事例で理解するTOC(制約条件の理論)

「がんばっているのに、なぜか成果が出ない」
──そんな現場にこそ必要なのがTOC(制約条件の理論)です。
部分最適の限界、複雑な対立、ボトルネックによる停滞…。
こうした“見えにくい問題構造”を解き明かすTOCの考え方と手順を、Thinking Processや仮想事例を交えて具体的に解説しました。
TOCは万能ではありませんが、「今、どこに集中すべきか?」を教えてくれる強力なレンズです。
改善が行き詰まったとき、まず読んでほしい1本です。

目次

第1章 なぜ今、TOCが必要なのか

業務改善や経営改革の現場では、これまでにもさまざまな手法が使われてきました。
「カイゼン」に代表される現場発の取り組み、PDCAサイクル、5S、QC活動、SWOT分析…。
どれも長年の実績があり、特に日本の製造業では高い成果を上げてきました。

しかし、こうした手法を使っても、なぜか結果が出ない場面があることも、また事実です。

  • 各部門で努力しているのに、全体として成果が出ない
  • 指標(KPI)を改善しても、売上や納期に結びつかない
  • 改善活動は活発なのに、会社全体の雰囲気が閉塞している

こうした状況において、「努力はしている。けれど、どこかおかしい」と現場が感じ始めるとき、そこには**“全体最適の不在”**という構造的な問題が潜んでいることがあります。


「全体最適」が失われた状態とは?

個々の部門や担当者が、真面目に自分の仕事を改善し、工夫を凝らしている。
なのに、結果として会社全体のパフォーマンスが向上していない──それはなぜか?

原因は、「一つのシステムとしての成果」を支配する要素が、実はごく一部の“詰まり”に支配されているからです。
この詰まりを「制約条件(Constraint)」と呼びます。


TOCは、部分最適の限界を超えるための考え方

TOC(Theory of Constraints、制約条件の理論)は、この制約条件を特定し、そこに集中的にリソースを配分することで、システム全体の成果を最大化するための手法です。

TOCが重要なのは、「制約条件がどこにあるのかを見つけ出すこと」だけでなく、
それを見つけたあとに、どのように全体の改善プロセスを設計するかという、
“優先順位と集中の原則”に基づいた改善のアプローチを提供する点です。


改善疲れの先にある、「視点の切り替え」

現場では日々の業務に追われ、「とにかく少しでも良くする」ことに目を向けがちです。
もちろんその姿勢は重要ですが、全体がどのようにつながっていて、何が本当に制約になっているのかを見極めなければ、改善が空回りしてしまうこともあります。

TOCは、その“空回り”を止めるための視点を与えてくれます。
それは、改善の「深さ」ではなく、「方向の正しさ」を問う考え方です。


「がんばってるのに結果が出ない」人にこそ、TOCの出番がある

TOCは、魔法のようにすべてを解決する手法ではありません。
けれども、「がんばっているのに報われない」状況に直面しているとき、
それが**構造の問題ではないか?**という視点を与えてくれる手法です。

本記事では、TOCの基本的な考え方と、それがどのような場面で使えるか、
さらに仮想の事例を通じて、TOCの具体的な活用イメージを掘り下げていきます。

第2章 TOCの基本概念と5ステップ

TOC(Theory of Constraints=制約条件の理論)は、1980年代にイスラエルの物理学者エリヤフ・ゴールドラット博士が提唱した、システム全体のパフォーマンスを最大化するための経営理論です。

その核心は非常にシンプルです。

「システムには常に“制約”が存在し、全体の成果はその制約によって決まる」

そして、その制約を見極め、効果的に改善していくために、TOCでは次の5つのステップが基本フレームワークとして用いられます。


1. 制約を特定する(Identify the Constraint)

まず最初に行うのは、システム全体のパフォーマンスを最も制限している制約条件を見つけることです。

制約は、工程、資源、人員、情報、ルールなど、さまざまな形で現れます。
たとえば、製造ラインで一番処理能力が低い機械、情報が集約されず遅延する工程、ボトルネックとなっている承認プロセスなどが典型です。

重要なのは、「問題がある場所」ではなく、「全体の流れを止めている場所」を探すという視点です。


2. 制約を最大限に活用する(Exploit the Constraint)

制約が見つかったら、次はその制約をフル活用できるように工夫する段階です。

追加投資や改革に走る前に、「今ある資源の中で、この制約をどうすれば最大限働かせられるか?」を考えます。

  • その工程の稼働を止めないように調整する
  • 作業の段取りや投入順を最適化する
  • 非制約工程が、制約工程を邪魔しないように整える

この段階で制約に集中し、ムダを削ぎ落とすことが、後の成果を左右します。


3. 他のすべてを制約に従属させる(Subordinate Everything Else)

制約の能力を最大限に発揮できるように、他の工程や業務の優先順位・スケジュールを調整します。

たとえば:

  • 非制約工程が先に進みすぎないように抑える
  • 在庫やバッファの配置を見直す
  • 情報の流れを制約中心に組み替える

これにより、「全体としてボトルネックにリズムを合わせる」ことで、流れが安定してきます。


4. 制約を打破する(Elevate the Constraint)

制約をフル活用し、他工程も調整したうえで、まだ十分な成果が出ない場合は、制約そのものを打破するための投資や改革を検討します。

ここではじめて、

  • 新しい設備の導入
  • 人員の追加
  • 仕組みの抜本的な見直し
    といった“大きな変化”が選択肢に入ります。

TOCの特徴は、これを最後に行う点です。
無駄な投資を避け、改善の効果を見極めてから踏み切る、という慎重かつ合理的な手順になっています。


5. 新たな制約に戻らないようにする(Go Back to Step 1)

制約を打破すると、システム全体の中で次の制約が表面化してきます

このとき、再び1に戻り、新たな制約を見つけて改善を続けていく──
これがTOCの考える「継続的な改善のサイクル」です。

このステップを通じて、システムは段階的にスループット(全体の成果)を高めていきます。


✅ TOCは「何を変えるか」「何を守るか」を明確にする

この5ステップの流れを整理すると、TOCは単なる問題解決手法ではなく、次のような**マネジメント上の“判断軸”**を提供してくれることが分かります:

  • どこが本当に変えるべき部分なのか?
  • 今はどこに集中すべきなのか?
  • 何を優先し、何はそのままでよいのか?
  • 改善の順序と濃度をどう設計するか?

💡 補足:TOCにおける「成果」は“スループット”で測る

TOCでは、単なる効率や稼働率ではなく、**スループット(利益を生む有効なアウトプット)**の最大化をゴールとします。

したがって、「全部を最適化する」よりも、“一点突破”で全体の成果を上げることを最優先します。
この考え方こそ、他の手法とは異なるTOCの特徴的な部分です。

第3章 TOCは“構造を見る手法”である

TOCは、単に「ボトルネックを見つけてそこを改善する」ための手法ではありません。
その根本には、「複雑な問題をどう捉えるか」という思考のフレームがあります。

前章で紹介した5つのステップは、主に生産や業務の“流れ”に関する制約の解消を扱うものでしたが、TOCにはもう一つの重要な柱があります。

それが、「Thinking Process(思考プロセス)」と呼ばれる、問題の構造や対立関係を視覚化し、解きほぐすための道具です。


モヤモヤした問題は、単独では存在しない

職場や組織で直面する問題の多くは、次のような特徴を持っています:

  • 誰か一人が悪いとは言い切れない
  • 問題が複数絡み合っている
  • 改善してもまた別の問題が出てくる
  • 話し合っても、結論が出ずに終わる
  • 部門間や立場間で意見が食い違う

こうした状況は、「問題が“構造として存在している”」ことを示唆しています。

TOCは、そうした見えない構造を“見える化”することで、問題解決のスタートラインに立たせてくれる手法でもあります。


Thinking Processとは何か?

TOCのThinking Processには、目的や使い方に応じていくつかのツールがあります。代表的なものを挙げると:

ツール名主な用途
対立の雲(Conflict Cloud)対立やジレンマの構造を明らかにする
現状ツリー(Current Reality Tree)問題の因果関係をつなげて“根本原因”を可視化する
未来ツリー(Future Reality Tree)解決策がどんな結果を生むかをシミュレーションする
前提条件ツリー(Prerequisite Tree)目標達成に必要な準備や順序を整理する
移行ツリー(Transition Tree)現状から目標状態への実行計画を構造化する

これらはいずれも、「問題を個別に扱う」のではなく、「因果関係と目的を軸に全体を理解する」ためのツールです。


例:対立の雲(Conflict Cloud)

組織でよくある次のような対立を思い浮かべてみてください。

  • 営業「納期は短く!」 vs 製造「品質を守るには時間が必要」
  • 上司「やれ!」 vs 部下「このやり方は納得できない」
  • 経営「新しいことをやろう」 vs 現場「今の仕事で手一杯」

こうした対立は、しばしば手段の違いが対立として表面化しているものであり、実は上位の目的が共通していることがあります。

対立を“言葉”でなく“構造”で捉えることで、解決策を見つけやすくなります。

構造を見れば、感情論を超えられる

組織内の問題は、論理と感情が入り混じることが多く、話し合いが平行線になりがちです。
TOCのThinking Processは、それを図や構造で整理することで、共通理解の土台をつくる役割を果たします。

  • 問題の根っこにある“前提”を問い直せる
  • 「本当に目的は違うのか?」を見極められる
  • 「どこなら変えられるか?」という合意形成がしやすくなる

TOCは、“原因を探す”のではなく“構造を描く”

多くの改善手法は、「原因は何か?」を探ることに力点を置きます。
それに対して、TOCはこう考えます:

「原因は、一つではない。
だが“構造”を描けば、動かせるものとそうでないものが見えてくる」

それが、TOCが“複雑な問題”に対して有効な理由です。
構造が見えれば、「今は何を変え、何は守るべきか」という判断も整理されていきます。

第4章 仮想事例:ロジカルフーズ社の在庫と対立の構造

ここでは、TOCの考え方を実務にどう活かせるかを明らかにするために、仮想の企業「ロジカルフーズ社」を題材にした事例を紹介します。

これは実在の企業ではありませんが、どの業種でも起こり得る「在庫過多と部門間対立」という問題にTOCを適用した思考実験です。


背景:在庫は多い、納期は遅れる、誰も満足していない

ロジカルフーズ社は、加工食品を製造し全国に出荷している中堅メーカーです。

各部門の担当者は熱心で、現場でも継続的な改善が行われていました。ところが、会社全体では次のような問題が慢性化していました:

  • 原材料や中間在庫、完成品の在庫が膨れあがっている
  • 廃棄や損失が増え、キャッシュフローが圧迫されている
  • それでも、納期はしばしば遅れ、営業と製造の対立が絶えない

このような状況に対して、社長の判断でTOCの導入が試みられることになります。


STEP 1:制約の特定——問題は「在庫」ではなかった

まず、各部門を横断する形で業務フローの可視化(プロセスマッピング)が行われました。

その結果、次のようなことがわかりました:

  • 購買部門は、単価重視のまとめ買いで原材料を大量に抱えていた
  • 製造部門は、機械の効率を優先して“まとめて作る”スタイルを崩していなかった
  • 営業部門は、「早く作れ」とプレッシャーをかけるが、製造現場とは日々の計画共有がない
  • 出荷部門は、最終的にできた順で送り出しており、顧客ごとの優先順位が反映されていない

このように、部門ごとの最適化が進んだ結果、会社全体としての成果(=スループット)が低下していたのです。

真の制約は、「全体で統一された優先順位と調整の仕組みがないこと」でした。


STEP 2・3:制約の活用と従属——“指揮者”を置く

TOCの原則に従い、制約(統一された調整力の不在)を解消するために、以下のような施策が行われました:

  • 出荷要求をベースにした“逆算型”の生産スケジュールを導入
  • 各部門の間に「生産コントローラー」を置き、優先順位とタイミングの調整を担当
  • 購買部門には、“安く買う”より“必要な時に必要な分を仕入れる”方針を徹底
  • 製造部門には、効率よりも「今必要なものを作る」意識を共有

こうして、全体を指揮する視点と役割を導入することで、制約の活用と他工程の従属が実現されました。


STEP 4:制約の打破——仕組みの再構築と現場教育

全体の調整機能が稼働しはじめたのち、制約の解消に向けた追加施策が段階的に進められました。

  • ERPシステムへの負荷予測・優先度機能の追加
  • 部門間の定例ミーティングによる情報共有の定着
  • 指標(KPI)を“各部の効率”から“納期遵守率・在庫回転率”へ変更
  • 若手社員へのTOC研修の導入と、現場でのThinking Processの活用

この結果、製造リードタイムは25%短縮、在庫総量は30%減少、納期遵守率は85%→97%へと改善されました。


STEP 5:次の制約——営業と顧客対応へ

改善により、社内の供給体制は大きく向上しました。

しかし今度は、「営業側が需要予測を正確に出せない」「顧客の発注タイミングが読めない」という、外部との調整の難しさが新たな制約として浮上してきます。

TOCはここでも活きます。Thinking Processを用い、営業部門と主要顧客の購買担当者との関係構造を整理。結果、数社との定期発注契約が進み、さらに安定した供給計画が実現しつつあります。


事例のまとめ:TOCが果たした役割

この仮想事例で描いたように、TOCは「問題の場所を特定し、そこに集中する」という一点突破型の戦略を軸としつつ、**制約が移動することを前提にした“成長のプロセス”**を構築する手法です。

ロジカルフーズ社では、

  • 在庫問題は“結果”であって“原因”ではなかった
  • 対立や分断を解消するのは“構造の見える化”だった
  • 成果の連鎖は“調整する力の復活”から始まった

という構造的な気づきに至ることができました。

第5章 TOCが向いている問題/向いていない問題

TOC(制約条件の理論)は、構造的な問題の発見と改善に非常に強力なツールです。
しかし、すべての問題に万能な手法ではありません。

他の改善手法と同様、TOCにも**「向いている場面」と「不向きな場面」**があります。
この章では、TOCが最大の効果を発揮する問題形式、そして活用に適さないケースを整理してみましょう。


TOCが向いている問題形式


1. 部分最適に陥っている状態

複数の部門や工程が個別に頑張っているのに、全体としての成果が出ていない。

  • 各部門はKPIを達成しているのに、利益や納期が悪化している
  • 改善活動をしているはずなのに、逆に混乱している

👉 特徴:全体の調和が取れておらず、「全体最適」が崩れている
👉 TOCが有効:制約(律速部分)に集中することで全体の成果を回復できる


2. 問題が複雑で、原因が多岐にわたって見えるとき

  • 改善しても次々に別の問題が出てくる
  • 会議で「それぞれに言い分がある」状態が続いている

👉 特徴:原因が1つではなく、因果関係や対立が絡み合っている
👉 TOCが有効:Thinking Processを使って因果構造を可視化し、根本原因を特定できる


3. 組織内で対立や優先順位の食い違いが生じているとき

  • 営業と製造、現場と管理部門、スピードと品質など、両立が難しい要求がある
  • 決定が進まず、平行線の議論が繰り返される

👉 特徴:利害対立や価値観のズレが、思考停止を引き起こしている
👉 TOCが有効:対立の雲を使って“上位目的”を共有し、統合的な解決策を設計できる


4. 成果が出る一点が明確な場合(ボトルネックがあるシステム)

  • 特定の機械や工程が律速で、そこが止まると全体が止まる
  • 限られた資源(時間、人、設備)に全体の成否がかかっている

👉 特徴:全体成果が、明確な一点によって左右されている
👉 TOCが有効:制約を集中的に改善することで即座に成果が出る


TOCが向いていない(または優先順位が低い)問題


1. 問題が単純かつ原因が明白なとき

  • 設備故障、ミス、ヒューマンエラーなど、明確な改善ポイントがある
  • 原因と対策が1対1で対応できる

👉 この場合は:QC手法やカイゼン、5Whyなどで十分対応できる


2. すでに制約が存在しない、または改善し尽くしているとき

  • 成熟した工程で、ボトルネックが移動しきってしまっている
  • 改善余地がほとんど残っていない

👉 この場合は:TOCよりも新たな価値創造やイノベーションの手法(マーケティング、デザイン思考等)が求められる


3. 組織内に思考の合意基盤がないとき

  • 利害関係者が多すぎて、議論すら成立しない
  • 抽象的な目的すら合意できていない

👉 この場合は:TOC以前にファシリテーションやビジョン共有のプロセスが必要
👉 TOCは合意形成を助ける“図解の道具”としては使えるが、導入前の基盤づくりが先


TOCを使うかどうかの判断基準

TOCの活用可否を考える上で、以下のようなチェックポイントが有効です:

質問YESならTOC向き
組織に“努力しても報われない”空気があるか?
部門ごとの動きは良いが、全体はうまくいっていないか?
問題が入り組んでいて、全体像がつかめないか?
対立やジレンマで、議論が止まっていないか?
成果が“一点”にかかっているような状況か?

まとめ:TOCは“いつでも使う”のではなく、“ここぞというとき”に効く

TOCは、単なる問題解決のツールではなく、**全体を再設計するための“優先順位決定フレーム”**です。
万能ではありませんが、「他の手法で限界を感じたとき」や、「問題が構造的に絡んでいるとき」には、大きな力を発揮します。

第6章 TOCが“一択”になる瞬間

TOC(制約条件の理論)は、他の改善手法と同様に、目的や状況に応じて使い分けるものです。
しかし、いくつかの場面では、TOC以外では問題の構造を捉えきれない、あるいは改善効果が出せないというケースもあります。

そうした状況では、TOCは単なる選択肢の一つではなく、“取り組むべき前提条件”に近い立ち位置になります。
本章では、そんな「TOCが一択になる瞬間」の典型パターンを整理します。


パターン①:頑張っても成果が出ない“閉塞状態”

  • 全員が真面目に取り組んでいるのに、なぜか成果が出ない
  • 各部門は数値目標を達成しているのに、会社全体としては赤字
  • 改善活動が盛んなのに、現場の疲弊感が強くなっている

これは、部分最適が限界に達しているサインです。

🔍 この状態では:

  • 改善の“手数”ではなく、“構造の認識”が不足している
  • TOCの視点で「本当の制約(成果を決定づける律速点)」を特定しない限り、空回りが続く

このような場面では、TOCは“始点”であり“一択”に近い選択肢となります。


パターン②:複数の正論が衝突している

  • 営業「納期を短縮してほしい」 vs 製造「品質を落とさずには無理」
  • 経営「新しい市場に挑戦しよう」 vs 現場「既存案件が限界」
  • IT部門「効率化を進めたい」 vs ユーザー部門「今のままが使いやすい」

このように、「どちらかが悪い」と言い切れない対立が起きているとき、
話し合いは平行線になり、組織全体が思考停止に陥ります。

🔍 この状態では:

  • 対立の構造を「可視化」しなければ、合意形成は難しい
  • TOCのThinking Process、とりわけ**“対立の雲(Conflict Cloud)”**が力を発揮する

これは、TOCでなければ“構造”にたどり着けない典型パターンです。


パターン③:1点の詰まりが全体を止めている

  • 工場に一つだけある特殊な機械が故障した瞬間、全体が止まる
  • 一人の専門職が辞めると、プロジェクトが進まなくなる
  • 災害時、道路1本が塞がるだけで物流網が麻痺する

このようなケースでは、全体の成果が“明確な1点”に依存しているため、
「全体を平均的に改善する」ようなアプローチは意味を持ちません。

🔍 この状態では:

  • TOCの「一点集中・全体従属」の考え方がそのまま適用できる
  • 逆にTOCを使わず、部分的に手を入れても効果は出にくい

このとき、TOCはまさに“やるべきことそのもの”になります。


パターン④:手が尽くされたあと、成果が出ていないとき

  • 改善案は出し切った
  • 仕組みも整えた
  • でも、なぜか停滞している

こうした状況に共通しているのは、「問題の“位置”がズレていた」ということ。
解決策は間違っていなかったのに、“制約でない部分”に集中していたために、成果が出なかった──。

🔍 この状態では:

  • 改善ではなく、“優先順位の選び直し”が必要になる
  • TOCはその“選び直し”を可能にする数少ない手段

まさに“最後に出番がくる思考法”として、TOCが浮上します。


TOCが“必然”になる瞬間とは

以下に示すような特徴が3つ以上当てはまるなら、TOCの適用を真剣に検討すべき段階かもしれません:

特徴状況
✅ 各部門は仕事をしているのに、全体は停滞している部分最適の罠
✅ 問題が複雑すぎて整理がつかない因果関係の錯綜
✅ 対立や衝突が起きており、建設的な議論が進まない組織の硬直
✅ 特定の1点が、全体のボトルネックになっているリソース制約の集中
✅ 既存の改善手法では打ち手が尽きた思考の行き詰まり

一文でまとめると

TOCは“どこを変えるべきか”を見極めるための思想です。
そしてそれは、すでに頑張っている人たちが、“どこに集中すればいいのか”を取り戻すための方法でもあります。

第7章 「とりあえず改善」では済まないときのために

多くの現場では、「とりあえず改善する」という姿勢こそが推奨されます。
日々の業務を見直し、ミスや無駄を減らす工夫を積み重ねていく──
これは、確かに日本の現場力を支えてきた強みでもあります。

けれども、ときに私たちはこうした問いに直面します:

「これ以上、何を改善すればいいのか?」
「こんなに頑張っているのに、なぜ結果が出ないのか?」

このとき、**「改善の“量”ではなく、“方向”を間違えているのかもしれない」**という視点が必要になります。
TOC(制約条件の理論)は、まさにその“方向の見直し”を支援する手法です。


改善とTOCは敵対するものではない

TOCは、他の手法と違う視点を持つがゆえに、「改善とは違うことをする理論」と捉えられがちです。
ですが、実際にはこう考えるのが適切です:

カイゼンが“やり方を良くする”ものなら、TOCは“やる場所を選ぶ”ための手法。

両者は、まったく別の方向を向いているわけではなく、階層が違う役割を持っていると考えれば自然です。


なぜ「とりあえず改善」が危うくなるのか

改善が“危うい”と感じられる瞬間は、次のような特徴とともにやってきます。

  • 改善を続けているのに、目に見える成果が出ない
  • 改善項目が多すぎて、現場が疲弊している
  • KPIは良くなっているのに、現場の空気は悪くなっている
  • 改善が“自己目的化”してしまい、本来の成果と結びつかない

これらはすべて、「どこを改善すべきか」という判断軸があいまいになっている状態です。


TOCは「改善を再設計する手法」

TOCの本質は、「制約に集中すること」です。
これは、言い換えれば**“改善の優先順位を設計し直す”**ということです。

  • 制約が変われば、改善すべき対象も変わる
  • 今の改善が効果を上げていないなら、「その改善対象は制約なのか?」と問う必要がある
  • 制約に合っていない改善は、どれだけ効果的でも“全体成果”には結びつかない

つまり、TOCは改善の“効かせ方”を再設計する視点なのです。


TOCを使うことは、「改善をやめること」ではない

TOCを適用することは、改善を否定することではありません。
むしろ、改善を活かすための“前提”を整えることです。

  • 改善する場所を選ぶ
  • 改善の順序を決める
  • 改善が全体にどう影響するかを考える

これらが整理されたとき、現場の改善活動も、以前よりずっと結果と結びつくようになるのです。


「今やっている改善は、どこに効いているのか?」と問う

最後に、読者に問いかけてみましょう。

あなたの現場で行われている改善は、制約に対して行われていますか?
それとも、制約“以外”の部分に対して、惰性で続けられていませんか?

成果が出ないなら、それは「努力が足りない」のではなく、“方向”がずれているだけかもしれません。


締めくくりに

本記事では、TOCの基本概念、Thinking Process、そして事例を通じて、TOCが持つ問題解決力の本質を紹介してきました。
TOCは、すべてを変える手法ではなく、「変えるべき場所を見つける」ためのレンズです。

もし今、努力が報われていないと感じるなら。
もし改善が空回りしているように見えるなら。
そのときこそ、一度立ち止まって、TOCの視点から構造を見直してみる価値があります。

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