 国のガイドラインあり |
「人的資源」と「社会全体(People)」は似て非なる概念であり、企業の内部資産と外部影響の違いを整理できているかが試されます。
試験での留意点
- “人的資源”と“社会”は異なる評価軸
人的資源(ヒューマンキャピタル)はあくまで内部資産、TBLのPeopleは企業が与える社会的影響の評価対象です。 - ISO=認証制度とは限らない
ISO 26000は**「手引き型ガイドライン」**であり、認証規格(ISO 14001など)と混同しないこと。 - ESGとCSRは目的と対象が異なる
CSRは企業自らの社会的責任、**ESGは“投資判断に使われる評価軸”**である点を整理しておくと応用が利きます。 - トレンド語に乗るのではなく、定義に立ち返る
トリプルボトムラインやESGは汎用化されすぎて意味があいまいになりがちですが、原義・構造に立ち返る思考が試験では有効です。
この設問は、用語の意味を「なんとなく」で覚えていると誤答しやすく、言葉の定義と構造的理解が問われる典型例といえます。表面的な正しさより、「何を評価しようとしているか」を問う視点が鍵になります。
コメント