事例で理解するデルファイ法

デルファイ法は、「正解が一つに定まらない問題」に対して、専門家の意見を匿名・段階的に集めて合意を形成する調査手法です。

🔍 どんな場面で使う?

  • 新技術の導入方針
  • 医療ガイドラインの策定
  • 教育カリキュラムの見直し など
    正解が曖昧で、多様な意見を調整したいときに使われます。

⚙️ どうやって進める?

  1. 調査の目的を設定
  2. 専門家を選定
  3. 複数回のアンケートとフィードバック
  4. 意見を収束・分析

匿名・非対面で実施され、影響力の強い人に引きずられない点が大きな特徴です。

📚 どんな種類がある?

  • 修正型:最初から選択肢を提示して効率的に進める
  • e-デルファイ:Webフォームやメールで実施
  • リアルタイム型:回答とフィードバックを即時にやり取り

✅ 他手法との違い

  • ブレインストーミングよりも意見の収束に強い
  • ヒューリスティック評価よりも客観性が高い
  • 会議形式よりも中立性を保ちやすい

本記事では、デルファイ法の基本的な流れ、特徴、他手法との違い、活用事例、注意点をまとめています。
調査や意思決定をより構造的に進めたい方の参考になれば幸いです。

目次

はじめに

デルファイ法の概要と目的

意思決定や将来予測が求められる場面では、「専門家の知見をどのように集約するか」が重要な課題となります。
特に新技術の導入や政策立案といった前例のない分野では、正解が一つに定まらない中で、経験や洞察に基づく意見の整理が求められます。

デルファイ法(Delphi Method)は、こうした場面で活用される「合意形成のための調査手法」です。
専門家の意見を匿名で集め、複数回のフィードバックを重ねることで、意見のすり合わせと収束を図ります。

本記事では、デルファイ法の成り立ちや基本的な流れを紹介したうえで、応用事例や他の手法との違い、注意すべき点についても解説します。
初学者から実務者まで、「意見を集めて整理する」ための一つの選択肢として、デルファイ法の全体像を理解していただくことを目指します。

デルファイ法の歴史と背景

開発経緯:軍事研究から政策分析へ

デルファイ法は、1950年代にアメリカのシンクタンク「RAND社(ランド研究所)」によって開発されました。
当時の目的は、冷戦下における軍事的・技術的な意思決定の精度を高めることにありました。
従来の単純な多数決や一般的なアンケート手法では、専門家の意見が埋もれてしまう、あるいは少数意見が無視されてしまうといった問題がありました。
こうした課題に対応するために、「匿名性」「反復的な意見収集」「集約的なフィードバック」を特徴としたデルファイ法が開発されました。

やがてこの手法は、軍事領域にとどまらず、技術予測・政策立案・医療評価・教育設計など、多様な分野へ応用されるようになりました。
今日では、公的機関や企業でも意思決定支援ツールの一つとして広く用いられています。

名称の由来:デルフォイの神託

「デルファイ(Delphi)」という名前は、古代ギリシャの都市デルフォイ(Delphi)に由来しています。
デルフォイは、太陽神アポロンの神託を授かる場所として知られ、神官が神の意志を解釈して伝える「予言の地」として名高い存在でした。

この神託のイメージから、デルファイ法という名前が付けられたとされています。
専門家による未来予測や集合知の活用を象徴する意味合いがあります。
ただし、実際のデルファイ法は、神秘的な直感ではなく、理性的かつ反復的な議論を通じて合意を導く科学的手法です。
したがって、名称の由来は象徴的意味合いにとどまり、手法そのものは極めて実証的・論理的な構造を持っています。

デルファイ法の特徴

デルファイ法には、他の意見収集手法と異なる3つの重要な特徴があります。
これらは、集団での意思決定をより客観的・建設的に行うための工夫でもあります。

1. 匿名性による心理的バイアスの排除

デルファイ法では、専門家同士の意見交換が匿名で行われるのが大きな特徴です。
会議形式の議論では、地位の高い人物や発言力の強い参加者の意見が無意識のうちに他の参加者に影響を与えてしまうことがあります(いわゆる“集団同調バイアス”)。

匿名性を確保することで、肩書や上下関係に左右されない自由な意見を引き出すことができ、少数意見や異なる視点も公平に扱うことが可能になります。

2. 反復的なフィードバックによる意見の洗練

デルファイ法では、複数回にわたって調査を行い、各回の結果を参加者にフィードバックします。
例えば、初回のアンケートで収集された意見を集約・要約し、それをもとに再度質問を行うといった形です。

このプロセスを通じて、参加者は他の専門家の意見に触れながら自らの意見を再評価・修正することができ、結果的により精緻で納得度の高い合意形成へとつながります。

この「反復と収束」の仕組みによって、短絡的な多数決や一度きりのアンケートでは得られない思考の深化と合意の構築が可能となります。

3. 専門家の意見の構造的集約

デルファイ法では、複数の専門家からの意見を構造的に集約し、判断材料として整理します。
単に平均を取るのではなく、意見の分布や理由、合意できた点・できなかった点を多角的に分析します。

特に、意見が割れる分野では「どのような前提や視点の違いが意見の分裂を生んでいるのか」といった構造的理解が可能になります。
また、意見が一致した場合には「その一致がどのような条件下で得られたか」を把握できるため、より妥当性の高い結論の形成に寄与します。

デルファイ法の手順

デルファイ法は、単なるアンケートとは違い、意見を段階的に整理しながら合意を目指していく手法です。
以下は、基本的な手順を6つのステップに整理したものです。

1. 調査の目的とテーマの設定

まず最初に、調査の目的やテーマを明確化します。これは技術開発の方向性を探るものであったり、将来予測、政策の選択肢比較など、用途によってさまざまです。
目的が曖昧なままだと議論が散漫になりやすいため、事前に「何を判断したいのか」「どんな情報が必要なのか」を明確にしておくと効果的です。

2. 専門家パネルの選定

次に、調査対象となる専門家の選定を行います。対象分野に詳しく、かつ多様な視点を提供できる人材をバランスよく選ぶことがポイントです。
人数は数名〜数十名が一般的で、多すぎると集約が困難になり、少なすぎると偏りが生じるリスクがあります。

3. 第1ラウンド:自由回答による意見収集

初回の調査では、自由記述式の設問で幅広い意見を収集します。
この段階ではあえて選択肢を設けず、専門家の直感・見解をできるだけ生のまま引き出すことを重視します。

4. 意見の集約・要約とフィードバック

第1ラウンドの回答をもとに、意見の要点を抽出・分類・統合し、共通点や対立点を整理します。
その結果をフィードバックとして専門家に共有します。これにより、自分と他者の意見を比較しながら再考できる土台が生まれます。

5. 第2ラウンド以降:再調査と収束

フィードバックを受けて、再度意見を求める第2ラウンドを実施します。
この段階では、他者の意見や分析結果を参考にしたうえで、意見の修正・補足・理由付けが促されます。
必要に応じて第3ラウンド以降を行い、意見の収束度や合意レベルを確認します。

6. 結果の分析と報告

最終的に得られたデータは、意見の一致度・傾向・根拠の構造などを含めて分析され、意思決定や戦略立案に活用されます。
ただの多数決では見えにくい「意見の背景」や「判断の根拠」も整理できる点が、デルファイ法の大きな強みです。


このように段階的に進めることで、単なるアンケートや会議では得られない深い洞察と合意形成が可能になります。

デルファイ法のバリエーション

デルファイ法は、開発以来さまざまな実務課題に応じて応用され、いくつかの派生的手法が生まれています。ここでは代表的な3つのバリエーションを紹介します。

1. 修正型デルファイ法(Modified Delphi Method)

修正型デルファイ法は、初回の自由記述を省略し、あらかじめ設けた選択肢や仮説に対して評価を行う方式です。
これは、従来のデルファイ法に比べて調査設計が効率的で、短期間での合意形成を目指す場面に適しています。

たとえば、すでに事前調査や過去の研究などで一定の選択肢が明らかになっている場合、初回から自由回答を求めるよりも、あらかじめ用意した選択肢を評価してもらう方が、効率的に進められる場合もあります。

特徴:

  • 第1ラウンドから選択肢型質問でスタート
  • 比較的短期間で収束が見込める
  • 意見の多様性はやや減少する傾向

適用例:

  • 医療ガイドラインの優先度設定
  • 製品機能の評価
  • 教育カリキュラムの検討

2. e-デルファイ法(Electronic Delphi)

e-デルファイ法は、Webフォームやメール、専用のプラットフォームなどを用いて実施されるデジタル型のデルファイ法です。
通信の迅速化、記録の自動化、遠隔地の専門家との協働が可能になり、今日では最も一般的な実施形態になりつつあります。

特に、調査回数が複数回に及ぶデルファイ法において、特に紙や対面でのやり取りが難しい場面では、デジタル化のメリットがより明確になります。

特徴:

  • 時間と場所の制約を大幅に緩和
  • 自動集計・フィードバックが可能
  • ITリテラシーが必要な点は留意

適用例:

  • 国際的な政策提言
  • 社内外の専門家を巻き込んだ技術戦略の立案
  • オンラインコミュニティでの合意形成

3. リアルタイムデルファイ法(Real-Time Delphi)

リアルタイムデルファイ法は、回答とフィードバックをリアルタイムでやりとりできるため、よりスピーディに意見を集約することができます。
調査票への回答後、即座に他の参加者の平均値や意見分布が表示され、それを見た上で再度意見を調整することができます。

この方式は、意思決定のスピードが重要なプロジェクトや、一堂に会せないが同時進行で作業したい場合に有効です。

特徴:

  • 回答とフィードバックが即時に連動
  • 意見収束の過程がリアルタイムで可視化される
  • 実施環境の整備が必要(システム設計・安定性)

適用例:

  • 緊急対応策の意思決定(パンデミック対策など)
  • 多拠点間での合意形成
  • アイデアソン/オンラインワークショップ

こうしたバリエーションは、目的・期間・技術環境・参加者特性に応じて使い分けることで、より効果的な意思決定支援ツールとして活用できます。

他の意思決定手法との比較

デルファイ法は、専門家の意見を段階的に集めて合意を目指す方法ですが、こうした意思決定のための手法は他にもいくつかあります。
それぞれに強み・弱みがあり、目的や状況に応じた使い分けが重要です。

1. ブレインストーミングとの違い

ブレインストーミングは、参加者が自由に意見を出し合う発散的なアイデア創出手法です。
短時間で多くの案を集めるのに適していますが、発言しづらい空気が生まれやすかったり、立場の強い人の意見に引っ張られやすいといった弱点もあります。

これに対しデルファイ法は、匿名かつ非対面の形式で実施され、意見の偏りを防ぎつつ、意見の精緻化と収束を重視しています。

比較項目ブレインストーミングデルファイ法
匿名性なしあり
手法一斉・対面多段階・非対面
目的アイデア創出意見の収束・予測
主な弱点同調圧力、発言の偏り手間と時間がかかる

2. ヒューリスティック評価との違い

ヒューリスティック評価は、特定の評価基準に基づいて専門家が問題点や改善案を挙げる方法です。
特にユーザーインターフェース設計などで使われますが、評価者の個人的主観に左右されやすいという側面があります。

デルファイ法は、こうした主観的評価を複数回のフィードバックを通じて相互補正する点で、より客観性と信頼性の高い評価結果が得られる仕組みになっています。


3. ノモス法(Nominal Group Technique)との違い

ノモス法は、会議形式で各自が意見を紙に書き、順番に読み上げて議論した上で順位付けを行う手法です。
発言の機会を平等に確保する点では優れていますが、対面での議論の影響や場の雰囲気が結果に影響する可能性があります。

デルファイ法では、匿名かつ非対面で実施され、社会的な影響を受けにくいため、より冷静で客観的な合意を形成するのに適しています。


まとめ

デルファイ法は、「専門家の知見を公正に集約し、合意形成を行う」という点において、他の発散型・直観型の手法と明確に異なります。
特に、匿名性・反復・構造的分析という要素が必要なプロジェクトにおいては、有力な選択肢となります。

デルファイ法の活用事例

デルファイ法は「専門家の意見が分かれる場面」や「明確な正解が存在しない問題」において、合意形成の手法として活用されてきました。
ここでは、実際に報告されている応用事例の中から、代表的なものをご紹介します。

1. メイン事例:医療現場における治療ガイドラインの策定

医療の現場では、診療の方針や治療法の選択にあたって、複数の専門領域の意見を集約する必要があります。
特に、高齢者医療や緩和ケアなどの領域では、「標準的な治療法」が確立していないことも多く、医師・看護師・研究者など多職種の判断が求められます。

こうした場面でデルファイ法は、各専門家に匿名で意見を求め、段階的に意見を調整しながら、「どの治療が望ましいか」「どの優先度で実施すべきか」といった指針を形成する手段として有効に機能してきました。

たとえば、ある研究では複数の医療専門家が「在宅終末期医療における介入の優先順位」について評価を行い、最終的に地域の診療ガイドラインとしてまとめられた事例もあります。

このように、患者の生活環境や価値観が反映されやすい医療分野では、デルファイ法の「多様な意見を調整する機能」が特に活用されています。


2. 補足事例①:製造業における技術開発の優先順位付け

製造業では、新製品の開発にあたり、さまざまな機能や設計方針を評価・選別する必要があります。
複数部門(設計・営業・品質保証など)の専門家による意見を段階的に集約することで、開発初期の混乱を抑え、合理的な意思決定を支援する手段として、デルファイ法が応用されています。


3. 補足事例②:教育政策におけるカリキュラムの見直し

教育行政においても、「何を教えるべきか」「教育目標をどう定めるべきか」といった問いは、明確な答えが出しづらいテーマです。
複数の学校種・専門家の意見を集約し、合意可能なカリキュラム改定案を構築するために、デルファイ法が利用されるケースがあります。


こうした事例に共通するのは、「多様な立場の専門家が関わり、正解が一つに定まらない問題」において、デルファイ法が中立的かつ構造的な意見集約の手段として有効であるという点です。

デルファイ法のメリットとデメリット

デルファイ法は、専門家の知見を段階的に集約するという点で強力な合意形成手段ですが、その運用には利点と限界の両方があります。
ここでは、導入を検討するうえで押さえておきたい主なメリットとデメリットを整理します。


メリット

1. 匿名性による自由な意見表出

参加者が匿名で意見を述べるため、立場や地位による影響が排除されやすくなります。
これにより、率直かつ多様な意見を引き出しやすく、特に少数派の意見が尊重されやすい構造となります。

2. 段階的な収束による合意形成

複数回のフィードバックと再評価を通じて、意見の調整や深掘りが進みます。
短絡的な多数決ではなく、納得感のある合意が得られる点が大きな利点です。

3. 地理的・時間的制約を超えた実施が可能

非対面かつ文書ベースの調査であるため、遠隔地の専門家を巻き込みやすく、時間的にも柔軟に対応可能です。
特にe-デルファイ法やリアルタイム型ではこの特性が際立ちます。

4. 意見の根拠を含めて可視化できる

単に「賛成・反対」といった数値の集約にとどまらず、意見の理由や背景も分析対象とすることで、深い洞察と判断材料が得られます。


デメリット

1. 実施に手間と時間がかかる

複数ラウンドにわたる調査設計・配布・集計・フィードバックが必要なため、実施には一定の労力とスケジュール管理が不可欠です。
特に初めて導入する場合、運用負担は小さくありません。

2. フィードバックの質に依存する

意見の要約や集約が不適切であった場合、誤った前提に基づいて次ラウンドが進んでしまう恐れがあります。
調査設計者の力量が結果に大きく影響する点は注意が必要です。

3. 回答の継続性が求められる

複数ラウンドを通して継続的に回答してもらう必要があるため、参加者のモチベーション維持や負担感の管理が重要になります。
途中離脱者が多いと、合意形成の精度が落ちるリスクがあります。

4. 意見の偏りや中庸化の懸念も

意見が収束することが必ずしも「最良の結論」であるとは限りません。
特に、妥協による“無難な意見”に寄ってしまうリスクは常に存在します。


総合的な視点

デルファイ法は、「正解が一つに定まらない課題」に対し、多様な視点を構造的に集約し、納得感のある判断を導く手段として非常に有効です。
一方で、その価値を十分に引き出すためには、設計・運営の工夫と参加者の協力が必要不可欠です。

まとめ

デルファイ法は、専門家の意見を段階的かつ匿名で集約し、合意を形成するための調査手法です。
もともとは軍事研究に端を発したものですが、その後、医療、教育、製造業、政策立案など多岐にわたる分野で応用されてきました。

本記事では、デルファイ法の基本構造、代表的な特徴、実施の流れ、他手法との比較、活用事例、そして導入時の注意点について、体系的に整理してきました。

意見が分かれるような課題や、正解がはっきりしない状況において、デルファイ法は合意形成の手段として十分に検討に値する方法です。


本記事は、筆者自身が実務でデルファイ法を活用した経験があるわけではなく、あくまで試験勉強や学習の一環として調べた内容を整理・構成したものです。
ただ、調べる過程で「この手法はどういう構造で、どのような場面で使えるのか?」という点に関心を持ち、まとめたものです。

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