このガイドは、ゼロから知識を積み上げるためのものではありません。
むしろ、すでにあなたが実務で積み重ねてきた経験――
現場での判断や対応、プロジェクトの中で「こうすべきだ」と感じてきたこと――
それらを言葉として再確認し、体系として整理するためのものです。
技術士(総監)の択一試験には、多くのキーワードが並びます。
ですが、実際には「知らなかったこと」よりも、「言葉としては使ってこなかったけれど、やってきたこと」が大半ではないでしょうか。
たとえば…
- 「利益は出ているのに、今使えるお金がない」
- 「人は足りているはずなのに、なぜか回らない」
- 「リスクは共有したはずなのに、意識がばらばらになる」
そんな現場の違和感に、名前を与えるのがキーワードであり、
それを「試験の問題でどう聞いてくるか」を合わせて確認するのがこのガイドです。
構成はすべて共通です:
- 背景にある問い(実務でよくある違和感からスタート)
- キーワードで整理する(「あの感覚」は、こういう言葉で説明される)
- 実際の問われ方(試験でどう聞かれるか)
- 試験での留意点(間違えやすいパターン・迷いやすいペア)
つまりこのシリーズは、
知識を“覚える”というより、「自分の中にあることを、言語と構造で納得する」ための読み物です。
現場の実感とキーワードをつなぐ視点で、これから一つずつ見ていきましょう。
- 令和6年度_背景から学ぶ「総監択一問題・キーワードガイド」
- 令和4年度_背景から学ぶ「総監択一問題・キーワードガイド」
- 令和3年度_背景から学ぶ「総監択一問題・キーワードガイド」
- 令和2年度_背景から学ぶ「総監択一問題・キーワードガイド」
- 令和元年度_背景から学ぶ「総監択一問題・キーワードガイド」
経済性管理
Ⅰ-1-1:限られた資源での投資配分と最適化
背景にある問い
予算が限られる中で、どの案件にどれだけ投資すべきか――。
技術部門やプロジェクトマネージャーが直面する意思決定の中でも、最も神経を使う場面です。
たとえば、研究開発費が年間4,000万円までと決められていたとします。
候補となる複数のプロジェクトには、それぞれ投資額に応じて期待される成果(利益)が設定されていますが、すべてに十分な資金を割くことはできません。
このとき、「一番利益が出るのはどれか」ではなく、「組み合わせとしてどうすれば合計の利益が最大になるか」を考えなければならず、悩ましい判断を迫られます。
このような現実的な場面に対して、工学的・経済的思考の訓練として出題されているのが本問です。
キーワードで整理する
このような意思決定には、組合せ最適化 という考え方が活用されます。
組合せ最適化とは、複数の選択肢の中から制約条件を満たす最適な組み合わせを選ぶ手法です。
工学における予算配分、設備計画、人的資源の割り当てなど、限られた資源を最大限に活用する場面で幅広く用いられます。
特に、限られた投資単位の中で、各選択肢の「投入コスト」に対して「得られる利益」を比較し、組み合わせを調整する際にこの考え方が必要とされます。
これは単なる利益の比較ではなく、効率(費用対効果)と全体最適を考慮した判断です。
実際の問われ方
本問では、以下のような条件が与えられています:
- 各プロジェクトに対する投資単位(1,000万円単位)ごとの利益額
- 投資可能な合計単位数(4単位=4,000万円)
- 各プロジェクトごとの投資上限
このような問題は、次のように整理すると見通しがよくなります:
| 投資パターン例 | A | B | C | 合計利益(万円) |
|---|---|---|---|---|
| A:1単位 + B:1単位 + C:2単位(正解) | 200 | 150 | 290 | 640 |
| A:2単位 + B:1単位 + C:1単位 | 320 | 150 | 160 | 630 |
| A:0単位 + B:2単位 + C:2単位 | 0 | 220 | 290 | 510 |
ポイントは、単独で最も利益が出る選択肢を選ぶのではなく、合計が最大となる組合せを探索することにあります。
試験での留意点
- 効率が高い=最適ではない点に注意が必要です。例えば、プロジェクトAの4単位目(1,000万円で利益+90)は効率が悪く、他に回した方が合計利益が上がる可能性があります。
- 利益額だけで判断せず、投入単位あたりの利益(効率)と全体の組合せを同時に検討することが求められます。
- 線形計画法やナップサック問題といった知識まで深堀りは不要ですが、制約付きの最適配分の考え方に慣れておくことが重要です。
特に、似たような選択肢が並んだときに「とりあえず利益が高いものを多く選ぶ」直感に頼ると、最適解を逃すことがあります。冷静に表にまとめ、地道に組み合わせを検討する姿勢が求められます。
Ⅰ-1-2:損益分岐点分析(Break-Even Point Analysis)
背景にある問い
新製品を開発したが、何個売れれば黒字になるのかが見えない。
また、経費削減を検討しているが、固定費と変動費のどちらを削減すべきか判断が難しい。
このように、販売量と利益の関係を定量的に把握できなければ、価格戦略や生産計画の意思決定はあいまいになります。
特に中小企業や技術系部門では、「どれだけ売れば損をしないか」という視点が事業の持続可能性と直結するため、早期に収支構造を理解することが求められます。
そのような場面で役立つのが、損益分岐点分析です。
キーワードで整理する
この考え方は、**損益分岐点(Break-Even Point)**というキーワードで表現されます。
損益分岐点とは、「利益がゼロになる販売量または売上高」のことを指します。
売上高から変動費を差し引いた「限界利益」で固定費を回収できるかどうかがポイントとなります。
数式で表すと以下のようになります:
- 損益分岐点(販売量) = 固定費 ÷(販売単価 − 変動費)
- 損益分岐点(売上高)= 固定費 ÷ 限界利益率
ここでの用語関係は次の通りです:
| 用語 | 内容 |
|---|---|
| 固定費(F) | 生産量に関わらず一定の費用 |
| 変動費(v) | 販売量に比例して増える費用 |
| 販売価格(p) | 1単位あたりの売価 |
| 限界利益 | p − v(1単位あたりの貢献利益) |
損益分岐点を超えると、それ以降は限界利益がそのまま利益として積み上がります。
実際の問われ方
令和5年度では、損益分岐点分析に関する基本的なグラフと概念の理解を問う設問が出題されました。
ポイントは以下の通りです:
- 損益分岐点の算出に用いる式と変数の関係(F, v, p, x など)
- 各パラメータの変化が損益分岐点に与える影響
- 利益の増減と販売量の関係性
出題形式では、次のような論点で設問が構成されます:
- 限界利益が減る → 分岐点は上がるか?
- 固定費が増える → 分岐点はどうなるか?
- 価格が下がる → 利益構造にどう影響するか?
不適切な選択肢を見極めるには、各数値の関係性に慣れておく必要があります。
試験での留意点
- 「p > v(販売価格>変動費)」の前提を見落とすと、限界利益の正負を取り違えることがあります。
- 販売量が損益分岐点を上回ると「利益が出る」という直感は正しいですが、限界利益が減少しているときは利益の増加スピードが鈍るため注意が必要です。
- 選択肢①のように「vが増加すると損益分岐点が減少する」といった逆方向の記述は特にひっかけとして頻出です。
これは「限界利益が減る → 分母が小さくなる → 分岐点は増える」という基本構造に照らして冷静に判断することが重要です。
グラフを描いて関係を可視化する力も問われており、損益線と費用線の交点が「分岐点」であることを図解で理解しておくと、応用問題にも対応しやすくなります。
Ⅰ-1-3:信頼性設計・保全性設計・デザインイン・デザインレビュー・フロントローディング
背景にある問い
設計レビューの場で、品質部門から「この製品はメンテナンス性に配慮されていますか?」と問われた。
また、サプライヤーからは「我が社の部品を採用してくれれば、設計段階から技術協力できます」と申し出がある。
一方で、上層部からは「初期段階で課題を洗い出せなければ、後戻りコストがかさむぞ」と圧がかかる。
こうした設計段階での多面的な要求に対し、技術者としてどのような設計視点を持つべきか――。
設計はもはや「形にする」だけの行為ではなく、「信頼性」「保全性」「外部連携」「工程戦略」などを総合的に織り込むマネジメント行為になっています。
これらの要求に応えるためには、設計に関する用語やアプローチの正確な理解が必要です。
キーワードで整理する
こうした設計戦略を支えるキーワードとして、以下の5つがよく登場します:
- 信頼性設計:所定の条件下で、製品が故障せずに正常に動作し続けることを目的とした設計手法。
主に「故障の予防」を重視します。MTBF(平均故障間隔)などの指標も関連します。 - 保全性設計:万一故障した場合でも、迅速かつ容易に修理・復旧できるように設計段階で考慮する手法。
アクセス性、部品交換のしやすさ、診断性などが設計項目に含まれます。 - デザインイン:部品メーカーが自社の製品を最終製品に組み込んでもらえるよう、開発初期段階から顧客の設計活動に技術提案・協力する営業・開発戦略。
技術者にとっては、サプライヤー連携・部品仕様の早期確定といった面で関わりがあります。 - デザインレビュー:設計段階で定期的に実施される、文書化された計画的な審査プロセス。
不具合の早期発見と是正、関係部門間の認識共有が目的です。形式的な手続きにせず、実効性あるレビューとすることが重要です。 - フロントローディング:設計・開発の初期段階(上流工程)において、試作・製造・品質など下流で発生しうる問題を先取りして対策する手法。
結果として、全体の手戻り・コスト増を抑制し、品質と納期の確保に寄与します。
実際の問われ方
令和5年度の設問では、以下の形式で出題されました:
- (A)〜(E)の各用語と、(ア)〜(オ)の説明文を対応させるマッチング形式
- 5つの用語は、いずれも「設計マネジメント」に関する代表的な用語群
- 単語の意味を丸暗記するのではなく、用語の目的・対象・工程フェーズを意識して選択する必要があります
下記は用語と説明の正しい組合せです:
| 用語 | 説明文(対応) |
|---|---|
| 信頼性設計(A) | イ(所定条件で故障せず遂行) |
| 保全性設計(B) | ア(容易な検知と修復) |
| デザインイン(C) | エ(部品メーカーが設計参画) |
| デザインレビュー(D) | オ(文書化された審査) |
| フロントローディング(E) | ウ(上流工程での先行対策) |
このように、設計視点の違いを言葉と定義の整合で問う問題となっています。
試験での留意点
- 信頼性設計と保全性設計は混同しやすいため注意が必要です。
前者は「壊れないようにする」、後者は「壊れたときに直しやすくする」が核心です。 - デザインインとデザインレビューは、語感が似ていて誤選択しがちですが、**一方は外部連携(営業+技術)、もう一方は内部審査(管理手法)**であり、役割が全く異なります。
- フロントローディングは、工程の前倒しというイメージがあれば理解しやすく、初期段階の検討項目の例(品質・コスト・製造性)と合わせて押さえておくとよいでしょう。
複数選択肢を並べた設問では、単語の定義そのものよりも、「違いの比較」「誤用の排除」が正答への鍵となります。
Ⅰ-1-4:品質管理における代表的な図表とその用途
背景にある問い
「最近クレームが増えています。どの原因に手を付ければ効果が大きいでしょうか?」
「この工程、なんだか調子が不安定だが、何が影響しているのか…?」
製造やサービスの現場でこうした疑問が出たとき、思いつきや経験だけで対処するのでは限界があります。
必要なのは、現状を可視化し、データをもとに問題を分析し、効果的な改善につなげる手法です。
そのために、品質管理では「QC七つ道具」と呼ばれる基本的な図表が体系的に活用されており、これらを正しく使い分けることで、工程改善の起点を見いだすことが可能になります。
キーワードで整理する
これらの図表の中から、本問で問われている代表的なものとその特徴を以下に整理します:
- パレート図:不良やクレームなどの原因を種類別に集計し、多い順に棒グラフとして並べたもの。
「重要少数・些末多数(80:20の法則)」に基づき、特に影響の大きい項目(重点管理対象)を特定できます。
用途:どこに注力すれば効果的かを判断する。 - 管理図:工程の品質特性(寸法、重量など)を時系列で記録し、統計的に管理するためのグラフ。
上下の管理限界線(UCL, LCL)を超えた異常や、パターンの偏りを検出する。
用途:工程が統計的に安定しているか、異常が発生していないかを判断する。 - ヒストグラム:連続する計量データの分布(ばらつき)を階級に分けて棒グラフで表現。
平均・ばらつき・分布形状(正規分布に近いかどうか)を視覚化できる。
用途:データのばらつき傾向を把握する。 - 散布図:2つの特性間の関係性(相関)をプロットしたもの。
例:温度と強度の関係など。相関の有無、傾向を視覚的に把握できる。
用途:原因と結果の関係性を探索する。 - 特性要因図(フィッシュボーン図、特性・因果図):問題(特性)に対する原因(要因)を「人・設備・方法・材料」などの観点から分類・整理する図。
用途:問題の全体構造を把握し、重要な要因を洗い出す。
実際の問われ方
令和5年度の設問では、以下のような形式で出題されました:
- 代表的な図表とその「用途・目的」を1対1で対応させる形式
- 正答は①パレート図に関する記述(改善対象の優先順位付け)
- 他の選択肢は、異なる図表の説明を誤って割り当てた記述となっており、混同しやすい典型的な誤りを突いています
誤答の構造例:
| 選択肢 | 説明内容 | 正しい図表 |
|---|---|---|
| ② | 分布の形状、中心傾向 | ヒストグラム |
| ③ | 2つの特性の相関関係をみる | 散布図 |
| ④ | 原因を定性的に分類・整理 | 特性要因図 |
| ⑤ | 工程の異常を数値的に検出 | 管理図 |
このように、各図表の目的・使い方を的確に理解していないと、選択肢のすり替えに気づかないまま誤答してしまう構造となっています。
試験での留意点
- 名称と用途の組合せがずれているケースが典型的な誤答として用意されています。
- 特に混同しやすいのが「管理図」と「ヒストグラム」、「特性要因図」と「散布図」です。
分布を見るのがヒストグラム、工程異常を見るのが管理図という整理が必要です。 - 散布図は定量的関係性、特性要因図は定性的構造の整理という違いも押さえておきたいポイントです。
本問では「図の見た目」ではなく、「目的と使い方」を問うている点に注意が必要です。
普段の業務で何となく使っている図も、こうして名称と用途を結び付けることで、知識として体系化され、応用力につながります。
Ⅰ-1-5:設備総合効率(OEE)と保全活動の関係
背景にある問い
「設備の稼働率を上げろ」と上司に言われたが、稼働率とは一体何を指すのか?
また、現場で実施している予防保全や改良保全の効果が、実際に設備効率にどう影響しているのかがわからない。
改善活動を推進しても、「成果が見えづらい」「コスト削減ばかり強調される」といった悩みも少なくありません。
このように、設備に関する指標や取り組みが現場改善とどう結びつくのかを理解することは、生産性向上や保全活動の説得力を高めるうえで欠かせません。
その鍵となる指標が、**設備総合効率(OEE)**です。
キーワードで整理する
この問題の核心には、**設備総合効率(Overall Equipment Effectiveness, OEE)**という概念があります。
OEEは、設備の生産性を多面的に評価するための指標であり、次の3つの要素の積で定義されます:
- 時間稼働率:稼働可能な時間のうち、実際に設備が稼働していた割合
→ 停止時間を減らすことで向上 - 性能稼働率:設備が稼働している間に、どれだけの能力を発揮したか
→ 加工速度の改善、ムダの削減が影響 - 良品率:生産された製品のうち、良品の割合
→ 不良品の削減により向上
OEEはこの3つを掛け合わせて算出されます:
OEE = 時間稼働率 × 性能稼働率 × 良品率
それぞれの要素が明確であるため、どの改善活動がどこに貢献しているのかが可視化できるという利点があります。
実際の問われ方
本問では、設備保全や生産改善に関連する5つの取り組みについて、OEEの構成要素にどのような影響を与えるかを問う内容でした。
| 選択肢 | 内容 | OEEへの影響 | 該当する要素 |
|---|---|---|---|
| ① | 予防保全による停止時間の削減 | 稼働時間の増加 →向上 | 時間稼働率 |
| ② | 段取り作業の省人化 | 原価低減のみで稼働率に影響なし | ×(効果なし) |
| ③ | 作業速度低下の発生抑制 | 加工数量増加 →向上 | 性能稼働率 |
| ④ | 改良保全による不適合品の削減 | 良品率向上 →向上 | 良品率 |
| ⑤ | 事後保全の見直しによる復旧時間短縮 | 停止時間の短縮 →向上 | 時間稼働率 |
正答は②であり、「段取作業の省人化」はコスト削減には寄与するが、稼働率や加工速度、品質には直接的な影響を与えないため、OEEの向上とは無関係とされます。
試験での留意点
- 「原価削減=効率向上」ではないという点に注意が必要です。
原価は経済性の指標であり、OEEとは異なる軸であることを意識する必要があります。 - 保全の種類(予防・事後・改良)とOEEの要素との関係性を明確に整理しておくことが重要です。
| 保全の種類 | 主な効果 | OEEへの影響 |
|---|---|---|
| 予防保全 | 故障予防、停止時間の回避 | 時間稼働率の向上 |
| 改良保全 | 不具合の構造的改善 | 良品率・性能の向上 |
| 事後保全 | 故障後の迅速な復旧 | 時間稼働率の維持 |
- OEEの3要素は掛け算であるため、いずれかが低いと全体の効率が大きく下がることにも留意しておくとよいでしょう。
OEEは現場改善の指標であると同時に、経営層への説明ツールとしても活用できるため、その構成と改善活動の紐づけは、技術監理において非常に重要な視点となります。
Ⅰ-1-6:リードタイムと作業順序最適化
背景にある問い
生産現場や事務作業の現場で、
「早く処理できる仕事から片付けるべきか?」
「重たい作業を先に終わらせるべきか?」という議論が起こることは少なくありません。
たとえば、複数の部品加工や帳票作成タスクが並んでいるとき、順番の工夫によって全体の処理時間や次工程への引き渡し時間が大きく変わってくることがあります。
特に、後工程が待たされる時間や作業の平均完了時刻を意識したい場面では、順序の選択が結果を左右します。
このようなとき、作業の所要時間に基づいて「全体のリードタイム(各作業の完了までに要する時間)」を最小化するにはどうすればよいかという視点が重要になります。
キーワードで整理する
このような問題において本質的に問われているのは、スケジューリング理論における平均リードタイムの最小化です。
リードタイムとは、作業の「着手から完了までの所要時間」を指します。複数の作業が連続的に行われる場合、前の作業が終わらないと次に進めないため、各作業の完了時刻は累積的に遅れていきます。
このとき、**平均リードタイム(各作業の完了時刻の合計÷作業数)**を最小にするためには、次の戦略が有効とされています:
- SPT(Shortest Processing Time)法則
各作業の所要時間がわかっている場合、短い作業から順に実施することで、平均リードタイムが最小になる。
この法則は、待ち時間が累積する性質を利用した原則であり、単純ながら高い効果を発揮する基本的手法です。
実際の問われ方
本問では、5つの作業(A~E)それぞれに所要時間が与えられ、作業の順序を変えることで「平均リードタイム」がどう変化するかが問われました。
各作業の所要時間は以下の通り:
| A | 4 |
| B | 8 |
| C | 2 |
| D | 10 |
| E | 6 |
正答である選択肢②(C→A→E→B→D)は、SPT法に従って所要時間の短い順に並べたものです。
実際の累積リードタイムの計算例:
- C(2)→ A(2+4)→ E(6+6)→ B(12+8)→ D(20+10)
= 2 + 6 + 12 + 20 + 30 = 70時間
平均リードタイムは 70 ÷ 5 = 14時間
他の選択肢ではこの合計値が大きくなり、平均リードタイムも増加します。
試験での留意点
- 作業を「早く終える」ことと「全体効率を高める」ことは一致しない場合があります。
最も長い作業を先に処理する発想(例えば③)では、他のすべての作業の待機時間が無駄に伸びるため非効率になります。 - リードタイムの合計と平均は順序に依存するという原則に注意が必要です。
選択肢⑤のように「どの順序でも変わらない」といった思い込みは誤りです。 - **SPT法(所要時間が短い順)**は、単一工程・単一機械の作業順序最適化における代表的な戦略であり、管理技術の基本事項として押さえておくべきです。
この問題では計算自体は複雑ではないものの、**「平均リードタイムとは何か」**を理解していないと誤答に陥るため、定義と意味をしっかりと確認しておくことが重要です。
Ⅰ-1-7:ECRSの原則による業務改善
背景にある問い
「作業を見直せ」と言われたが、どこから手をつければよいのかがわからない。
業務改善の提案会議で、「その改善は効果があるのか?」「逆に非効率になるのでは?」と問われて言葉に詰まった。
改善といっても、「丁寧にやる」ことと「効率よくやる」ことのバランスが取れない場面は多く、現場では感覚や習慣で進んでしまいがちです。
そんなとき、改善の方向性を整理するための“視点の枠組み”として有効なのが、ECRSの原則です。
キーワードで整理する
業務改善を体系的に進めるための代表的な手法に、ECRSの原則があります。
これは改善の優先順位と着眼点を示す頭文字で構成されています。
- E:Eliminate(排除)
不要な工程や作業をなくす。「その作業、本当に必要か?」を問う視点です。 - C:Combine(統合)
類似または連続する作業を一つにまとめて効率化を図る。 - R:Rearrange(順序入替)
作業の順序や配置を変えてムダやロスを削減する。 - S:Simplify(簡素化)
作業方法を単純にして、時間や労力を軽減する。
この順番(E→C→R→S)は、「効果の大きさが期待できる順」に並んでおり、改善検討時はこの順に照らして現状を見直すと効果的とされています。
実際の問われ方
令和5年度の問題では、ECRSの原則に基づいた改善活動として適切かどうかを判断する5つの選択肢が与えられました。
正答である③は、ECRSに該当しない例として挙げられています:
- 「完成品の利用調査に基づき、検査合格の許容範囲を狭める」
→これは品質の向上にはつながる可能性がありますが、作業の簡素化や効率化とは逆方向の改善であり、ECRSのどの要素にも該当しません。
一方、他の選択肢は以下のようにECRSと対応しています:
| 選択肢 | 内容 | ECRS分類 |
|---|---|---|
| ① | 作業順序の変更 | Rearrange(順序入替) |
| ② | 一部工程の削除 | Eliminate(排除) |
| ④ | 動作の単純化 | Simplify(簡素化) |
| ⑤ | 工程の統合 | Combine(統合) |
このように、ECRSのそれぞれの視点を具体的な改善活動に結び付けて問う形式が採用されています。
試験での留意点
- 品質向上と業務改善は目的が異なるという点に注意が必要です。
品質の厳格化(例:許容範囲の狭小化)は必ずしも効率向上とは一致せず、改善の方向性を取り違えると誤答につながります。 - **ECRSの4分類を単なる暗記ではなく「実務上の改善活動に結びつけて理解する」**ことが得点の鍵となります。
- E→C→R→Sの順に検討するという優先順位も知識として問われることがあるため、頭文字の意味と併せて理解しておくと応用が効きます。
ECRSは、現場改善における「どこを見るべきか」を明示するツールです。単なる合理化だけでなく、現状のムダに気づく“視点”としても活用されます。
Ⅰ-1-8:現品管理とその具体的手法
背景にある問い
「現場で仕掛品がどこにあるかわからない」
「原材料が届いているはずなのに、現場に見当たらない」
このような声は、製造現場に限らず物流や流通の現場でもよく聞かれる問題です。
在庫や仕掛品が“あるのに見つからない”、または“あるべき場所にない”という事態は、納期遅れやムダな在庫の発生に直結します。
こうした問題を防ぐためには、製品や資材の“現物”と“情報”を正確に結びつける管理が不可欠です。これが、現場の信頼性と業務の効率を支える「現品管理」の基本的な役割です。
キーワードで整理する
こうした管理活動に対する正式な用語が 現品管理 です。
現品管理とは、JIS Z8141において
「資材、仕掛品、製品、備品などの“もの”について、その運搬・移動や停滞・保管の状況を把握・管理すること」
と定義されています。
現品管理は、生産管理の一部であり、特に「現物の所在と状態の正確な把握」が目的です。代表的な手段には次のようなものがあります:
- 現品票の貼付:仕掛品ごとに進捗・保管情報を記載した票をつけ、紛失・混同を防止。
- バーコードやICタグの利用:人手を介さずに正確な所在・履歴管理を実現。
- 在庫棚卸や賞味期限管理:食品や消耗品における劣化・消費期限の監視も現品管理の一環です。
つまり、モノが今どこにあるか、どの状態か、誰が使うかを一貫して追跡するための活動が現品管理の本質です。
実際の問われ方
本問では、「現品管理」に関する5つの活動例が示され、それぞれが現品管理に該当するかどうかが問われました。
以下は各選択肢の要点整理です:
| 選択肢 | 内容 | 現品管理との関係 | 備考 |
|---|---|---|---|
| ① | ICタグで物の動きを把握 | 該当 | 情報とのリンク管理 |
| ② | 食料品の賞味期限管理 | 該当 | 劣化・滞留管理 |
| ③ | 現品票による仕掛品の紛失防止 | 該当 | 最も基本的手段 |
| ④ | 販売時点情報(POS)での商品動向把握 | 該当 | 実物と販売情報の連携 |
| ⑤ | バスタブカーブで需要予測 | 不適切 | 故障率の推移に関する指標で、現品管理とは無関係 |
特に⑤は、現品管理の話題に見せかけて、設備保全に関する用語(バスタブカーブ)を紛れ込ませた典型的なひっかけです。
試験での留意点
- バスタブカーブ=設備の故障率曲線という定義は、他分野(設備保全・信頼性工学)に属するものであり、現品管理とは直接的な関係がない点に注意が必要です。
- 現品管理=物流・現物管理に限定されるという範囲意識を持つと、選択肢の取捨選択がしやすくなります。
- 現品管理と品質管理・需要予測は別物です。用途の違いが選択の鍵になります。
現場の実務と密接に関わる領域だからこそ、「それっぽいけど本質がズレている」選択肢を見抜く力が問われています。
人的資源管理
Ⅰ-1-9:労働基準法・労働安全衛生法に関する規定
背景にある問い
「うちの部は裁量労働制だから、労働時間の管理はいらない」と言われたことはないでしょうか。
もしくは、「管理職だから残業代は出ないけど、何時間働いても問題ない」と誤解されている場面に遭遇したことはありませんか。
近年、働き方改革に伴い、労働時間の上限規制や健康管理義務が強化される一方で、「裁量労働制」や「管理監督者」といった特例的な働き方との混同が、現場で誤った運用を生んでいる事例も多く見られます。
では、実際に法令上はどう整理されているのでしょうか。
試験問題では、こうした現場の“思い込み”がそのまま選択肢として問われることがあります。
だからこそ、実務感覚の延長で捉えるだけでなく、法的な分類と要件をしっかり押さえておく必要があります。
キーワードで整理する
このテーマに関して重要なキーワードは以下の通りです。
- 36協定(時間外・休日労働協定)
法定労働時間を超えて労働させるには、労使協定(いわゆる36協定)を締結し、労働基準監督署へ届出が必要です。適用対象は管理監督者であっても深夜・休日労働などが該当すれば協定が必要となる場合があります。 - 時間外労働の上限規制と罰則
1か月45時間、1年360時間などの上限が原則であり、特別条項付きでも年720時間超・複数月平均80時間超などを超えることはできません。一部業種(例:建設業)には猶予措置があります。 - 月60時間超の時間外労働に対する割増率
大企業では以前から適用されていましたが、2023年4月からは中小企業でも50%以上の割増率が適用されています。 - 労働時間の客観的把握義務
2019年改正労基法により、裁量労働制の対象者を含め、すべての労働者の労働時間を客観的に把握することが義務とされました(管理監督者は一部除外)。ICカードやPCログなどを用いた記録が推奨されています。 - 産業医への情報提供義務
産業医による健康管理の実効性を高めるため、労働時間情報などを企業が適切に提供する必要があります。これは努力義務ではなく、明示された義務規定です。
実際の問われ方
本問では「不適切なものはどれか」を問う形式です。
重要なのは「例外的な働き方」と「一般原則」の混同を見抜くことです。
| 選択肢 | 説明 |
|---|---|
| ①〜③ | 原則的な法制度の確認。知識があれば正解できる内容。 |
| ④ | 「裁量労働制・管理監督者=労働時間把握不要」という誤解を狙った選択肢。実は裁量労働制でも把握は必要。 |
| ⑤ | 最近の法改正に基づく義務規定の正確な理解を問う内容。 |
このように、制度の例外性を盾にして“何も管理しなくてよい”と早合点しないことが、試験上の大きなポイントです。
試験での留意点
- 裁量労働制・管理監督者でも、労働時間管理が「完全に不要」になるわけではないことに注意が必要です。とくに、深夜・休日労働、健康管理上の把握などは依然として義務の範囲です。
- **「届け出が必要なもの」「協定を結ぶだけで足りるもの」「努力義務と法的義務の違い」**といった法制度のレイヤーを明確に区別して覚えておくと、選択肢の判断がしやすくなります。
- 選択肢④のように、一部正しく思えるが実は“例外に関する理解が浅い”選択肢が不適切とされる傾向があります。条文だけでなく、実務上の解釈にも踏み込んでおくと差がつきます。
Ⅰ-1-10:女性活躍推進と育児等に関する法制度
背景にある問い
「うちは中小企業だから、女性活躍の行動計画なんて関係ない」
「男性の育休は義務だけど、女性を優遇すると逆差別になるのでは?」
──こうした声は現場でも根強く聞かれます。
実際、育児休業や時短勤務などの制度は整備されていても、職場でその利用をためらう空気が存在したり、「制度はあるけど評価には不利になる」といった無言の圧力がかかる場面も少なくありません。
管理職や技術者であっても、こうした雇用制度や法律の背景を正しく理解していなければ、結果的に法違反や制度の空洞化を招いてしまいます。
では、こうした制度や法的配慮は、どこまでが「努力義務」で、どこからが「法的義務」なのでしょうか。
性別や育児といった個別の状況に応じて、どのような配慮や行動が求められているのか。
出題はその“境界”を問う形で行われます。
キーワードで整理する
このテーマでは、以下のキーワードが重要です。
- 女性活躍推進法(一般事業主行動計画)
常時雇用する労働者が101人以上の企業は、女性の職業生活における活躍を推進する行動計画の策定・届出・情報公表が義務とされています(301人以上は以前から義務、101〜300人は令和4年から追加)。101人未満は努力義務です。 - ポジティブ・アクション(法第8条)
職場における男女間の格差を是正する目的で、女性を有利に扱うことが法的に認められている措置です。例えば、女性比率の低い職種で女性の採用枠を設けるなどが該当します。これは男女雇用機会均等法第5条・第6条(性別を理由とする差別の禁止)には抵触しません。 - ハラスメント防止措置(マタハラ・パタハラ)
育児休業等の利用に関する嫌がらせや不利益な取扱いを防止するため、事業主は「講じなければならない」義務があります(雇用管理上の措置義務)。「努めなければならない」ではありません。 - 年次有給休暇の出勤率の算定
育児休業等の期間は、出勤率を計算する際の出勤日数にも、出勤すべき日数にも含めない扱い(除外扱い)となります。育休取得が不利益にならないよう、出勤率の計算から除外する配慮がされています。 - えるぼし認定制度
女性活躍推進に積極的な企業を評価する制度で、女性の採用・継続就業・管理職比率などに関する取り組み状況が審査対象です。男性の育休取得率は評価指標には含まれません(くるみん認定は別制度)。
実際の問われ方
この問題は「最も適切なもの」を選ばせる形式で、5つの選択肢のうち4つは条文や制度の一部を微妙に誤って記載しています。
| 選択肢 | 主なポイント | 正誤 |
|---|---|---|
| ① | 行動計画義務の対象者数(全企業対象?) | 誤(101人以上が義務) |
| ② | ポジティブ・アクションの正当性 | 正 |
| ③ | ハラスメント防止措置の法的強制力 | 誤(「講じなければならない」義務) |
| ④ | 有給休暇の出勤率算定方法 | 誤(育児休業は除外扱い) |
| ⑤ | えるぼし認定の評価指標 | 誤(女性活躍が対象) |
このように、いずれも「聞いたことがある制度」を問うているようで、条文の微細な表現や対象の正確な理解が問われています。
試験での留意点
- 努力義務と法的義務の違いは非常に出題されやすいポイントです。特に「〜ように努めなければならない」と「〜しなければならない」は実務上の重みが大きく異なるため、正確に見分ける必要があります。
- 女性活躍推進と育児関連制度は別制度であり、えるぼし認定とくるみん認定を混同しないよう注意が必要です。
- ポジティブ・アクション=差別ではないという点は直感に反するかもしれませんが、制度上明確に位置づけられている点を理解しておくと安心です。
Ⅰ-1-11:パワーハラスメント指針と雇用管理措置
背景にある問い
「それはパワハラじゃなくて、指導の一環だよ」
「部下の方が影響力を持っている職場では、パワハラは成立しないのではないか」
──こうした言葉を聞いた経験はないでしょうか。
職場での人間関係において、パワーハラスメント(以下パワハラ)は、上司から部下への一方向的な問題として捉えられがちです。
しかし、実際には上下関係だけでなく、チーム内での発言力、知識や経験の差、業務上の立場の優劣など、様々な「優越的な関係性」が背景となることがあります。
その一方で、業務の指導や指示が厳しく行われる場面もあり、「指導とパワハラの違いは何か?」という線引きは非常に曖昧です。
管理職にとっても、現場での指導がハラスメントとして訴えられるリスクを感じながらのマネジメントは、心理的な負担ともなっています。
このような背景から、政府が策定したパワハラ防止指針は、「何がパワハラで、何が適切な指導か」という判断基準と、事業主が取るべき措置を具体的に示しています。
キーワードで整理する
この問題に関連するキーワードは以下の通りです。
- パワーハラスメントの定義(三要件)
職場におけるパワハラは、以下の全てを満たすものとして定義されています。
① 優越的な関係を背景とした言動
② 業務上必要かつ相当な範囲を超える行為
③ 就業環境が害される状態になること
したがって、「労働者の就業環境が害されているか否か」は、定義の構成要件として極めて重要です。 - 優越的な関係の解釈
典型例は上司から部下ですが、職場内で専門性、発言力、年次、取引関係などにより生じる事実上の力関係も対象になります。部下から上司へのパワハラや、同僚間での優越的立場を利用した行為も含まれ得ます。 - 相談窓口と体制整備
事業主には、パワハラに関する相談窓口を設置し、労働者に周知する義務があります。また、相談対応が適切に行われるような体制の整備も求められています。 - 不利益取扱いの禁止(報復防止)
労働者がパワハラ相談を行ったことを理由に解雇や降格等の不利益な取扱いを行うことは禁止されており、その旨を労働者に周知・啓発する必要があります。 - 厳正対処の明示と就業規則化
パワハラを行った者に対して、厳正に対処する方針を就業規則などに明記し、労働者に周知・啓発することが求められます。これにより、職場全体に対する抑止効果を持たせます。
実際の問われ方
問題は「不適切なものを選ぶ」という形式で出題されました。以下のような構造になっています。
| 選択肢 | 主な論点 | 正誤 |
|---|---|---|
| ① | パワハラの定義に「就業環境の害」が含まれるか | 誤(含まれる) |
| ② | 上司以外によるパワハラの可能性 | 正 |
| ③ | 相談窓口設置・対応体制の整備義務 | 正 |
| ④ | 相談を理由とした不利益取扱いの禁止と啓発義務 | 正 |
| ⑤ | 厳正対処の方針の規程化と周知義務 | 正 |
①の選択肢では、定義の三要件のうち1つが意図的に外されていることがポイントです。言い換え表現に騙されず、「定義は必ず3つすべてを満たす」という原則を思い出すことが求められます。
試験での留意点
- 定義の要件(3つ)を暗記するだけでなく、1つでも欠けるとパワハラにはならないという点を意識する必要があります。
- **「就業環境が害されるか否かに依らない」**といった文言は、あたかも「客観的被害の有無を問わない」と錯覚させる表現ですが、実際には誤りです。被害の有無は要件の一部です。
- 「優越的関係=上司」と思い込まないことが重要です。専門職や同僚間でもパワハラは成立します。
Ⅰ-1-12:個別労働関係紛争とその解決制度
背景にある問い
「このまま会社に残るのもつらい。でも裁判を起こすのは大げさすぎる……」
「労働トラブルを抱えているけれど、相談窓口に行くのは抵抗がある」
職場で解雇・降格・いじめなどに直面したとき、多くの労働者は“訴訟”よりも前の段階で悩みます。
とくに中小企業や非正規雇用の現場では、「声を上げたら自分が不利になるのでは」と感じ、泣き寝入りする例も少なくありません。
そうした悩みに対応するため、国は“裁判に至る前の紛争解決制度”を整備しています。
行政によるあっせんや労働審判などは、迅速かつ柔軟な対応が可能であり、労使双方にとって現実的な解決手段となり得ます。
このように、トラブルの「初期対応」こそが、制度の理解と活用の分かれ道となります。
問題では、その制度の役割と限界が整理されているかを問われます。
キーワードで整理する
この問題に関連するキーワードは以下の通りです。
- 個別労働関係紛争
賃金・解雇・配置転換など、個々の労働者と使用者との間で発生する民事上のトラブルを指します。労使団体間の集団紛争(労働争議)とは区別されます。 - 総合労働相談コーナー
都道府県労働局に設置された相談窓口で、無料・匿名でも相談可能です。いじめ・解雇などの相談は増加傾向にあり、2002年度に比べ2021年度は約3倍に増加しています(約10万件→約28万件)。 - 都道府県労働局長による助言・指導
紛争当事者の申出に基づき、解決の方向性を指摘・助言し、当事者による自主的な解決を促す制度です。双方からの申請でなく、片方からの申請でも可能です。 - あっせん(個別労働紛争解決促進法による手続)
都道府県労働局長が、紛争調整委員会にあっせんを行わせる手続であり、簡易・非公開・費用負担なしでの解決を目指します。申請はどちらか一方からでも可能です。 - 労働審判制度(裁判所による手続)
地方裁判所で行われる迅速かつ実効的な労働紛争解決制度で、調停的な話し合いと審判を組み合わせた手続です。一般訴訟より期間が短く(原則3回以内の期日)、非正規労働者や中小企業でも利用しやすい制度です。 - 仲裁裁定
第三者(仲裁人)が最終判断を下す制度で、裁定に法的拘束力がある点が特徴です。これは個別労働関係紛争における労働委員会の役割ではありません。
労働委員会は団体交渉の紛争などに関して調整や調停、仲裁を行うことがありますが、個別労働紛争には対応しません。
実際の問われ方
この問題では「最も不適切なもの」を選ばせる形式で、個別紛争解決の制度や機関の役割に関する理解が問われています。
| 選択肢 | 主な論点 | 正誤 |
|---|---|---|
| ① | 相談件数の推移(2002年度 vs 2021年度) | 正 |
| ② | 労働局長の助言・指導制度 | 正 |
| ③ | あっせん申請と労働局長の権限 | 正 |
| ④ | 労働委員会による「仲裁裁定」 | 誤(対象外、制度なし) |
| ⑤ | 労働審判の目的と特徴 | 正 |
とくに④は、「仲裁裁定」という強い文言が使われていることで、制度の対象領域と権限範囲の誤認を誘います。
試験での留意点
- 「あっせん」「調停」「仲裁」など似た語句の意味と手続の違いは、出題者が意図的に混同を狙ってくるポイントです。
- 労働委員会は集団紛争(団体交渉・不当労働行為)向け、個別紛争は都道府県労働局の担当という機関の区分を押さえることが重要です。
- **裁判所の労働審判と、行政のあっせんとの違い(法的拘束力の有無・手続の強制力)**にも注意が必要です。
Ⅰ-1-13:組織開発とその手法
背景にある問い
「現場が疲弊している気がするけど、どこに手をつけていいかわからない」
「人材育成は頑張っているのに、なぜかチームの動きがバラバラだ」
そう感じたことはないでしょうか。
近年、リーダー層や人事部門では「人材開発」に加え「組織開発」という言葉が注目されています。
個人のスキルを高めても、組織全体が連携しなければ、成果は思うように出ません。
業務の効率化や心理的安全性、チームの共創的な動きなど、組織の“関係性”そのものに働きかける必要性が高まっています。
しかし、組織開発は定性的で見えにくく、具体的にどう取り組めばいいのかが難しい領域でもあります。
だからこそ、出題では「個人開発との違い」や「開発手法の分類」など、概念の輪郭を明確に理解しているかが問われます。
キーワードで整理する
この問題で理解すべき主要キーワードは以下の通りです。
- 組織開発(OD:Organization Development)
組織における人と人との関係性や対話、価値観、文化に働きかけ、組織の健全な変化と成長を促す取組です。人材育成(個人)とは異なり、グループ・組織単位での変化を目的とします。ただし、個人への働きかけも含まれます。あくまで相互作用の中での成長が中心です。 - 診断型組織開発
第三者(外部コンサルタントなど)がデータやサーベイに基づいて組織の課題を診断し、対応策を提案する手法です。事実ベースの課題把握に強みがあります。 - 対話型組織開発
組織メンバー自身が対話を通じて内省・発見・変革していく手法です。参加者の主体性を重視し、共創的に課題と向き合います。 - コンテントとプロセス
「コンテント」は**何を話すか・何を扱うか(=What)を意味し、業務内容や議題などの中身に該当します。
一方「プロセス」はどう話すか・どう関わるか(=How)**を指し、関係性や参加の仕方などの側面を含みます。混同しやすいため注意が必要です。 - アプリシエイティブ・インクワイアリー(AI)
組織や人の「強み」に注目し、ポジティブな問いかけを通じて未来志向の変革を促す、対話型組織開発の代表的手法です。診断フェーズは持たず、社会構成主義に基づいた“共に創る”姿勢を重視します。
実際の問われ方
問題は「最も適切なもの」を選ぶ形式で、組織開発に関する知識を概念・用語レベルで広く問う構成です。
| 選択肢 | 論点 | 正誤 | 補足 |
|---|---|---|---|
| ① | 組織開発と個人開発の関係性 | 誤 | 組織開発にも個人への働きかけは含まれる |
| ② | 診断型の特徴と対話の要素 | 正 | データ収集+対話も重視される点が適切 |
| ③ | 人間尊重とX理論の関係 | 誤 | 組織開発はY理論に基づく考え方 |
| ④ | コンテントとプロセスの意味 | 誤 | 関係性はプロセスに該当する |
| ⑤ | AIの分類と特徴 | 誤 | 診断型ではなく対話型に分類される |
②が正答となるのは、「診断型組織開発=分析中心」と思わせた上で「対話も重視される」と補足している点がポイントです。
試験での留意点
- 診断型 vs 対話型の分類は「外部主導 vs 自律的変革」と整理すると覚えやすくなります。
- X理論とY理論は、組織開発の価値観と真逆の立場を表します。X理論=管理・統制、Y理論=自律・尊重と対比して覚えると効果的です。
- コンテントとプロセスの混同は試験でも頻出です。WhatとHowの視点で切り分けると整理しやすくなります。
- **AI(アプリシエイティブ・インクワイアリー)**は対話型の象徴的手法であり、診断的なフローとは異なります。
Ⅰ-1-14:社員格付け制度の種類と特徴
背景にある問い
「うちの会社って、なんで年功序列が残ってるの?」
「最近“ジョブ型”とか聞くけど、具体的に何が変わるのか分からない」
人事制度の見直しが進む中で、このような声が現場から聞こえることもあります。
社員の等級制度は、昇給や昇進だけでなく、異動・配置・モチベーションといったあらゆる人材マネジメントの基盤に関わる重要な仕組みです。
しかし、その内容は複雑で、制度の呼び名も似通っているため、実態が分かりづらいことも多いのが現実です。
とくに総監試験では、こうした等級制度の違いを「制度設計の目的」や「環境変化への対応力」といった視点から捉える力が問われます。
制度の仕組みを単なる分類で終わらせず、組織マネジメント上の意味にまで踏み込んで理解する必要があります。
キーワードで整理する
この問題で理解すべき主要キーワードは以下の通りです。
- 職能資格制度(能力基準型)
従業員の保有能力や知識・スキルの蓄積度合いによって等級を決める制度です。
能力は基本的に「減らないもの」とされるため、年功序列や人件費の肥大化につながりやすい傾向があります。逆に、降格が制度上なじみにくいという特性もあります。 - 職務等級制度(ジョブ基準型)
業務内容(=ジョブ)の価値や責任範囲に基づいて等級を設定する制度です。ジョブ型雇用と親和性が高く、報酬や評価が職務に紐づくため、グローバル企業で多く導入されています。
ただし、職務が固定的であるため、柔軟な人事異動には不向きであり、技術革新等による職務変化に弱い面があります。 - 役割等級制度(ミッション基準型)
職務ではなく、「その人が組織で担っている役割や期待値」を基に等級を設定します。役割が変われば等級も変わるため、流動性や組織変革に対応しやすいという特徴があります。 - ジョブ型雇用
あらかじめ定義された職務に対して、該当する能力を持った人材を外部から登用する考え方です。等級制度としては、職務等級制度や役割等級制度が適しており、人材の可視化と責任の明確化に効果があります。
実際の問われ方
問題は「最も不適切なもの」を選ばせる形式で、各等級制度の特徴と効果、向き・不向きの文脈を正確に理解しているかを確認する構成です。
| 選択肢 | 論点 | 正誤 | 補足 |
|---|---|---|---|
| ① | 職能資格制度の人件費構造 | 正 | 年功と連動しやすく人件費が高止まりしがち |
| ② | 職務等級制度の柔軟性 | 誤 | 固定的な職務と結びつくため柔軟性に乏しい |
| ③ | ジョブ型雇用と等級制度の対応 | 正 | 職務または役割等級制度が用いられる |
| ④ | 職能資格制度と降格の関係 | 正 | 能力は減らないという前提がある |
| ⑤ | キャリア意識と職務等級制度の連動 | 正 | 目標設定と報酬の連動によりインセンティブ効果あり |
②が不適切な理由は、「柔軟性が保てる」と書かれている点にあります。職務等級制度はあらかじめ定義された職務に対する評価制度であるため、職務が変化した場合の追従性が低く、流動性を求められる現場では逆に硬直的に働くことがあります。
試験での留意点
- 等級制度の違いを「評価対象(能力・職務・役割)」で区別すると整理しやすくなります。
- 「制度としてのメリット」は誤りの選択肢になりやすいため、“◯◯に向く”と“◯◯には向かない”の切り分けがポイントです。
- 職務等級制度=グローバル企業向き、職能資格制度=年功色が強い、役割等級制度=変化への柔軟性が高い、といった適用場面の違いにも注意が必要です。
格付け制度は“人材の評価軸”に直結するため、制度の特性を見誤ると組織運営に大きな影響を及ぼします。
単なる制度の知識としてではなく、「組織が人をどう見て、どう動かすか」という視点で理解することが、試験対策としても実務対策としても有効です。
Ⅰ-1-15:教育訓練技法とその効果
背景にある問い
「リーダーシップ研修って、座学だけで本当に身につくのか?」
「新任管理職に何を学ばせれば、現場で通用するのか?」
人材育成の現場では、知識のインプットだけでは足りず、行動力・判断力・発想力・対人スキルなど多様な能力を育てる必要があります。
しかし、対象者のレベルや目的に応じて、適切な訓練手法を選ぶのは意外と難しく、教育の効果が見えにくいという悩みも少なくありません。
だからこそ、訓練技法ごとの「狙い」と「効果」を正しく理解し、設計できる力が求められます。総監試験では、知識にとどまらず「この場面に合う技法はどれか?」という実践的な対応力が問われることになります。
キーワードで整理する
以下は、問題で扱われた主要な教育訓練技法です。
- ケースメソッド
現実の企業事例や課題を用い、分析・討議・意思決定を通じて原理・原則を体得する方法です。実践的な判断力や意思決定能力を養う訓練として、ビジネススクールや管理職研修でよく用いられます。 - インバスケット(In-Basket)
架空の管理職などになりきり、限られた時間内に大量の案件(報告書・指示書・相談メールなど)を処理します。優先順位付け、判断力、決断力などを試す形式で、管理職候補者の能力評価や訓練に多用されます。 - ロールプレイング
上司・部下・顧客などの役割を演じながら、実際のやり取りを模擬体験する訓練です。状況対応力や対人スキル、コミュニケーション能力の向上に効果があります。とくに営業研修や接遇指導に適しています。 - ブレインストーミング
リラックスした雰囲気の中でアイデアを自由に出し合う手法です。批判・否定を一切せず、量を重視して発想を広げることを目的とします。創造力・発想力・チームでの共創力を育てたい場面に有効です。
| 技法 | 主な目的 | 該当説明(問題文) |
|---|---|---|
| ケースメソッド | 意思決定力・問題解決力 | イ |
| インバスケット | 判断力・優先順位付け | ウ |
| ロールプレイング | 行動力・対人対応力 | エ |
| ブレインストーミング | 発想力・創造性 | ア |
実際の問われ方
本問では、技法(A〜D)とその効果(ア〜エ)の正しい組合せを選ばせる形式です。
つまり、単なる定義の暗記ではなく、目的や狙いとの正確なマッチング能力が問われています。
| 技法 | 選択肢⑤における対応 | 正誤 |
|---|---|---|
| A:ケースメソッド | イ(実務的な問題解決) | 正 |
| B:インバスケット | ウ(判断力・決断力) | 正 |
| C:ロールプレイング | エ(役割理解と対人行動) | 正 |
| D:ブレインストーミング | ア(創造力の向上) | 正 |
このように、技法の狙いとトレーニング対象の能力を軸に選択肢を組み合わせる力が求められます。
試験での留意点
- 「ケースメソッドとロールプレイングの違い」は混同しやすいポイントです。前者は課題分析と意思決定が中心であり、後者はその場の行動体験と反省に重きが置かれます。
- 「インバスケットとOJTの違い」にも注意が必要です。インバスケットはあくまで疑似体験での能力測定であり、OJTは実務現場での継続的教育です。
- 「自由に発言=ブレスト」という連想は有効ですが、目的が創造性の喚起であることを忘れないようにしましょう。
教育訓練の効果は、“何をどう伸ばすのか”を見誤れば、期待とは逆の結果にもつながります。出題では、その狙いと手法の関係性を整理し、制度や研修設計の視点を持てるかが試されています。
Ⅰ-1-16:心理的安全性と業績基準の関係による職場分類
背景にある問い
「上司の顔色をうかがってばかりで、誰も本音を言わない」
「チームの雰囲気はいいけれど、成果が出ていないように感じる」
こうした状況に心当たりがある人も多いかもしれません。
近年、「心理的安全性」という言葉が注目されており、チームの成果や創造性を高めるうえで欠かせない要素とされています。
ただし、心理的安全性が高ければ自動的に高業績につながるわけではありません。
重要なのは、心理的安全性と業績基準の高さを両立させることです。
職場をこの2軸で分類することで、現在のチームの状態を客観的に把握し、目指すべき方向性を明確にできます。
総監試験では、このような概念を定義にとどまらず、構造的に捉えているかどうかが問われます。
キーワードで整理する
このテーマにおける主要キーワードは以下の通りです。
- 心理的安全性(Psychological Safety)
職場で「自分の意見を述べても否定されない」「質問しても馬鹿にされない」と感じられる状態を指します。エイミー・エドモンドソンが提唱した概念で、リスクを取って発言・挑戦できる環境が、創造性や学習、業績の向上に寄与するとされています。 - 業績基準
組織やチームが、どの程度成果や目標達成に対して高い期待や厳しさを持っているかを示す指標です。数値目標だけでなく、仕事の質やアウトカムに対する要求水準も含まれます。
この2軸により、職場は以下の4象限に分類されます。
| 業績基準:低い | 業績基準:高い | |
|---|---|---|
| 心理的安全性:高い | (A)快適ゾーン(イ) | (B)学習ゾーン(エ) |
| 心理的安全性:低い | (C)無気力ゾーン(ア) | (D)不安ゾーン(ウ) |
- 快適ゾーン(Comfort Zone)
心理的安全性はあるが、業績基準が低いため、協力的で居心地は良いが成長や挑戦が起こりにくい状態。 - 学習ゾーン(Learning Zone)
心理的安全性と業績基準の両方が高く、対話と挑戦を通じて組織が学び、成長できる理想的な状態。 - 無気力ゾーン(Apathy Zone)
安全性も業績への期待も低く、保身・無関心が蔓延する状態。モチベーションが低く、離職や停滞のリスクが高い。 - 不安ゾーン(Anxiety Zone)
業績圧力はあるが発言の自由がないため、委縮や過労、アイデア不在が起こる状態。
実際の問われ方
本問では、各象限(A〜D)と状態記述(ア〜エ)の正しい対応を選ばせる形式です。
| 区分 | 状態記述 | 該当内容 |
|---|---|---|
| A(心理高×業績低) | イ | 快適ゾーン:協力はあるが充実感や成果は低い |
| B(心理高×業績高) | エ | 学習ゾーン:対話と挑戦が両立した理想状態 |
| C(心理低×業績低) | ア | 無気力ゾーン:保身と不満が支配する |
| D(心理低×業績高) | ウ | 不安ゾーン:高ストレスと委縮環境 |
正答は選択肢③です。
試験での留意点
- 心理的安全性だけが高くても成果は出ないという点は、よくある誤解です。「快適さ」と「学習」は別物であることを整理しておきましょう。
- 心理的安全性とパフォーマンスの関係は直線ではなく、2軸構造で捉えることが重要です。
- 「人間関係が良い=良いチーム」ではなく、「意見を戦わせて成果に向かえる状態こそが優れたチーム」という構造的理解が問われます。
職場の空気感や人間関係を「心理的安全性」「業績基準」という明確な枠組みで分析できることは、組織マネジメントにおいて極めて実践的です。
総監試験では、このような概念の定義と位置づけの理解が、より広い管理技術の応用力として問われています。
情報管理
Ⅰ-1-17:不正競争防止法における不正競争行為の該非判断
背景にある問い
ある日、自社の商品と非常によく似た製品が競合から発売され、社内で騒然とした。営業部は「これは明らかにパクリではないか」と憤り、法務担当者に相談が集まる。
「そもそも、何をしたら“違法”になるのか」
「競合を名指しして自社製品との違いを広告で伝えてよいのか」など、現場では疑問が尽きない。
実務では“競争”そのものが企業活動の本質である一方で、“やりすぎた競争”は違法となる場合がある。
この線引きは、現場にとって非常にわかりにくい。
こうした曖昧さがあるからこそ、総監試験ではその境界を問う出題がなされているといえる。
キーワードで整理する
こうした“競争の適法・違法の線引き”に関わる法律が 不正競争防止法 です。
不正競争防止法は、公正な競争秩序を守るための法律であり、企業間での不当な行為を規制します。その対象となる 不正競争行為 は、以下のような類型に分かれます。
主な類型の一部を以下に示します。
| 類型 | 概要 |
|---|---|
| 商品形態模倣(2条1項3号) | 他人の商品の形を模倣して短期間に販売する行為 |
| ドメイン名の不正取得(2条1項12号) | 他人の商品名やサービス名と同一または類似のドメインを不正に取得・保有する行為 |
| 誤認惹起表示(2条1項13号) | 原産地、品質、内容などについて消費者に誤認させるような表示 |
| 信用毀損(2条1項14号) | 競争相手の信用を傷つける虚偽情報の流布 |
| 比較広告(※対象外) | 他人の商品と比較して自社製品の優位性を示す広告。ただし、客観的事実に基づく限り適法とされるケースが多い |
比較広告は、競争を促す健全な手段とみなされており、「虚偽でない」「混同を生まない」場合には原則として 不正競争には該当しません。
実際の問われ方
本問では、「不正競争に該当しない行為を選べ」という逆張り型の出題です。
選択肢④「他人の商品・役務の客観的事実に基づく比較広告」は、消費者に誤解を与えず、かつ公正な競争を促進する観点から、不正競争には該当しないとされています。
一方、①〜③・⑤はいずれも不正競争防止法の条文に明示された違反行為です。
このように、「公正性・客観性・非誤認性」が保たれていれば、比較表示は違法にはならない点がポイントです。
試験での留意点
- 「比較広告=違法」ではないことに注意が必要です。客観的事実に基づく比較は認められるため、直感と逆の選択肢が正解になる場合があります。
- 「誤認」「模倣」「信用毀損」「ドメイン取得」などのキーワードが含まれる選択肢は、原則として違法とみなされるため、過去問でも頻出です。
- 不正競争防止法に関する出題では、「違法行為を除外して正当な競争活動を見極める視点」が求められます。
特に「不正の利益を得る目的」「虚偽の事実」「混同を惹起するかどうか」といった要件文に注意を払うと、正誤判断の精度が高まります。
Ⅰ-1-18:ナレッジマネジメントと知識変換プロセス
背景にある問い
「ベテランの経験って、なぜ共有されにくいのだろう?」
新人教育や技術伝承の現場でよく耳にする悩みです。
マニュアルは整備されていても、現場での微妙な判断や“勘どころ”がなかなか伝わらない。
指導者に尋ねると「やってみれば分かる」「説明しづらい」と返される。
結局、時間をかけて“身体で覚える”しかない状況に陥りがちです。
一方で、経営者や企画部門は「知識の共有こそが競争力の源泉」と掲げ、ナレッジマネジメントの推進を打ち出しています。
しかし、知識は単なる文書の蓄積ではなく、実践的な変換プロセスを伴うものです。
では、実際にどのように知識は組織内で創造・共有・活用されていくのでしょうか。
キーワードで整理する
このような知識の扱い方に関する理論体系が ナレッジマネジメント(知識経営) です。
ナレッジマネジメントでは、知識を以下の2種類に分類します。
- 暗黙知:言語化・形式化されていない、経験に基づく知識(例:コツ、勘、身体感覚)
- 形式知:文書や図表、マニュアルなどで表現され、他者と共有しやすい知識
この2つの知識は、SECIモデル(知識創造理論) において、以下のようなプロセスで相互変換されるとされています。
| プロセス | 内容 | 変換の方向性 |
|---|---|---|
| Socialization(共同化) | 暗黙知 → 暗黙知 | ベテランと共に作業することで“体得” |
| Externalization(表出化) | 暗黙知 → 形式知 | 経験を言語や図に落とし込む |
| Combination(連結化) | 形式知 → 形式知 | 文書やデータを統合し体系化する |
| Internalization(内面化) | 形式知 → 暗黙知 | 文書などを学び、実践で“腹落ち”する |
このように、暗黙知と形式知はどちらかが優れているわけではなく、相互作用により組織知が高まっていくと考えられています。
実際の問われ方
本問では、ナレッジマネジメントの基本モデル(SECIモデル)を前提に、知識の種類や変換プロセスについての理解を問う形式です。
正答⑤は、「形式知を暗黙知にする=内面化(Internalization)」のプロセスを正しく表現しています。
他の選択肢では、以下の誤りが含まれています。
- ① 組織的知識創造を経営者限定としており誤り
- ② 暗黙知をすべて形式知化すべきと誤認
- ③ Management by Walking Around を誤って表出化に関連付け
- ④ 形式知の連結を非効率と断定
SECIモデルに基づく知識の相互変換の理解が、選択肢の正誤を見分ける鍵となります。
試験での留意点
- 暗黙知=非効率/形式知=万能 といった短絡的な判断は誤りです。相互変換が重要とされています。
- 形式知→暗黙知のプロセス(内面化)は、実践・経験を通じて“腑に落ちる”過程と捉えると理解しやすくなります。
- 「Management by Walking Around」はナレッジマネジメントそのものではなく、現場重視の経営姿勢を示すものであり、SECIモデルの具体プロセスと直結させないよう注意が必要です。
- 暗黙知→暗黙知(共同化)と、形式知→形式知(連結化)は、混同しやすいため整理して覚えておくことが求められます。
Ⅰ-1-19:情報セキュリティに関連する認証制度と規格
背景にある問い
「セキュリティの認証っていろいろあるけど、違いがよくわからない」
社内システム部門が「ISMSの認証取得を検討中」と言えば、営業部門は「プライバシーマークで十分ではないか」と応じる。さらには、製品開発部門からは「うちはJISEC対応が必要では?」との声も上がる。実務ではそれぞれの制度が個別に話題にのぼるため、全体像をつかむのが難しい。
しかし、情報セキュリティに関する認証制度は、対象や目的が異なるものの、いずれも組織や製品の「信頼性」を担保する手段といえる。問題は、それぞれがどの規格に基づき、何を評価しているのかという点である。
キーワードで整理する
これらの疑問に対応するために押さえておくべきキーワードは、以下の3つです。
- JIS Q 27001
情報セキュリティマネジメントシステム(ISMS)の国際規格。組織がセキュリティポリシーを策定し、リスクを評価・管理するためのフレームワークを提供します。第三者認証を受けることで、セキュリティ対策の妥当性を客観的に証明できます。 - JIS Q 15001
プライバシーマーク制度の根拠規格。個人情報の取り扱いに関するマネジメントシステム(PMS:Privacy Management System)の要求事項を定めたものです。BtoC企業など、個人情報を大量に扱う業種において取得が推奨されます。 - ISO/IEC 15408
IT製品やシステムに実装されたセキュリティ機能そのものを評価するための国際標準。日本国内では「ITセキュリティ評価および認証制度(JISEC)」として運用されており、製品の信頼性確保や公共調達要件としての重要性が増しています。
| 制度名 | 規格 | 主な対象 |
|---|---|---|
| ISMS認証制度 | JIS Q 27001 | 組織のセキュリティマネジメント |
| プライバシーマーク制度 | JIS Q 15001 | 個人情報の管理体制 |
| ITセキュリティ評価制度(JISEC) | ISO/IEC 15408 | IT製品のセキュリティ機能そのもの |
実際の問われ方
本問では、「制度」と「規格」の対応関係を3つ同時に問うマトリクス型の出題形式です。
選択肢①が正解であり、以下のように整理されます。
- ア:JIS Q 27001(ISMS認証)
- イ:JIS Q 15001(プライバシーマーク)
- ウ:ISO/IEC 15408(IT製品評価)
このように、複数の規格を横断的に把握する力が問われる設問構成となっています。
試験での留意点
- 「マネジメント」と「製品機能」の違いに注目することが重要です。ISMSとPマークは組織体制の評価、ISO/IEC 15408は製品単体のセキュリティ機能評価です。
- ISO 26000(社会的責任)やISO 9000(品質マネジメント)など、出題範囲外の規格を混ぜてくる選択肢に惑わされないよう注意が必要です。
- 各制度の“主語”に着目すると整理しやすくなります。
例:「企業全体のセキュリティ」→JIS Q 27001、「個人情報」→JIS Q 15001、「IT製品のセキュリティ」→ISO/IEC 15408
Ⅰ-1-20:コミュニケーション・マネジメントの分類と活用
背景にある問い
「報告したのに伝わっていなかった」
「マニュアルはあったのに誰も読んでいなかった」
「いつの間にか仕様が変わっていた」
プロジェクトではこのような“すれ違い”が繰り返されます。
原因の多くは、情報の内容ではなく、伝え方と受け取り方の設計にあります。
メールを送ったのに読まれていなかった。
資料をアップしたのに見てもらえなかった。
会議で確認したと思っていたが、相手はそう受け取っていなかった。
「情報を出した」ことが「情報が伝わった」こととイコールではない――そのギャップをどう埋めるのか。
これがプロジェクトマネジメントにおけるコミュニケーション管理の核心です。
キーワードで整理する
これらの状況に対応するため、PMBOKではコミュニケーションの3分類を次のように整理しています。
- プッシュ型コミュニケーション
情報を特定の相手に一方的に送信する方式。メール、報告書、通知書類などが該当します。相手が受け取ったか、理解したかは送信者にはわかりません。 - プル型コミュニケーション
発信者が情報を公開し、受信者が自分の判断で取りに行く形式。イントラネット、ナレッジ共有サイト、eラーニングなど。情報の保持者は“取りに来る”前提で発信します。 - 相互型(双方向型)コミュニケーション
送受信者間で双方向にやりとりが行われる形式。会議、電話、チャット、面談などが該当します。理解の確認やフィードバックが可能です。
この分類は、伝達の確実性とコストのバランスにより使い分けられます。
| 分類 | 特徴 | メリット | 注意点 |
|---|---|---|---|
| プッシュ型 | 送信者→受信者(片方向) | 一斉通知に向く | 受信・理解は保証されない |
| プル型 | 受信者が取得に行く | 情報のストックに適する | 受信者に依存、見逃しリスクあり |
| 相互型 | 双方向のやり取り | 誤解を防ぎ、迅速対応可 | 時間・労力がかかる |
また、これらのコミュニケーション手段を誰に・いつ・どのように用いるかを定めるのがコミュニケーション・マネジメント計画です。プロジェクト実行中の見直しが前提であり、計画は固定的なものではありません。
実際の問われ方
本問では、コミュニケーションの分類、管理計画書の扱い、代表的な手段について理解が問われています。
特に不適切な選択肢②は、「コミュニケーション・マネジメント計画書はプロジェクト開始後に変更してはならない」と断定していますが、これは誤りです。プロジェクト進行中に状況が変化することは当然であり、計画の見直しも適切なマネジメントの一部です。
一方、プッシュ型やプル型の定義、課題ログや作業データの活用方法は、いずれも基本知識として整理されているべき内容です。
試験での留意点
- 「計画=変更してはならない」という先入観に注意が必要です。変更管理を前提とした計画も多くあります。
- 「プッシュ型=メール」「プル型=イントラネット」「相互型=会議や電話」といった典型例を押さえることで、選択肢の識別がしやすくなります。
- 「プル型=受信者が情報を取りに行く」「プッシュ型=送るが届いたかは分からない」など、方向性と責任の所在を明確に意識して整理しておくと誤解を避けやすくなります。
Ⅰ-1-21:正規分布と信頼区間の理解
背景にある問い
「5件くらいのデータしかないけど、これって“平均”として信じていいのだろうか?」
品質管理や来客数、アンケート結果など、現場で得られるデータはときに限られた件数しかないことがあります。
そのとき、単に平均値を出すだけでは不十分で、「このデータから母集団の傾向をどこまで読み取ってよいか」を判断する必要があります。
「来週もこのくらい来そう」「平均がこの程度なら良しとする」と考えるとき、根拠なく“期待”してしまえばリスクが増大します。
そこで必要なのが、統計学における区間推定という考え方です。
キーワードで整理する
このような不確実な状況で“どこまで信じられるか”を示す手法が、**信頼区間(Confidence Interval)**です。
信頼区間とは、得られたデータの平均値(標本平均)をもとに、母平均が含まれると期待される範囲を数値的に示したものです。
以下のように、正規分布を前提とした場合、±σ(標準偏差)ごとにデータが含まれる割合が決まっています。
| 範囲 | 含まれる確率(信頼係数) |
|---|---|
| ±1σ | 約68.3% |
| ±2σ | 約95.5% |
| ±3σ | 約99.7% |
上記は「母集団の分布」が分かっている場合ですが、現実の多くは「分散が未知」のため、標本からの推定となり、t分布を使って信頼区間を求めるのが一般的です。
また、**最尤推定(Maximum Likelihood Estimation)**とは、「得られたデータが最も起こりやすくなるようなパラメータ値(ここではμ)を選ぶ方法」であり、標本平均X̄がμの最尤推定量となります。
実際の問われ方
本問では、5日分の来客数データから標本平均を用いて母平均μを推定する場面を想定し、信頼区間の性質と推定手法に関する知識が問われています。
- ① 平均68の算出:基本的な計算
- ② 標本平均X̄がμの最尤推定量であるという知識
- ③ 平均X̄が信頼区間に含まれるという理解
- ④ 信頼係数95%の信頼区間は99%より狭い(→これが誤り)
- ⑤ 分散が未知でもt分布を用いれば信頼区間は定まる
選択肢④は、「95%の信頼区間は99%より広い」と逆の記述をしている点で誤りです。
試験での留意点
- 信頼区間の幅は、信頼係数が大きくなるほど広くなる。この直感と逆になりがちなポイントに注意が必要です。
- 「母分散σ²が未知」の場合でも、標本の分散と自由度を用いてt分布により推定可能である点を整理しておくこと。
- 最尤推定量と標本平均の関係はよく問われるため、「標本平均は母平均μの最尤推定量」と覚えておくと良いでしょう。
- 母平均を含む確率が95%である、という言い回しに注意。正確には、「推定された信頼区間が母平均を含む確率が95%」です(確率ではなく信頼性の指標であることにも注意)。
Ⅰ-1-22:災害・避難情報の伝達手段とエリア通知技術
背景にある問い
「避難情報を出したのに、誰にも届いていなかった」
災害時、自治体や防災担当者が最も恐れるのは「情報の不達」です。
せっかく早期に避難指示を出しても、対象地域の住民が知らなければ意味がありません。
市のホームページに掲載してもアクセスが集中して閲覧不能。
防災無線は風雨で聞こえず、固定電話は繋がらない。
こうした“伝わらない災害情報”は、命に直結する深刻な問題を引き起こします。
このような状況下で注目されるのが、多重的・冗長的な情報伝達手段の設計です。
個々の伝達手段の特性と制約を理解し、相互補完的に組み合わせることが、災害時のリスクマネジメントとして欠かせません。
キーワードで整理する
災害時に情報を確実に届けるために活用される伝達手段には、それぞれ特徴と限界があります。ここでは代表的な手段をいくつか紹介します。
- 緊急速報メール(エリアメール/ETWS)
特定エリア内の携帯電話端末に対して、居住者か否かを問わず一斉にメッセージを配信する仕組みです。地震・津波・避難指示などの情報を、携帯キャリアを通じて瞬時に配信します。通信回線を使わず専用の制御チャネルを利用するため、輻輳の影響を受けにくいという利点があります。 - 防災行政無線(同報系)
市町村が各地に設置した屋外スピーカー等から一斉音声放送を行うシステムです。高齢者や携帯電話を持たない人にも届くが、騒音や天候により聞こえにくい課題があります。 - 市町村ホームページ/SNS
情報の発信・蓄積に適していますが、災害時のアクセス集中によるサーバダウンリスクや、情報を「見に来る」必要がある点に留意する必要があります。 - 固定電話/音声案内サービス
登録された番号への自動音声通知も可能ですが、番号を知らない相手には通知できず、災害時の輻輳による通話障害が生じやすい点も課題です。
| 伝達手段 | 主な特徴 | 注意点 |
|---|---|---|
| 緊急速報メール | エリア内の全携帯端末へ一斉通知 | 携帯端末の対応状況に依存 |
| 防災行政無線 | 地域全体への即時放送 | 天候や騒音で聞こえにくい場合あり |
| ホームページ・SNS | 詳細情報の発信・蓄積に強み | 利用者が自らアクセスする必要あり |
| 固定電話・音声通知 | 登録先への直接連絡が可能 | 登録者に限定、回線混雑に弱い |
実際の問われ方
本問では、「避難・災害情報の伝達手段の適否」について、実務的観点から選択肢の正誤を見極める設問となっています。
- ①②④⑤はいずれも、伝達手段の性質と限界を正しく捉えた記述です。
- 誤りは③であり、「緊急速報メールは居住者以外には届かない」という記述が不適切です。実際には、対象エリアに“その時点で”いる人すべてに通知される点が技術的な本質です。
試験での留意点
- **緊急速報メールは「位置ベース」**で配信されることを押さえておく必要があります。「登録情報」や「居住者」ではなく、「その時点で対象エリアにいる端末」が受信対象です。
- 情報のプッシュ型・プル型の違いと、その向き・受け手の能動性も理解しておくと他分野と接続しやすくなります(例:ホームページ=プル型、エリアメール=プッシュ型)。
- 災害時は、どれか一つの手段に依存しない設計が原則であるため、「多様な手段の併用」という発想が問われる傾向にあります。
このテーマは、防災・安全管理・情報伝達といった複数の分野とつながりの深い重要論点です。他の関連問題と合わせて整理することで理解が深まります。
Ⅰ-1-23:デジタル技術に関する略語とその定義
背景にある問い
「DXが必要だ」「IoTで効率化を」「RPAも導入したい」
企業のデジタル活用に関する会議で、こうした略語が飛び交う場面は多く見られます。
しかし、その場にいる誰もがそれらの意味を正確に理解しているとは限りません。
新技術の導入が目的化してしまい、本来の課題解決に結び付かないケースも少なくありません。
略語の理解は単なる用語の暗記ではなく、「何を目的に、どのような技術や概念が使われているのか」を把握することが重要です。それによって、技術選定や導入の妥当性も判断できるようになります。
キーワードで整理する
ここでは、出題された5つの略語について、背景と定義を整理します。
- IoT(Internet of Things)
インターネットにさまざまなモノを接続し、状態の把握や制御、相互通信を可能にする技術。センサー、家電、車両、インフラなどが対象となります。
→説明対応:オ - RPA(Robotic Process Automation)
人間がPCで行っていた定型的な業務操作を自動化するソフトウェア技術。経理・総務・庶務などで活用されており、業務効率化や人的ミス削減に寄与します。
→説明対応:エ - NFT(Non-Fungible Token)
ブロックチェーン技術を用いて唯一性を証明できるデジタル資産。デジタルアート、音楽、ゲームアイテムなどの所有証明や真正性の保証に利用されます。
→説明対応:イ - ITS(Intelligent Transport Systems)
車両・道路・人の間で情報をやり取りし、交通事故や渋滞の緩和、安全向上を図る技術。ETC、カーナビ、歩行者支援システムなども含まれます。
→説明対応:ウ - DX(Digital Transformation)
データとデジタル技術を活用し、ビジネスモデル・業務・組織文化を抜本的に変革することを指します。単なるIT化ではなく、社会や組織全体の構造転換が目的です。
→説明対応:ア
| 略語 | 正式名称 | キーワード | 説明記号 |
|---|---|---|---|
| A | IoT | モノとモノの接続、センサー、制御 | オ |
| B | RPA | 業務自動化、パソコン操作の代行 | エ |
| C | NFT | デジタル所有権、唯一性、ブロックチェーン | イ |
| D | ITS | 交通制御、車両・道路・人の連携 | ウ |
| E | DX | ビジネスモデルの変革、組織改革 | ア |
したがって、正しい組合せは以下の通り:
⑤:A-オ / B-エ / C-イ / D-ウ / E-ア
実際の問われ方
本問のように、略語(英語表記)とその意味・説明とのマッチング形式での出題は頻出です。選択肢が多くなるため、以下のような戦略が有効です。
- 明確に理解しているキーワード(例:IoTやDX)を軸に、他の候補を消去していく
- 内容が似通いやすい用語(RPAとAI、IoTとM2Mなど)を誤認しないように整理しておく
試験での留意点
- DX=単なるデジタル化ではないという点は要注意です。業務改善やIT導入と区別して、「変革」要素を含むことが本質です。
- NFTと暗号資産の違いも混同しやすいため、「交換可能性(Fungibility)」の有無に注目してください。
- IoTとITSは一部重なる技術領域ですが、IoTはより広く、ITSは交通・道路分野に特化した応用です。
この設問は、技術トレンドを横断的に理解するための基本知識を問う良問といえます。
類題の出題にも備え、用語の意味と事例をセットで整理しておくと効果的です。
Ⅰ-1-24:情報通信技術と情報通信システムの最新動向
背景にある問い
「デジタルインフラの話って、用語ばかりでよくわからない」
会議で「5G」「IoT」「クラウド」といった用語が当たり前のように使われているが、実際にはその意味や違いを理解していないまま業務が進んでしまうことが多い。
ネットワークアドレスの話になるとIPv4とIPv6の違いが曖昧になり、スマートグリッドをメタバースと勘違いする場面すらある。
総監試験では、こうした用語の“正確な理解”と“適切な分類”が求められる。
言葉の雰囲気で選ばず、機能や目的に即して判断する力が試される分野といえる。
キーワードで整理する
本問に登場する主要な用語を整理します。
- IPv6(Internet Protocol Version 6)
インターネットに接続された機器を識別するためのプロトコル。IPv4のアドレス枯渇に対応するため、約340澗(かん)個のアドレスが使えるよう設計された新世代プロトコル。
→ ①はIPv4との混同による誤り。 - エッジコンピューティング(Edge Computing)
データ処理や分析を利用者の近く(エッジ)で行う技術。リアルタイム性の向上、通信量削減、セキュリティ確保に貢献する。
→ ②が正答。 - 5Gの多数同時接続
「多数のIoTデバイス(センサー等)を同時に接続する」ことを想定した技術。通話回線の混雑緩和が目的ではないため、③の説明は誤り。
→ 音声通話中心ではなく、モノのインターネット(IoT)接続数が焦点。 - スマートグリッド
ICTを活用して電力の需要と供給をリアルタイムに最適化する次世代型電力ネットワーク。仮想空間(メタバース)とは無関係。
→ ④は明確な誤り。 - ネットワーク仮想化(NFV: Network Function Virtualization)
これまで専用ハードウェアに依存していたネットワーク機能(ルーター、スイッチ等)を汎用サーバ上のソフトウェアとして実装する技術。
→ ⑤は定義が逆転しており誤り。
実際の問われ方
本問では、5つの技術用語に対して、その定義や適用分野の正確さが問われました。以下のような比較表で整理すると理解しやすくなります。
| 選択肢 | 技術用語 | 説明のポイント | 判定 |
|---|---|---|---|
| ① | IPv6 | IPv4と逆転した説明 | 誤り |
| ② | エッジコンピューティング | ユーザー近傍での処理で負荷・遅延を低減 | 正解 |
| ③ | 5G 多数同時接続 | 音声通話ではなく、IoT機器向け | 誤り |
| ④ | スマートグリッド | メタバースと混同 | 誤り |
| ⑤ | ネットワーク仮想化 | 専用→汎用の関係が逆 | 誤り |
試験での留意点
- 名前の雰囲気で選ばないこと。語感や連想ではなく、機能・目的に着目して判断する。
- 対比構造を意識して覚えると効果的。例:「クラウド vs エッジ」「IPv4 vs IPv6」「仮想化 vs 専用機器」など。
- 5Gの用途は通話ではなくIoT。音声通話改善だけに焦点を当てると誤答に導かれる。
- スマートグリッド ≠ 仮想空間という基本的なジャンルの違いは押さえておきたい。
この設問は、最新の情報通信用語を“用途と機能の視点で整理できているか”を見極める良問です。
各用語の「何が目的で」「何を改善するのか」を常に意識する習慣をつけておくと、類題への対応力が高まります。
安全管理
Ⅰ-1-25:リスクマネジメントのプロセス(JIS Q 31000:2019)
背景にある問い
「この業務、何かあったら誰が責任を取るのか?」
「リスクはあると分かっていたのに、なぜ手を打てなかったのか?」
プロジェクトの立ち上げや新しい施策の導入時、こうした問いに直面したことはないでしょうか。
現場から上がる声は「なんとなく不安」だったかもしれませんが、その“不安”を放置すれば、後に重大なトラブルへ発展する可能性があります。
このような局面で求められるのが、リスクマネジメントの体系的な導入です。
感覚的な「なんとなく」ではなく、明確なプロセスに基づいてリスクを特定・分析・評価し、対応策を検討することが不可欠です。
ところが、リスクマネジメントには特有の用語や流れがあり、「手順がごちゃごちゃして覚えにくい」と感じることも少なくありません。
そうした混乱を防ぐために、出題では「図で示されたプロセスの流れ」を正しく把握できているかが問われます。
キーワードで整理する
ここでは、JIS Q 31000:2019 に基づくリスクマネジメントのプロセスが問われています。特に重要なのは以下の手順です:
- リスク特定
リスクとなる可能性のある事象や要因を洗い出すプロセスです。「何がリスクか」を明らかにする出発点です。 - リスク分析
特定されたリスクについて、発生の可能性や影響度を分析します。定量・定性的手法が用いられます。 - リスク評価
分析結果に基づいて、どのリスクにどのように対応すべきかを優先順位づけします。「どこまで許容できるか(リスク受容基準)」の判断を含みます。 - リスク対応
受容すべきリスク、回避・移転・低減すべきリスクに対する行動計画を立案・実行します。
これらを総称して「リスクアセスメント+リスク対応」と呼びます。
さらに、これらの活動を支えるのが以下のプロセスです:
- コミュニケーション及び協議
関係者との意見交換を通じて、リスク認識のギャップを減らします。 - モニタリング及びレビュー
リスク状況の変化や対応策の有効性を継続的に見直します。 - 記録作成及び報告
透明性と説明責任の確保のために、すべてのプロセスを文書化します。
実際の問われ方
選択肢では、図中の「ア〜エ」に該当する語句を問う形式です。
正解は以下の通りです:
| 記号 | 該当する用語 |
|---|---|
| ア | リスク特定 |
| イ | リスク評価 |
| ウ | リスク対応 |
| エ | モニタリング及びレビュー |
→ よって、選択肢⑤が正解となります。
問われるポイントは「プロセスの順序」と「用語の意味」の理解です。
試験での留意点
- リスク分析とリスク評価の混同に注意
分析は「影響と確率の整理」、評価は「意思決定・優先順位づけ」です。
似ているようで役割が異なります。 - 対応は評価の後
評価で「どれに対応するか」を決めてから、対応策に進む流れを理解することが重要です。 - プロセス図は逐次ではなく反復的
図は直線的に見えても、実務では常に見直し・改善が繰り返されることを押さえておくと深い理解に繋がります。
以上のように、リスクマネジメントプロセスは単なる用語の暗記ではなく、「なぜこの順序なのか」「それぞれ何を目的としているのか」という構造理解が求められるテーマです。図解問題では、手順の流れと用語の意味を同時に問われるため、プロセスの物語性を意識すると整理しやすくなります。
Ⅰ-1-26:長期使用製品安全点検制度と特定保守製品
背景にある問い
「この製品、10年使ってるけど、まだ大丈夫だろうか?」
「中古住宅を買ったら、中の給湯器に点検シールが貼ってあった。これって何か手続きがいるのだろうか?」
家庭で使われる製品、とくに給湯器や換気扇、火を扱う製品などは、長年使ううちに内部が劣化し、予期しない事故につながるリスクがあります。
事故が起きたときに、
「本当はもっと早く点検すべきだった」
「誰かが注意を促すべきだったのではないか」
といった問題が後追いで浮上することもあります。
こうした背景から導入されたのが、長期使用製品安全点検制度や、特定保守製品制度です。
経年劣化によるリスクを予防的に管理し、製造事業者・流通業者・消費者の三者が適切に情報を共有することが求められています。
しかし、制度が複雑であることや、個人間の取引が例外になる場面もあり、実務に即した理解が求められる分野といえます。
キーワードで整理する
話題に挙がった「点検制度」や「説明義務」は、以下のような制度に体系化されています。
- 特定保守製品
経年劣化によって特に重大な危害を及ぼすおそれがある製品(例:屋内式ガス瞬間湯沸器、浴室用電気乾燥機など)で、政令で定められます。点検と情報提供の制度が義務化されています。 - 長期使用製品安全点検制度
製品の設計標準使用期間が過ぎる前に、所有者が点検を受けられるよう、製造・輸入事業者が通知・制度設計を行う仕組みです。 - 設計標準使用期間
通常の使用環境下で、安全に使用できると想定される期間。経年劣化を踏まえた技術的根拠が必要です。 - 特定保守製品取引事業者
製造・輸入・販売・工事を業として行う者。説明義務や書面交付義務などの責任を負います。 - 個人売主の免責
個人間の取引(例:中古住宅の個人売買)では、売主が上記の「事業者」に該当しないため、法的な説明義務は課されません。
これらの制度は、事故発生後の責任追及だけでなく、事前の予防策を体系的に整えるための枠組みといえます。
実際の問われ方
試験では、以下のようなポイントが問われます:
- 法制度に基づいた定義・義務の有無
- 個人 vs 事業者の義務の違い
- 設計標準使用期間や点検制度の主旨
- 特定保守製品の指定や解除の根拠
本問では、以下の記述が不適切とされました:
- 「個人売主が不動産取引で特定保守製品を引き渡す場合に説明義務がある」
→これは誤り。個人売主には法律上の説明義務は課されません。
表にまとめると以下のようになります:
| 記述 | 正誤 | ポイント |
|---|---|---|
| ① | 正 | 特定保守製品の定義(法第2条) |
| ② | 正 | 製造者の表示・書面添付義務 |
| ③ | 誤 | 個人間取引に説明義務なし |
| ④ | 正 | 製造者の危害防止努力義務(法第32条の22) |
| ⑤ | 正 | 指定解除の実例(令和3年政令改正) |
試験での留意点
- 「特定保守製品=すべての製品に説明義務がある」と誤解しやすい
実際には、事業者と個人の間で義務に差があります。 - 設計標準使用期間と製品寿命は異なる概念
設計標準使用期間は「安全性」を基準にした期間であり、壊れるまでの期間ではありません。 - 指定製品の解除=制度の撤廃ではない
事故率の低下等により対象製品が外れることがあっても、制度全体の趣旨は継続されます。
本テーマでは、**制度設計の意図(予防・責任明確化)**と、**法律適用の範囲(事業者/個人)**を意識することで、条文に対する理解が深まります。
用語の理解と実務感覚のバランスが試される分野といえます。
Ⅰ-1-27:南海トラフ地震における応急対策活動計画
背景にある問い
「大規模災害が起きたとき、物資や医療をどうやって被災地に届けるのか?」
「支援の優先順位や輸送ルートは、誰がどう決めているのか?」
近年、南海トラフ地震のような“巨大災害”に備える動きが加速しています。
想定される被害規模が極めて広範かつ深刻であることから、従来の災害対応の枠組みでは到底対応しきれないとの懸念が高まってきました。
特に問題となるのが、発災直後に求められる“初動の迅速化”と、“最適な資源配分”です。
実際の現場では、「誰が」「どこに」「どんな支援を」「どのルートで」届けるかという計画があらかじめ定まっていなければ、貴重な時間と資源が失われてしまいます。
そのため、内閣府では「南海トラフ地震における応急対策活動計画」として、最大クラスの地震・津波を前提とした最悪シナリオに基づく対策計画を策定しています。
この問題では、その計画構造の理解が求められます。
キーワードで整理する
こうした大規模災害への対応を制度的に整理したものが、以下のキーワードです。
- 具体計画(南海トラフ巨大地震対策計画)
最新の科学的知見に基づいて想定された最悪シナリオに対し、応急対策活動を国・自治体・関係機関が円滑かつ迅速に実行できるよう定めた行動計画。被害の全容把握を待たずに行動を開始する前提が特徴です。 - 被害想定(被害想定WG)
建物倒壊、津波浸水、ライフライン停止、交通遮断などの多面的な影響を基に、重点的な対策を講ずる地域を特定します。これにより、人的・物的資源の投入が効率化されます。 - 緊急輸送ルート
全国から被災地に向かう部隊・物資が迅速に到達できるよう、発災前に通行確保すべき道路を設定。救援・復旧活動の生命線とされ、計画ではその選定と整備が重視されています。 - DMAT(災害派遣医療チーム)・SCU(広域災害救急医療拠点)
被災地内の医療リソースだけでは対応しきれない場合に備え、全国から即時派遣・広域搬送が可能な体制を整備。重症者の域外搬送と治療体制の構築が重要視されています。 - 広域物資輸送拠点
ここが誤答ポイントです。被災地に物資を送るための拠点は「支援側(支援府県)」ではなく、「被災地側」に設置されます。支援府県は「中継・輸送起点」であり、被災側が拠点(集積・仕分け)を担います。
実際の問われ方
本問題では、以下のような形式で出題されました:
南海トラフ地震に関連する応急対策活動のうち、不適切なものを1つ選べ
| 選択肢 | 内容 | 正誤 | 補足 |
|---|---|---|---|
| ① | 計画は最大クラスの地震・津波に基づく | 正 | 科学的知見に基づいた最悪シナリオ想定 |
| ② | 人的・物的資源の重点投入 | 正 | 被害が甚大な地域に重点対応 |
| ③ | 緊急輸送道路を事前に定める | 正 | 「迅速かつ円滑」な輸送のために必要 |
| ④ | 医療体制を早期に構築・域外搬送 | 正 | DMATの全国参集と域外治療体制 |
| ⑤ | 支援府県が「広域物資輸送拠点」を設置 | 誤 | 拠点は「被災府県」に設置される |
試験での留意点
- 「拠点の設置場所」=被災地 vs 支援側の混同に注意
被災地内に集積・仕分け機能をもたせるのが原則であり、支援側は供給元。逆に解釈しがちなため要注意です。 - 「迅速かつ円滑」という表現が複数の施策に共通
輸送、医療、連携体制など多くの施策でこの語句が出てきますが、それぞれの“円滑さ”の中身が異なる点に注目すること。 - DMATの役割=被災地内完結ではない
「初動処置+域外搬送体制」というセットで理解する必要があります。
南海トラフ地震をめぐる応急対策活動は、単なる“マニュアル”ではなく、事前に準備されたロジスティクスと意思決定のフレームワークで構成されています。
正解を選ぶ際は、「どこに何を置くか」「誰が担うか」「何を前提に動くか」という構造的視点が求められます。
Ⅰ-1-28:危険性又は有害性等の調査指針(リスクアセスメント指針)
背景にある問い
「危ないかもしれない作業、でもこれまで事故がなかったから大丈夫だろう」
「とりあえずヘルメットとマスクで様子を見ようか」
現場ではこうした“経験と勘”に頼った安全管理が、いまだに少なくありません。
しかし、その考えが取り返しのつかない事故につながることもあります。
労働災害の多くは、“予見可能な危険”に対する“未然防止の欠如”によって発生します。
厚生労働省が定めた「危険性又は有害性等の調査等に関する指針」(いわゆるリスクアセスメント指針)は、こうしたリスクに体系的に対処するための法的・制度的な枠組みを提供しています。
この問題では、リスク低減の優先順位の原則や、調査・措置の対象の判断基準といった、制度の中核部分が問われています。
キーワードで整理する
ここでは、以下のキーワードが本質的に関わります。
- 危険性又は有害性
建設物、設備、原材料、ガス、蒸気、粉じん、作業行動などが原因となって生じる負傷や疾病のもと。あらゆる業務に内在するリスク要因を指します。 - リスクアセスメント
危険性・有害性を特定し、それによって起こり得る負傷や疾病の重篤度や発生可能性(リスク)を見積もり、リスク低減のための優先度設定と措置内容の検討・実施を行う一連のプロセスです。 - リスク低減の優先順位
以下の順でリスク対策を講じることが原則です:
1. 設計・計画段階からの除去(本質安全化)
2. 装置的・工学的対策(インターロック等)
3. 管理的対策(マニュアル整備等)
4. 個人用保護具の使用
本問題の誤答⑤では、この順位を逆にした選択肢(個人用保護具を最優先)が示されていました。
- 合理的に予見可能
過去に災害が発生した作業や、科学的・経験的に危険が見込まれる業務は調査対象とされます。ただし、「平坦な通路の歩行」など軽微で明らかにリスクが低い場合は対象外とすることができます。
実際の問われ方
以下のように、条文の要点を理解しているかが問われます:
| 選択肢 | 内容 | 正誤 | 補足 |
|---|---|---|---|
| ① | 指針の対象範囲(あらゆる業務に内在するリスク) | 正 | 適用対象を網羅的に規定 |
| ② | 対象の選定(合理的に予見可能な作業等) | 正 | 明らかに軽微な作業は除外可能 |
| ③ | アセスメント内容(特定・見積・優先順位) | 正 | 手順の正しい理解 |
| ④ | 実施体制(統括者・安全衛生管理者) | 正 | 組織体制の要点 |
| ⑤ | 優先順位の逆転(誤) | 誤 | 保護具は最終手段、設計変更が最優先 |
図で表すと以下のようになります:
① 設計・工程段階からの除去(本質安全化)
↓
② 工学的対策(設備・機器)
↓
③ 管理的対策(マニュアル・ルール)
↓
④ 個人用保護具(最後の手段)
試験での留意点
- “保護具が最優先”という誤解に注意
現場では手っ取り早く対策できる保護具に頼りがちですが、これは最も優先順位が低い方法です。 - 「リスク評価」は主観ではなく、重篤度×発生可能性で定量的に
感覚ではなく、「どれくらい危険か」「どれくらい起こりそうか」を評価することで、妥当な優先度が導かれます。 - “対象から除外できる”作業はごく限定的
平坦な通路の歩行など、明らかに軽微なケースに限られ、原則は“広く対象とする”のが基本です。
このテーマでは、「予防原則」「合理的な優先順位」「現場責任者の関与」が中心概念となります。制度が形骸化しないよう、実務と照らし合わせた理解が必要です。試験では、こうした考え方を読み取る力が問われます。
Ⅰ-1-29:リスクコミュニケーションの構造と推進方策
背景にある問い
「科学的には安全といっても、なぜ市民は納得しないのか?」
「専門家として正しい説明をしているのに、どうして信じてもらえないのか?」
たとえば、放射線や地震、感染症のリスクに関する説明の場面。専門家が“正しい情報”を提示しても、受け手の不安や反発が強く、議論がかみ合わない経験は多くの現場で見られます。
このとき、単に「説明が足りない」「わかりやすく言えばいい」と考えてしまうと、リスクコミュニケーションの本質を見誤ることになります。
重要なのは、「人はリスクをどう感じ、どう意味づけているのか」を踏まえた対話です。
文部科学省の「リスクコミュニケーションの推進方策」(平成26年)では、リスクを巡る対話を“知識の共有”にとどめず、“価値観の違いを含めた社会的合意形成”として再定義しています。
キーワードで整理する
この背景に関係する中核的キーワードは以下の通りです。
- リスク認知の二面性(ハザード+アウトレージ)
人はリスクを、「危険の大きさ(ハザード)」だけでなく、「怒り・不安・不信などの感情的反応(アウトレージ)」と合わせて評価します。
つまり、“感情”を無視した説明は、納得を得られません。 - リスクコミュニケーション
単なる情報提供ではなく、対話・共考・協働によって、社会の多様なステークホルダーがリスクに関する認識と対応方針を共に形成するプロセスです。 - ステークホルダー間の責任と権限の分配
それぞれが「どのような立場・役割を持つのか」を明確にしながら、多様な観点を持ち寄り合意形成を図る構造が重視されます。 - 平常時の関係構築の重要性
災害や事故などの非常時だけでなく、平常時からの信頼醸成と理解促進が、リスク対応の鍵を握るとされています。
このように、リスクコミュニケーションは「正解を伝える活動」ではなく、「共に考え、受け止め方をすり合わせる活動」といえます。
実際の問われ方
設問では以下のように「誤った認識」を問う形式で出題されました。
| 選択肢 | 内容 | 判定 | 解説 |
|---|---|---|---|
| ① | 専門家は知識の提供に特化して説明すべき | 誤 | 知識提供だけでは不十分であり、感情的側面や受け手の認識に寄り添う姿勢が求められる |
| ② | 対話・共考・協働が重要 | 正 | リスクマネジメントのための本質的要素 |
| ③ | ステークホルダー間の権限・責任の分配 | 正 | 多様な関係者の合意構築に必要な視点 |
| ④ | 被災後の寄り添いもリスクコミュニケーションの一環 | 正 | 単なる知識提供にとどまらず、社会的・心理的対応も含まれる |
| ⑤ | 専門家は市民の理解に寄り添った説明が必要 | 正 | 受け手の受容や解釈に配慮することが重視される |
試験での留意点
- 「リスク=数値で説明すれば済む」という思い込みに注意
定量的な情報だけでは、社会的信頼や納得は得られません。 - “知識”と“合意”の違いを区別する
説明すれば理解されるという発想に対し、「共に考えるプロセス(共考)」の重要性が繰り返し問われます。 - 「ハザード」「アウトレージ」はセットで理解すること
感情的反応もリスク評価に含まれるという点が見落とされがちです。
このテーマでは、「伝えること」から「共に考えること」への発想転換が鍵となります。
専門家の“説明責任”とは、知識の伝達だけでなく、“社会と共に答えを探る責任”であることを意識すると、設問の読み解きが深まります。
Ⅰ-1-30:高年齢労働者の安全と健康確保のためのガイドライン
背景にある問い
「定年後も働きたいという人は多い。でも、年齢に伴う体力や健康の衰えに、どう向き合えばよいのか?」
「職場として、ベテランの経験を活かしつつ、安全をどう確保すべきか?」
高年齢労働者の就労が当たり前になってきた現在、職場では「高齢者の就業継続と安全確保」の両立が求められています。
ただし、高年齢者は体力・反応速度・柔軟性の低下など、加齢に伴う特性を抱えており、若年層と同じ職場環境ではリスクが増大するおそれがあります。
そのため、厚生労働省は「高年齢労働者の安全と健康確保のためのガイドライン」(いわゆるエイジフレンドリーガイドライン)を策定し、企業における制度整備と職場改善を求めています。
本問では、「健康情報の取り扱い」と「身体的特性への配慮」という、個人の尊厳と安全管理のバランスを問う内容が含まれています。
キーワードで整理する
この分野で押さえるべき重要なキーワードは以下のとおりです:
- エイジフレンドリーガイドライン
高年齢労働者が安心・安全に働き続けられるよう、職場環境・作業方法・健康支援等の多面的取組を事業者に促す指針。特に、災害防止・健康保持・体力特性への配慮が重視されます。 - フレイルチェック
筋力や認知機能、活動量の低下など、心身の虚弱化(フレイル)を早期に把握するための簡易健康測定。高齢者の健康維持の第一歩として注目されています。 - 健康情報の取り扱いとプライバシー配慮
「労働者の同意なく、氏名等とともに健康診断結果を委員会等で共有してはならない」という原則。医師の意見を集約・匿名化した上で活用する必要があります。 - 高年齢者への作業設計の工夫
ゆとりある作業ペース、安全に配慮した動線設計、無理のない姿勢・動作を支援する機器の整備など、身体的特性に応じた環境設計が求められます。
実際の問われ方
選択肢では「高年齢労働者への対応」に関する事例が示され、不適切な記述を選ぶ問題でした。
問題の正誤判断の構成は次の通りです。
| 選択肢 | 内容 | 判定 | ポイント |
|---|---|---|---|
| ① | 災害・ヒヤリハット事例に基づく優先順位検討 | 正 | リスク評価に基づく対策はガイドラインで推奨 |
| ② | 手すり設置・段差解消による安全確保 | 正 | 物理的改善は代表的な取組例 |
| ③ | 加齢特性を踏まえた作業マニュアル整備 | 正 | 身体的変化への対応として適切 |
| ④ | フレイルチェック等による自己認識支援 | 正 | 健康保持支援の一環として有効 |
| ⑤ | 健診結果を本人の意思なく氏名付きで委員会に報告 | 誤 | 個人が特定されないよう意見を集約・加工することが必要 |
試験での留意点
- 「健康診断の結果=職場共有OK」は誤解
個人情報に該当するため、本人の同意を得ずに特定可能な形で共有することは違法・不適切です。 - エイジフレンドリー施策は「補助的対応」でなく「前提設計」
単に支援をするのではなく、前提として“働ける環境を設計する”という視点が重要です。 - 「高齢者=弱者」と決めつけない
身体機能の個人差や就労意欲に配慮し、自己の健康管理への支援や選択の自由を尊重する姿勢が求められます。
この問題は、労働安全・健康管理の中でも“高年齢者特有の配慮”と“個人情報保護”という異なる視点が交差するテーマです。
制度や対策を「良かれと思ってやる」のではなく、「権利を侵害しないようにやる」ことが総監の視点として求められています。
Ⅰ-1-31:BCM(事業継続マネジメント)の基本的構造と想定の考え方
背景にある問い
「地震や水害のリスクはあるとわかっていても、結局何を準備すればいいのか…」
「うちは大企業じゃないし、完璧なBCPなんて現実的に無理だ」
このような声は、中堅・中小企業や自治体を問わず、BCP(事業継続計画)に取り組む際によく聞かれるものです。
しかし、BCPは災害対策マニュアルではなく、「組織が止まらないための仕組み」として、経営判断と一体化した継続的マネジメントが求められます。
そこで重要になるのが、BCM(Business Continuity Management)=事業継続マネジメントという考え方です。
BCPを一度作って終わりではなく、組織の変化や外部環境の変動に応じて繰り返し見直し・改善していくためのフレームワークです。
本問では、「BCMの着眼点」として不適切な想定の仕方(結果事象 vs 原因事象)を見抜くことが求められています。
キーワードで整理する
ここでは、以下のキーワードとその関係性が軸になります。
- BCM(事業継続マネジメント)
組織の重要な業務を中断させない/中断しても速やかに復旧させるために、計画・導入・運用・改善のサイクル(PDCA)を通じて継続的に対応力を高めるマネジメントプロセス。 - BCP(事業継続計画)
BCMの一部であり、実際の緊急事態において業務を継続・復旧させるための具体的な行動計画。関係者の役割、対応手順、代替手段などを定める。 - BCMライフサイクル(図表参照)
①計画的にBCMを運用する
②自社および関係者の現状を把握する
③どのように事業を再開・継続させるか検討する
④BCPを策定する/準備を行う
⑤演習を通してBCPを検証する
→この繰り返しにより組織の継続能力を向上させる。 - 結果事象と原因事象の違い
BCMでは「地震が起きた」などの原因事象ではなく、「本社が使用不能になった」などの**結果事象(業務への影響)**から出発して対応を考えるのが基本。
→ 問題④はここを逆にしており、誤りとなる。
実際の問われ方
選択肢形式で、「BCMの視点として不適切な記述」を1つ選ぶ出題でした。
| 選択肢 | 内容 | 正誤 | 補足 |
|---|---|---|---|
| ① | BCMは経営戦略に位置付けられる | 正 | 平常時からの戦略的活動として明確に定義されている |
| ② | 業務の優先順位は局面ごとに変わる | 正 | 発災直後・72時間後・復旧期などで必要業務が異なる |
| ③ | 初めから完璧を目指さず、徐々に改善 | 正 | 小さく始めて回していく「継続性」が大切 |
| ④ | 原因事象から対策を考えるべき | 誤 | 正しくは「影響事象(結果)」から想定することが基本 |
| ⑤ | BCM組織は策定後も維持し続ける | 正 | BCPの維持更新や教育訓練が必要なため |
試験での留意点
- 「結果事象(業務影響)から考える」ことがBCMの原則
たとえば「サーバーがダウンした」という状況に対して、「業務のどこに支障が出るか」「代替手段は何か」を出発点とします。災害そのものではなく、“自社の機能への影響”が起点です。 - BCPは完璧を目指さずPDCAで回すもの
初期段階から全網羅を目指すのではなく、可能な部分から実行し、演習・検証で強化していく運用が重視されます。 - BCM≠BCPではない
BCPはあくまでBCMの一部であり、マネジメントの枠組み(BCM)全体を意識することが重要です。
BCMは“事業を守る”ための経営戦略であり、技術・人・組織の連携が問われるテーマです。
想定の起点を誤らず、「業務継続」のために何を守るべきかを常に問い直す視点が、総監の解答においても求められます。
Ⅰ-1-32:フォールトツリー分析(FTA)による停電確率の算出
背景にある問い
「うちは電源を二重化しているから、停電の心配はほとんどない」
「とはいえ、系統側の事故だけでなく、こちら側の誤操作もある。結局、どれくらい安全なのか数字で説明できないか?」
このような課題は、インフラ設備や製造ライン、あるいは情報システムにおいても共通しています。
いざというときに本当に安全なのか、主観ではなく確率で示す必要がある局面が増えています。
そのとき有効なのが、**フォールトツリー分析(FTA)**という技術です。個別のリスクを原因事象として枝分かれで構造化し、「最終的に望ましくない事象がどれくらいの確率で起こるのか」を算出します。
本問では、停電が発生する確率をFTAによって定量的に求める力が問われています。
キーワードで整理する
- フォールトツリー分析(FTA)
ある望ましくない事象(たとえば停電、事故、火災など)の発生メカニズムを「原因事象の組合せ」としてツリー構造で表現し、**論理演算(AND・OR)**で確率を算出する手法。 - ANDゲート・ORゲートの論理
- ANDゲート:複数の事象が同時に発生するとき → 個々の確率を掛け算する
- ORゲート:いずれか1つでも発生すれば良いとき → 個々の確率を加算する(重複考慮が必要) - デマンド故障確率(要求時故障確率)
待機系設備(バックアップ用の自家発電機など)が実際に必要になったときに起動できない確率。通常の稼働率とは異なり、スタンバイ機器に特有の指標。 - 独立事象
個々の事象が互いに影響を及ぼさないと仮定した場合、それぞれの確率を単純に掛け算できる。
本問ではすべての事象が独立であることが明記されている。
実際の問われ方
与えられた4つの確率(系統喪失、自社操作ミス、発電機1・2の起動失敗)から、複数の組合せを検討し、「最終的に停電が起こる確率」を求める問題です。
【構造イメージ】(電源喪失の2ルート)
停電発生(ORゲート)
├─ 系統喪失 AND 自家発電機×2台とも失敗
└─ 自社遮断 AND 自家発電機×2台とも失敗 AND 系統電源は健全
| 要素 | 概要 | 計算 |
|---|---|---|
| 系統喪失の確率 | 電力会社起因 | 0.05 |
| 自社遮断の確率 | 操作ミス等 | 0.10 |
| 発電機2台とも失敗 | 0.05 × 0.05 | 0.0025 |
| 系統+発電機故障 | 0.05 × 0.0025 | 0.000125 |
| 自社遮断+系統健全(0.95)+発電機故障 | 0.10 × 0.95 × 0.0025 | 0.0002375 |
| 合計 | 停電確率 | 0.000125 + 0.0002375 = 0.0003625 ≒ 3.6×10^-4 |
選択肢③(3.6×10^-4)が正解となります。
試験での留意点
- ANDとORの違いを明確に
→ ANDは掛け算(同時に起きる確率)/ORは加算(どちらかが起きる)という構造を混同しないこと。 - 冗長化=安全とは限らない
たとえバックアップがあっても、起動失敗の確率(デマンド故障確率)を過小評価してはならない。
特に「2台中1台稼働でOK」などの条件が出た場合は、1台でも動けばよい=どちらも失敗する確率を考えるという論理に切り替える必要がある。 - 確率の加算・乗算のミスに注意
演算順序を誤ると結果が桁違いになるため、構造図(ツリー)を先に描く意識が重要。
本問のように、システム信頼性の可視化と計算は、単なる工学的知識にとどまらず、リスクマネジメントや経営判断にも直結します。
数式そのものよりも、「どのような思考の流れで構造を整理するか」が問われている問題といえます。
社会環境管理
Ⅰ-1-33:温室効果ガスの種類と排出傾向
背景にある問い
「CO2排出量を削減せよ」といった指示は日常的に耳にしますが、それは本当に“CO2”だけで良いのでしょうか。
たとえば、冷蔵庫やエアコンに使われているフロン類(HFCs)も地球温暖化に大きく影響します。
また、カーボンニュートラルの施策を検討する際、産業部門や家庭部門ごとの排出構造や推移を正しく理解していなければ、実効性のある対策は打てません。
「CO2換算」「排出源の内訳」「部門別の実態」──その基礎理解なしに、技術的な提案も管理方針の立案も現実味を欠いてしまいます。
つまり、エンジニアとしての説得力をもった説明には、温室効果ガスの構造的理解が不可欠といえるのです。
キーワードで整理する
このような状況に関する理解には、以下のキーワードが重要です。
- 温室効果ガス(GHG)
地球温暖化の主因となる気体。代表的なものにCO2、メタン(CH4)、一酸化二窒素(N2O)、ハイドロフルオロカーボン類(HFCs)などがある。
国際的には、**CO2換算値(CO2e)**で統一的に比較・集計される。 - エネルギー起源CO2
化石燃料の燃焼に伴って排出されるCO2で、GHG全体の大部分を占める。我が国では、産業、運輸、家庭などに部門別で按分されている。 - 非エネルギー起源GHG
農業・廃棄物・フロン類など、燃焼に伴わず排出されるGHGを指す。特にHFCsは近年代替フロンとして普及し、排出量が増加している。
実際の問われ方
この問題では、温室効果ガスの実態(種類・内訳・部門別排出量)に関して、統計に基づく正確な知識が求められました。
ポイントとなるのは以下のような項目です:
| 内容 | 実態 | 補足 |
|---|---|---|
| 温室効果ガス全体に占めるCO2の割合 | 約9割(2020年度) | 他のGHGを含めた割合 |
| 総排出量の傾向 | 2013年度以降は減少傾向 | 原発停止からの一時的増加後に転換 |
| 部門別排出量(2020年度) | 産業>家庭 | 家庭は1.66億t、産業は3.56億t |
| HFCsの排出傾向 | 増加傾向(十数年) | 冷媒需要の影響 |
| 世界のCO2排出国(2019年) | 1位:中国、2位:米国 | 中国が全体の約3割を占める |
試験での留意点
- CO2=GHGではない:HFCsやメタンなどの非CO2ガスが重要な論点となる場合もある。
- 部門別排出量の誤認:家庭部門は増加傾向に見えるが、産業部門の排出量を上回っていない。
- 順位の錯覚:米国=最大排出国という先入観に注意。近年では中国が突出して多い。
- 数値の精度依存問題:環境白書や温対法のデータ更新に伴い、設問が「年次」に強く依存しているケースがあるため、最新の年度を意識して知識整理することが有効。
Ⅰ-1-34:第6次エネルギー基本計画とS+3Eの視点
背景にある問い
エネルギー政策について、あなたの部署で議論が交わされたとき、
「再エネって結局、どれくらい主力になるのか?」
「原子力はまだ使う前提なのか?」という声が上がったことはないでしょうか。
国の長期計画に基づかない議論は、理想論か極端な悲観論に陥りがちです。
とりわけ、2050年カーボンニュートラルという遠い目標と、2030年という現実的なタイムラインをどうつなげて考えるかは、現場の技術者にとっても無視できない論点です。
そのため、今後の「電源構成」や「供給の安定性」「コスト・安全性・環境性のバランス」を考えるうえで、第6次エネルギー基本計画の内容を軸に、俯瞰的な理解が必要になります。
キーワードで整理する
こうしたエネルギー政策に関する議論を読み解くには、以下の基本キーワードが要となります。
- S+3E(エス・スリーイー)
エネルギー政策の基本理念。
SはSafety(安全性)、3EはEnergy Security(安定供給)、Economic Efficiency(経済効率性)、**Environment(環境適合)**の3要素を意味します。
特に「安全性をすべてに優先させる」という表現は原子力政策の重要原則となっています。 - 第6次エネルギー基本計画(2021年10月閣議決定)
2050年カーボンニュートラル実現を見据えた長期ビジョンと、2030年の具体的政策対応を併記した国の中長期エネルギー戦略。
再生可能エネルギーの「主力電源化」や、原子力の20〜22%維持方針、化石燃料の脱炭素技術活用、水素・アンモニア導入などが明記されている。 - エネルギーミックス(2030年目標)
電源構成の割合目標。- 再生可能エネルギー:36〜38%
- 原子力:20〜22%
- 火力(LNG/石炭/石油等):合計約41%
- 水素・アンモニア:1%
実際の問われ方
この問題では、**「最も不適切な記述」**を問う形式で出題されています。
ポイントとなったのは、「2030年度における原子力発電の見込み割合」に関する記述でした。
| 記述内容 | 正否 | 要点 |
|---|---|---|
| 原子力の割合を6%とした記述 | ×誤 | 実際は20〜22%が目標(第6次計画) |
| その他(再エネ主力化、S+3E維持、化石燃料の技術活用等) | ○正 | 全て第6次計画に明記されている内容 |
このように、数値目標の正確な把握と、政策方針の位置づけがポイントとなる問題構成です。
試験での留意点
- 数字の勘違いに注意:原子力の「6%」は印象的だが誤り。「20〜22%」が正しい。再エネ36〜38%とあわせて覚えておきたい。
- 「S+3E」の順番と意味を曖昧にしないこと。特にS(安全)が最上位に位置づけられている。
- 「2030年」と「2050年」のタイムスパンを混同しないようにする。2030年は中期目標であり、政策実行段階である。
- 原子力の“復権”ではなく、“最低限維持”の方針である点も、誤読を避けるべき重要視点といえる。
Ⅰ-1-35:ラムサール条約と湿地の保全
背景にある問い
近年、インフラ整備や再開発において、「環境影響評価(アセスメント)」の必要性が強調される場面が増えています。
その際に障壁となることが多いのが、貴重な生態系や希少種の保護に関する国際的な取り決めです。
特に、干潟・湖沼・湿地帯などの開発では、「ラムサール条約に該当しないか?」といったチェックが必須となります。
しかし、「登録湿地=立入禁止」ではありません。
計画立案者として、「保全と利用のバランス」をどう捉えるかが重要な思考の出発点となります。
キーワードで整理する
こうした文脈を理解するうえで、以下のキーワードを整理しておくことが効果的です。
- ラムサール条約(湿地に関する条約)
1971年にイラン・ラムサールで採択された、特に水鳥の生息地として国際的に重要な湿地を保全するための国際条約。
登録湿地の保全を求める一方で、「適正な利用(wise use)」の考え方も重視されている。 - 適正な利用(Wise Use)
単に湿地を保護するのではなく、自然との共生を前提とした持続可能な利用を促す概念。
このため、「利用を抑制すること」が条約の目的ではない点に注意が必要です。 - 条約湿地
各締約国が登録した湿地。天然・人工、恒久的・一時的などの属性を問わず、科学的な重要性に基づいて登録される。
なお、日本では法律(自然公園法・鳥獣保護管理法等)によって将来にわたる保全が担保されることが登録の前提条件とされています。
実際の問われ方
この問題は、「最も不適切なもの」を選ぶ形式で出題されています。
特に問われているのは、条約の目的が「保全」か「利用抑制」かという本質的な理解です。
| 選択肢 | 内容 | 正誤 | 補足 |
|---|---|---|---|
| ① | 登録湿地では利用抑制が求められる | ×誤 | 実際は「適正な利用」を促進 |
| ② | 登録対象に人工・一時的湿地も含む | ○正 | 条約定義に明記 |
| ③ | 締約国は国家的利益で区域縮小も可 | ○正 | 条約第2条に規定あり |
| ④ | 日本は法的保全体制を登録条件に | ○正 | 環境省の運用指針より |
| ⑤ | 登録有無に関わらず保護区設置を促進 | ○正 | 条約第4条に基づく内容 |
試験での留意点
- 「保全=禁止」ではない:ラムサール条約は、利用を前提にした保全という点が誤解されやすい。
- 条約湿地の定義は広い:天然に限らず、人工的・一時的な湿地も登録対象になる。
- 日本独自の登録条件に注意:条約本文と国内運用(例:自然公園法等)を混同しないよう整理すること。
- 条文の直訳的読解が問われる問題では、「原文に近い趣旨を言い換えた選択肢」に対する読解力が試される。
Ⅰ-1-36:プラスチック資源循環促進法(3R+Renewable)
背景にある問い
ある日、自治体から「新たに施行されたプラスチック資源循環促進法に基づき、製品設計に関する情報提供をお願いしたい」と連絡が来た。
設計や開発の立場としては、「どのプラスチックを、どのように使っているか」まで意識する必要があるのかと戸惑うかもしれない。
しかし今や、製品の廃棄後まで見据えた設計・使用・回収・再資源化までが企業の責務となっている。
資源循環をめぐるルールは、「ごみの分別」だけでなく、「設計段階からの義務化」「行政の役割分担」など、多層的に制度化されている。
この法律は、それらを整理・統合するための「循環経済(サーキュラー・エコノミー)」への橋渡しといえる。
キーワードで整理する
この法律の制度構造を理解するためのキーワードは以下の通りです。
- プラスチック資源循環促進法
正式名称:「プラスチックに係る資源循環の促進等に関する法律」。2022年4月施行。
設計から廃棄処理までの全工程におけるプラスチック使用の削減と資源循環の推進を目的とする。
**3R(Reduce, Reuse, Recycle)+Renewable(再生可能資源の利用)**の考え方を軸に、事業者・消費者・行政の役割を規定する。 - 使用の合理化指針(プラ使用製品設計指針)
製品設計段階でのプラスチック使用量削減、単一素材化、再生材料の使用などを促す。
スプーンやストローなど、いわゆる「ワンウェイ・プラスチック」製品が対象になりやすい。 - 市町村と都道府県の責務の違い
市町村は分別収集や再商品化等の「実施主体」であり、都道府県はそれを技術的に支援する立場。
都道府県が排出者向けの分別基準を策定する役割はない点が試験では誤選択肢となりやすい。
実際の問われ方
本問は「最も不適切な選択肢を選べ」という形式で出題されています。
特に問われたのは、都道府県の責務内容と、その限界です。
| 項目 | 記述 | 正誤 | 補足 |
|---|---|---|---|
| ① | 法制定の背景 | 正 | 海洋汚染、海外の輸入規制など |
| ② | 事業者の分別・再資源化の努力義務 | 正 | 法第4条に規定 |
| ③ | 国の支援義務(資金等) | 正 | 法第5条に規定 |
| ④ | 都道府県が排出者向け分別基準を策定 | 誤 | 市町村が担う。都道府県は技術支援が役割(第6条) |
| ⑤ | 市町村が分別収集・再商品化等の措置 | 正 | 法第6条第1項に規定あり |
試験での留意点
- 都道府県と市町村の責務を混同しない:市町村が実施主体、都道府県は支援・助言役。
- 「義務」ではなく「努力義務」である点に注意:法的拘束力の強さに関する言い回しにも敏感になる必要がある。
- 3R+Renewableは単なるスローガンではない:製品設計、供給、回収の各段階で指針が定められている。
- 「ワンウェイ製品」や「設計段階の責任」など、新たな論点が出題対象になりやすい。
Ⅰ-1-37:環境政策手段の分類(規制的・経済的・情報的・手続き的)
背景にある問い
「環境対策はコストばかりかかる」「税金やルールでは行動は変わらない」といった声は、現場でしばしば聞かれます。
しかし、企業や個人の行動を環境配慮型へと促す手段には、単なる“禁止”や“助成”にとどまらず、多様な仕掛けがあります。
例えば、ある工場において、「排出基準は満たしているが、周辺住民への配慮が足りない」と指摘されたケース。
そこでは、単なる数値規制よりも、情報開示や参加型意思決定が効果を発揮しました。
このように、環境政策は「強制」か「補助」かだけではなく、多様な手法を組み合わせる設計力が問われる分野です。
キーワードで整理する
環境政策における代表的な4つの手段を以下に整理します。
- 規制的手法(パフォーマンス規制)
一定の環境水準(例:排出濃度)を満たすことを求めるが、達成手段は事業者に委ねる方式。
例:硫黄酸化物などの排出基準を定める大気汚染防止法など。 - 経済的手法(環境税・税制優遇)
金銭的インセンティブにより行動を誘導する仕組み。- 環境税:課税により行動を抑制(例:炭素税)
- 税制優遇:補助や減税により望ましい行動を促進(例:省エネ設備導入時の減税)
- 情報的手法(SDS:安全データシート)
環境に関する情報を提供し、市場や社会の自発的選択を促す。
例:SDS(化学物質の安全性情報)、環境ラベル、環境報告書など。 - 手続き的手法(PRTR制度、環境アセスメント)
意思決定の過程そのものに環境配慮を組み込む。
例:環境影響評価(アセスメント)、PRTR制度(有害物質の排出届出)
実際の問われ方
この問題では、空欄に入る語句として最も適切な組合せを選ぶ形式で出題されています。
文脈と定義に合致するかどうかを正確に読み取ることが求められます。
| 空欄 | 内容 | 正解語句 | 試験での着眼点 |
|---|---|---|---|
| ア | 方法の自由を認める排出規制 | パフォーマンス規制 | 行為規制との違いに注意 |
| イ | 負担により行動抑制 | 環境税 | 税の仕組みを正確に理解 |
| ウ | 助成による促進 | 税制優遇 | 補助金・減税との区別 |
| エ | 情報の提供 | SDS | ラベルや報告書との違いにも注意 |
| オ | 意思決定手続の組込 | PRTR制度 | 情報提供と制度設計の混同注意 |
試験での留意点
- 「規制=強制」ではなく、「方法を委ねる規制」があることに留意。パフォーマンス規制は自由度が高い。
- 「経済的手法」の中でも、負担と支援を区別する必要がある。環境税と補助金は目的が異なる。
- PRTR制度は「情報的」ではなく「手続き的」手法に分類される点で混乱しやすい。
- 環境報告書・環境ラベル・SDSなど、情報開示手法は似て非なる点があるため、具体的な内容で整理しておくことが有効。
Ⅰ-1-38:環境政策に用いられる用語の正確な理解(バックキャスティングなど)
背景にある問い
気候変動対策や脱炭素戦略が急速に進むなか、行政や企業の会議で「バックキャスティング」という言葉が頻繁に登場するようになりました。
ところが、「バックキャスティング? とりあえずできるところから始めるって意味?」と誤解される場面も珍しくありません。
このように、環境政策で使われる専門用語は、耳なじみがあっても本質的な意味を取り違えやすいものが多くあります。
それぞれの用語がどのような戦略思考・価値観に基づくかを理解しておかないと、政策や制度の方向性を見誤るリスクがあります。
キーワードで整理する
今回の選択肢に登場する代表的な用語は以下の通りです。
- カーボンプライシング
温室効果ガスの排出に対して経済的なコストを設定することで、排出削減を促す市場メカニズム。
代表例に炭素税(Carbon Tax)や排出量取引制度(Emissions Trading)がある。 - クリーナープロダクション(Cleaner Production)
製造工程や製品ライフサイクル全体において、継続的な環境負荷低減を目指すUNEP発のアプローチ。
有害物質の除去や廃棄物の最小化、資源使用の効率化などが含まれる。 - バックキャスティング
望ましい将来像を先に設定し、そこから現在に向かって逆算して対策を構想する思考手法。
現状の延長線上にない変革を必要とする環境課題(脱炭素、持続可能性)に対して有効。 - エコブランディング
環境配慮を基盤とする企業価値の構築手法。単なる広告手法ではなく、企業理念・戦略と結びついた継続的活動を指す。 - エシカル消費(Ethical Consumption)
環境・人権・地域社会などへの配慮を伴う倫理的な購買行動。SDGsのGoal 12「つくる責任、つかう責任」にも関連。
実際の問われ方
本問は、用語とその説明文の「正誤対応」を問う形式で出題されています。
キーワードに対して「それっぽいが本質を外している」説明を選別する力が求められます。
| 用語 | 正誤 | 説明の要点 |
|---|---|---|
| カーボンプライシング | ○正 | 炭素に価格付けし排出抑制を促す |
| クリーナープロダクション | ○正 | 継続的な生産工程の改善活動 |
| バックキャスティング | ×誤 | 現状前提で小手先の対策→誤り。将来ビジョンから逆算が正 |
| エコブランディング | ○正 | 環境配慮でブランド価値を高める |
| エシカル消費 | ○正 | 社会・環境に配慮した購買行動 |
試験での留意点
- バックキャスティングとフォアキャスティングの混同に注意:前者は「未来起点」、後者は「過去・現状起点」。
- 「耳なじみの良い説明」が必ずしも正解ではない:用語の表面的なイメージに引きずられず、定義と目的に着目する。
- エコとエシカルの違い:エコ=環境、エシカル=環境+人権・社会課題という広がりがある点を整理しておくと効果的。
Ⅰ-1-39:環境影響評価法(環境アセスメント制度)の手続と運用
背景にある問い
大規模なインフラ整備や再生可能エネルギー開発に取り組む際、プロジェクトが社会的な理解を得られないまま頓挫することがあります。
「環境への影響が十分に説明されていないのでは」「地域住民への配慮が不十分だ」といった批判が、その原因です。
こうしたリスクを回避するには、事業開始前に、環境への影響を予測・評価し、その結果を公開し、関係者の意見を踏まえるという仕組みが必要です。
それを制度化したのが「環境影響評価法(環境アセスメント法)」です。
単なるチェックリストではなく、段階的な手続きを通じて、事業の環境配慮を実質化する仕組みです。
キーワードで整理する
本制度を理解するために重要なキーワードと構造は以下の通りです。
- 環境アセスメント(環境影響評価)
一定規模以上の開発行為について、その環境への影響を事前に予測・評価し、計画に反映させる制度。環境影響評価法により定められている。 - 第一種事業・第二種事業
- 第一種:規模や性質から一律に環境アセスメントが必要とされる事業(例:出力1万kW以上の風力発電所)
- 第二種:環境への影響が事業ごとに判断される事業(例:出力7,500〜1万kWの風力発電所など)
→ 第二種には「スクリーニング」という判定手続きがある。
- アセスメントの主な書類と手続き段階
| 段階 | 書類名 | 主な内容 | 説明会の必要性 |
|---|---|---|---|
| 方法書 | 予測項目や調査方法の提案 | ○ 必要 | |
| 準備書 | 調査・予測・評価の結果 | ○ 必要 | |
| 評価書 | 環境配慮措置の最終決定 | × 不要 |
- 公告・縦覧
方法書、準備書、評価書すべてにおいて公告・縦覧(市民が閲覧・意見提出できる状態にすること)が義務付けられているが、説明会の開催は評価書では義務ではない。
実際の問われ方
本問では、「環境アセスメントの各段階における手続きや関係主体の役割」に関する理解が問われました。
| 選択肢 | 要点 | 正誤 |
|---|---|---|
| ① | 第一種・第二種の区分と風力発電所 | ○正 |
| ② | 第二種事業にはスクリーニングが必要 | ○正 |
| ③ | 方法書の送付先(都道府県・市町村) | ○正 |
| ④ | 都道府県知事による意見提出 | ○正 |
| ⑤ | 評価書の説明会開催義務 | ×誤(開催は不要) |
試験での留意点
- 評価書では「公告・縦覧」は必要だが、「説明会開催」は義務ではない。この違いは毎年のように問われやすい。
- 書類の種類と段階の混同に注意。方法書・準備書・評価書の順序と役割を明確に整理しておく。
- 第一種・第二種の違いだけでなく、スクリーニングの位置づけ(第二種のみに実施)も理解が必要。
- 「意見を述べるのは誰か」「送付義務があるのは誰か」など、関係者の役割構造の理解が鍵になる。
Ⅰ-1-40:TCFD提言と経営戦略立案における気候関連情報開示
背景にある問い
「脱炭素経営」を掲げる企業が増える一方で、実際にどのようなリスクや機会を把握し、どう説明責任を果たすのか――その手法を定めた国際的枠組みが求められています。
特にESG投資の文脈では、「気候関連財務情報をどれだけ明確に示しているか」が、評価の前提となるケースも多くなってきました。
自社のガバナンス体制に気候変動リスクが組み込まれているか、2050年に向けたビジネスの気候シナリオを描けているか。
こうした「見える化」を推進する枠組みとして注目されているのがTCFD(気候関連財務情報開示タスクフォース)提言です。
キーワードで整理する
- TCFD提言
金融安定理事会(FSB)が設置したTCFDが2017年に公表した提言。企業等に対し、気候関連リスク・機会に関する情報の開示を促す。 - TCFDの4つの開示項目
- ガバナンス:気候リスクを監督する体制(取締役会、経営陣の役割等)
- 戦略:リスク・機会の影響やシナリオ分析結果を戦略に反映
- リスク管理:識別・評価・対応のプロセス
- 指標と目標:GHG排出量などの定量的指標と削減目標
- シナリオ分析
将来の気候変動を複数の視点で仮定し、自社の事業影響を評価する方法。STEP2〜STEP6でリスク評価・影響分析・対応策の検討が中心となる(参考図あり)。 - 移行リスクと物理的リスク
- 移行リスク:政策・規制、市場、評判、技術の変化などによるリスク
- 物理的リスク:台風・洪水・熱波など気候災害による直接的損害
- ガバナンスにおける開示の視点
・取締役会の監督体制
・経営陣が気候課題にどう対応しているか
・体制や業務フローへの反映状況など
実際の問われ方
この問題は、「環境省『TCFDを活用した経営戦略立案のススメ』(2022年)」の記述をもとに、正誤の判断を求める形式で出題されました。
| 選択肢 | 要点 | 正誤 | 補足 |
|---|---|---|---|
| ① | TCFDの4項目 | ○正 | ガバナンス、戦略、リスク管理、指標と目標 |
| ② | 戦略項目における産業連関法の活用 | ×誤 | 推奨されているのはシナリオ分析。産業連関法は明記されていない |
| ③ | リスクの分類(移行/物理的) | ○正 | 移行=政策・技術、物理=気象災害など |
| ④ | ガバナンスと経営体制 | ○正 | 経営陣や監督体制の開示を求める |
| ⑤ | 日本の賛同機関数(2022年2月) | ○正 | 日本は最多(726社)、米・英を上回る |
試験での留意点
- 「産業連関法」「インベントリ分析」などの専門語が混ざると誤認しやすいため、TCFDが推奨する手法=「シナリオ分析」に一本化して覚える。
- 「TCFD=報告義務」ではなく、経営戦略やガバナンスと連動した情報開示の枠組みであることに留意。
- 移行リスク=制度・技術の変化、物理リスク=災害等の影響という分類は頻出。
- 問題は環境省ガイド資料(「立案のススメ」)に基づくため、国際提言と日本の解釈・整理の違いも整理しておくと安心。
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