令和6年度_背景から学ぶ「総監択一問題キーワードガイド」

このガイドは、ゼロから知識を積み上げるためのものではありません
むしろ、すでにあなたが実務で積み重ねてきた経験――
現場での判断や対応、プロジェクトの中で「こうすべきだ」と感じてきたこと――
それらを言葉として再確認し、体系として整理するためのものです。

技術士(総監)の択一試験には、多くのキーワードが並びます。
ですが、実際には「知らなかったこと」よりも、「言葉としては使ってこなかったけれど、やってきたこと」が大半ではないでしょうか。

たとえば…

  • 「利益は出ているのに、今使えるお金がない」
  • 「人は足りているはずなのに、なぜか回らない」
  • 「リスクは共有したはずなのに、意識がばらばらになる」

そんな現場の違和感に、名前を与えるのがキーワードであり、
それを「試験の問題でどう聞いてくるか」を合わせて確認するのがこのガイドです。

構成はすべて共通です:

  1. 背景にある問い(実務でよくある違和感からスタート)
  2. キーワードで整理する(「あの感覚」は、こういう言葉で説明される)
  3. 実際の問われ方(試験でどう聞かれるか)
  4. 試験での留意点(間違えやすいパターン・迷いやすいペア)

つまりこのシリーズは、
知識を“覚える”というより、「自分の中にあることを、言語と構造で納得する」ための読み物です。

現場の実感とキーワードをつなぐ視点で、これから一つずつ見ていきましょう。

目次

経済性管理

Ⅰ-1-1:キャッシュ・フローの3区分

背景にある問い

「売上が上がっているのに、なぜ資金繰りが苦しいのか?」
「黒字なのに借入をしなければならないのはなぜか?」

経営会議や資金繰り会議の場で、こうした疑問がしばしば挙がります。営業担当は「こんなに売った」と胸を張りますが、経理担当は「手元資金が減っている」と警鐘を鳴らします。このズレは、利益と現金の動きが一致しないことに起因しています。とくに設備投資や借入返済など、日々の取引とは異なる動きが絡むと、資金の流れは一層見えにくくなります。

こうした状況で必要となるのが、企業の「お金の流れ」を全体像で捉える視点です。

キーワードで整理する

この「お金の流れ」を整理する会計資料が、キャッシュ・フロー計算書です。
キャッシュ・フローは、企業活動を次の3つに区分して分析します。

  • 営業キャッシュ・フロー:本業の収支。商品販売やサービス提供に伴う現金の出入りが該当します。
  • 投資キャッシュ・フロー:将来のための投資。設備や有価証券の取得など、資産を増やすための支出が含まれます。
    感覚的には、本業とは別に、まずはお金が出ていく動きであることと説明できそうです。
  • 財務キャッシュ・フロー:資金調達と返済。借入や社債発行、配当支払いなど、資金をどう調達し、どう返すかが表れます。
    感覚的には、本業とは別に、まずは外からお金が入ってくる場合ですね。借金や社債の発行、投資を受けるなど。そして、返済や配当などでお金が出ていきます。

それぞれのキャッシュ・フローは、企業の活動を資金の面から分解し、どこで現金が生まれ、どこで使われたのかを明らかにします。

実際の問われ方

この問題では、6つの具体的な支出項目が与えられ、それぞれがどのキャッシュ・フローに該当するかを分類する形式で問われています。以下のように整理することで、正答を導くことができます。

支出項目該当する区分
(A)配当の支払い財務キャッシュ・フロー
(B)税金の支払い営業キャッシュ・フロー
(C)設備等の取得投資キャッシュ・フロー
(D)社債等の償還財務キャッシュ・フロー
(E)原材料などの購入営業キャッシュ・フロー
(F)他社株式の取得投資キャッシュ・フロー

正解は③:営業(B・E)、投資(C・F)、財務(A・D)です。

試験での留意点

キャッシュ・フローの3区分では、次のような混同に注意が必要です。

  • 税金の支払いは「営業活動」に分類されます。直感的には公共支出=投資と誤解しやすい点です。
  • 配当の支払いは「財務活動」。営業の成果に見えるかもしれませんが、利益分配は資金管理の一環です。
  • 有価証券の取得も、「売買目的」か「資金運用」かで分類が変わりますが、本問では後者(=投資)として処理されます。

単なる会計用語の暗記ではなく、「この支出は、何の目的でどの活動に属するか?」という視点で整理することが重要です。分類の原則を理解し、実務感覚と照らし合わせて判断することが求められます。

令和4年度Ⅰ-1-1と同じ問題といえそうです。サービス問題

Ⅰ-1-2:NPVと投資判断

背景にある問い

「新しい設備を導入すべきか?」「今期の利益は確保できるが、このプロジェクトに手を出すべきか?」
経営会議の場で、こうした投資判断の議論は日常的に行われます。
担当者は「利益は出そうです」と言いますが、それが十分な意思決定材料となるかは別問題です。

特に中長期の設備投資では、初期費用や後年の追加投資、将来の不確実なキャッシュ・インの見通しなどが絡み、単純な収支では判断できません。資金の価値が時間とともに変わるという現実を無視してしまうと、誤った判断につながるおそれがあります。

このような場面では、「今、投資する意味があるのか?」を定量的に評価する指標が必要です。

キーワードで整理する

この問いに応えるのが NPV(正味現在価値) です。
NPV とは、「将来得られる収益の現在価値から、初期投資や追加投資などの費用の現在価値を差し引いたもの」です。

NPVが正であれば、そのプロジェクトは企業価値を高める=やる価値があると判断できます。
逆にNPVが負であれば、将来収益を得ても割に合わず、むしろ企業価値を損なう可能性があるといえます。

NPVの考え方のポイントは次の通りです。

  • 将来のキャッシュフローは、割引率(資金の時間的価値を表す)で現在価値に変換する。
  • 投資のタイミングが異なる場合(例:3年目に追加投資)は、それぞれの年のキャッシュフローを対応する年数で割り引く。
  • 投資の比較や意思決定の境目として、「NPVがゼロになる条件」を求めることもある。

実際の問われ方

本問では、以下のような思考を求めています。

  • 初期投資と毎年の収益からNPVを求める。
  • 追加投資が発生するケースとしないケースのNPVを比較する。
  • 両者のNPVが等しくなる 追加収益Xの値 を算出する。

与えられた条件を整理すると、次のような構造です:

項目条件
初期投資2,000万円
期間5年
年間収益500万円(ベース)
割引率5%
追加投資3年目の年初に400万円
増加収益3年目以降の収益が(500+X)万円に上昇

問題の本質は、「3年目以降の増加分がNPVにどれだけ寄与するか」を現在価値に変換し、400万円と釣り合うようなXを計算することです。

試験での留意点

このようなNPVの問題では、以下のような混同・注意点が生じやすいです。

  • 追加投資の時点に注意:割引計算では、いつの投資かによって係数が変わる。年初の投資はその年の割引を使わない。
  • キャッシュフローの一致条件を見落とさない:問題は最大利益ではなく、「NPVが等しくなる条件」を問うている点に注意が必要です。
  • Xの単位を見誤らない:増加分Xの金額は「年間ベース」であり、年ごとの影響を考慮して現在価値に変換する必要があります。

また、割引率が与えられた場合の 現在価値係数(5年分など) をすばやく把握できるよう、基本的な年金現価係数の使い方を理解しておくと有利です。

Ⅰ-1-3:個別原価計算と製造間接費の配賦

背景にある問い

「同じ仕事なのに、なぜこの案件は赤字で、あっちは黒字なのか?」
「配賦の仕方を変えただけで、急に赤字になるのはおかしいのでは?」

設計・調査・製造などを請け負う事業所では、案件ごとの損益評価が避けて通れません。案件別に費用を記録しているにもかかわらず、評価のたびに結果がブレる原因として、しばしば「間接費の配賦方法」が議論に上がります。

特に、規模も工程も異なる複数の案件を同時に扱う現場では、直接費だけでは実態が把握しづらく、共通費用の割り振りが重要になります。しかし、この「配賦」がどの基準で行われるかによって、各プロジェクトの採算は大きく変動します。

キーワードで整理する

こうした案件別の原価を明らかにする手法が 個別原価計算 です。
個別原価計算とは、受注生産や個別受託業務などで、案件ごとに発生する費用を集計し、その原価を明確にするための計算方法です。

この中でもとくに問題となるのが、製造間接費の配賦です。

  • 直接費(材料費、労務費、経費)は案件ごとに直接集計できます。
  • 一方、間接費(共通で使った人件費、光熱費、設備費など)は、案件ごとの按分が必要です。

間接費の配賦には、以下のような方法があります。

配賦基準の例特徴
等分配各案件に均等に割り振る。シンプルだが実態を反映しにくい。
請負高比例配賦売上規模に応じて配分。利益操作につながる懸念も。
直接作業時間比例作業時間の多い案件ほど多く負担。業務量に応じて妥当性が高い。
直接費合計比例材料+経費など、目に見えるリソースに比例。
直接経費のみ設備利用や外注など、特定コストに基づく配分。

どの基準を使うかによって、プロジェクト原価の「見え方」が大きく変わります。

実際の問われ方

この問題では、3つのプロジェクトに対して、製造間接費900万円をどのように配賦するかで、プロジェクトXの原価がどう変わるかを問う形式です。

選択肢では、異なる配賦基準に従って、Xの個別原価を計算しています。
正解は⑤の「総作業時間(=直接労務費に比例)による配賦」であり、計算は以下のような流れになります。

  • 労務費合計:600+200+200=1,000万円
  • Xの労務費割合:600 / 1,000 = 0.6(=60%)
  • 間接費900万円 × 60%=540万円
  • Xの直接費合計(材料+労務+経費)=500+600+200=1,300万円
  • 原価合計=1,300+540=1,840万円

選択肢の数値が「どの配賦基準によって得られたものか」を見極める問題です。

試験での留意点

このタイプの問題では、以下のような誤解や混同が起きやすくなります。

  • 「配賦基準の選定」と「計算の正確さ」*の両面が問われる:配賦基準の意味が分かっていても、具体的に原価を再計算できなければ得点につながりません。
  • 請負高と作業量を混同しやすい:収益ではなく、実作業(労務費など)に基づく配分のほうが実態に近いことを理解する必要があります。
  • 「一見平等な等分配」は最も危険:簡単ですが、実態から最も乖離した配賦となる場合が多いため、実務では推奨されません。

計算に慣れていないと手が止まりやすい問題ですが、「配賦=比率×総額」の基本を踏まえて、冷静に整理する力が求められます。

Ⅰ-1-4:抜取検査と合否判定抜取検査の用語

背景にある問い

「納品された部品、本当に全部検査する必要あるのか?」
「一部だけ見て良さそうだからOK、では済まないのでは?」

製造や品質管理の現場では、納品物や自社製品の品質をどう確認するかが日々の課題です。すべての製品を検査できれば理想ですが、現実にはコスト・時間の制約から、全数検査は困難です。そのため、「一部だけを検査し、その結果から全体の品質を推定する」方法が用いられます。

しかし、その判断が間違っていれば、大量の不良品を出荷するリスクもあります。一方で、品質が十分な製品を誤って不合格にすることもあり、バランスのとれた検査計画が求められます。

キーワードで整理する

このような状況で用いられるのが 抜取検査 です。
抜取検査とは、製品のロット(まとまり)から一部のアイテムを抜き取り、それを検査することで、ロット全体の合否を判定する方法です。

抜取検査には以下の分類と用語があります。

  • 計量値による検査:重さや長さなど、数値として連続的に測定できる特性を検査対象とするものです。
    例:部品の重さを測定する → 計量値の検査。
  • 計数値による検査:合格・不合格、傷の有無など、離散的な結果による検査です。
    例:キズがあるかどうか → 計数値の検査。

また、抜取検査でロット全体の「合否」を判断する場合には、合否判定抜取検査と呼ばれ、次の要素が重要になります。

  • サンプルサイズ:1ロットから何個抜き取るかの数。
  • 判定基準:合格とする最大不良数などの基準。

このような検査には、次の2つの誤判定リスクが常に付きまといます。

判定リスク内容
生産者危険実際は品質が良好(合格)であるのに、不合格とされてしまう確率。
消費者危険実際は品質が不良(不合格)であるのに、合格とされてしまう確率。

本問に出てくるのは前者、生産者危険です。

実際の問われ方

本問では、以下のような用語を適切に当てはめることが求められています。

コピーする編集するアイテムの重さを測定する → ア(=計量値)  
合否判定抜取検査の構成要素 → イ(=サンプルサイズ)  
品質が合格水準なのに不合格になる確率 → ウ(=生産者危険)

正解は④:計量値・サンプルサイズ・生産者危険です。

抜取検査の分類と、誤判定の種類をしっかり整理しておけば対応可能な設問構成です。

試験での留意点

以下のような混同に注意が必要です。

  • 計数値と計量値は直感と逆になることがある。数量ではなく「測定の方法」に着目すること。
  • 生産者危険(α)消費者危険(β)*の混同。
    前者は「良品を不合格」、後者は「不良品を合格」と整理しておくと明確です。
  • 判定基準の構成として、「サンプルサイズ」と「許容不良数(判定基準)」がペアであることを意識しておくと、選択肢判断がスムーズになります。

出題は用語の正確な理解を問うものであり、意味を知っていても「文脈の中で選べるか」が重要になります。

Ⅰ-1-5:プル型・プッシュ型生産方式とJIT生産方式

背景にある問い

「作ったのに、在庫が動かない」
「生産計画どおりに作っても、次の工程が詰まっている」

現場では、生産がスムーズに進まないことで生じる“待ち”や“ムダ”がしばしば問題となります。特に工程間での“仕掛かり品の山”や“機械の遊休時間”は、目に見える無駄として現場のストレスにもなります。これを解消しようと、ある職場では計画を綿密に立て、前倒しでどんどん生産する手法を採用しましたが、結果的に在庫が過剰となり、かえって効率を損なう結果に。

「必要なものを、必要なときに、必要なだけ作る」ことが理想とされますが、実際にそれを実現するのは容易ではありません。生産の流れとタイミングをどう制御するかが、業務効率を大きく左右します。

キーワードで整理する

このような問題に対して用いられる代表的な手法が プル型生産方式プッシュ型生産方式です。

  • プッシュ型生産方式
    計画主導で生産を進める方式です。あらかじめ立てた生産スケジュールに従って、先行して作業を進める特徴があります。予測に基づくため柔軟性に欠けますが、大量生産や計画的供給が求められる場面に適しています。
  • プル型生産方式
    次工程からの要求(=引き取り)に応じて、必要な量だけを作る方式です。在庫を最小限に抑え、工程のムダをなくす狙いがあります。かんばん方式によって、生産と運搬の指示を明確に伝達します。
  • JIT(Just In Time)生産方式
    プル型生産方式の代表格です。「必要なものを、必要なときに、必要なだけ」作るという理念に基づき、在庫削減・リードタイム短縮・作業効率の最大化を追求します。自動車産業におけるトヨタ生産方式がその典型です。

また、かんばん方式では以下のように2種類のかんばんが使われます:

かんばんの種類目的
生産指示かんばんどの製品をどの工程で作るか
引取かんばんどの工程から何を引き取るか

これらの道具によって、現場の自律的な生産制御が可能になります。

実際の問われ方

本問では、プル型・プッシュ型・JIT生産方式の特徴に関する記述の中から、「不適切なもの」を選ぶ形式です。
不適切なのは選択肢②で、次の点が誤りです:

  • JIT生産方式はプル型であり、プッシュ型の代表例ではないこと。

他の選択肢はすべて正しい内容であり、JITの理念・応用範囲・かんばんの機能などに関する基本知識を問う内容です。

試験での留意点

試験では以下のような混同が起きやすいです。

  • JIT=計画主導と誤解しやすい:工程を整流化する点で計画性が必要に見えるが、本質は「後工程の要求に応じたプル型」。
  • プルとプッシュの使い分け:用語の響きから逆に覚えてしまうことがあるため、「引っ張られる=プル」「押し出す=プッシュ」と動作イメージで整理すると良いです。
  • かんばん方式=JITの手段であることを見落とさない:JITは理念、かんばんはその実行手段であることを区別して理解する必要があります。

設問は用語の定義そのものではなく、用語間の関係性や本質的な運用イメージを問う内容で構成される傾向があります。

Ⅰ-1-6:PERTとクリティカルパスの把握

背景にある問い

「作業の遅れが全体に響くのはどこなのか?」
「リスケジュールするなら、どの工程が自由が利くのかを知りたい」

工期が限られているプロジェクトで、「この作業が遅れたら全体が遅れる」という不安は常につきまといます。ある現場では、複数の作業が同時並行で進んでいましたが、1つの工程が予想外に長引いたことで納期遅延が発生しました。問題は、それがどこに余裕があり、どこが絶対に遅らせられない作業なのかを把握できていなかったことにありました。

工程の流れと時間的制約を正確に可視化しなければ、場当たり的な調整で却って混乱を招く結果になります。

キーワードで整理する

このようなスケジュール管理の可視化手法として代表的なのが、PERT(Program Evaluation and Review Technique)です。
PERTは、複雑なプロジェクトにおける各作業の流れと所要時間をネットワーク図で表し、全体の所要時間・工程間の依存関係・時間的余裕を明らかにする技法です。

PERTで特に重視される用語は以下の通りです:

  • クリティカルパス
    プロジェクト全体の完了時間を決める作業の連鎖です。1分の遅れも全体の遅れに直結するため、最も注意すべきルートです。
  • 最早開始時刻(ES)・最早終了時刻(EF)
    前の作業が最速で終わった場合に、当該作業がいつ始まり・終わるかを示します。
  • 最遅開始時刻(LS)・最遅終了時刻(LF)
    プロジェクト全体の遅れなく作業を完了できる限界のタイミングです。
  • 全余裕時間(TF:Total Float)
    作業を遅らせても全体工期に影響を与えない時間の幅です。TFが0の作業がクリティカルパス上にあると判断されます。

実際の問われ方

この問題では、PERT表の情報をもとに、所要時間や余裕時間、開始・終了時刻を計算し、正しい記述を選ぶ形式です。

与えられた作業表:

作業時間先行作業
A10なし
B8なし
C5A
D6A, B
E12A, B
F7C, D

ネットワークを図示し、最早/最遅時間を計算することで以下のように把握できます:

  • クリティカルパス:A → E(12)→ F(7)= A-E-F:29時間
  • 作業Eの最早開始時刻:AとBが終わってから → max(10,8)=10時 → EF=22時
  • 作業FはEかDが終わってから → max(22,16)=22時 → 終了時刻=29時
  • 作業Cの終了時刻=15、Fの早開始=max(15,16)=16 → TFあり

正解は③「作業Eの全余裕時間は1時間」です。

試験での留意点

本問のようなネットワーク型工程管理問題では、以下の点に注意する必要があります。

  • クリティカルパスの誤認
    長い工程にばかり目が行きますが、「所要時間の合計」ではなく「前作業の最長経路に乗る作業」で判断する必要があります。
  • 並列工程の分岐点での“最大値”に注意:
    複数の先行作業がある場合、最早開始時刻は“最も遅い終了時刻”に依存します。
  • 余裕時間がゼロ=クリティカルと覚える:
    逆に、余裕がある作業に時間を追加しても全体に影響しないことも理解しておくと応用が利きます。

問題文から作業ネットワークを「見える化」する力が問われるため、作業図のメモ書きを即座に作成できることが得点の鍵となります。

Ⅰ-1-7:線形計画法による利益最大化

背景にある問い

「原材料が限られている中で、何をどれだけ作るべきか?」
「利益を最大化したいが、選択肢が多くて判断に迷う」

生産現場では、材料や人員、設備、時間など、使える資源が限られています。すべての製品を十分に作ることができれば問題ありませんが、実際には“どれかを選んで、どれかをあきらめる”判断が必要になります。特に複数の製品を扱っていて、製品ごとに使う材料や利益が異なる場合、「どの製品にどれだけ資源を配分すれば最も儲かるか?」という問いに直面します。

こうした意思決定において、「勘や経験」ではなく「理詰めで最適解を導く」技術が求められます。

キーワードで整理する

このような資源配分の最適解を数学的に導く手法が 線形計画法(Linear Programming) です。

線形計画法は、「目的関数(利益など)を最大化(または最小化)する」という目標のもと、一定の制約条件(資源の上限など)を満たす最適な変数の組合せを求める方法です。

この手法では、以下の要素で構成されます:

  • 意思決定変数(x, y など):どれだけ生産するか、何を選ぶか。
  • 目的関数:最大化または最小化したい指標(例:利益、コスト)。
  • 制約条件:使える資源や上限などの現実的制約。

本問のケースでは以下のように整理できます。

項目内容
変数x = 製品Pの生産量, y = 製品Qの生産量
目的関数利益 = 3x + 5y(万円)
制約条件①Lの使用量:3x + 4y ≦ 240
制約条件②Mの使用量:3x + 1y ≦ 150
非負条件x ≧ 0, y ≧ 0

このように数式で整理することで、資源をどのように配分すべきかが視覚的・論理的に判断可能になります。

実際の問われ方

本問では、与えられた制約条件と利益係数をもとに、5つの選択肢から利益を最大化する組合せを選ぶ形で出題されています。

基本的なアプローチ:

  1. 各選択肢のx, yについて、制約条件を満たしているかを確認する。
  2. 制約内である場合、利益=3x + 5y を計算。
  3. 最大利益となる組合せを選ぶ。

正解は①:x=0, y=60 であり、

  • 原材料L使用量:0×3 + 60×4 = 240(ぎりぎり)
  • 原材料M使用量:0×3 + 60×1 = 60(余裕あり)
  • 利益:0×3 + 60×5 = 300万円

試験での留意点

この問題タイプでは、以下のような混同や見落としが起こりやすくなります。

  • 制約条件の式を立て間違える:係数(例:3x + 4y)の意味を図や表で確認するクセをつけること。
  • 計算せずに感覚で選ぶ:利益係数が高い製品(Q)ばかりを優先して選んでしまうと、材料制約を超えてしまう可能性がある。
  • 非現実的な組合せ(制約を超過している)を除外し忘れる:条件を満たすかどうかのチェックが先決であることを意識しておく。

線形計画法は“手計算できる最適化”として出題頻度も高く、基本の問題構造に慣れておくことが得点に直結します。

Ⅰ-1-8:品質管理の図解手法とQCストーリー

背景にある問い

「いくら話し合っても、話がかみ合わない」
「会議で原因を出し合ったが、結局“やってみないとわからない”で終わってしまった」

品質や業務改善の場面では、複数のメンバーが集まって問題の原因や対策を話し合う場面が多くあります。しかし、議論が堂々巡りになったり、要因が多すぎて整理できなかったりすることも少なくありません。現場のベテランは感覚で語り、若手は事実を並べるだけで、全体像が見えないまま時間だけが過ぎていくという状況も起こりがちです。

そこで求められるのが、情報を構造的に整理し、合意形成と意思決定を支援する“型”*の存在です。

キーワードで整理する

こうした現場の問題解決や課題整理の支援ツールとして使われるのが、QC七つ道具新QC七つ道具です。今回の設問に含まれるのは主に後者で、言語情報を扱う図解手法です。

代表的な手法を整理すると、次のようになります。

手法特徴・使いどころ
問題解決型QCストーリー課題発見から対策評価までを順序立てて整理する基本プロセス。PDCAに類似。
PDPC法プロセスの各段階で生じうる障害を予測し、事前に対策を講じるためのプロセス決定計画図を用いる。
親和図法発想や事実をカード化し、似ているものをグルーピングして問題の本質や方向性を見つける。
系統図法目的と手段の関係を段階的に展開し、目的達成のための手段の全体像を明確にする。因果ではなく階層構造。
マトリックス図法行と列の要素を交差させ、要因間や要因-結果の関係性を整理する。複数要素を俯瞰したいときに有効。

ここで重要なのは、系統図法は因果関係の可視化ではないという点です。これは目的を達成するための手段を「段階的に」掘り下げるツリー型の展開図であり、原因と結果を矢印で結ぶ「因果関係図」などとは異なります。

実際の問われ方

本問では、各品質管理手法の説明文が並び、その中から不適切な記述を選ぶ形式です。

選択肢④の説明が誤りです。理由は以下のとおりです:

  • 系統図法は「問題点と要因を矢印でつなぎ因果関係を図にする」手法ではなく、
  • 「目的達成の手段を階層的に構造化する」手法であるため、説明文が因果関係の図解としてしまっている点で誤りとなります。

他の選択肢はいずれも定義に沿った説明となっており、図解手法の特徴を正しく押さえていれば対応可能な問題です。

試験での留意点

本分野では次のような混同に注意が必要です。

  • 因果関係 vs 手段展開の混同:系統図法は「手段の掘り下げ」、因果関係図(フィッシュボーン図など)は「原因の整理」です。
  • 親和図とマトリックス図の違い:親和図は情報のグループ化、マトリックス図は関係の交差・評価の構造化に用います。
  • PDPC法の“予測型”思考:計画を立てる際の「不確実性に備える」手法であり、単なる工程設計とは異なります。

これらの図解手法は、言葉での定義だけでは理解が曖昧になりやすいため、手書きでも描けるように図の構造で覚えることが、実践・試験の両面で有効です。

人的資源管理

Ⅰ-1-9:労働関係の諸法令

背景にある問い

「フレックスタイムだから、出社も退社も自由ですよね?」「変形労働時間制なら、今日の出勤は午後からでもいいですよね?」——労働時間制度の柔軟性が注目される中で、こうした声が現場で聞かれることがあります。しかし実際には、制度の導入には厳格な手続きが必要であり、労使間の合意や就業規則の整備が前提とされています。

自由な働き方を支援する制度と、企業が遵守すべき法令上のルール。その間に横たわる“誤解”や“運用リスク”をどう理解すればよいのでしょうか。実務上の感覚と法制度の乖離を認識することが、リスクの回避と適切な制度設計につながります。

キーワードで整理する

このテーマに関する理解を深めるには、以下のキーワードの正確な把握が重要です。

  • 変形労働時間制:一定期間を単位として、法定労働時間(週40時間など)を平均で超えない範囲で、日ごとの労働時間に変動を持たせる制度。労使協定や就業規則の整備が必須であり、労働者が自由に決定できる制度ではありません。
  • 勤務間インターバル制度:勤務終了から次の始業時刻までに一定の休息時間を設ける制度。労働時間等設定改善法により企業の努力義務とされており、過重労働の防止が目的です。
  • 年次有給休暇の時季指定義務:10日以上の年休が付与される労働者に対し、年5日分については使用者が時季を指定して取得させる義務があります(労働基準法 第39条改正)。
  • 自己申告制による労働時間把握:タイムカードなど客観的な記録が困難な場合、一定の措置(適正な申告を妨げない仕組み等)を講じた上で自己申告制が可能とされています。無条件に認められるわけではありません。
  • 災害等における臨時労働:災害や不可避の事情がある場合、労基署長の許可を受けて法定時間外の労働を命じることが可能です(労働基準法 第33条)。

実際の問われ方

本問題では、制度の趣旨や導入条件を正しく理解しているかが問われています。形式的には正しく見える記述でも、労働者の自由裁量で運用されるような誤解を含む表現が混入している選択肢を見抜く必要があります。

選択肢ポイント妥当性
災害時の臨時労働と労基署長の許可正しい
勤務間インターバル制度の努力義務正しい
年5日の年休取得義務(時季指定)正しい
自己申告による労働時間把握の条件付き容認正しい
労働者が自由に勤務時間を決められるという誤解誤り(正答)

試験での留意点

  • 変形労働時間制とフレックスタイム制は混同しやすいため注意が必要です。前者は企業があらかじめ定めた勤務時間に労働者が従う形式であり、自由裁量ではありません。
  • 「努力義務」なのか「義務」なのかの文言の違いが選択肢に含まれる場合は、法改正や制度の位置づけを踏まえて判断が必要です。
  • 自己申告制は限定的に許容されている制度であり、実務上の例外であることを理解しておくことが大切です。
  • 有給休暇の時季指定義務は、働き方改革関連法による重要な改正点の一つであり、頻出テーマです。

選択肢の中には、一見すると「柔軟な制度」として聞こえる表現があるものの、その裏には明確な法令上のルールと条件が存在している点に注意する必要があります。試験ではその“ズレ”を見抜く視点が求められています。

Ⅰ-1-10:高年齢者が活躍できる環境整備に係る諸法令

背景にある問い

「定年は60歳だけど、人手不足だし65歳まで働いてもらえないか」「再雇用するとしても、同じ会社じゃなくてグループ企業にお願いできないか」。こうした相談は、企業の人事部門や現場管理者の間で近年頻繁に聞かれるようになっています。

高齢者の就業機会の確保は、労働人口の減少が進む中で喫緊の課題です。一方で、再雇用や雇用延長には制度的な制約が存在し、誤った運用は労働者の権利侵害や行政指導の対象となることがあります。制度導入の“努力義務”と“義務”の違い、無期転換との関係、グループ会社の活用範囲など、実務では複数の制度が交差し、混乱が生じやすい領域です。

キーワードで整理する

高年齢者の雇用環境整備に関連する主なキーワードは以下の通りです。

  • 高年齢者雇用安定法:企業には、原則として65歳までの雇用確保措置(定年延長、継続雇用、定年廃止)が義務付けられています。70歳までの就業機会確保措置は、2021年の改正により「努力義務」とされました。具体的には、再雇用、業務委託、社会貢献活動への従事など、複数の選択肢があります。
  • 特殊関係事業主(グループ会社):継続雇用制度において、定年退職後にグループ会社で再雇用する制度を導入する場合には、契約書による明確な取り決めが必要です。単なる人事交流では認められません。
  • 定年年齢と採用制限の例外:原則として年齢による募集制限はできませんが、定年を設定している場合に限り、その定年前提での年齢制限が可能です。
  • 無期転換ルールの例外:原則として有期雇用契約が通算5年を超えると無期転換申込権が発生しますが、定年後に再雇用された高齢者については、雇用管理制度の認定を受けていればこの権利は発生しません
  • 定年年齢の下限:企業が定年を定める場合は、60歳未満には設定できないと高年齢者雇用安定法で定められています。

実際の問われ方

本問題では、制度の法的位置づけ(義務か努力義務か)、適用の要件や例外の扱いに関する法令知識の正確性が問われています。以下は選択肢別のポイント整理です。

選択肢内容の概要妥当性ポイント
70歳までの就業機会確保措置は「義務」と記載×(誤)実際は「努力義務」
定年制ありの場合、定年前提の年齢制限付き募集可〇(正)例外規定に該当
認定制度下での無期転換ルールの適用除外〇(正)制度による例外
グループ会社再雇用には契約が必要〇(正)契約締結が要件
定年は60歳未満に設定できない〇(正)法定下限あり

試験での留意点

  • 「義務」か「努力義務」かの違いは出題上の重要ポイントです。言葉の微妙な違いが選択肢の正誤を左右するため、法改正に基づく条文の正確な理解が必要です。
  • 再雇用や定年後雇用と無期転換ルールの関係は、試験でも混乱を招きやすいテーマです。再雇用=無期転換対象とは限らない点に注意が必要です。
  • グループ会社での再雇用は、任意の運用では認められません。契約の存在が制度導入の前提であることを忘れてはなりません。
  • 「定年の年齢」設定に関する法令上の下限(60歳)も頻出知識であり、採用・就業設計に直接かかわるため、数字の記憶とあわせて定着させておく必要があります。

このテーマは単なる高齢者福祉ではなく、「持続可能な労働力確保」の視点から、企業経営においても重要な戦略課題といえます。法令理解と現場運用の橋渡しとなるような視座を持つことが、試験対策だけでなく実務にも有益です。

Ⅰ-1-11:育児・介護休業法と産後パパ育休

背景にある問い

「育休を取りたいと相談されたけれど、何をどう案内すればいいのか分からなかった」「男性社員にも育休を勧めたいが、制度の中身が複雑で説明しにくい」——こうした戸惑いは、人事担当者や管理職にとって珍しいことではありません。

制度が複雑化し、育児休業・介護休業・産後パパ育休といった制度が細かく分かれている一方で、企業にはその取得を促進する責任が課されています。労働者が制度を活用しやすいよう配慮するには、管理職自身が制度の要点と制限条件を正しく理解しているかどうかが鍵となります。

とりわけ、2022年に導入された産後パパ育休(出生時育児休業)については、新制度特有の条件や制限が試験でも狙われやすい論点です。

キーワードで整理する

育児・介護休業制度に関連する主要なキーワードは以下のとおりです。

  • 育児休業:子が1歳(最長2歳)に達するまでの間、育児のために取得する休業制度。本人または配偶者の出産を機に、事業主は個別周知と取得意向の確認を義務付けられています
  • 産後パパ育休(出生時育児休業):2022年の法改正で導入。子の出生後8週間以内に最大4週間の休業を2回まで分割取得可能な制度です。従来の育児休業とは別枠とされ、申出は原則2週間前までに行う必要があります。
  • 研修・相談体制整備等の措置義務:事業主は、育休や産後パパ育休の申出を円滑に行うために、いずれかの措置を講じる義務があります(例:取得事例の提示、相談窓口の設置、方針の周知など)。
  • 就業制限のルール(産後パパ育休中):労使協定により就業が可能とされる場合でも、就業日数および労働時間は、所定労働日数・労働時間の2分の1以下に制限されており、フルタイム勤務のような形は制度趣旨に反します。
  • 育休取得状況の公表義務:常時1,000人超の事業主(※令和7年4月以降は300人超)は、男性の育休取得状況を年1回以上公表する義務があります。

実際の問われ方

本問題では、制度の新旧や条件の細部について正確な知識があるかが問われました。中でも、制度に内在する「上限」や「回数制限」を問う選択肢が誤答として設定されています。

選択肢内容妥当性ポイント
育休制度申出の円滑化措置義務〇(正)措置のいずれかを義務化
妊娠・出産申出時の個別周知・取得意向確認〇(正)面談・文書等で実施
産後パパ育休は最大4週・2回分割可〇(正)別枠制度であることもポイント
就業は所定労働時間の合計「以下」で可能×(誤)正しくは「2分の1以下」まで
育休取得率の公表義務(1,000人超)〇(正)今後は300人超に引下げ予定

試験での留意点

  • 労働時間「以下」と「2分の1以下」の違いに注意。文面上は一見正しく見える表現でも、「取得促進のための制限」や「就業を例外的に許容する範囲」を意識する必要があります。
  • 育児休業と産後パパ育休の違いが分かりにくく混同しやすいため、取得可能期間、申出期限、回数制限の違いを整理しておくことが大切です。
  • 制度周知や研修の義務は“いずれか一つ以上”である点を押さえておきましょう。すべてを実施する必要はないものの、実務では複数実施が推奨されていることも頭に入れておくとよいでしょう。
  • 就業制限の“日数”と“時間”の両面に制限がある点も要注意です。片方だけの条件で判断しないように気をつけましょう。

育児・介護制度に関する設問では、制度そのものの理解だけでなく、制度の「運用ルール」や「例外処理」に関する出題が増えています。制度の目的を踏まえた上で、どこに制限があるのか、どの場面で何が必要になるのかを構造的に把握することが、解答精度を高める鍵となります。

Ⅰ-1-12:労災保険制度の適用と特別加入

背景にある問い

「現場でケガをした一人親方が労災申請できないと言われた」「うちのパートさんにも労災は適用されるのか?」——中小企業や建設業の現場で、こうした問いがたびたび話題になります。

労災保険は“労働者のための制度”として知られていますが、その対象や適用条件は一様ではありません。特に、非正規雇用者や個人事業主のような“グレーゾーン”に位置する人たちへの制度適用については、実務でも誤解が多く、制度上も特例が設けられています。

こうした“境界的な存在”に対して制度がどのように対応しているのかを理解することは、労務リスクを管理する上で非常に重要です。

キーワードで整理する

労災保険の適用範囲や特例制度に関しては、以下のキーワードが重要となります。

  • 労災保険(労働者災害補償保険):労働者が業務上または通勤中に負傷・疾病・障害・死亡した場合に、医療費や休業補償などの給付を行う制度。社会復帰支援も目的に含まれます。
  • 労働者の範囲正社員だけでなく、パート・アルバイト・派遣労働者も含まれる。雇用形態ではなく、事業への従属性と報酬の有無が基準となります。
  • 特別加入制度:本来、労災保険の対象外となる一人親方や中小事業主、自営業者が、一定の業種(例:建設業、運送業など)に該当すれば、労働保険事務組合を通じて任意加入が可能。これを「特別加入」と呼びます。
  • 複数就業者への対応(複数業務要因災害):令和2年の法改正により、複数の事業所で働く労働者の労災給付について、全事業所の賃金合計を基礎に算定することが明文化されました。
  • 通勤災害の範囲:通勤災害として認められるには、合理的な経路と方法での通勤中であることが前提です。私的な寄り道や長時間の中断がある場合、災害は労災と認められません。

実際の問われ方

この問題では、制度の適用対象の拡張性や例外の仕組みが問われています。特に、誤答となった選択肢③は、「一人親方や自営業者は労災に入れない」と断定している点が問題です。

選択肢内容妥当性ポイント
労災の目的(給付+社会復帰支援)〇(正)制度の趣旨に合致
パート・アルバイトも対象〇(正)実務上の誤解が多い
一人親方や自営業者は加入不可と断定×(誤)特別加入制度により可能
複数就業者は全賃金を合算〇(正)改正労災法に対応
映画館立ち寄り後の帰路は通勤災害に該当しない〇(正)通勤経路の逸脱に該当

試験での留意点

  • 「対象外」とされている人でも、条件付きで対象になる制度があるという構造を押さえることが大切です。制度の“原則と例外”の関係性に注目しましょう。
  • 一人親方やフリーランスは労災対象外=×、特別加入制度で救済される=〇という知識は頻出です。
  • 通勤災害の逸脱・中断の定義は、設問でたびたび狙われます。業務性がない“私的行動”を挟んだ後の移動は、原則として労災適用外となります。
  • 複数事業所の賃金合算は新制度に基づく出題であり、近年の働き方(副業・兼業)の広がりを反映した内容です。

この分野は、労働形態の多様化にともなって制度が複雑化しつつある領域です。定型的な理解だけでなく、「例外の制度がなぜ設けられているか」「どのような労働形態に対応しているか」といった制度趣旨への理解が問われるようになっています。

Ⅰ-1-13:健康経営とそのフレームワーク

背景にある問い

「最近、“健康経営”が評価されるって聞くけれど、うちの会社でも取り組むべきなのか?」「福利厚生と何が違うのだろう?」——こうした疑問は、多くの企業現場で共有されています。

かつて従業員の健康管理は、企業の“任意”や“福祉的配慮”に過ぎませんでした。しかし近年では、人的資本の価値向上が企業評価の基準となりつつあり、従業員の健康投資は「将来への戦略的投資」と位置付けられています。

単なる健康診断の実施にとどまらず、経営方針・組織体制・制度運用・PDCA(評価と改善)といった仕組み全体が問われるようになってきました。

キーワードで整理する

この分野の理解には、以下のキーワードの把握が不可欠です。

  • 健康経営:従業員の健康保持・増進を経営課題として捉え、企業の生産性・活力の向上を目指す取り組み。単なる福利厚生ではなく、「戦略的投資」としての側面が強調されます。
  • 健康経営優良法人認定制度:経済産業省と日本健康会議が推進する制度。一定の基準を満たした企業を「健康経営優良法人」として認定します。
    • ホワイト500大規模法人部門の中で特に優良な上位法人を顕彰。
    • ブライト500中小規模法人部門における特に優良な上位法人を顕彰。
  • 健康経営の実行フレームワーク(図参照)
    1. 法令遵守・リスクマネジメント(土台)
    2. 制度・施策実行評価・改善
    3. 組織体制経営理念・方針が頂点を支える
      これらが連動・連携して初めて効果的な健康経営が成立します。
  • ESGとの関連性:健康経営はESG(環境・社会・ガバナンス)投資における「S(社会)」領域の評価対象として、企業価値向上と結びついています。

実際の問われ方

本問では、制度の用語や名称の正確な理解が問われました。特に誤答②は、「ブライト500」という名称の適用対象が大規模法人ではない点が重要です。

選択肢内容妥当性補足ポイント
健康経営はESGのSに該当〇(正)社会的責任と企業価値の接点
大規模法人の顕彰名が「ブライト500」×(誤)正しくは「ホワイト500」
健康経営は組織活性化・社会的効果をもたらす〇(正)生産性とQOLの向上
従業員健康は将来投資と位置づける〇(正)単なる福利厚生ではない
法令遵守を土台とした連携的取組が重要〇(正)フレームワーク図と合致

試験での留意点

  • ホワイト500/ブライト500の混同に注意。ホワイト=大規模、ブライト=中小規模という対応を覚えておくと整理しやすくなります。
  • 「健康施策」だけでなく、「経営方針」「評価・改善」も含めて戦略化されている点が健康経営の重要な特徴です。
  • 法令遵守やリスクマネジメントが“前提”であることは、設問でも背景として問われる可能性があります。健康施策だけでは不十分という視点が求められます。
  • ESG投資や人的資本開示とのつながりも、今後の出題トレンドとして意識しておくと有利です。

健康経営は、これまでの「安全衛生」の枠組みを超えて、「人材を活かす経営」の一環として展開される考え方です。そのため、経営戦略、法務、リスク管理、人事制度といった複数の管理領域と横断的に結びつけて理解しておくことが、実務上も試験対策上も効果的です。

Ⅰ-1-14:ダイバーシティ・マネジメント

背景にある問い

「最近は“多様性の尊重”が大事だと聞くけれど、具体的に何をすればいいのか分からない」「性別や国籍だけでなく、雇用形態もダイバーシティに含まれるのか?」——こうした声は、人事部門や管理職の間で日常的に聞かれます。

ダイバーシティは、かつては女性活躍や障害者雇用といった限定的な文脈で語られていましたが、現在ではより広範な概念へと拡張されています。特に、「経営戦略としての多様性活用」すなわちダイバーシティ・マネジメントが注目される中、単なる“配慮”ではなく、“成果を出すための組織戦略”として再定義されています。

企業の競争力やイノベーション創出に直結する視点が求められる今、制度理解の表層だけでは足りません。

キーワードで整理する

本テーマに関連する代表的なキーワードは以下のとおりです。

  • ダイバーシティ:性別・年齢・国籍・障害の有無などの見える多様性に加え、価値観・働き方・雇用形態・性格などの見えにくい多様性も含みます。インクルージョン(包摂)とセットで語られることが多く、形式的な多様性の確保だけでなく、実質的な活躍の促進が重要視されています。
  • ダイバーシティ・マネジメント:多様な人材を組織に受け入れ、個の強みを引き出し組織成果につなげる経営手法。働き方改革やワーク・ライフ・バランスとの親和性が高く、ESGや人的資本開示とも結びついています。
  • ポジティブ・アクション(積極的改善措置):男女雇用機会均等法において、女性労働者に限定して認められる特例的な優遇措置。たとえば、女性の昇進機会を広げるための制度的配慮などが該当します。男女を問わずに行うことは法律上想定されていません
  • ダイバーシティ・ポリシー:企業が多様性の活用を業績や企業価値の向上にどのようにつなげるかを明文化した方針。定量指標(生産性、離職率、多様性スコアなど)と結びつけることで、評価可能な経営資源となります。

実際の問われ方

本問では、ダイバーシティ概念の広がりと、制度の法的制約の範囲を理解しているかが試されました。特に④の選択肢は、「男女を問わず優遇措置が可能」としており、法制度上の限定(女性労働者に関する特例)に反しています。

選択肢内容妥当性ポイント
ダイバーシティの範囲の明確化〇(正)雇用形態も含まれる
ワーク・ライフ・バランスは中心施策〇(正)働き方支援は中核要素
ダイバーシティ・ポリシーの意義〇(正)指標との連動が鍵
男女問わず優遇措置が可能×(誤)認められるのは女性限定
創造性・人材確保への貢献〇(正)量的+質的視点の両面で重要

試験での留意点

  • 「誰に対して何ができるか」という制度的制約を問う問題では、文面上の“正しそうな表現”に注意が必要です。ポジティブ・アクションが「女性限定」である点は、制度の根幹に関わるため頻出です。
  • 「多様性の要素」=目に見える属性だけとは限らない。性格、価値観、雇用形態といった“見えにくい差異”も対象であるという認識が重要です。
  • 経営的効果(イノベーション・定着率・生産性など)との関連づけは、単なる人事制度ではなく「経営課題」としての理解を深める上で鍵となります。
  • ダイバーシティを理念レベルで終わらせず、制度や数値指標と結びつけて評価可能な形に落とし込む視点が、今後の試験でも引き続き求められると考えられます。

ダイバーシティは、組織にとって“調和”を目指す手段であると同時に、“創造的な衝突”を受け入れる土壌を整えることでもあります。表面的な取り組みに留まらず、本質的な活用に向けて管理技術との接続が問われる領域です。

Ⅰ-1-15:キャリアオーナーシップとリスキリング

背景にある問い

「社員にもっと主体的にキャリアを考えてほしい」「会社の育成計画に頼るだけではなく、社員自身が“学び直し”を進めてほしい」——こうした声は、多くの企業が“人材育成から人材共育”へと移行しつつある現代の現場で聞かれます。

しかし一方で、「学べと言われても、何を学べばいいか分からない」「会社が支援するといっても、どこまでが守秘義務なのか曖昧だ」といった戸惑いも少なくありません。

この背景には、個人がキャリアの主体者となる社会への転換と、企業がその土台をどう設計すべきかという課題とが交差しています。学び直し(リスキリング)を進めるには、スキルの見える化とともに、企業と個人の間に信頼とルールが必要なのです。

キーワードで整理する

キャリア形成・学び直しの分野で重要な概念は以下のとおりです。

  • キャリアオーナーシップ(キャリア自律):これまで企業が主導していたキャリア設計を、個人自身が主体的に考え、構築することを指します。組織視点から個人視点への転換が求められています。
  • キャリアコンサルタント職業能力開発促進法に基づく国家資格を持ち、労働者の職業選択・能力開発・職業生活設計について助言・支援を行う専門職。秘密保持義務を有するが、例外的に情報提供が認められる場合もある(例:企業支援の一環として傾向を示す、危機が察知されるなど)。
  • リスキリング:DXや技術革新による職務変化に対応するため、労働者が新しいスキルを再習得するプロセス。単なる学び直しにとどまらず、企業戦略と連動している点が特徴です。
  • 学びの方向性の共有:個人が何を学ぶべきかを見極めるためには、職務で求められるスキルや役割が明確に提示され、企業との対話を通じて共通認識を形成することが不可欠です。
  • 企業による支援策:労働者の主体的学習を促進するために、金銭的補助(受講料補助など)、情報提供、時間配慮(就業時間内の訓練等)が行われます。

実際の問われ方

本問では、「キャリア支援の枠組み」と「法的な守秘義務の解釈」が問われました。特に選択肢③は、「知り得た内容は一切企業に報告できない」と断定しており、守秘義務の例外規定(傾向の共有、リスク回避のための通報等)を無視しています。

選択肢内容妥当性ポイント
キャリア自律は個人視点への転換〇(正)組織→個人のパラダイム転換
キャリアコンサルタントの支援内容〇(正)法に基づく専門職
面談内容は一切企業に報告不可×(誤)守秘義務には例外あり
学びの方向性は企業と共有〇(正)スキルの見える化が前提
金銭的援助や時間配慮は支援策〇(正)自己啓発支援の定型施策

試験での留意点

  • 「守秘義務」の絶対性にひっかからないよう注意。原則は秘密保持だが、「身体・生命の危険」や「企業の制度改善に資する傾向把握」など例外規定があることを理解しておく必要があります。
  • キャリアオーナーシップと企業支援の両立関係に注目。個人任せでもなく、企業任せでもない「共創型支援」がこれからの主流です。
  • リスキリングと自己啓発の違いにも注意。前者は企業戦略に基づく再学習、後者は個人の自発的行動。支援策も異なります。
  • 法に基づく制度と民間施策の違い(例:職業能力開発促進法に基づく制度と、企業独自の支援制度)は混同しやすいため、制度根拠を意識して整理すると理解が深まります。

キャリア形成はもはや“人事部の仕事”ではなく、企業全体で取り組む経営課題です。その中で、「個人の選択」「企業の支援」「制度のルール」がどのように補完関係をなしているのかを意識することが、試験対策だけでなく実務上も重要な視点となります。

Ⅰ-1-16:従業員のモチベーションと行動理論

背景にある問い

「どんな制度を導入すれば社員がもっと主体的に働くようになるのか」「給与を上げてもやる気が上がらないのはなぜか」——経営者やマネージャーが抱えるこうした疑問は、組織における“人の行動”をめぐる本質的な問いと直結しています。

人材の多様化が進み、働き方や価値観が複雑化するなかで、「モチベーションを引き出すには何を整えるべきか」は企業経営における重要テーマです。外発的報酬だけで人が動く時代ではなく、心理的満足や主体性といった“見えない動機”を理解し、活かす理論的な枠組みが求められています。

キーワードで整理する

このテーマで扱われる代表的な動機づけ理論は以下の4つです。それぞれが異なる視点から人間行動を説明しています。

  • マズローの欲求5段階説(対応:A)
     人間の欲求は階層的に構成され、生理的欲求→安全→社会的欲求→承認→自己実現へと段階的に高次化するという理論です。企業による目標管理制度や表彰制度は、承認欲求や自己実現欲求を満たす施策と解釈されます。
  • マクレガーのX理論・Y理論(対応:B)
     X理論:人は本来働きたくない存在である → 管理が必要。
     Y理論:人は本来働きたく、自律的である → 経営参加や自己目標設定で能力が引き出される
     Y理論に基づく制度として、持株制度や労使協議などの自律支援的な施策が挙げられます。
  • ハーズバーグの二要因理論(対応:C)
     仕事に対する満足感と不満は別の要因から生じるとする理論。不満を抑える「衛生要因」(給与、労働条件等)と、満足感を高める「動機付け要因」(達成感、承認等)に分類。
     成果への賞与よりも表彰や承認が動機づけに有効であることを示唆しています。
  • テイラーの科学的管理法(対応:D)
     作業を科学的・定量的に管理することによって、労働者の生産性を高める古典的手法。標準作業量と賃金を連動させることで、作業の効率化とインセンティブを両立させます。

実際の問われ方

本問題では、「施策」と「理論」の対応関係を正しく読み取れるかが問われました。対応関係は以下の通りです。

企業の施策該当理論理論名(キーワード)
A. 自己実現や目標管理マズローの欲求5段階説
B. 経営参加制度マクレガーのX理論・Y理論
C. 成果表彰ハーズバーグの二要因理論
D. 作業量と賃率管理テイラーの科学的管理法

選択肢⑤が正解となる理由は、各制度が対応する理論の核心的な考え方を体現しているかどうかを見極められるかにあります。

試験での留意点

  • 「理論名」ではなく「考え方の特徴」から逆引きする視点が必要です。理論そのものを丸暗記しても、問題文の施策との対応を読み取れなければ得点にはつながりません。
  • ハーズバーグ理論の2種類の要因(動機付け要因と衛生要因)の違いは、出題頻度が高く混同されやすいため要注意です。
  • テイラーの理論は古典的ながら、現代でも成果主義や定量管理の背景に生きているという認識を持っておくと、実務と結びつけやすくなります。
  • マクレガーのX理論・Y理論は、組織の人間観の違いによるマネジメントアプローチの分岐である点に注目しましょう。単に「管理型/自律型」の違いではなく、制度設計に直結する理論です。

モチベーション理論は、管理職や経営層が“人をどう見るか”という姿勢に影響を与える思考フレームです。理論を活用することは、単なる人事制度の設計にとどまらず、組織文化や価値観の選択にかかわることでもあります。

情報管理

Ⅰ-1-17:クラウドコンピューティングの基本的特徴(NIST定義)

背景にある問い

社内の情報システムを刷新する際、「クラウドに移行すべきか」という議論が必ず出てきます。コスト削減・柔軟性・BCP対策など様々な利点が語られる一方、「セキュリティは大丈夫か」「自社専用じゃないのか」といった不安や誤解も根強く残っています。

たとえば、経営層から「クラウドって無料で誰でも使えるものでしょう?」と問われた場合、どう答えるべきでしょうか。それは“パブリッククラウド”の一側面に過ぎず、クラウド全体の定義ではありません。こうした誤解を正し、技術者として本質的な特徴を理解しているかが問われる場面が増えています。

このような中で、「クラウドとは何か?」を体系的に理解するために基準となるのが、NIST(米国国立標準技術研究所)によるクラウドコンピューティングの定義です。

キーワードで整理する

クラウドコンピューティングには、5つの基本的特徴(Essential Characteristics)が定義されています。これらは技術モデルの違いにかかわらず共通する特性であり、クラウドサービスを見極める軸となります。

  • オンデマンド・セルフサービス:ユーザが必要な時に自分でリソース(サーバ、ストレージ等)を利用開始・停止できる。
  • 幅広いネットワークアクセス:インターネットなどの標準プロトコルを通じて、様々な端末からアクセスできる。
  • リソースの共用(リソース・プーリング):複数ユーザ間でリソースを動的に共有・再配置する仕組み。
  • スピーディな拡張性(急速な伸縮性):需要に応じて自動的にリソースがスケーリングされる。
  • 計測サービス(サービスの利用量を計測・監視可能):使用量に応じて料金が発生し、可視化・管理ができる。

なお、「誰でも自由に使える」といった表現は、パブリッククラウドの特徴ではあっても、クラウドそのものの定義には含まれていません。

実際の問われ方

この問題では、以下のような選択肢の中から NISTの定義に含まれないものを選ばせる 出題形式です。

選択肢内容正誤
オンデマンド・セルフサービス
リソース共有
広く一般の自由な利用誤(NIST定義に含まれない)
スピーディな拡張性
計測可能性

設問は一見すべて正しそうに見えるため、NISTの原典的な5項目を知っているかどうかで正答が分かれます。

試験での留意点

  • 「パブリッククラウド」と「クラウドコンピューティングの定義」を混同しないように注意が必要です。NIST定義は実装モデル(パブリック/プライベートなど)に依存しない抽象的定義です。
  • 「セルフサービス」「共用」「計測可能」は見落としやすいキーワードですが、クラウドの利点を支える根本機能といえます。
  • 「誰でも使える(一般公開)」は便利そうに見えても、クラウドの基本特徴には含まれないことを明確に覚えておきましょう。

Ⅰ-1-18:データ解析とデータマイニングの代表的手法

背景にある問い

「最近、うちの部でも“データで意思決定しよう”って言われるようになってね。でも、どうやって分析すればいいんだろう?」

企業内でDXや業務改善が推進されるなか、過去の実績データやアンケート結果を元に傾向をつかんだり、分類したりといった分析ニーズが高まっています。しかし、現場では「主成分分析と因子分析って何が違うの?」「クラスター分析ってAIとは違うの?」といった混乱が起こりがちです。

こうした場面では、「このデータをどう扱い、どんな手法を適用するか」を見極める力が求められます。技術士試験では、これらの代表的な多変量解析・分類・次元削減手法が体系的に理解できているかが問われます。

キーワードで整理する

以下は、実務や試験で頻出の代表的なデータ解析・マイニング手法です。それぞれの適用目的と特徴を簡潔に把握しておくことが重要です。

  • 主成分分析(PCA)
     量的変数の相関を利用して、情報の損失を最小限に抑えながら次元を縮約する手法。互いに無相関な合成変数(主成分)を得る。
  • 因子分析
     観測変数に潜む共通因子(潜在因子)を抽出し、構造を簡潔に説明するモデル化手法。主成分分析と似ているが、目的は原因構造の把握
  • 多次元尺度法(MDS)
     距離や親近性のデータを、2~3次元空間に可視化する手法。似ている対象は近く、異なる対象は遠くに配置される。
  • クラスター分析(階層的/非階層的)
     観測データを類似性に基づいて分類する手法。
     - 階層的クラスター分析:デンドログラム(樹形図)を用いて、データを段階的に結合・分割
     - 非階層的クラスター分析:あらかじめ決めた数のグループに分け、反復最適化を行う。代表例が k平均法(k-means)
  • 線形判別分析(LDA)
     既知のグループに基づき、新たなデータがどのグループに属するかを線形関数で判別する手法。

実際の問われ方

本問では、以下のようにそれぞれの手法に関する記述の正誤を判別させる形式で出題されています。

選択肢内容正誤
主成分分析による次元削減
因子分析による構造理解
多次元尺度法による可視化
k平均法を階層的手法と記述誤(非階層的である)
線形判別分析による分類

選択肢④が誤りであり、k平均法は非階層的クラスター分析に属する点を見抜けるかがポイントです。

試験での留意点

  • 「k平均法=非階層的」という分類を必ず覚えておくこと。階層的分析と混同しやすいので注意が必要です。
  • 主成分分析と因子分析の違いは頻出テーマです。両者は似ていますが、主成分分析は次元削減(情報圧縮)、因子分析は因果構造の解明が主目的である点に注意してください。
  • 可視化手法(MDS)分類手法(クラスター分析・LDA)は目的が異なりますが、図としての出力が似るため混同されやすいです。

Ⅰ-1-19:情報セキュリティ方針(JIS Q 27001)

背景にある問い

「うちの情報セキュリティ方針って、どこまで開示すべきなんだろう?」

ISMS(情報セキュリティマネジメントシステム)を導入している企業では、情報セキュリティに関する社内ルールやポリシーが整備されています。ただし、その「方針」をどこまで文書化し、誰に示すか、という運用面では意外と曖昧な認識が残っていることがあります。

例えば、トップが「セキュリティは現場に任せる」と言ってしまったり、「方針は周知してるけど、文書はない」とされているようなケースです。こうした状態では、インシデント発生時に責任の所在が不明確になり、リスク管理の観点でも不適切です。

このような場面で立ち返るべき基準が、JIS Q 27001に基づく情報セキュリティ方針の要件です。

キーワードで整理する

情報セキュリティ方針(information security policy)は、組織の情報資産を保護するための基本的な方向性や意志を示す文書であり、ISMS(JIS Q 27001)の中核をなす要素です。

以下は、そのポイントです。

  • トップマネジメントが策定・承認することが必要
     組織のリーダーシップと責任を明確にする観点から、方針はトップマネジメント自身が関与しなければなりません。
  • 組織の目的と整合性を持つことが要件
     情報セキュリティ方針は、経営方針や事業目標と矛盾しないように定められる必要があります。
  • 文書化・周知・利用可能性の確保が求められる
     単なる“口頭の宣言”では不十分であり、明文化された方針関係者に適切に伝達・提供可能であることが求められます。
  • 利害関係者への提供(必要に応じて)も明記
     従業員のみならず、取引先や関係機関に対しても、必要に応じて開示できる状態にすることが求められます。
  • 例外や逸脱を扱う仕組みも構築されるべき
     一律に「例外禁止」ではなく、適切な承認プロセスのもとで例外対応が可能な運用体制を設計することが求められています。

実際の問われ方

本問では、「JIS Q 27001に基づく情報セキュリティ方針の適切な要件」を選ばせる形式で出題されています。

選択肢内容正誤補足
実務管理者が策定×トップマネジメントの責任が必要
組織の目的と無関係でよい×整合性の確保が要件
文書化は不要×明文化が求められる
逸脱や例外は禁止×管理プロセスが必要
利害関係者が入手可能に適切な記述

正解は⑤であり、関係者への開示性が要件である点が問われています。

試験での留意点

  • 「トップが策定しない」「文書がなくてもよい」といった現場実務あるあるが、実は基準上は不適切であることを見抜けるかが問われます。
  • 「例外を許さない」など、過度に厳格な運用がかえって不適切であることにも注意が必要です。
  • ISO/IEC 27001とJIS Q 27001の内容は国際・国内基準として共通しており、リーダーシップ・整合性・文書管理・開示性という4つの柱を意識することで誤選択を避けやすくなります。

Ⅰ-1-20:コーチングのモデル

背景にある問い

「この部下、自分で答えを持ってるのに、なんで聞いてくるんだろう?」

マネージャーやリーダーの立場になると、部下の育成において「指示」ではなく「支援」の在り方に悩む場面が増えます。能力はあるのに自信がなかったり、選択肢は持っているのに踏み出せなかったり――そうしたときに有効なのが、コーチングです。

しかし、「コーチング」と一口に言っても、多様なモデルや流派が存在し、それぞれに独自の哲学や構造を持っています。業務のなかで、どのような考え方をベースに関わればよいのか、自分のスタイルに合う手法はどれか。そうした観点から理解しておくことが重要です。

試験でも、複数の代表的モデルの本質的な違いを押さえているかが問われています。

キーワードで整理する

以下は、試験で問われた代表的な5つのコーチングモデルです。それぞれの核となる思想を押さえることで、混乱を防ぐことができます。

  • インナーゲーム(Inner Game)
     人の内面にある「自己批判」や「不安」を乗り越えることにより、本来の力を自然に引き出すことを重視する。コーチは「評価」ではなく、「気づき」を促す存在。
  • インテグラル・コーチング(Integral Coaching)
     内的/外的、個人的/集団的という2軸でクライアントの状態を多面的にとらえる。行動や思考、感情のバランスを重視する包括的モデル。
  • コーアクティブ・コーチング(Co-Active Coaching)
     クライアントは創造的で、完全で、資源に富んだ存在であるという信念に基づく。コーチは「答えを与える」のではなく、「問いによって気づかせる」。
  • ポジティブ心理学コーチング
     強み、希望、感謝といったポジティブな感情や思考のスタイルに着目。楽観的な視点を育てることで、主体性や幸福感を高める。
  • オントロジカル・コーチング(Ontological Coaching)
     行動そのものではなく、「在り方(Being)」を見つめ直し、言語・身体・感情の観点から人間の存在様式を変えていく。変化は内面の自己理解から始まる。

実際の問われ方

本問では、5つのモデルに関する記述のうち「最も不適切なもの」を選ばせる形式です。

選択肢内容正誤補足
インナーゲーム:主観で批判的に評価×誤インナーゲームは「評価」ではなく「気づき」が中心
インテグラル:2軸で視点を整理記述の通り
コーアクティブ:資質が欠けない存在記述の通り
ポジティブ心理学:楽観主義的支援記述の通り
オントロジカル:在り方の変化が目標記述の通り

誤りは①であり、インナーゲームを「批判的な評価」として捉えてしまっている点が不適切です。

試験での留意点

  • モデル名に「〇〇コーチング」とついていても、哲学・主眼が異なる点に注意が必要です。名前の印象に引っ張られないようにしましょう。
  • 「行動」と「在り方(Being)」、「内面から引き出す」と「外から教える」など、対照的なペアを押さえておくと、選択肢の見極めがしやすくなります。
  • インナーゲームは内面の邪魔な声を取り払う思考法であって、批評的・指導的なアプローチではないという点は特に混同されやすい部分です。

このように、コーチングの各モデルは言葉づかいが似ていても、内包する価値観が大きく異なります。試験では「モデルの思想」が問われる場面が多いため、定義よりもそのモデルが“何を大事にしているか”という視点で整理することが効果的です。

Ⅰ-1-21:情報公開法と行政文書の開示

背景にある問い

「行政の不透明さをなくすには、結局どうすればよいのか?」

行政手続や公的意思決定における透明性の確保は、ガバナンスの基本です。特に、住民から「なぜこの決定がなされたのか」「その根拠となる資料はどこか」と問われたときに、対応できる仕組みが求められます。

このような状況で活用されるのが、情報公開法(行政機関の保有する情報の公開に関する法律)です。しかし、実務上は「どんな資料が開示対象か」「個人情報がある場合はどうか」「文書の存在そのものが非開示の対象になるのか」といった判断に迷う場面も多く見られます。

技術者であっても、行政委託や官民連携に関わる立場では、行政文書の取扱いと開示のルールを把握しておく必要があります。

キーワードで整理する

情報公開法(平成11年法律第42号)は、行政の保有する情報を国民に開示し、国民による政府の監視・参加を可能にすることを目的とした法律です。ここでは、行政文書の定義と開示の基本ルールを押さえることが重要です。

  • 行政文書の定義
     職務上作成または取得した文書・図面・電磁的記録であり、組織的に用いるものとして保有しているものを指す。取得文書も含まれる点に注意。
  • 開示請求の手続き
     開示請求者は、氏名や住所などを明示した書面で請求する必要がある。匿名や不完全な情報では受付不可。
  • 行政文書に該当しないもの
     官報・白書・書籍など、不特定多数への頒布を目的とする出版物は対象外。
  • 不開示情報と公益的開示
     行政文書に不開示情報が含まれていても、公益上特に必要がある場合は開示が可能。※ただし、特定の例外情報(例:安全保障など)は除く
  • 文書の存在を明かさないことも可能
     存否を答えるだけで不開示情報の漏洩につながる場合、文書の存在自体を明かさずに開示拒否できる。

実際の問われ方

本問では、情報公開法に関する記述の中から最も適切なものを選ばせる形式で出題されています。

選択肢内容正誤補足
取得した文書は含まれない×取得した文書も含むのが正しい定義
官報なども行政文書に含む×出版物は行政文書に該当しない
匿名での開示請求が可能×氏名・住所の記載が必要
文書の存否は明示が必要×漏洩の恐れがある場合は明示不要
不開示情報を公益上開示できる開示可能。ただし一部例外あり

正解は⑤であり、公益性を理由とした例外的開示のルールを理解しているかが問われています。

試験での留意点

  • 「作成」と「取得」の違いを問う設問がよく出ます。取得文書も行政文書である点は頻出事項です。
  • 開示請求の手続きでは、匿名やネット上での仮名請求は不可という点に注意が必要です。
  • 「行政文書に含まれる/含まれない」文書の区別は、出版物の例外性に着目すれば判断しやすくなります。
  • 「存在の有無すら答えない」という対応が可能である点は、機密性が高い情報の管理の実務性と直結しており、見落としやすいですが重要です。

このように、情報公開法は一見制度的な話に見えますが、信頼性・説明責任・行政透明性といったコミュニケーションの根幹に関わるテーマです。試験では、「どこまでが公開対象なのか」「例外はどう定義されているか」といった線引きの理解が問われるため、キーワードの整理とともに具体的な判断基準に触れておくことが効果的です。

Ⅰ-1-22:産業財産権の存続期間の原則

背景にある問い

「この技術、どのくらい守れるのか?」

自社で新しい技術を開発したとき、その成果を法的に守るには知的財産権の取得が重要です。しかし、特許を取ったからといって永久に独占できるわけではなく、権利には存続期間があり、しかも権利の種類ごとに異なるという点は意外と見落とされがちです。

技術者として製品のライフサイクルを考える際、「いつまで競合を排除できるのか」「更新が必要な商標はいつ切れるのか」といった知識が欠かせません。特に中小企業では、知財の期限を見落としたことで模倣を許してしまうケースもあります。

このような実務に直結する視点から、試験では産業財産権ごとの保護期間の違いが問われます。

キーワードで整理する

産業財産権とは、主に技術・デザイン・ブランドなどを保護する権利であり、以下の4種類があります。それぞれの存続期間の起算点と年数を明確に押さえておく必要があります。

種類起算点存続期間の原則備考
特許権出願日20年一部医薬品などは延長可
実用新案権出願日10年平成17年改正で10年に延長
意匠権出願日25年(※登録日ではない)令和2年改正で出願起算に変更
商標権登録日10年(更新可)更新により半永久的に保護可能

特に注意すべきは以下の2点です。

  • 意匠権は、かつては「登録日から20年」でしたが、令和2年の改正により「出願日から25年」に変更されました。
  • 商標権のみ「登録日起算」であり、他の3つは出願日起算です。

実際の問われ方

本問では、産業財産権ごとの原則的な存続期間を正しく組み合わせているものを選ばせる形式です。

選択肢特許権実用新案権意匠権商標権正誤
10年5年20年登録から5年×
10年10年20年登録から10年×
20年10年25年登録から10年
20年20年25年登録から20年×
30年20年30年登録から20年×

正答はであり、意匠権の変更点(25年)と商標権の起算点(登録日)に注目できるかがカギとなります。

試験での留意点

  • 起算点の違い(出願日 or 登録日)を意識してください。商標権だけが登録日起算である点は特に混同しやすいため注意が必要です。
  • 法改正後の年数(意匠25年、実用新案10年)に基づいた知識が問われています。過去の古い数字を暗記していると誤答につながります。
  • 商標権は「変更可」「更新可」という言い回しが登場することが多いため、「一度限り」ではない点をおさえておきましょう。

このように、産業財産権の保護期間は制度の変化に応じて見直されてきました。試験では「知識の正確さ」と「比較による識別力」が問われます。混乱を防ぐためにも、一覧表での整理と法改正へのアンテナが有効です。

Ⅰ-1-23:ブロックチェーンの仕組みと特性

背景にある問い

「データが勝手に書き換えられていたら、もう信頼できないですよね?」

システムの信頼性や透明性が求められる時代、改ざんや不正のリスクは組織にとって重大な経営課題です。とりわけ、複数の企業や組織が関与する取引や記録の管理においては、誰か一人が勝手に情報を操作できない仕組みが必要とされます。

そのような背景の中で注目されてきたのが、ブロックチェーンという技術です。仮想通貨だけでなく、サプライチェーン管理や契約履歴の追跡、投票システムなど、多様な応用が進んでいます。

試験では、この技術の構造的な特徴と誤解されやすい点に焦点が当てられています。

キーワードで整理する

ブロックチェーン(Blockchain)とは、分散型の台帳技術であり、以下の特性によって高い信頼性と改ざん耐性を持ちます。

  • 構造:データをブロック単位でまとめ、時系列順にチェーンのように連結。各ブロックは前のブロックのハッシュ値を含むことで、一部を改ざんすると後続すべてに影響が及ぶ。
  • 分散管理中央管理者が存在せず、複数ノードが同じ情報を保持する仕組み。全ノードの合意(コンセンサス)により正当性が担保される。
  • パブリック型とプライベート型:誰でも参加可能なパブリックチェーン(例:ビットコイン)と、許可された者のみ参加可能なプライベートチェーンがある。
  • 改ざん耐性・耐障害性ノードが増えるほどデータのコピーが分散され、改ざんが困難になる。また、どこか一部が故障しても他のノードで復元可能。
  • 関連技術:ブロックチェーンの信頼性を支える技術として、ハッシュ関数、電子署名、公開鍵暗号、P2P通信などが活用されている。

実際の問われ方

本問では、ブロックチェーンの構造・特徴・応用に関する記述のうち「不適切なもの」を選ぶ形式で出題されています。

選択肢内容正誤補足
ブロック単位で時系列に連結正しい記述
中央管理者なしでも信頼可能コンセンサスアルゴリズムによる合意形成
ビットコインはパブリック型誰でも参加できるオープン型
ノードが増えると耐性が低下×誤ノードが増えるほど耐改ざん性・冗長性は向上
ハッシュ関数や電子署名を使用セキュリティ基盤を支える要素技術

不正解の④は、ブロックチェーンの信頼性向上の鍵となる「分散性」に逆行する誤った認識です。

試験での留意点

  • 「ノード数が増える=弱くなる」という直感的な誤解に注意してください。実際には分散されるほど安全性は高まるという仕組みです。
  • ブロックチェーンは単なる仮想通貨技術ではなく、情報記録の手段である点に着目してください。
  • 構造と技術的支柱(ハッシュ、署名、暗号)をセットで理解しておくと、他の選択肢への応用にも対応しやすくなります。

ブロックチェーンは、単なるIT用語にとどまらず、組織の信頼設計や社会的ガバナンスと深く関わる技術です。試験ではその「構造的な意図」を理解しているかが問われており、誤解されやすい特徴を見抜くことが合格の鍵となります。

Ⅰ-1-24:ランサムウェアと二重恐喝(ダブルエクストーション)

背景にある問い

「PCが突然動かなくなり、画面に“金を払え”と表示された――」

業務用パソコンや社内ネットワークがランサムウェアに感染し、ファイルが開けなくなったり、業務停止に陥ったりする事件が後を絶ちません。近年では、単に暗号化されるだけでなく、情報を盗んだうえで脅迫的に金銭を要求されるという事案も増加しています。

「バックアップがあるから大丈夫」と安心していたら、“盗んだ情報を公開されたくなければ金を払え”という新たな脅しにさらされる――このような二重恐喝型のランサムウェア(ダブルエクストーション)が現実の脅威となっています。

こうした変化を踏まえ、試験では古典的なランサムウェアの手口との違いを理解しているかどうかが問われます。

キーワードで整理する

ランサムウェア(Ransomware)とは、感染した端末内のデータを暗号化し、元に戻す(復号する)ための“身代金(ransom)”を要求する不正プログラムです。

従来の特徴と、近年の進化を以下のとおり整理できます:

  • 従来型ランサムウェア
     - ファイルやシステムを暗号化し、使用不能にする
     - 復号キーとの引き換えに金銭を要求するメッセージを表示する
  • 近年の進化:ダブルエクストーション(二重恐喝)
     - 暗号化に加えて、機密情報の盗取を行う
     - 「支払わなければ盗んだデータを公開する」と脅す
     - 公開自体よりも、“公開の恐れ”で企業に圧力をかける

また、感染経路も進化しています:

  • 旧来の手口:不特定多数に向けたメールによるばらまき型攻撃
  • 近年の手口:VPNや社内ネットワークの脆弱性を狙った標的型侵入

さらに、被害拡大防止のために以下の対策も必須です:

  • ログの保管と分析:感染経路・範囲の特定に不可欠
  • アクセス権限の最小化:管理者権限や共有設定を制限し、拡散リスクを低減

実際の問われ方

本問では、ランサムウェアに関する記述のうち、不適切なものを選ばせる形式で出題されています。

選択肢内容正誤補足
「ransom」+「software」言葉の由来として正しい
公開されたデータの削除と引き換えに金銭要求×誤公開済みではなく、“公開の恐れ”を使って脅すのが特徴
近年はネットワーク侵入型が主流標的型が増加
ログ保管が感染経路調査に有効初動対応の鍵
権限最小化が拡大防止に有効ゼロトラスト原則にも通じる対策

正答は②であり、「すでに公開されたデータの削除」を取引材料にする点が誤りです。

試験での留意点

  • 公開された情報の削除=脅し文句」と解釈してしまうと誤答につながります。実際には、「公開されていないが、これからされるかもしれない」という恐怖の予告が本質です。
  • 「ランサムウェア=暗号化だけ」という旧来の理解では、新しい攻撃手法に対応できない点に注意が必要です。
  • 「公開」「削除」「復号」などの脅迫手法の違いを言葉のニュアンスで捉えることが鍵となります。

ランサムウェアの問題は、単なる技術的課題ではなく、経営と社会的信用を直撃する重大リスクです。総監試験では、進化した攻撃手口への理解と、それに対する組織的な備えの有無が問われているといえます。言葉の使われ方や、脅しの構造に敏感であることが、得点に直結します。

安全管理

Ⅰ-1-25:リスク認知のバイアス(正常性バイアス、カタストロフィーバイアス、ベテランバイアス、バージンバイアス)

背景にある問い

「まさか、うちの会社では起きないだろう」「前も大丈夫だったから今回も大丈夫だ」。
防災訓練やリスク対策を現場に浸透させようとしても、どこか他人事のように受け止められてしまう――そんな経験はないだろうか。

大規模災害や不正発覚のニュースを目にするたび、「リスクへの備えが不十分だった」と指摘されるが、その裏には“認知のゆがみ”がある。
リスクをどう捉えるかは、経験や感情、思い込みに左右されるため、単なる知識では行動につながらない場合も多い。

こうした「リスクの見誤り」の背後には、特有の心理的バイアスが存在する。
本問は、それぞれのバイアスがどのような判断ミスを引き起こしうるかを問うものであり、リスクマネジメントの初歩として極めて重要なテーマといえる。

キーワードで整理する

リスク認知に関する代表的なバイアスとして、以下の4つが出題されている。

  • 正常性バイアス
    危機的状況に直面しても、「これは通常の範囲だ」と思い込み、リスクを過小評価してしまう心理的傾向。
    例:避難勧告が出ても「自分は大丈夫」と思い避難しない。
  • カタストロフィーバイアス
    ごくまれにしか発生しないが深刻な影響を及ぼすリスクを、実際よりも過大に評価してしまう傾向。
    例:現実的にはまず起きないリスクに過度に備え、本来優先すべき対策が後回しになる。
  • ベテランバイアス
    過去の経験に引きずられ、「これまで大丈夫だったから今回も同じ」と判断し、新たなリスクを軽視してしまう傾向。
    例:以前のクレームと似ているからと軽視し、重大な問題に発展する。
  • バージンバイアス
    未経験のリスクに対して適切な評価ができず、過大または過小に捉えてしまう傾向。
    例:社内で起きたことがないタイプのトラブルを無視した結果、同様のリスクが顕在化する。

実際の問われ方

本問では、4つのバイアスに対して、それに該当する具体的な事例を正しく対応させる組み合わせを選ぶ形式で出題された。

  • 問題構成:
    • 種類(A〜D):4つのバイアス
    • 事例(ア〜エ):現実に起こりそうな判断エラーの具体例
  • 正解の組合せ(例): バイアス対応する事例(A)正常性(ウ)(B)カタストロフィ(ア)(C)ベテラン(エ)(D)バージン(イ)

読解のポイントは、「判断の誤りがどこにあるか」「その誤りが過去の経験・未経験・感情・価値観のどれに起因するか」に着目すること。

試験での留意点

  • 正常性バイアスバージンバイアスは、いずれも「リスク軽視」につながるが、前者は「目の前の異常を認めない」、後者は「未経験ゆえに誤判断する」と原因が異なる。
  • ベテランバイアスバージンバイアスは対比ペア。過去の経験が強すぎる vs 経験がなさすぎる。
  • カタストロフィーバイアスは、むしろリスクを過大評価する点で、他の3つとは逆方向。
    ⇒ この違いを押さえておくと選択肢を絞りやすい。
  • 具体的な「事例に引っ張られて定義を見失う」ミスに注意。まずは定義→事例にあてはめる順序で検討するのが有効。

このように、「なぜ誤った判断が起きるのか」を認知バイアスという視点で捉えることは、リスクマネジメント全体の基盤理解にもつながります。リスク対策の有無ではなく、「なぜ対策が遅れるのか」「なぜ備えが後回しになるのか」という“心の動き”に踏み込んだ視点が問われているといえます。

Ⅰ-1-26:メンタルヘルス対策とその誤解

背景にある問い

「部下の様子が少し変だと感じても、どこまで踏み込んでいいのかわからない」「働き方改革の取り組みは進んでいるけれど、精神的なケアまでは手が回らない」。
管理者や技術者の立場であっても、職場でのメンタルヘルスの問題は避けて通れないテーマとなっている。

とりわけ、長時間労働や人間関係、成果主義によるプレッシャーなど、現代の働く環境は多くのストレス要因を内包しており、企業の対応次第では労災や訴訟リスクにも直結する。

では、「メンタルヘルス対策」とは何を指し、どこまでが“企業の責務”なのか。
実は、漠然とした理解のままでは、対策の焦点を見誤ってしまう恐れがある。
本問は、その典型的な誤解に対する注意喚起といえる。

キーワードで整理する

「メンタルヘルス対策」とは、労働者の心の健康を保持・増進するための包括的取り組みを指す。以下の観点で整理される。

  • 4つのケア(厚労省指針より)
    • セルフケア(労働者本人による気づき・対処)
    • ラインによるケア(管理監督者による気づき・対応)
    • 事業場内産業保健スタッフ等によるケア(産業医・保健師等)
    • 事業場外資源によるケア(EAP、医療機関等)
  • 主な対策内容
    • ストレスチェック制度:労働者のストレス状態を把握し、集団分析結果を職場環境改善に活用。
    • 教育・研修:ラインケア研修やストレス対処法の啓発。
    • 相談体制の整備:産業医・保健師による面談対応、外部相談窓口の設置。
    • 職場復帰支援:段階的復帰、上司や同僚との調整支援、再発防止策の実施。
    • 自殺予防:未然防止(啓発・兆候の把握)、危機介入(対応と支援)、事後対応(周囲への配慮)。
  • 誤解されやすい点
    メンタル不調者の早期発見・早期対応の中心は、「環境改善」ではなく、「個人の状態把握と支援体制」にある。
    環境改善は重要だが、それ自体は一次予防に位置付けられ、直接的な早期対応とは異なる。

実際の問われ方

問題文では、以下の5つの選択肢から最も不適切な記述を選ばせる形式。

  • 適切な記述は、厚労省の指針やガイドラインに基づいた内容。
  • 不適切な選択肢(③)は、「早期発見・早期対処」の中心を「環境点検・改善」と誤認しており、目的と手段の混同が生じている。

表で整理すると以下のとおり:

選択肢内容の要約判断ポイント
メンタルヘルス対策の全体像(予防・対応・復帰)指針の基本方針に即している
自殺予防の3段階厚労省資料に基づく
環境点検が早期対応の中心本来はストレスチェックや教育が中心
指針に基づく事業者の取組法的根拠がある
職場復帰支援手引きの存在実際に手引きが存在

試験での留意点

  • 目的と手段の取り違えに注意。
    「ストレス要因の改善」と「不調者の早期発見」は連続するが、焦点は異なる。
  • “〇〇が中心”という記述には慎重に対応すること。本問では「点検・改善が中心」と断定した表現が誤りの鍵。
  • 制度や用語が厚労省ガイドラインと一致しているかどうかを見極める姿勢が問われる。
  • “法律”か“努力義務”か“指針”かというレベルの違いに敏感であることも、総監試験では有効な視点となる。

本問を通じて、メンタルヘルス対策が単なる「制度整備」や「環境改善」にとどまらず、「個々の気づきと対応の連鎖」であることへの理解が求められます。技術者であっても、現場のマネジメント層であっても、心の健康を守る視点は、組織の持続的成長にとって避けて通れない要素といえます。

Ⅰ-1-27:制限機構とフェールセーフ設計

背景にある問い

工場の安全管理担当者として、突発的な事故の再発防止を検討していた際、
「非常停止ボタンはあったが、作動しなかった」「操作を離しても機械が止まらなかった」という報告を受けたことがあった。
装置の導入当初には「安全設計がされている」と聞いていたものの、実際に不具合が生じた際にどこまで安全が担保されていたのか、疑問が残った。

このように、装置が正常に動作しない場合でも人命や設備を守れる仕組み、つまり「フェールセーフ設計」は、単なる追加機能ではなく、安全確保の根幹にかかわる。

では、「制限機構」とは具体的に何を指し、それぞれどのような働きを担っているのか。
本問は、制限機構の分類とその機能的特徴をセットで理解できているかを問うものである。

キーワードで整理する

フェールセーフの考え方とは、「故障が発生しても、人や機械に危害が及ばないように設計された仕組み」のことである。
本問で扱うのは、その中でも工作機械等の制御に用いられる「制限機構」である。

以下は代表的な4つの制限機構とその役割の対応である:

区分制限機構名概要
(A)ガード用インターロックの回路危険領域に作業者が侵入しないようにする安全回路。ガードを開くと機械が停止する仕組み。
(B)急停止用の回路機械の異常をシステムが検知したときに即時停止する。自動的に発動。
(C)非常停止用の回路作業者が異常を感知したときに手動で停止する。非常停止ボタンなどが該当。
(D)ホールド・ツー・ランの回路操作している間のみ動作し、手を離すと自動停止する安全装置(例:デッドマンスイッチ)。

これらはいずれも「故障や異常時に危害を最小限に抑える仕組み」であり、フェールセーフの設計原則のもとで配置される。

実際の問われ方

問題では、制限機構(A〜D)と具体的な内容(ア〜エ)を組み合わせる形式で出題される。

  • 問題構成
    • (ア)ガードによる侵入防止
    • (イ)作業者が異常を感知して操作
    • (ウ)手を離すと停止(継続動作不可)
    • (エ)機械が異常を自動検知して停止
  • 正しい対応関係は以下の通り:
制限機構内容備考
A(インターロック)(ア)作業者が誤って侵入しないよう制限
B(急停止)(エ)センサなどが異常を検知して停止
C(非常停止)(イ)作業者の判断で停止ボタン操作
D(ホールド・ツー・ラン)(ウ)操作を離すと停止、自動制御に近い

試験での留意点

  • 急停止(B)と非常停止(C)の違いに注意
    • B(急停止):システムが自動で異常検知し停止
    • C(非常停止):作業者が異常を感知して手動で停止
      ⇒ どちらも“止まる”が、起点が自動か手動かがカギ。
  • ホールド・ツー・ラン(D)は構造的に直感に反する場合がある
    ⇒ 「押しているときだけ動く」が安全の根拠であり、特に可動部に直接関わる作業で重要。
  • インターロック(A)はフェールセーフ設計の象徴的存在
    ⇒ 作業者が侵入する「前に」止める点が特徴。

制限機構は、いずれも機械や装置が安全に動作するための防波堤の役割を担っている。
しかし、その意味や働きの違いを正確に理解しないままでは、設計や保守において思わぬ落とし穴となりうる。
フェールセーフ設計の本質は、「故障や異常は起こるもの」という前提のもと、「起きたときにどう守るか」を考える技術者の視点にあるといえる。

Ⅰ-1-28:自然災害と情報伝達の種類(特別警報・タイムライン・記録的短時間大雨情報)

背景にある問い

近年の集中豪雨では、「気象情報は出ていたが、避難が遅れた」「ハザードマップの存在を知らなかった」という声が後を絶たない。
一方で、防災担当者や自治体職員は「これ以上どう注意喚起すればいいのか」と疲弊する場面も少なくない。
情報は出している、けれども伝わっていない――このギャップが、被害の拡大につながっている。

問題は、「どの情報が、どの段階で、どのような意図で発表されているのか」を住民や関係者が正しく理解できていない点にある。
災害時には秒単位の判断が求められるため、気象庁が出す情報の意味と発表条件を把握しておくことは、技術者や管理者にとっても極めて重要である。

キーワードで整理する

本問では、災害時に発表される複数の情報や施策が扱われており、以下のように整理できる。


  • 流域治水
    河川管理者だけでなく、流域の住民・企業・地方自治体など関係者全体が協力して進める多層的な治水の取り組み。
    ハード対策(ダム・堤防)ソフト対策(ハザードマップ・避難情報)の組合せが特徴。
  • タイムライン(防災行動計画)
    災害の発生を前提とし、「いつ・誰が・何をするか」を時系列で整理した計画。
    行政・消防・医療・インフラ管理者などが連携して行動するための枠組み。
  • 特別警報
    気象庁が発表。従来の警報の基準をはるかに超える異常な状況が予測される際に発表される。
    例:大雨、暴風、大津波、噴火などの極端事象。
  • 記録的短時間大雨情報
    数年に一度の大雨が実際に観測されたときに発表される。
    ● 誤解されやすいが、「今後予測される」ものではなく、「観測」または「解析」された大雨が対象。
    ● 発表は大雨警報がすでに出ていることが前提条件。

実際の問われ方

本問では、5つの選択肢の中から最も不適切な記述を選ぶ形式。

  • 正しい選択肢では、制度や情報の定義・趣旨が正確に説明されている。
  • 誤った選択肢(⑤)は、次の2点で不適切:
    • 「予測される場合に発表」 → 実際には「観測または解析された場合に発表」
    • 「大雨警報発表の有無にかかわらず」 → 実際には「大雨警報が発表中」に限られる

以下のように構造化できる:

選択肢内容の要約正誤誤りのポイント
流域治水の説明定義に基づく記述
市町村の周知義務水防法の内容
タイムラインの定義国交省の資料通り
特別警報の趣旨気象庁による説明通り
記録的短時間大雨情報発表条件の誤認(予測・警報未発令中)

試験での留意点

  • 用語の“発表条件”を問う選択肢に注意
    → 「予測で出すのか、観測で出すのか」「警報中なのか、関係なく出るのか」などは頻出のひっかけポイント。
  • 「タイムライン」と「ハザードマップ」の役割の違いを混同しないこと
    → ハザードマップは事前の空間的な備え、タイムラインは時間軸での行動設計
  • “重大な災害の恐れが著しく高い”という表現は特別警報の典型的フレーズであり、気象庁の用語に忠実。
  • 言い換えに弱くならないよう、制度や発表情報の「目的」「誰が出すか」「いつ出すか」の3点を意識して整理しておくと有効。

自然災害の情報は、発信されることが目的ではなく、「どう受け取り、どう動くか」が問われる時代に入っている。
情報の信頼性・タイミング・連携体制を理解することは、技術者としての社会的責任にも直結しているといえる。

Ⅰ-1-29:改正公益通報者保護法と通報者の保護対象

背景にある問い

「内部で不正を知ったが、声を上げるべきか悩んでいる」「通報すれば報復されるのではないか」――。
不祥事の早期発見と是正のために、企業は内部通報制度を整備しているが、実際には通報をためらう心理的ハードルは依然として高い。
特に、通報者が「守られるのか」を疑問に感じたままでは、制度は機能しない。

こうした課題に対し、2022年6月に公益通報者保護法の改正が施行され、通報者の範囲や保護の仕組みが見直された。
しかし、その制度設計を誤って理解していると、組織の対応も通報者の判断も誤ることになりかねない。

本問は、誰が保護されるのか、どのような通報が対象となるのかを正しく把握しているかを問う問題である。


キーワードで整理する

今回の出題では、2022年6月施行の改正公益通報者保護法(令和3年法律第51号)に基づくポイントが問われている。主な改正点は以下の通り。

  • 保護される通報者の範囲の拡大
    → 従来の「労働者」「退職者」に加え、役員も保護対象となった。
    これにより、経営層からの内部通報も法的保護下に置かれることとなった。
  • 体制整備義務の明文化
    → 一定規模以上の事業者には、内部公益通報対応体制の整備が義務化された(従業員301人以上が基準)。
  • 通報先に応じた保護要件の明確化
    → 以下の通報ルートが法に明記され、それぞれに保護要件が設けられている:
    1. 事業者内部通報
    2. 行政機関への通報
    3. 外部(マスコミ等)への通報(一定要件あり)
  • 通報内容の範囲の拡大
    → 対象となる「通報対象事実」の範囲に、公衆の生命・身体・財産の保護に関する法律違反等が含まれるようになった。
  • 守秘義務の強化
    → 通報に関与した担当者には、通報者の情報の漏洩を防ぐ守秘義務が課されている。

実際の問われ方

本問では、改正後の法律内容に関する5つの記述のうち、最も不適切な記述を選ばせる形式。

  • 正答:②(誤り)
    → 「役員は含まれない」と記載されているが、正しくは役員も保護対象である。

その他の選択肢はすべて、改正法に基づいた正しい内容であり、以下のように整理できる:

選択肢内容正誤ポイント
解雇・不利益取扱いの禁止法の中核的趣旨
「役員は含まれない」実際には含まれる
体制整備義務事業者の義務として新設
通報先ごとの要件設定内部・行政・外部ごとに異なる
他法による保護の可能性情報漏洩保護法等との関連

試験での留意点

  • 「役員」「退職者」「派遣社員」などの通報者属性に注意
    → 保護対象は広がっており、「誰が守られるか」を正しく押さえることが重要。
  • 通報先と保護要件の対応関係に注意
    → たとえば、マスコミ等への通報は一定条件(社内通報で改善が見られない等)を満たす必要がある。
  • 「努力義務」と「義務」の違いを区別すること
    → 改正前は体制整備が努力義務だったが、改正により一定規模以上は義務化されている。
  • 「公益目的」の定義と、通報内容の具体性に注意
    → 単なる不満や私的な利害は対象外。あくまで公益を目的とした法令違反等の通報が保護対象。

不正の早期発見と是正が求められる今、公益通報者をいかに守るかは、企業ガバナンスの重要な柱である。
技術者や管理職にとっても、通報制度の運用設計や対応は「組織の信頼」を左右する実務知識であるといえる。

Ⅰ-1-30:OSHMS指針とISO 45001の対象者・運用基準の違い

背景にある問い

「うちの安全衛生マネジメント、ISOは取ってるけど、指針には合ってるのかな?」
「ボランティアの安全も守らないといけないのでは?」
こうした疑問は、実際の現場マネジメントでよく耳にするものである。

ISO規格の導入やJIS規格の活用が進む一方で、国内法令に基づく厚労省の指針(OSHMS指針)との整合性が曖昧なまま、安全衛生活動が形骸化してしまうリスクもある。
特に、
「誰を対象にしたマネジメントなのか」という基本的な理解がずれていると、制度の運用に齟齬をきたす可能性がある。

本問は、国内法令と国際規格の立場の違い、そして対象者範囲の違いを正しく整理できているかを問うものである。


キーワードで整理する

本問では、労働安全衛生マネジメントに関する以下の3つの枠組みが登場する:


  • OSHMS指針(厚生労働省)
    労働安全衛生法に基づき、事業者が自主的に実施する安全衛生活動の一環として整備された指針。
    対象者は、労働基準法上の「労働者」であり、ボランティアや経営者層などは含まれない
  • ISO 45001(国際規格)
    労働安全衛生の国際的なマネジメントシステム規格。
    対象は「働く人(worker)」であり、労働者のほか、ボランティア、インターン、請負業者、トップマネジメント等も含む。
  • JIS Q 45001 / JIS Q 45100(日本産業規格)
    • JIS Q 45001:ISO 45001の日本語訳。内容は国際規格と同等。
    • JIS Q 45100:日本独自の安全衛生活動(リスクアセスメント、KY活動等)を取り込んだ標準。
      国際性と国内実務の両立を目的とした補完的規格。

実際の問われ方

問題では、上記の各指針や規格に関する記述のうち「最も不適切なもの」を選ばせる形式。

  • 正答:①(誤り)
    → 「OSHMS指針の対象にボランティアも含まれる」とあるが、正しくは「含まれない」。
    ⇒ OSHMS指針の対象は、あくまで労働安全衛生法上の「労働者」に限定されている。

選択肢ごとの要点を整理すると以下の通り:

選択肢内容正誤ポイント
ボランティアもOSHMS指針の対象対象は「労働者」のみ
労働者の協力による継続的活動OSHMS指針の趣旨通り
複数事業場を一体運用可実務上の柔軟性に対応
JIS Q 45001とISO 45001の同等性和訳であり国際的に同等
JIS Q 45100による両立運用国内の慣行を反映し両立可能

試験での留意点

  • 「労働者」と「働く人」の定義の違いに注意
    → OSHMS指針では法律上の「労働者」に限定されるが、ISOではより広い範囲を含む。
  • 国内指針と国際規格の目的の違いを理解すること
    → OSHMS指針は自主的安全活動の支援、ISOは国際標準のマネジメントフレームワーク
  • JIS Q 45100は、ISO 45001単体では補えない日本独自の実務対応
    → KY活動やヒヤリハットなど、現場主導型の安全活動を明文化した規格。
  • 「国際性と国内制度の接続点」という観点から、ISO×JIS×指針の三者関係を意識しておくことが重要。

安全衛生マネジメントにおいて、制度の導入そのものが目的化するのではなく、対象者や文化に応じた実効的運用が求められている。
特に海外規格を導入する際には、国内法令や実務との整合性を踏まえた制度設計が、技術者・管理者にとって重要な視点となる。

Ⅰ-1-31:システム全体の信頼度と直列・並列構成

背景にある問い

「機器が1台壊れても動き続けるようにしてくれ」
「この装置、故障すると全体が止まるのでは?」

設計・保守の現場では、このような“信頼性”に関する相談が頻繁に持ち込まれる。
特に、インフラ、製造装置、輸送システムなど「停止が許されない」場面では、冗長性を確保した信頼性設計が極めて重要となる。

しかし、複数の要素を組み合わせたシステムの全体としての信頼度を定量的に把握できていないと、結果的に脆弱な構成を生んでしまう。

本問は、構成ユニットの信頼度から全体の信頼度を求める計算問題を通じて、システム安全設計の基本を問うものである。


キーワードで整理する

システムの信頼度とは、「一定期間、正常に動作し続ける確率」を意味する。
特に、構成要素が直列並列かによって、システム全体の信頼度の求め方が異なる。

  • 直列システム
    全てのユニットが正常に動作しないと、システム全体が停止する構成。
    → 式:
    R = R₁ × R₂ × … × Rₙ
  • 並列システム
    どれか1つでも正常に動作すれば、システムは継続する構成。
    → 式:
    R = 1 – (1 – R₁) × (1 – R₂) × … × (1 – Rₙ)

このようなシステム構造は、フェールセーフ設計冗長設計の考え方と密接に関係する。


実際の問われ方

本問は、以下のようなシステム構成を前提としている:

  • ユニット1と3が並列
  • ユニット2と4が並列
  • それら2つの並列系が直列

与えられた信頼度:

  • ユニット1・3:0.800
  • ユニット2・4:0.700

計算の流れは次の通り:

  1. 並列部分の信頼度を計算
    • R₁₋₃ = 1 – (1 – 0.8)² = 0.96
    • R₂₋₄ = 1 – (1 – 0.7)² = 0.91
  2. それらを直列として組み合わせ
    • R_total = 0.96 × 0.91 = 0.8736 ≒ 0.874

したがって、正答は
④ 0.874


試験での留意点

  • 直列と並列の区別を感覚で判断しないこと
    → 「全部動いていないとダメ」なら直列、「一部でも動けばOK」なら並列。
  • 並列構成の計算式は間違いやすいため、1から“壊れている確率”を引く手順を忘れないこと。
  • 信頼度は確率(0~1の値)であるため、答えが1を超えるような計算になっていればミス。
  • 出題では「ユニット間の故障は独立」と明記されているため、各ユニットの確率を単純に掛け合わせ可能
    この前提がない場合は依存関係にも注意が必要。

信頼性設計は、単なる数値演算ではなく、「どのような構成が実用上のリスクを減らせるか」を判断する技術的思考の基礎でもある。
現場における安全と可用性のバランスを支える考え方として、直列・並列の信頼度計算は技術者にとって不可欠な知識といえる。

Ⅰ-1-32:改正国土強靭化基本法と脆弱性評価

背景にある問い

「万一、大災害が起きても止まらない社会にしたい」
「でも、それって何をどこから備えればいいのか?」

地震・水害・感染症など、近年の日本社会は常にリスクにさらされている。
企業も自治体も「レジリエンス(強靭性)」の確保が求められるが、実際には「どこが脆弱か」を可視化できていなければ、対策の的を絞ることはできない。

こうした課題に対して、国は「国土強靭化基本法」に基づき、ハード・ソフトの両面から社会インフラの耐性強化を推進している。
2023年6月の法改正では、取組の進捗や効果の可視化手法として
KPI(重要業績評価指標)の導入が明文化された。

本問は、法制度の内容に対する誤認や用語の取り違えがないかを確認するための設問であり、特に「脆弱性評価の方法」に関する理解が試されている。


キーワードで整理する

本問題を読み解くための中心キーワードは以下の3つである:


  • 国土強靭化基本法
    2013年に制定。目的は、大規模災害が発生しても国家機能を致命的に損なわず持続可能性を確保すること
    政府は「基本計画」「中期計画」を定め、各主体が連携しながら施策を推進する。
  • 国土強靭化基本計画・実施中期計画
    • 基本計画:国の他の防災関連計画に対する上位指針。
    • 実施中期計画:概ね5年を想定した実行計画。施策・目標・期間を定める。
      ※中期計画にはKPIに基づく成果指標と評価体制が盛り込まれる。
  • 脆弱性評価
    • 災害等により「致命的障害が生じ得る分野」を特定する分析活動。
    • 改正後は「KPIで施策を分析・整理する」方法が明記された。
      ⇒ つまり、定量的評価指標により、弱点の見える化を推進。

実際の問われ方

本問は、国土強靭化基本法の2023年改正の要点を理解しているかを問う設問構成で、5つの選択肢から「最も不適切なもの」を選ばせる形式。

  • 正答は③(誤り)
    →「脆弱性評価の指針を定めて、脆弱性評価を行うこととされている」とあるが、
     実際にはKPIによる評価が中心的手法であり、単に脆弱性評価を課しているわけではない。

整理すると以下のとおり:

選択肢内容正誤ポイント
基本方針としての持続性確保法の目的に即している
基本計画が他計画の指針となる上位計画として位置付け
脆弱性評価を行うとされている実際はKPIによる分析整理
実施中期計画に期間・目標を定める政府計画の中核的構成
地方公共団体も計画を定められる地方レベルでの展開を想定

試験での留意点

  • 「評価=KPI」となるような構造に注意を払うこと
    → 従来の「主観的・文書的評価」から、「定量指標ベース」へと転換が進んでいる。
  • 「指針を定める」と「評価を行う」の主体が誰かを意識する
    → 法制度では、「政府がKPIの枠組みを定め」「分析は関係省庁や地方で行う」構造が多い。
  • 災害対策法や防災基本計画との混同に注意
    → 国土強靭化基本法は「致命的障害を避けるための国家戦略」であり、個別の災害種別対策とは異なる。
  • 名称の長さに惑わされず、“機能”に着目して理解する
    → 「実施中期計画」「基本計画」「指針」「KPI」など、言葉は長くても意味は明確。

国土強靭化の本質は、「すべてを守る」ではなく、「社会が止まらないために何を優先するか」にある。
この考え方は、リスク分散・優先順位付け・投資判断といった、総監的な意思決定にも通底する極めて重要な視点といえる。

社会環境管理

Ⅰ-1-33:エルニーニョ現象・ラニーニャ現象と日本の気候影響

背景にある問い

「今年の夏は冷夏になるか猛暑になるか、どう予想すべきか」。気象予測に関心のある方なら一度は気になる疑問です。特に土木や建設、エネルギー関連の分野では、異常気象による施工スケジュールの遅延や電力需要の変動が、業務計画や経済性評価に大きく影響します。

ニュースでよく聞く「エルニーニョ」や「ラニーニャ」という言葉は知っていても、それが具体的にどのように日本の気温や降水パターンに作用するのかを即答できる人は多くありません。では、「エルニーニョ現象が発生すると、なぜ夏は涼しく冬は暖かくなるのか?」という問いには、どのようにアプローチすべきなのでしょうか。

キーワードで整理する

このような問いに対しては、次の2つの現象が鍵を握っています:

  • エルニーニョ現象:東部赤道太平洋(ペルー沖など)で海面水温が平年より高くなる現象。対照的に、西太平洋(フィリピン・インドネシア付近)では海面水温が低下し、対流活動(積乱雲の発生など)が弱まります。
  • ラニーニャ現象:エルニーニョの逆で、東部赤道太平洋で海面水温が低下し、西太平洋で水温が上昇。対流活動が活発化します。

この違いにより、日本付近の大気循環や気圧配置に以下のような影響を及ぼします。

現象名夏季の傾向冬季の傾向
エルニーニョ現象太平洋高気圧の張り出しが弱い → 涼しい・雨が多い西高東低の気圧配置が弱い → 暖冬
ラニーニャ現象太平洋高気圧が北へ張り出す → 猛暑西高東低の気圧配置が強い → 厳冬

実際の問われ方

令和6年度のI-1-33では、文章の空欄補充形式で出題されています。出題文には、気圧配置や海面水温、積乱雲の活動といった要素が連関的に記述されており、気象メカニズムの因果関係を正しく理解しているかが問われています。

問われる力は次のように整理できます:

  • 地球規模の気象変動(ENSO)の基本構造を理解しているか
  • ENSOが日本付近の天候に及ぼす「夏・冬」の具体的な影響を説明できるか
  • 文章の文脈に応じて正しく選択肢を補完できるか

試験での留意点

  • 「エルニーニョ=暖冬・冷夏」「ラニーニャ=厳冬・猛暑」という対応はセットで覚えると効果的です。
  • 「太平洋高気圧が北に張り出す=猛暑」というように、気圧配置の変化と気温への影響を因果関係として覚えておくと応用が利きます。
  • 積乱雲の活動や海面水温の説明などが含まれる場合は、それが西太平洋か東太平洋かに注意してください。記述の対象海域が異なることで結論も変わります。
  • エルニーニョとラニーニャを反対語のように扱っていても、冬季の傾向だけが逆にならないこともある点に注意が必要です(地域や年によって変動幅あり)。

このように、「天候の変化を気象現象と因果で捉える」という視点が、単なる暗記ではなく試験対応力として重要であるといえます。

Ⅰ-1-34:再生可能エネルギーとFIT制度の仕組み

背景にある問い

再エネ導入を推進するプロジェクトで、「再生可能エネルギーの固定価格買取制度(FIT)」について話題に上ることは少なくありません。導入コストの見通し、長期安定収益の担保、系統への接続可能性など、再エネ事業に携わる技術者は、制度の設計自体が事業性に直結するという現実に直面します。

「同じ太陽光発電なのに、買取価格が違うのはなぜか?」「制度で決められた価格って、誰がどう決めているのか?」「出力制御されてもお金はもらえるのか?」といった疑問に対して、制度の本質を理解していないと、誤解やリスク判断のミスにつながります。

キーワードで整理する

このような疑問に対して、まず押さえておきたいのが以下のキーワードです。

  • FIT制度(Feed-in Tariff)
     再生可能エネルギーによる電気を一定期間・固定価格で電力会社が買い取る制度です。日本では再エネ特措法(正式名称:再生可能エネルギー電気の利用の促進に関する特別措置法)に基づき、2012年に導入されました。
  • 調達価格・期間は電源ごとに個別設定
     FIT制度では、電源種別ごと(太陽光・風力・地熱など)に買取価格と期間が定められます。その価格は「調達価格等算定委員会」によるコスト評価をもとに、経済産業大臣が決定します。したがって、買取価格が一律になることはありません。
  • 再エネ賦課金
     FITによる電力の買い取りにかかった費用は、電気利用者全体から「賦課金」として徴収されます。電力料金の明細にある「再エネ賦課金」はこれに該当します。
  • 出力制御と補償
     需要を上回る発電が見込まれる場合、電力の安定供給を保つために再エネ発電事業者の出力制御が行われることがあります。ただし、FIT制度下では、出力制御が行われてもあらかじめ定められた条件を満たせば補償の対象となります。

実際の問われ方

令和6年度の択一問題では、以下のような形式で出題されました:

  • FIT制度の基本的仕組み(買取価格の決定・補償の有無)
  • 制度対象電源の導入量の傾向(特に太陽光)
  • 賦課金の負担構造
  • 系統運用における出力制御の実例

選択肢の中には一見もっともらしく見えるもの(例:「買取価格は一律」)があり、表層的な理解では誤答を選びやすい設計となっています。

試験での留意点

  • 「FIT=一律価格」ではありません。電源ごと・規模ごと・年度ごとに異なるという点が重要です。
  • 「再エネ発電=安定供給」ではなく、需給バランスの調整問題(出力変動、余剰電力など)とセットで捉える必要があります。
  • 「出力制御=収入ゼロ」ではない場合があります。出力制御補償の有無は制度の枠組みによって異なる点に注意が必要です。
  • 「再エネ賦課金=発電事業者のコスト」ではなく、電気使用者全体が負担している点が混同されやすいポイントです。

FIT制度の仕組みは、制度設計と技術実装の中間領域に位置する論点です。単に制度を知るだけではなく、それがどのように再エネ導入と系統運用に影響を与えるのかという「構造的視点」が問われているといえます。

Ⅰ-1-35:生物多様性と国際的保全制度

背景にある問い

「うちのプロジェクトが影響するのは絶滅危惧種の生息地らしい。手続き、どうすればいいのか?」
環境アセスメントの現場では、こうした問いが突如として現実になります。
特にダム、道路、港湾といったインフラ計画においては、単なる自然環境ではなく「法的に守られている種」の存在が、計画変更や遅延の直接要因になるケースも少なくありません。

また、近年ではESG投資の観点からも、「生物多様性への配慮」は単なる規制対応ではなく企業価値そのものを左右するテーマになりつつあります。しかし、「ワシントン条約? 名古屋議定書? カルタヘナ?」という言葉だけが独り歩きし、その実態が整理されていないまま制度に触れる技術者も多く見られます。

キーワードで整理する

このような場面において把握しておくべき重要なキーワードを以下に示します。

  • ワシントン条約(CITES)
     正式名称は「絶滅のおそれのある野生動植物の種の国際取引に関する条約」。絶滅危惧種の国際取引を規制する枠組みで、日本では種の保存法により国内でも同様の規制が行われています。特に附属書Ⅰ掲載種は厳格に管理されています。
  • 種の保存法(国内法)
     ワシントン条約の内容を国内法として実装した法律。国際希少野生動植物種の輸入・販売・譲渡・展示などを規制し、違反すれば罰則対象となります。
  • カルタヘナ議定書
     LMO(Living Modified Organism)=現代のバイオ技術で遺伝子改変された生物の国境を越える移動や利用に関する手続きを定めた国際枠組み。2003年に発効され、環境・人の健康への悪影響を未然に防ぐことが目的です。
  • 名古屋議定書
     カルタヘナと混同されがちですが、こちらは遺伝資源の利益配分(ABS: Access and Benefit-Sharing)を定めたもので、2014年発効。たとえば薬品開発などで利用される遺伝資源について、提供国と利用者との公正な利益分配を促進します。
  • IPBES(生物多様性・生態系サービス政府間科学-政策プラットフォーム)とIPCC(気候変動に関する政府間パネル)
     この両機関は合同で報告書を発表し、気候変動と生物多様性の保全は相互に補完的な関係にあることを示しています。
  • 30by30(サーティ・バイ・サーティ)
     2030年までに陸域と海域の30%以上を健全な状態で保全することを国際目標とした枠組み。生物多様性枠組み(GBF:Global Biodiversity Framework)の主要目標のひとつです。

実際の問われ方

本問題では、「適切でない記述を選ぶ」という形式で出題されています。
具体的なポイントは次の通りです:

項目説明内容
ワシントン条約附属書Ⅰ → 国内でも規制(種の保存法)
カルタヘナ議定書LMOの国際的移動・取扱いに関する手続き
名古屋議定書遺伝資源利用と利益配分(ABS)の国際的枠組み
IPBES/IPCC共同報告気候・生物多様性の連関と相乗効果に言及
30by30陸・海の30%保全を目標とする国際的合意

設問②の誤りは、LMOの規制を名古屋議定書によるものと誤認している点にあります(正しくはカルタヘナ議定書)。

試験での留意点

  • カルタヘナ議定書と名古屋議定書の違いは特に混同されやすいです。
     前者は環境リスク管理(LMO)、後者は利益配分(ABS)という整理を意識すると明確になります。
  • 「国際条約と国内法の関係」は典型的な論点です。
     たとえば「ワシントン条約 → 種の保存法」、「パリ協定 → 地球温暖化対策推進法」といった対比を整理しておくと役立ちます。
  • 条約名が出てきたら「目的」と「対象」が何かを即答できるようにしておくことが、択一試験では大きな差を生みます。

生物多様性に関する国際的枠組みは、条文の暗記ではなく「構造の把握」が重要です。
どの条約が何を規制し、どの法令が国内でどう適用されているのか、その関係を捉えることが正答への道となります。

Ⅰ-1-36:循環型社会とプラスチック資源循環戦略

背景にある問い

「うちの事業で出るプラスチック廃棄物、リサイクルに出せばいいんだよね?」
そう言われて、即答できるでしょうか。技術者であるあなたが取り扱う材料が「サーマルリサイクル」なのか「マテリアルリサイクル」なのか、「そもそもどの段階で回避すべきか」が曖昧なまま、単に“再利用”という言葉に頼っていないでしょうか。

近年、海洋プラスチックごみ問題や国際的な廃棄物規制(バーゼル条約改正など)を背景に、「単なるリサイクル」ではなく「資源循環全体」の視点が不可欠とされています。
「再生」「削減」「再設計」など、どこに重点を置くべきか——それを見極めるためには、制度の構造を理解する必要があります。

キーワードで整理する

こうした課題意識に対応する重要な制度が以下の2つです。

  • 循環型社会形成推進基本法(循環型社会基本法)
     廃棄物や副産物などの「循環資源」を、可能な限り循環的に利用し、廃棄物の発生抑制を優先することを基本理念とした法律。
     この法律では、循環の優先順位を以下のように明確に定めています:
順位内容
第1発生抑制(リデュース)
第2再使用(リユース)
第3再生利用(リサイクル)
第4熱回収(サーマルリサイクル)
第5適正処分(埋立など)
  • プラスチック資源循環戦略(2019年策定)
     「3R+Renewable」を原則とし、プラスチックのライフサイクル全体での資源循環を目指す国家戦略です。
     キーワードごとの定義は以下の通りです。

 - リデュース:使い捨てプラスチックの合理化・省資源設計などによる発生抑制
 - リユース・リサイクル:製品寿命の延伸、材料の再資源化、分別・回収の高度化
 - Renewable(再生可能資源)バイオマスプラスチック等の導入と活用推進

 さらに、マイルストーン(達成目標)も設定されています:

 - 2030年までに使い捨てプラ25%排出抑制
 - 2025年までにリデザイン製品へ切替
 - 2030年までにリユース・リサイクル可能なプラ製品100%
 - 2030年までにバイオマスプラ200万t導入 など

  • プラスチックのマテリアルフロー(2021年版)
     以下の図に示されるように、有効利用率は87%ですが、その内訳には偏りがあります。
区分割合
サーマルリサイクル(熱回収)約62%
マテリアルリサイクル(再原料化)約21%
ケミカルリサイクル(化学的再資源化)約4%

 試験問題で問われた④は、この順位を誤っている点が誤答です。

実際の問われ方

出題形式は「最も不適切な記述を選ぶ」というものです。
ポイントは以下の3点に集約されます:

  • 循環の優先順位の理解(発生抑制が第一)
  • 3R+Renewableの意図と実行手段
  • 実態データ(有効利用の内訳など)と戦略目標の違い

図表の理解を含め、「量的な把握」と「制度の構造的理解」の両方が求められる出題といえます。

試験での留意点

  • 「リサイクル=環境によい」は一面的理解です。
     特にサーマルリサイクルは“熱回収”であり、厳密には最下位の処理選択肢と位置付けられています。
  • 「再エネ化されたプラスチック=カーボンニュートラル」は誤解を招きやすいため、再生産可能性(バイオマス)とのセットで捉えることが重要です。
  • 数字の選択肢(例:2030年目標やリサイクル率)にはマイルストーンと実態の違いを意識して臨む必要があります。

このトピックは、「環境対策=処理」の視点から「設計・流通・回避まで含めた全体最適」へと発想を転換させる良いきっかけとなる分野です。数値に惑わされず、戦略・法制度・実態の3点セットで整理することが理解への近道といえます。

Ⅰ-1-37:異常気象と防災・減災の考え方

背景にある問い

「災害に強いまちづくりって、具体的には何をすればいいのか?」
自治体やインフラ整備に関わる立場でこう尋ねられたとき、どこまで具体的に応えられるでしょうか。
ハード整備も必要、環境にも配慮したい、でも予算には限りがある——。近年では、「多機能で持続可能な防災対策」が求められ、従来の“護岸を高くする”“堤防を広げる”といった発想だけでは、社会的ニーズに応えられない場面が増えています。

そこで浮かび上がってくるのが、「グリーンインフラ」や「Eco-DRR」といったキーワードです。防災と環境・景観・教育を両立するこれらの取り組みを正しく理解することは、今後の技術者にとって不可欠な素養となっています。

キーワードで整理する

ここでは、近年注目されている以下のキーワードを整理します。

  • グリーンインフラ(Green Infrastructure)
     自然環境が持つ多様な機能(浸水緩和、生態系保全、景観、都市気温の調整など)を活用し、インフラ整備や地域づくりに生かす概念です。
     従来のコンクリート中心の“グレーインフラ”に対し、自然と共生しながら社会課題を解決しようとするアプローチを指します。

 例:
 - 雨水を地中に浸透させる透水性舗装
– 緑地・湿地による都市洪水の抑制
– 街路樹や壁面緑化によるヒートアイランド緩和

 ※本問の④では、「環境負荷低減型の建設資機材や工法を用いたインフラ」がグリーンインフラとされており、定義として不適切である点が問われました。

  • Eco-DRR(Ecosystem-based Disaster Risk Reduction)
     自然の持つ力(森林・湿地・干潟・サンゴ礁など)を活用し、防災・減災をはじめ、生物多様性や観光振興など地域全体の価値向上を目指す取り組みです。
     人為的なハード整備ではなく、地域固有の生態系を守りながら持続可能な災害対策を講じるもので、UNEPなど国際的にも広がりを見せています。
  • 線状降水帯
     積乱雲が連続して発生し、同じ地域に数時間以上強い雨を降らせる現象で、毎年のように豪雨災害の原因となっています。
     「警戒レベルの早期発表」や「気象庁の予測情報の高度化」が進められています。
  • ヒートアイランド現象
     都市部で建物やアスファルトが熱を溜め込み、周囲の気温より著しく高くなる現象。熱中症や感染症リスクの増加、冷房負荷の上昇といった影響が指摘されています。
  • 液状化現象
     地震により地盤が液体のような性質を持ち、建物沈下・噴砂・傾斜などの被害をもたらす現象。令和6年の能登半島地震でも複数地域で報告されました。

実際の問われ方

本問題では、「最も不適切なものを選ぶ」形式で出題されています。
出題のねらいは以下の通りです:

選択肢テーマ内容の正誤ポイント
ヒートアイランド正しい健康被害・生態系への影響が明示されている
液状化正しい現実の災害事例(令和6年能登)と結び付けている
Eco-DRR正しい概念と地域的な効果が適切に表現されている
グリーンインフラ誤り建設資材・工法の記述は「グリーン購入法」に該当
線状降水帯正しい現象の特徴と被害傾向が的確に述べられている

試験での留意点

  • グリーンインフラとグリーン購入法の混同に注意。
     前者は「自然の機能を活用した空間整備」、後者は「環境配慮型資材の調達制度」です。
  • Eco-DRRとグリーンインフラは共に自然を活かす手法ですが、前者は防災中心・後者は国土政策全般という棲み分けがあります。
  • 「線状降水帯」「ヒートアイランド」など、報道でよく目にする用語も出題対象になります。身近な現象を制度・理論と結びつけて理解しておくと効果的です。

気象災害の激甚化に伴い、防災対策も「守る」から「活かす」への転換が求められています。グリーンインフラやEco-DRRのように、単なる構造物ではなく、自然・社会・地域をつなぐ発想こそが、これからの総合技術監理にふさわしい視点といえるでしょう。

Ⅰ-1-38:環境政策における実施手法の分類(第五次環境基本計画)

背景にある問い

「うちの会社として環境対応は重要。でも法令を守るだけで十分なのか?」
企業活動の中で、環境負荷低減が強く求められる場面が増えています。たとえば、建設現場ではグリーン調達や環境影響評価が義務づけられ、製造業ではCO₂排出量の開示が投資家の判断に直結しています。

しかし、こうした取組は一律の法令遵守だけでは語れません。「どのような手法で環境政策が社会に浸透していくか」という構造を理解していないと、効果的な行動計画の立案や外部との協働もうまく進みません。
そのために必要なのが、「環境政策の6つの手法分類」の理解です。

キーワードで整理する

第五次環境基本計画では、環境政策の実施手法は以下の6類型に分類されています。

分類名概要と例
直接規制的手法法令によって最低限の遵守事項を明示し、違反には罰則を伴う。例:排出基準、立地規制など
枠組規制的手法目標や手順を義務化するが、詳細な手段までは指定しない。例:環境基本計画、地球温暖化対策計画など
経済的手法税や補助金、排出量取引制度などで市場メカニズムを活用し、環境配慮行動を促す。
手続的手法意思決定のプロセスに環境配慮を組み込む仕組み。例:環境アセスメント、EMS(環境管理システム)など
自主的取組手法事業者が自ら努力目標を設定し、自主的に環境対策を講じる。例:環境自主行動計画、ボランタリープログラム
情報的手法環境情報の開示・提供により消費者や投資家の選択行動を誘導する。例:環境ラベル、環境報告書など

本問で誤答となった⑤は、「情報的手法」の内容(消費者の選択を促すための情報提供)を「自主的取組手法」と誤って記述した点がポイントです。

実際の問われ方

本設問は、「最も不適切なものを選ぶ」形式で、6つの実施手法の定義理解が直接問われました。選択肢はすべて用語定義レベルの文脈で構成されており、以下のような能力が求められます:

  • 用語と内容の正しい対応
  • 情報的手法と自主的手法の違いなどの細部の理解
  • 実際の政策手段との結びつき(例:環境税、アセスメント、ラベル等)

この設問は、表面的な知識ではなく、分類ごとの本質的な違いを把握しているかどうかを見極める良問といえます。

試験での留意点

  • 情報的手法 ≠ 自主的取組手法
     自主的手法は事業者が主体となり目標を設定するのに対し、情報的手法は第三者(国・企業など)が情報を開示し、消費者や投資家などの行動を促す手法です。
  • 直接規制的手法 vs 枠組規制的手法
     前者は具体的禁止や義務付け(例:排水基準)、後者は目標や手順の提示(例:温対法の計画)強制力のレベルと内容の違いを区別しておくと有効です。
  • 経済的手法は「環境税」と「補助金」の両方が含まれることを意識すること。
     「罰金や制裁」という理解では不十分です。

環境政策は「法令で縛る」だけではなく、行動科学・経済・教育・情報開示といった多様な手段の組合せで構築されています。技術者として、制度の目的に応じた適切なアプローチを選択できることが、これからのリーダーに求められる力といえます。

Ⅰ-1-39:ESG・環境管理と組織の社会的責任

背景にある問い

「うちは小規模だけど、SDGsやESG投資への対応は必要なんでしょうか?」
地域企業や自治体の現場では、こうした問いが少しずつ現実味を帯びてきています。これまではCSR(企業の社会的責任)が主に大手企業のものと思われていましたが、気候変動・人口減少・サプライチェーンの透明性といった社会課題がローカルに及ぶなか、地域金融機関や投資家との関係性を通じて、その圧力は広がっています。

特にESG評価は「非財務情報」を含むものであり、環境マネジメントの仕組みや情報開示体制も投資判断に影響するようになっています。「制度で義務づけられていないから不要」という時代は終わりつつあるのです。

キーワードで整理する

このような現実に対応するため、以下のキーワードを理解しておく必要があります。

  • ESG金融
     Environment(環境)・Social(社会)・Governance(企業統治)の3要素を踏まえて行う投融資。利益だけでなく、社会的責任や環境配慮の姿勢も評価対象とし、近年世界的に拡大しています。日本でも政策的に推進されており、地域金融機関による支援の枠組みづくりも進んでいます。
  • グリーンボンド
     環境改善に資するプロジェクト(例:再エネ、省エネ、汚染防止)への資金使途を限定して発行される債券。投資家は「環境貢献」を確認でき、発行体も明示的にグリーンプロジェクトを推進できます。資金の透明性・報告義務が特徴です。
  • 環境マネジメントシステム(EMS)
     企業や組織が、自らの環境方針・目標を設定し、それを継続的に達成していくための体制や手続きの仕組みです。代表的な認証制度にISO14001がありますが、法的義務ではなく、自主的な取組と位置づけられます。
     (誤答③では「義務付けられている」と記述されており、これが誤りの根拠です。)
  • 環境会計
     企業活動に伴う環境コスト(例:汚染対策・リサイクル費用など)と、その成果(例:削減量・経済効果)を定量化し、経営判断に活用する手法。内部管理ツールとしての役割だけでなく、外部説明責任や企業価値向上にも貢献します。
  • TNFD(Taskforce on Nature-related Financial Disclosures)
     自然資本(森林・水・生物多様性など)に関連するリスク・機会の把握と開示を目的とした国際的枠組み。TCFD(気候関連財務情報開示)に続く新たな潮流として、自然環境に配慮した投資判断(ネイチャーポジティブ)を促進します。

実際の問われ方

本設問では、用語の定義や制度の趣旨を問う正誤判定型(「最も不適切なものを選ぶ」)で出題されました。
各選択肢は実務上よく耳にする制度・概念で構成されており、以下のような点が評価対象です。

項目評価観点
ESG金融概念の定義・社会的意義
グリーンボンド資金使途の限定・透明性
環境マネジメントシステム自主性・法的義務の有無
環境会計コスト・効果の定量評価と経営活用
TNFD対象資源と情報開示の国際動向

正答③は、「環境マネジメントシステムが法令で義務付けられている」と誤って記述しており、他の選択肢と比較して制度の根本的な誤解が見られる点が不適切と判断されます。

試験での留意点

  • 環境マネジメントと法的義務の混同に注意
     ISO14001やEMSはあくまで任意制度であり、会社法や環境基本法での義務付けではありません。
  • ESGとCSRの違い
     CSRは「責任(責務)」、ESGは「投資判断に活用する評価軸」という違いがあります。経済的手段と非財務情報の接点という視点で整理すると理解が深まります。
  • TCFDとTNFDの区別
     TCFD=気候関連情報TNFD=自然資本・生物多様性関連情報。ともに金融市場を対象にした情報開示フレームワークです。

社会的責任や環境配慮は、もはや一部の意識高い企業の専売特許ではありません。地域の企業・金融・自治体が連携して価値を創出する「ESG時代のローカル経済圏」において、こうした制度の理解は技術者の必須スキルとなっています。表面的な流行語としてではなく、実務の文脈とともに整理しておくことが、これからの試験対策にもつながります。

Ⅰ-1-40:エシカル消費と環境配慮表示

背景にある問い

「最近“エシカル消費”って言葉を耳にするけど、具体的に何を意識すればいいのか曖昧だ」
このように、職場で環境配慮や社会的責任が求められる場面が増える一方で、その実践方法や指標が不明瞭だと感じる技術者も少なくありません。たとえば、買う商品を選ぶ際に“環境や人権に配慮している”ことをどう見極めるか、また期限表示の意味を正しく理解して行動に反映するにはどうすればいいかといった疑問が浮かびます。

このような「どう行動すべきか」「何を根拠に判断すべきか」という問いは、単に知識の問題ではなく、社会的信頼性・表示制度・認証機関の理解と密接に関わります。

キーワードで整理する

この問題に登場する主要なキーワードを以下に整理します。

  • エシカル消費
     人・社会・地域・環境に配慮した倫理的な消費行動のこと。フェアトレード商品、リサイクル品、地産地消など、購買行動を通じて持続可能な社会に貢献することが目的です。具体例として、環境ラベルの付いた商品の選択や食品ロス削減の行動などが含まれます。
  • エコマーク
     日本環境協会が認定する第三者認証の環境ラベルであり、商品のライフサイクル全体を通じて環境負荷が少ないと認められた製品に付与されます。「環境にやさしい商品」の目印として広く知られています。問題文における「ア」に該当します。
  • プラマーク
     容器包装リサイクル法に基づく識別表示で、素材がプラスチックであることを示します。リサイクルのための分類マークであり、エコマークとは性質が異なります。
  • 森林認証制度/第三者機関
     FSC(森林管理協議会)やPEFCなどの第三者認証機関が、持続可能な森林経営を行う事業体を認証し、木材等の出所管理を行う制度です。消費者に対して信頼性ある選択肢を提供するもので、問題文中の「イ」に対応します。
  • 消費期限と賞味期限
     消費期限は、「安全性」にかかわる期限で、過ぎた場合に健康リスクがある可能性があります。一方、賞味期限は「おいしさや品質の目安」であり、過ぎてもすぐに食べられなくなるわけではありません。問題文の「ウ」はこのうち消費期限に該当します。

実際の問われ方

この設問は、エシカル消費に関する用語の理解と適切な組合せを選ぶ選択問題です。特に次のような3領域の基礎理解が問われます:

問題文の空欄評価対象正答
環境配慮ラベルの意味エコマーク
森林認証の実施主体第三者機関
食品の安全性に関わる表示消費期限

正答は ①:エコマーク/第三者機関/消費 です。

試験での留意点

  • エコマークとプラマークの混同に注意
     エコマークは「環境性能の認証」、プラマークは「リサイクル分類表示」という、目的と設置根拠が異なる制度です。マークのビジュアルに引っ張られないよう、制度的背景から判断することが重要です。
  • 賞味期限と消費期限の違い
     「安全性」は消費期限の問題であり、賞味期限を過ぎても即廃棄すべきとは限りません。「腐敗などによる危険の有無」で線引きされている点に注目してください。
  • 森林認証の実施主体に対する誤解
     林野庁が制度設計には関与するものの、認証自体は独立した第三者機関によって行われる点を正確に把握しておく必要があります。

身の回りにある製品や表示が、どのような仕組みに支えられているかを知ることは、単なる試験対策にとどまらず、技術者として社会に与える影響を理解する第一歩といえます。倫理的・持続可能な選択を技術的知見と結びつける姿勢が、これからますます求められるでしょう。

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